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下衆な理由をつけながら実は須田さんにベタ惚れの阿崎くん

作者: 黒丸

 ヤリたい。


 大抵の若い男、特に童貞にとって最大のテーマだろう。


 もちろん俺も例に漏れずヤリたい。そして童貞だ。


 だが、どんな女性とヤリたいのか。これは人によって意見が分かれるだろう。


 とにかく顔の良い子? 年上のお姉さんに優しく。もちろん、やれれば何でもいいって意見もあるだろう。


 どの意見もわかる。よくわかる。


 しかし俺としては1回やって終わりというのは悲しい。できればずっと付き合いたい。


 なにより、俺の言うことは何でも聞いてくれて、何でもしてくれる方がいい。


 そう考えると、顔の良い女の子はどうだろう。


 顔が良い女の子は自分がモテることを知ってる訳だ。


 そんな子が俺にべったり依存して、言うことをなんでも聞いてくれるだろうか。


 無いとは言えない。無いとは言えないが分の悪い賭けになる。


 良くて対等より少しこっちが上、嫌なことは嫌とはっきり言ってくるだろう。


 それは嫌だ。めんどくさい。分の悪い賭けは嫌いだ。


 もちろん相手の問題なんだから、どんな女の子でも賭けは賭けだろう。


 賭けだからこそ、俺は少しでも勝率が高い方を選ぶ。


 そうして俺が選んだのが……


 「あの、阿崎くん」


 この子だ!


 「わたしのこと好きって、その……」


 須田かなみ。


 2年1組、同じクラスの同級生。


 一重の目、細い鼻、薄い唇。長いサラサラの髪を後ろで結んで、前髪は目元が隠れそうなくらいまで伸ばしてる。


 よく見ると、と言うかよく見なくても整った顔立ちなんだが華が無い。印象が薄い。地味だ。地味子だ。


 そんな須田を、屋上に続く階段、あまり人のこないこの場所に呼び出して告白した。


 機は熟したのだ。


 いや、熟してないかもしれない。ただ時間が無い。明日から夏休み。1ヵ月も会えなくなる。


 何より、夏休みをエッチなイベントでいっぱいにしたい。したい。


 「本当、なの?」


 いつも幸薄そうに俯いて本ばかり読んでて、友達もいない訳じゃなさそうだけど話してるところは殆ど見たことない。


 いわゆる陰キャ。俺が上の立場になって何でも言うこと聞いてくれそうだろ!


