第8話 生徒会長からの依頼
生徒会室に足を踏み入れると同時、入室の許可を与えたこの部屋の主も丁度執務机から腰を上げてこちらへ歩み寄ろうとしていたところだった。
「いきなり呼び出して悪かったね。さあ、そちらにどうぞ」
そう言いながらその人物は部屋に入って直ぐ左側に設置された来客用のテーブルとソファーがある方へ私を誘導する。
その人物は180以上の長身にウェーブがかった金髪、人目を引くまるで絵本に出て来る王子様を具現化したようなイケメンだった。
と言うか王子様その物なのだが。
(この人がカルメラ・ジェネシス・オルランド第1王子様。未来の国王様かぁ)
私はオルランド様の言葉に大人しく従いソファーまで移動し、オルランド様がテーブルを挟んだ向かい側のソファーに腰掛けたの確認してから自分も腰を下ろす。
「さて、本来なら飲み物ぐらい用意するのが礼儀ではあるが、いつもそう言った準備をしてくれる子はキミと2人で話しをするために今日は生徒会室に来ないよう言ってあるんだ。だから申し訳ないけどそこまで長時間拘束するつもりは無いから許してもらえるかい?」
「はい、勿論です」
そう答えながら、私はこの言葉を額面通りに飲み物を用意出来ない謝罪だとは捉えていなかった。
(これ、今から話す内容は他の生徒会メンバー、それも普段からオルランド様の身の回りの世話をするような人はおろか当然いるであろう護衛役にも聞かせられない内容だって事だよね? だから、どうせ話の最後にはここでの話は外に漏らさないように釘を刺されるんだろうなぁ)
そんな事を考えながら一刻も早く帰りたいと言う衝動を抑え、これは普段通りの私で対応すると今後更にややこしい話しになると直感し、久し振りに思考を前世で培った仕事モードに切替えながらオルランド様の次の言葉を待つことにする。
「それじゃあ早速本題に入らせてもらうよ。今回、アイリスさんをここへ呼んだ理由は1つで、キミにお願いしたことがあるからなんだ」
「お願い、ですか?」
思わず眉をひそめそうになるのを必死に堪えながら、私はそう問い返す。
すると、オルランド様は「そう、あくまでお願いだから断ってもらっても一向に構わないからね」と爽やかな笑顔を浮かべながら告げる。
(これ、絶対断れないやつじゃん)
私は心の中でそうため息を漏らしながら、それを表情に出さないように必死に堪えながら「それで、そのお願いとはどう言った内容でしょうか?」と問い掛ける。
「キミには生徒会の仕事を一部手伝って欲しいんだ」
「生徒会の仕事、ですか?」
「そう。と言っても、内容としては生徒会に寄せられる生徒からの相談解決を手伝ってもらったり、購買部から要請される魔獣の素材を確保するためにダンジョンへ向かってもらったりという内容になるかな」
そのオルランド様の言葉に私はしばらく考える時間を置き、その後より仕事内容をハッキリとさせるためにいくつか質問をすることにする。
「いくつか質問をしても宜しいですか?」
「構わないよ」
「生徒からの相談、とは主にどう言った内容でしょうか? その、私はあまり人付き合いが得意な方では無いので、コミュニケーション能力を求められる業務であれば十分に熟せる自信が無いもので」
「そうかい? これだけスムーズに会話出来るのであれば問題あるようには感じないけどね」
まあ、私は前世の頃から仕事と割り切ればある程度の事務的な会話は出来るので、今のオルランド様との会話のようにある程度普通に話せはする。
ただ、その場合は本当に業務内容に沿った事務的な会話しか出来ないので、前世の頃から『お前と話しているとまるでロボットと会話してるみたいだ』と言われていたのでお悩み相談などコミュニケーション能力を求められる業務は向いていないのは間違いないのだ。
「まあ良いさ、相談の内容だったね。と言っても、色々な相談があるから主にと言われても回答に困るところではあるね。ただ、主にお願いするとすれば購買部からの要請と同じく特定の素材を集めて欲しいとか、レベル上げの手伝いをして欲しいとかそういった戦闘が主になる相談を考えているよ。まあ、それでも新しい魔道具の試験を手伝って欲しいとか学院内で紛失した物の捜索を手伝って欲しいとかの相談をお願いすることがあるかも知れないけどね」
「ではもう一つ。それらの相談解決を手伝うかは内容を聞いた後で個別に判断しても構いませんか?」
「勿論さ。そもそも、最初からお願いしたい相談事を書類にまとめて渡し、そこからキミが受ける相談を選択する形式で行きたいと思っていたんだ」
