第13話 救出作戦
捜索開始から約18時間、霊廟の近くに設置した簡易拠点(毎度お馴染み『道具錬成』で作成したログハウス)で本を読んでいた私の視界に、1体の使い魔が消滅した事を知らせる通知が浮かぶ。
そのため、急遽残りの7体もその個体が消えた付近に集結させてその内1体の視界を共有し、そこに古びた遺跡があることを確認するとその上空に『転移魔法』で移動する。
そしてそのまま『フライ』を発動させて周囲の状況を確認すると共に、7体のレイスが見ている景色を同時に共有しながら遺跡の中を探索して行くとエルダーリッチだと思われる個体1体と数百のゾンビやスケルトン、それにボロボロの服に虚ろな目で牢屋に繋がれる8人の男女が確認出来た。
(攫われてたのって学院の生徒だけじゃ無かったんだ。それにしても、どうやって助けよう)
正直、敵を殲滅するだけで良ければエルダーリッチ以外大した強さの魔獣じゃ無い事から、ここから『ドラゴンブレス(極大)』を放つだけで遺跡ごと跡形も無く敵を殲滅出来るだろう。
だが、そうすると人質の8名を無事に助け出せるか微妙なところだし、上手く人質に被害が出ないようにブレスを放っても人質が囚われているのが地下である事から地盤沈下などの二次被害でまず間違い無く無傷で救出は出来ないだろう。
(『分身』と『魔獣召喚』で戦力を増やして一気に突っ込む? いやいや、そうすると乱戦になって下手するとその混乱で親玉のエルダーリッチに逃げられちゃうかも。しかも、人質の命を盾にされると手が出しにくいし、大規模な戦闘に巻き込んじゃって人質を危険に曝す可能性が高すぎるかな)
私は昔から、『武器を捨てろ! じゃないと人質がどうなっても知らないぞ!』なんて脅しを掛けられても絶対に武器を捨てない自信がある。
何故なら、そこで武器を捨てたところで人質が無事に解放される保証など無いわけだし、そこで敵を逃がすことでその人質だけでなく私やその後に襲われる人が危険に曝されるわけなのだから、例え人質を助けられず私が非道と罵られようと敵を倒す方が絶対正しいと考えるからだ。
ただ、だからと言って『これは必要な犠牲でした』と人質を進んで見捨てたいわけでは無いので、他に無傷で人質を解放する道があるのならばギリギリまでその可能性を模索したいのだ。
(潜入するだけだったら敵に発見されるのを承知で『転移魔法』で一気に入り込むか、『幻影魔法』で体を霊体化して壁抜けしながらこっそり侵入すると良いから簡単なんだけど、流石にその後8人を連れて逃げ出すのが難しいんだよね。出来れば次の被害を出さないようにエルダーリッチはここで倒しておきたいし、分身体は6体まで出せるとは言ってもいざと言う時のために技巧値を使い切りたくは無いし、『魔獣召喚』で召喚した使い魔は簡単な操作しか出来ないし、下手に強い魔獣を召喚すると制御しきれずに人質を危険に曝すから出来れば避けたいし……ああもうっ! 私1人じゃどうやっても手が足りないよ!)
流石に私に依頼を出した本人であるオルランド様は生徒会室に残っているだろうかとか、そこから救助に参加できる人員を集めてもらえばどれだけの時間が必要だろうかと考えていると、ふと風に乗って何処かから人の声が聞こえる。
そして、眼下に広がる森林地帯に目を向けていると、ランプの光源を頼りに進む1組の男女を見付け、思わず私は「げっ!?」と場違いな言葉を漏らしてしまう。
何と、その男女とは金の短髪と黒のセミロングが特徴的なジルラント様とユリアーナ様のコンビだったのだ。
「おい、ユリ! しばらくは俺が1人で探すからいい加減に休めよ! いくら【疲労無効】の加護があると言っても、俺達は人間なんだぞ! このまま無茶を続ければその内倒れちまうぞ!」
「バカ言わないで! そもそもこんな事になったのは私達があの時エルダーリッチを取り逃がしたからでしょ! 今この瞬間も攫われた人達は危険な状態にあるのよ! だったら、休んでいる暇なんかあるわけ無いでしょ!!」
言い合う2人の言葉を遙か上空から聞き、(あれ? もしかしてこの2人って案外良い人?)などと考えながら、(でもこれから先どう言った関係になるのかは分からないからなぁ)と少しだけ悩んだが、今は人命が掛っている状況だから私情は捨てるべきだと判断して直ぐさま2人の目の前に降り立つ。
「っ!? 誰だ!!」
「敵襲!?」
突然登場した私に2人は一瞬身構えるが、直ぐに私が「敵ではありません! 少し、話を聞いて下さい!」と土下座を披露すると、怪訝な表情を浮かべながらも何とか構えを解いてくれた。
「ええと……こいつ、今空から下りて来なかったか? てかこいつ、入学セレモニーの時に入り口で揉めてたやつだよな?」
「……そうね。どうして空から現れたのかは私にもさっぱり分からないけど、間違い無くこの髪色はアイリスさ、んね」
「驚かしてしまってすみません。しかし、敵の拠点を見付けて空から監視をしていたところ、お二人の姿を見付けたので是非手伝ってもらいたいと思いまして……」
