第22話 勢い余ってやった、反省はしている
早速関所に向かって移動し、ある程度関所に近付いた時点で最後の分身体も消えてしまったことを感知した私達は多少急ぎ足で作戦を決行することになる。
正直、ここでしっかりと作戦の細部を打ち合わせたり、そもそも作戦に無理がないか軽くデモンストレーションを行って確認すべきなのだろうが、敵戦力の主力級が私の分身体との戦いで消耗しているタイミングを逃すのは勿体ないと判断したのだ。
そのため、関所が目視できる(と言っても、私の超強化された視力で辛うじて見えるだけだが)位置まで近付いたところで一旦抱きかかえていたアオイちゃんとレンちゃんを下ろし、私は『収納空間』から試作2号機の背中に付けている棺のような形をした羽パーツの内で一番小さい物(とは言え、2mくらいの大きさはあるのだが)と、それに隠された武装ギミックを扱うのに必要な制御装置の簡易版を取り出す。
「な、なんや、これ?」
若干引き気味にそう尋ねるエルに、私は「まあ、見ててよ!」と自信満々に告げると、簡易制御ユニットについたベルトを腰に巻き付けながら、武装展開に必要なキーワードを口にする。
「砲身、展開!」
直後、墓標のように地面に突き刺さっていた羽パーツが空中に浮かび上がり、ガシャンガシャンと音を立てながら筒状の形態に変形していく。
そして、完全に筒状に変わった羽パーツは私の頭上左上らへんで滞空し、その砲身を私が向いている正面へと向けた状態で静止した。
「どう!」
「いや、どうと言われても……」
自信満々に声を掛けた私に、エルは戸惑いの言葉を返し、アオイちゃんとレンちゃんは警戒した表情を浮かべたまま私とその砲身へ交互に視線を彷徨わせていた。
「で? 結局こいつは何なん?」
エルにそう問われた私は、無い胸を張りながら「これぞ試作2号機に搭載した武装の1つ、『ヘル・アンド・ヘブン』だよ!」と自信たっぷりに答えを返した。
「は? 試作2号機? 『ヘル・アンド・ヘブン』?? 結局なんなんやそれ!?」
「えっとね、簡単にざっくりと説明するとね、『混沌なる光』の威力を増幅して撃ち出す試作2号機の主砲かな。ただ、今はまだ未完成だから増幅機能は発動せずに普通に『混沌なる光』を撃ち出すだけで終わるだけど」
「あー……。そもそもウチはその試作2号機ってのがなんなのか分からんから聞いとんのやけど…まあええわ、そんな時間もあるわけやないし」
ガックリと肩を落としながら疲れたように語るエルに、私は「そこら辺は塔に着いてから教えてあげる」と声を掛けた後、未だ警戒したように頭上に浮かぶ『ヘル・アンド・ヘブン』へ訝しげな表情で視線を送るアオイちゃんとレンちゃんに近付き「それじゃあ早速作戦を開始しようか」と声掛けながら再び2人を抱き上げる。
「一応、近付いて来る敵は『創造魔法』で作り出した武器で迎撃するし、同じく敵の攻撃も極力作り出した盾で防ぐようにするけど、それで完全に全ての攻撃を防げるかは分からないから、周辺の状況にはちゃんと注意しといてね」
私が2人にそう声を掛けると、それぞれ2人は表情を引き締めながら「わかった」「分かりました」と返事を返してくれた。
「それじゃあ、行くよ!」
その掛け声と同時、私は勢い良く地面を蹴って関所に向かって駆け出す。
その直後、私達の接近を察知したらしい関所にサイレンの音が鳴り響き、奥の方から次々と無数の擬神兵が姿を現す。
そのため、直ぐに私は『創造魔法』で6つの剣と4つの盾を作り出し、擬神兵から放たれる魔法を盾で防ぎながらこちらに向かってくる擬神兵達に6つの剣を突っ込ませ、次々に一刀両断しながら減速することなく関所に向かって突き進む。
「これぐらい近付けば『混沌なる光』の射程範囲だから、そろそろ仕掛けるよ! それなりに衝撃があると思うし、2人とも身構えて!」
関所まであと1km程の距離に差し掛かったところで私は2人にそう声を掛け、2人とついでにエルが返事を返したのを確認したところで『ヘル・アンド・ヘブン』を起動するべく声を上げる。
「起動準備! 魔力充填…OK! 標的補足…OK! さあ、行くよ! ……今だ! 薙ぎ払え!!」
そう号令を発した直後、『ヘル・アンド・ヘブン』の砲身に凄まじい勢いでエネルギーが集束し、一瞬眩い光が溢れたかと思うと消える。
そして――
「あれ?」
何も起こらなかった。
「ちょっと待て! なんも起きんやないかい!」
「おかしいなぁ。試運転の時はここで『混沌なる光』が発動したのに!」
エルのツッコミに、私は内心焦りを覚えながら再び「薙ぎ払え!!」と発射の合図となる文言を叫ぶが、今度は光すらせずに『ヘル・アンド・ヘブン』は沈黙を貫く。
(どうしたんだろう? 魔力が足りなかった? もう少し『混沌なる光』発動に必要な魔力を充填してみる?)
