表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の聖女と白銀の騎士  作者: 赤葉響谷
第2章 『機械仕掛けの神』編
90/192

第25話 イベントの警備は大変です

「いやー、それにしても予想以上に人が多いな。ゲーム内でもたしかにNPCが通常より多く配置されてたけど、ハードの処理能力の関係でここまで配置はされてへんかったし、やっぱフィクションとゲームじゃだいぶ印象が変わるな!」


「ちょっと、あんまり喋らないでって言ったでしょ! ただでさえぬいぐるみ抱えて歩くなんて目立つのに、そのぬいぐるみが喋ってたら余計目立つじゃん」


「ええやん。そもそもアイリの見た目的にぬいぐるみ抱えて歩いてても大して違和感なんて……イタッ! ウチが満足に動けないからって、頭をポカポカ殴んな!」


「ちょっと2人とも。そうやって騒いでると余計目立つわよ」


 私とエルのやり取りを見ていたミリアさんが苦笑いを浮かべながらそう告げたことで、私は渋々エルへの攻撃(と言っても軽く握った右手をエルの頭に軽く何度か振り下ろした程度の軽い攻撃だが)を止めることにする。

 12月25日の13時過ぎ頃、私はエルを抱きかかえながらミリアさんと一緒に商業区を歩いていた。

 現在、商業区は魔動車の通行が規制されて道路が歩行者天国の状態で解放されているので、道沿いに多数の露店が出店されていてかなりの人で賑わっていた。

 そして、なぜ私達が商業区をウロウロしているかというと、当然ながら3人でお祭りを見に来た、と言う単純な理由では無い。(エルは単純に『せっかくの祭りなんやから初日くらい連れてってくれてもええやろ』と我が儘を言って付いて来ただけなのだが。)

 私達はアールベインの神殿で姿を消したカストルとポルックスの2人がこの復活祭で何か事件を起こすつもりなのではないかと警戒して交代で警備を行っているのだ。

 因みに、私達とは別にクロード神父、オルランド様、ユリちゃんとジルラント様のペアも警備に参加している。(ただ、本来ならジルラント様は次期国王としていろいろと公務があるはずなのだが、警備を言訳にユリちゃんと一緒に祭りを回る口実を作っているだけのような気もするが。)

 あと余談ながら、警備に参加していないライアーくんは財務大臣である父親の手伝いで、ドロシーちゃんも父親が経営するファウル商会の手伝いで忙しくしている。


「それにしても、これだけ人が密集している光景って、夏に行った観光シーズンのメルポティシアの飛空艇停留所以来かも。どっちが多いんだろう」


「うーん、局地的な密集度で言うのならあまり変わらないんじゃないかしら? でも、メルポティシアで人が密集しているのは人の出入りが激しい停留所付近が一番だから、1つの都市に集結している人口でいくとこの復活祭時の王都が圧倒的に上でしょうね」


「そうなんだ。なんと言うか……これだけ人が密集しているとちょっと人酔いしそう」


「人酔いって……。なんや、アイリはこの祭りに参加するんは初めてなんか?」


「そうだよ。基本的に今まで私の存在は教皇様……あれ? 既に亡くなってるから教皇様って呼称はおかしいのかな? まあ、新しい教皇様も決まってないしどっちでもいっか。とりあえず教皇様の方針で隠されてたから、こうやって人が集まる場所にはあんまり行かせてもらえなかったんだよね」


「教皇、かぁ……。たしか、ゲームでは12月31日に発生する皆既日食に合わせて復活祭で集まった人々の魂を生贄に邪神降臨を行うはずが、そのイベントが既に8月の後半に発生して既に死んでるんやったか?」


「そうだね。でも、それってごく一部の人にしか知らされてない極秘事項だから、こんな人通りの多いところで口に出さない方が良いよ」


「まあ大丈夫やろ。基本的にこう言ったお祭り騒ぎで他人の会話に意識を集中してるやつなんてそうそうおらんやろうし」


「それでも、どこで誰が聞いているか分からないから、アイリスちゃんが言ったようにこういった場所で口にするのは遠慮して欲しいわね」


 そうミリアさんに釘を刺され、エルは「はいはい、分かった分かった」と投げやりに返事を返す。

 この数日で判明したことなのだが、エルはユリちゃんと同じくこの世界の元になったゲームである『黒の聖女シリーズ』を知ってはいたものの、そこまでやりこんではいないようでその知識はユリちゃんには大きく劣るものだった。

 それでも大体どう言うイベントがいつぐらいに起きるかは知っていたのだが、それでもシナリオをクリアした時点でプレイを終了したらしく隠し要素まではやりこんでいないようで、本来のシナリオから大きく脱線しているこの世界でどう言ったイベントが起こるかは全く予想が付かないのだという。

 ただ、元の世界でゲーム製作に携わった会社の人達と多く関わっていた影響か、公式では発表されていない裏設定などをいくつか知っているらしく、元々『黒の聖女シリーズ』のファンだったユリちゃんからかなり質問攻めにあっていたようだが。