既に2人に敵意は無いと判断した私は立ち上がりながらそう告げるが、今まで話た事の無いほぼ初対面の2人を前に言葉が尻すぼみになってしまう。
「おい! こいつ今、敵の拠点を見付けたって言ったぞ!」
「そうね。一応、その敵と言うのは私達が追ってる相手と一緒かどうか確認しても良いかしら?」
「ええと、生徒5名と3名の民間人を人質に捕えたエルダーリッチ、ですよね? それに、確認出来る限りでは数百体のアンデットタイプの魔獣がいるみたいですが」
私がそう答えると、ジルラント様とユリアーナ様は互いに視線を合わせて肯きを交わす。
そしてその後、ユリアーナ様は「じゃあ、私達に声を掛けて来たって事は何か作戦があるのよね?」と確認の言葉を投げかける。
「はい、そうです。今、エルダーリッチと人質の近くには私が召喚した使い魔が待機しています。なので、私がお二人をエルダーリッチの付近で待機している使い魔の側に『転移魔法』で送るので、私が人質の皆さんを助けている間に倒して欲しいなぁ、と」
「3人で一気にボスを叩いた方が早いんじゃねえか?」
ジルラント様の提案に、私は首を横に振り口を開いた。
「人質の方々が囚われた牢の近くにはかなりの数のアンデットがいるんです。なので、そちらを放置してエルダーリッチに向かったら囚われた皆さんに危険が及ぶ可能性が高いんです」
「でも、もしも前回みたいに大量のアンデットを自身の盾に召喚されたら押し切る自信がねえんだけどな」
苦笑いを浮かべながら正直にそう告げるジルラント様に、私は少し頼りない笑顔を浮かべながらも「それは安心して下さい。私が牢屋に転移すると同時に『ドラゴンブレス』である程度数を減らしますので」と告げると、2人はギョッとした表情を浮かべながら代表してユリアーナ様が口を開く。
「今、聞き間違いで無ければ『ドラゴンブレス』、と言わなかった?」
「言いましたよ? あっ、でも安心して下さい。遺跡を破壊してしまわないように小しか使いませんし、威力も出来る限り押さえますので」
「ちょ、ちょっと待って! 冗談でしょ? 作戦の前に、あなたのステータスを『解析技巧』で見させてもらっても良いかしら?」
「あっ、じゃあ私が自分で表示して見せます。クロード神父の話では、自分から開示しないと『解析技巧』じゃ(特殊技能)の表示がされないらしいので」
そう言いながら私はステータス画面を表示させながら2人に見せる。
そして、2人はその画面をしばらく凝視した後、ジルラント様は驚きの表情を浮かべながら私に『何だこいつ』と言いたげな視線を向け、ユリアーナ様はしばらく何か思い悩む素振りを見せたかと思えば「これ、私が……」と呟いた後にきゅっと唇を噛み結び、やがて首を左右に振って表情を引き締めると「とりあえず今は人質の救出が優先ね」と言葉を漏らすと真っ直ぐに私を見つめて再度口を開いた。
「それじゃあ人質の救出はアイリスさんに任せるわ。その代わり、今度こそ私とジルであのエルダーリッチを間違い無く倒すから」
「お願いします! それでは、早速作戦を開始しても良いですか?」
「ええ、いつでも準備は出来ているわ」
「俺もいつでも良いぜ!」
2人の返事を聞き、私はエルダーリッチの近くに潜むレイスに意識を向けるとその近くに2人を『転移魔法』で転送し、その直後に牢の近くに待機するレイスに意識を集中させると自身も転移する。
そして、転移が完了すると同時に『ドラゴンブレス(小)』を『クイックチャージ』で即時発動し、そのまま牢の付近に待機していた数十体のアンデットを一瞬で消し去る。
更にその後は『物質変換』で牢を崩壊の危険性の無い強固な素材に変更し、あとはひたすら襲い来るアンデット達を『創造魔法』で作り出した私の周囲で飛翔する10の武器で次々に切り刻み、時折数十の塊で押し寄せるアンデットを数々の魔法で殲滅しながら背後に囚われる8人を守り続ける。
そうして30分ほど防衛戦を続けたところで次第に押し寄せるアンデットの勢いも落ちて行き、やがてエルダーリッチを討ち取り私の加勢に2人が合流したことであっさりと誘拐事件は解決することになる。
そして、その後直ぐに連絡を受けて到着したオルランド様の手腕により事後処理はスムーズに行われ、攫われた人達もかなり衰弱はしていたものの特に大きな怪我も無く救助されることとなった。
だが、オルランド様の指示を無視して無茶な捜索を続けていたらしいジルラント様とユリアーナ様は2週間の謹慎処分を受け(立ち入りが制限されている施設に許可も取らず忍び込んだり、王城から持ち出しが禁止されている魔道具を勝手に持ち出したりと本来なら退学になってもおかしくない違反をしているため、これでも今回の功績を考慮してかなり減刑された方らしい)、独断で救出作戦を強行した私は厳重注意を受けると同時に、「今回、生徒会からの依頼を相談できなかった事は仕方ないが、あれだけ無茶はするなと言い聞かせたのにまた一段と派手にやったようだな」とクロード神父からも説教を受ける事となるのだった。