そう考えた私は何度も魔力を送り込んでみるものの、未だ『ヘル・アンド・ヘブン』は沈黙を貫くばかりで『混沌なる光』が発射される兆候は一切無かった。
それどころか――
「ね、ねえ。それ、なんかガタガタ震えてない?」
「それに、耳鳴りみたいな変な音も聞こえる」
怯えたような表情を浮かべ、アオイちゃんとレンちゃんが告げた異変に私も気付いていたが、なぜそんな状態になっているのかは全く不明だった。
(この土壇場でもしかして故障!? どうして? 試運転の時には多少の出力不足は感じたけど、普通に使えたのに!)
そんなことを考えていると、ふとエルが「……これ、ひたすら空気を送り込まれてる風船のような状態になってるんとちゃう?」と語り掛けて来たことで、私の脳裏に1つの可能性が閃いた。
「あっ!」
「あ?」
「セーフティー解除するの忘れてた!!」
そう、この武装には暴発防止のためにセーフティーが掛けてある。
そのため、セーフティーを解除しなければどれだけ魔力を溜め込んでも外部に魔力が放出されることはないのだ。
「はよ解除せぇ! なんかヤバいくらい振動し始めとるで!」
エルにそう急かされ、慌てた私は何も考えずに直ぐさま「セーフティー解除!」と声を上げる。
直後、今までせき止められていた魔力が、内部で未だ未完成の増幅措置と干渉したのか凄まじい密度に圧縮されて一気に解き放たれる。
そのため、まるで人の手を離れたホースのようにその軌道を制御することはできず、デタラメに暴れる『混沌なる光』の光は関所どころかその周辺の外壁さえも一瞬で消し飛ばしていく。
「あ、危なかった!」
「あれだけの魔力がここで爆発してたら、今頃ウチらも関所と一緒に消し炭だったやろうな」
どうにか当初の目的どおり関所を破壊できたが、想像以上に被害が拡大してしまったことに、私は内心『それでも人的被害は出てないからセーフ!』と言い聞かせながら、このまま一気に塔まで走り抜けようと数百メートル先の関所と、その2km先くらいにそびえ立つ山のように巨大な塔に目を向けたところでそれに気付く。
「……あ」
「どうした?」
思わず声を漏らし、顔を青くする私にエルが問い掛ける。
「……倒れる」
「は?」
「塔が…倒れる!」
先程私が放った『混沌なる光』は、関所と見渡す範囲に広がる外壁を消し飛ばしただけでは終わらず、その先にあった塔の下部を大半消し飛ばし、その巨大構造物を無理矢理支えていたらしき魔法効果を綺麗さっぱり吹き飛ばしていた。
よって、当然ながらそんな無理な状態で存在していた塔がその巨体を支え続けることができるはずも無く、2km以上離れたこの位置までミシミシと嫌な音を響かせながらその巨体がこちらに少しずつ傾き初めていたのだ。
「はあ!? あり得へんやろ!! あの塔は、外部からのあらゆる魔法効果の干渉を受けんように特殊な術式が組み込まれてるんやぞ!! それを破壊って……さっきのレーザーってどんだけ高出力やったんや!? 規格外にも程があるで!??」
「わ、私もこんなことになるなんて思って無かったよぉ!! でも、今はそんなことより倒れてくる塔をどうにかしないと!!」
「せ、せやな!! あんなもんが倒れてきたら、ウチらどころかこの東京の大半が潰れて無くなってまう!! でも、今言ったようにあの塔は生半可な魔力じゃ全て無効化されてまうし、さっきのレーザーと同じもんぶつけたとしても、あの巨大な塔に対してさっきのじゃ全然規模が小さすぎるわ!!」
そうなのだ。
たとえ同じ武装があと11機あるとは言え、それ全部で同じ攻撃を放ったとして倒れてくる塔の全てを消し飛ばすことなどできない。
あの塔を完全に破壊するのなら、さっきよりも高出力の攻撃を広範囲に放って一気に塔を消し去るしかなく、それを可能としても完全に都市を守ることなど不可能だし、私達だって無事に済む保証は無い。
(でも、少しでも皆が助かる可能性に賭けてやれるだけのことはやらないと!)