 「本当。そんな噓つくように見える?」


 「あ、そうじゃなくて……」


 こんな感じで何事にも自信なさげだ。こんなところも俺が主導権を取りやすそう。


 だが、須田は男子に地味な人気がある。


 なぜか。それは胸がデカいから。尻もデカい。モブ顔スケベボディ。


 多くの男子が"彼女にはしたくないけど一回やりたい"と言っているほど。


 ちなみに"彼女にはしたくない"と言うのは、自分の自尊心を守るための姑息な嘘だ。


 こう言ってるやつの大半が須田と付き合いたいと思っているはず。ただ、告白して玉砕したときが恥ずかしいから言ってるだけにすぎない。


 実際、何人か玉砕した話も聞いてる。ライバルが多いのだ。


 「ダメかな?」


 そんなライバルに搔っ攫われて、夏休み明けに須田が髪を染めて化粧をして登校してきたら死んでしまう。


 BSSもNTRも大嫌いだ。


 そう、だから俺は勝負を急いだ。


 須田のことは1年の頃から観察している。読んでいる本も全部チェック済みだ。


 その中でも須田が繰り返し読んでいる本。と言うか作家。殴ったら人を殺せそうなそれを3日で読破した。シリーズで。話のきっかけにするために。


 そして須田がその本を読んでいるところに声をかけた。「それ、俺も読んだよ。良いよね」と。


 そこからが大変だった。須田と本の感想を話し、勧められた本を読み、また感想を話す。


 読書習慣のなかった俺には地獄だった。まあ、今では俺から本を勧められるくらいには習慣づいてしまったが。


 「駄目とかじゃなくて、その、阿崎くんってかっこいいし、もてるのに、なんで私なのかなって」


 確かに俺はそこそこ顔が良い。運動も勉強も上の方だ。当然モテる。


 だが俺が欲しいのは自分が上の立場で好き放題できる彼女だ。体がエロければさらにいい。だから須田以外ありえない。須田じゃないと駄目だ。


 「須田と本の話をするのが楽しかったから。ずっと須田と話してたいって思ったから。気が付いたら須田のこと好きになってたから」


 それに須田は身体がエロいだけじゃない。人目があると率先して動かないけど、人目がないところでは汚れてるところを綺麗にしたり、落ちてるゴミを拾ったりしてることを知ってる。


 学校以外では少しアクティブになって、段差が超えられない車椅子の人を手伝ったり、1人で泣いてる子供に声をかけたりしてるのも見かけたことがある。


 点字ブロックを跨いだ自転車を片付けてたこともあったな。


 密かに奉仕活動を頑張ってる子なのだ。俺にも奉仕してくれそうじゃないか!


 「あ……」


 「俺と付き合ってほしい」


 俯いた須田にダメ押しの一言。


 返答がない。


 2年で同じクラスになって3カ月、一気に詰めすぎたかもしれない。夏休み前になんとかと焦りすぎたか……。


 もう少し時間をかけたほうが良かったのか、それとも俺に惚れさせて告白させるべきだったのか。


 後悔してももう遅い。もしここで駄目だったとしても、まだチャンスはあるはずだ。本友としての位置を維持して時間をかければ――


 「あっ、あの」


 胃がギュッとなる。都合のいい彼女をゲットするだけのことに、ここまで緊張するとは。


 めったに目を合わせない須田と目が合う。真剣だ。これはどっちだ。


 「わたっ、わたしも、阿崎くんと話すの楽しくて、1年の頃から、いつも助けてくれて、でも、わたし、自信なくて、怖くて」


 結論から言ってくれ!


 駄目なのか。あれか、阿崎くんと付き合う自信がないのってやつか。イケメンは辛いな。


 見つめ合う須田の瞳が潤んで、ポロポロと涙がこぼれてくる。


 うっそ、このタイミングで泣くの?


 「わたしも、阿崎くんのことが好き、大好きです。わたしなんかで良ければ、お付き合いっしてくぁっ、さ」


 最後の方は言葉になってない。え、告白成功?


 ガチ泣きしてるんだけど、どうしたらいいのこれ。抱きしめてみる? 抱きしめていいかな。抱きしめてみよう。


 「あっ」


 うおおお、柔らかっ! 女の子ってこんな柔らかいのかよ!


 「ありがとう。大丈夫?」


 あと胸、胸が当たってる気がする。当たってるよね。案外わかりにくいけど当たってるよね。 


 「ごっ、ごめんな、さい。ずっと、片思いだと思って、嬉しくて」


 そんなしゃくりあげながら喋らなくても。なんか俺も涙ぐんできた。


 オッケーなんだよな。付き合うんだよな。おおおおお!? いやったあああああ!!


 いや、落ち着け、当然だろう。1年の頃から少しずつ接点を作って、2年になって一気に攻めて。

 

 あれだけ頑張ったんだ。この結果は当然だ。


 それよりも次、初エッチまでのセッティングだ。ROAD TO SEX。RTS。


 明日からの夏休み、何としてもやらなければ。


 「あ、あの……、阿崎くん、その、なにか、硬いのが……」


 あ?


 あああああああ!? 


 あ。


 いや、だってしょうがないじゃん!


 こんな! ああああああ! しょうがないよ!

 

 「その、かっこ悪くてごめん」


 恥ずかしい、死にたい。


 「ううん」


 涙に濡れた、真っ赤な目で俺を見上げてくる。


 「大好き」


 華が咲いたような笑顔。そう、須田は笑うと可愛いんだ。


 と、詩的なことを考えたりしてるが、俺は家に帰るとすぐにパンツを脱いで洗った。


 仕方ないんだよ。




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