 因みに、その話の中でユリちゃんが最も興味を持った話題はプロメテウスさんが何で自分が作り出した異世界に引きこもっており、試練を乗り越えた者に強力な【特殊】スキルと武装を与えるか、と言った話題だった。

 なんでも、その理由については作中で明確に語れることも無く、そもそもプロメテウスさんは『黒の聖女シリーズ』の全作で出て来るキャラ(1~3はクリア後の隠しステージ、4はがっつりシナリオで、と言う違いはあるが)ながら、人類にスキルと言う魔獣と戦うための力を与え、世界に魔獣を放ち人類を滅ぼそうとした女神アルテミスと戦い封じた神であると言う情報以外一切出て来ないらしく、そのためなぜ主人公達と一緒に女神アルテミス討伐を行わないのかいろいろとネットでは考察がされていたらしい。

 そしてその理由は、神の力を持つ者はこの世界の上位世界に存在するらしく、本来はこの世界に干渉するには相応の器(私のように神の力を受け入れる適性がある人物)が必要になるらしいのだが、その器に力を移して活動していると同じ神の力を持った者に器を壊されると器に下ろしていた力を壊した者に奪い取られるらしく、女神アルテミスは過去何度も自分の操り人形(教皇様のように、自身の力を移さずに眷属を取り憑かせることで操っている人物)を差し向けているため、力が大幅に制限される代わりにほとんど力を奪われる心配の無い自身で作り出した異世界に引きこもっているらしいのだ。

 因みに、私が初めてプロメテウスさんに出会った時に、『試練を突破した褒美として自分と戦うことを望むか?』と言った感じのことを尋ねられたのは、ゲームでアイリスの見た目は女神アルテミスにそっくりだという設定があることから、恐らく私は女神アルテミスの器だと判断されていて、『戦って俺の力の一部を奪い取ってみるか?』と言う感じの意味合いで聞かれたのではないかと言うことだった。

 それと、資格ある者に試練を与えて力を与える理由は、かつてプロメテウスさんが女神アルテミスを封印する時に協力した当時の人達に、今後再び女神アルテミスが復活した場合に自分達の子孫を助けて欲しいと乞われのだと言う。

 しかし、今回の戦いで自身が介入したのも本来なら許されないこと(ただ、本来介入していけない世界に女神アルテミスが介入しているのを止めるためと言う条件だったので特例で許されたらしいが)なのに、神の世界を追放されて外部との繋がりを絶たれた閉じた世界に幽閉されている女神アルテミスを撃退する(つまり神の世界と一切関係ない人物を討伐する)ためでは、何の条件も無しに力を与えることは神の世界のルールに反するため、その願いを叶えるのは不可能だと断ったらしい。

 ただ、相応の試練を乗り越えた者に祝福を与える形であれば力を与えることはルール上可能だと言うことから、人が立ち入ることが難しい過酷な地に試練を残してこの世界を去ることになった、と言うのがシナリオライターの木祖蔵イリアさんが考えた裏設定なのだとか。

 あと、私が最初に訪れた転移の洞窟からプロメテウスさんの存在する試練の間へ移動する条件は、光と闇の最上級魔法を覚えた人物が転移の洞窟を訪れることであったことをこの時初めて知り、(それぞれ試練の間に入るための条件は異なるが)似たような場所があと2カ所存在する(全て同じ場所に通じていて、入った場所によって試練の内容は異なるものの、同じアイテムがもらえるだけなので何度も訪れる意味は無いらしく、ユリちゃんとジルラント様がどちらも【戦神の祝福】を装備しているのはこの2カ所から侵入して2回試練を受けたからだと言う)ことを知るのだった。


「それにしても……やっぱりこう言う屋台が立ち並ぶ場所を歩いていると、いろいろと美味そうな臭いが漂ってきてお腹空くな」


「……疑問に思ってたんだけど、エルってぬいぐるみなのに普通に食事するよね。でも、特にトイレに行ったりはしないのに、その食べた食材の質量はどこに行ってるの?」


「……たしかに、それはあたしも疑問に思ってたのよね。しかもあたし達と大して変わらない量の食事を摂ってるけど、明らかにその小さな体に入りきる量じゃ無いわよね」


 私とミリアさんにそう尋ねられたエルは、「そんなことゆうても、ウチもこの体がどう言った構造になってるのか良く知らんからなぁ」と呟いた後、「ただ、食事を摂らないと体に力が入らんようになるのは事実やから、全てこの体を動かすためのエネルギーに変換されてるんやないか?」とテキトウな感じに答えた。


 そんなやり取りをしながら私達は祭りで賑わう商業区を歩き回り、結局その日は何も大きな問題は起きないまま(小さな問題として喧嘩の仲裁をしたりスリを捕まえたりと言った事件はあったが)無事に復活祭初日は過ぎていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