そう考えた私はその場に足を止め、抱きかかえていたアオイちゃんとレンちゃんを下ろすと、『収納空間』から巨大な銃型の魔道具を取り出す。
「こ、今度は何や!?」
「これは『魔導砲』って武器! 『ドラゴニックオーラ』で極限までステータスを底上げした状態で発動した『ドラゴンブレス(極大)』の威力を、これで増幅させて撃ち出す!」
エルにそう答えながらも私は『ドラゴンブレス(極大)』の発動に必要な魔力を残して『ドラゴニックオーラ』で極限まで自身の能力を引き上げる。
そして、その状態で発動した『ドラゴンブレス(極大)』の魔力を『魔導砲』へ込めると、発動に必要なチャージタイムに突入する。
幸い、塔が倒れだした瞬間に異常事態を察した擬神兵は都市の住民を避難させるためか都心部へと向かって行ったし、あの巨大な塔がこちらに倒れてくるまでにはまだ多少猶予がありそうだ。
それに、『ドラゴンブレス(極大)』の発動までには『ドラゴニックオーラ』の効果が切れてしまうだろうが、チャージタイムを必要とする技の威力は効力が発揮する時点での私のステータスを参照するのでは無く、発動に必要な魔力を消費した段階のステータスを参照するので、この一撃は正真正銘私にとって最大級の威力を誇る一撃になるはずだ。
「ああ、クソッ! せっかくここまで進んで来たのに、また1からやり直しか! てか、外部から来たアイリもウチと一緒にループするんやったらええけど、そうじゃなかったらかなり面倒やな!」
私の足下でエルが頭を抱えながら何やら気になることを呟いているが、今の私にはそれに意識を裂くほどの余裕はない。
「皆、私の側から離れないで! 絶対、絶対にこの不始末は私自身でどうにかして見せるから!!」
そう声を上げている最中も、ブレス発動に必要なエネルギーが『魔導砲』へとチャージされ、『魔導砲』に内蔵された術式がその威力を極限まで増幅していく。
そして、緩やかに傾き初めていた塔に勢いが付き始めたのか、塔が傾く速度が少しずつ速くなっているのを感じて私の心に焦りが生まれる。
(まだチャージは終わらないの!? 早くしないと、あんまり近い位置で破壊しても都市に被害が出ちゃう!! 早く! 早く!!)
目の前で少しずつ傾きが増していく塔の姿に焦りを覚えながら、私は心の中で何度も『早く!』と唱え続ける。
そして、地響きのような音を立てながら塔が傾く速度が最高潮に達しようとした瞬間、ブレス発動に必要なチャージがようやく完了した。
「溜まった!! 衝撃に備えて!! 行くよ!!」
私の叫びを聞いたアオイちゃんとレンちゃんが頭を庇うようにしゃがみ込むのを視界の端で確認しながら私は「撃てぇぇぇ!!」と全力の雄叫びを上げる。
直後、『魔導砲』から放たれた光は一瞬で塔を呑み込み、その光と衝撃で私の視界と意識を一瞬で奪い去るのだった。