やっぱりゲームで良くあるクエストかと私は納得しながら、それじゃあ達成状況に応じて報酬がある感じかなと考えていると、「それに、解決した相談の内容によってきちんと生徒会から相応の謝礼も用意する予定だよ」と予想通りの言葉が続いた。
「大体分かりました。では最後にもう一つ」
私そこで一旦言葉を切り、軽く深呼吸をして勢いで一番ハッキリとさせておきたい疑問点を尋ねることにする。
「私にそれをお願いする理由は何ですか? そもそも、これだけの内容であれば他の生徒会メンバーに会話内容を秘密にする必要は無いはずです。であれば、この依頼を行ううえで他の生徒会メンバーには内緒にしたい真の思惑がある、と捉えて良いのですよね?」
私がそう尋ねると、オルランド様は少し驚いたような表情を浮かべた後に感心した表情を浮かべながら「なるほど、教皇様が仰ったとおりそこそこ頭は回るようだね」と呟いた後、表情を引き締めながら更に言葉を続ける。
「確かに、この依頼と同時にアイリスさんにもう一つお願いしたいことがあるんだ」
(それならそうと最初から2つお願いしたいことがあるって言えば……そうか、呼んだ理由は1つでそれが『お願いしたことがある』ってだけで、別にお願いが1つだとは言ってないのか)
そんな事を頭の片隅で考えながら「その内容を伺っても?」と話の続きを促すよう言葉を掛ける。
「この生徒会の手伝いなんだが、キミの他に後2人ほどお願いしようと思っているのだが――」
「お断りします」
思わずオルランド様の言葉を遮るようにそう言葉を発してしまった私に、オルランド様は驚きの表情を浮かべ、私は内心『やってしまった!?』と焦りを覚えながらも、もはやここまで来れば最後まで突っ切るしか無いと思考を完全に業務モードに切替え、表情を殺して抑揚の無い平坦な声色で言葉を続ける。
「いきなりすみません。ですが、理由を説明する前に確認しておきたいのですが……この生徒会の手伝いを行うという制度は今後生徒会に所属する可能性がある有望な生徒、それも1学年の者に毎年依頼するものではありませんか?」
「……そうだね」
「そうなると…第2王子であられるジルラント様、第1王子であるオルランド様の婚約者であるユリアーナ様は過去最高レベルでの入学であると言う事実と合わせてお声掛けを受けて当然の立場にある、と判断するのも間違ってませんよね?」
「事実、先程告げた他に依頼を行おうと考えている2名はその2人で間違いないよ」
「……さて、お噂によればオルランド様は教皇様をとても尊敬されておられるとか。そして、普段から教会を、延いては教皇様を蔑ろにするような発言を繰り返すお二人の態度に頭を悩ませておられるとか」
私がそこで言葉を一旦切ると、オルランド様は苦笑いを浮かべながら「まさかここまでとはね。全部お見通しと言うわけか」と肩を竦めた。
正直、半分以上その場の思いつきで適当に言った事なので合っていたことにホッと胸をなで下ろしながら、表情と態度には一切そんな雰囲気を出さないように言葉を続ける。
「つまり、オルランド様は私に…クロード神父の庇護下、つまりは教会の庇護下にある私にお二人のブレーキ役を期待し、更に相談解決を私主導で行う事により教会の印象を良くしようとするだけで無く、反教会派のお二人の活躍を押さえたいとお考えなのですよね」
「概ねその通りだよ。流石、教皇様から底が知れないと評されるだけはあるね」
(まあ、国教とは言えアルテミス教会は国家とは切り離された1宗教団体だから王族が、それも未来の国王様が肩入れしたという内容を他の生徒会メンバーには聞かせられないよね。と言うか、それ以外聞かせられない話って想像が付かなかったから適当に言ったけど合ってて良かったぁ)
そんな内心を悟られないように「いえ、これも全て幼少より私を指導してくれたクロード神父のおかげです」と、『私はクロード神父の味方なので教会側ですよ』というアピールを欠かさずしておく。
「なるほど。クロード殿、か」
しかし、何故かオルランド様は辛うじて気付けた程度の一瞬だけ険しい表情を浮かべてボソリとそう呟き、次の瞬間には「なるほど、良い師に恵まれたんだね」と告げながら笑顔を浮かべた。
(あれ? もしかしてクロード神父って私が知らないところで何かやらかしてる!? でも、ここ数年ほとんど一緒にいたし……そう言えば、ミリアさんがブルーロック村に来てる時には姿が見えない事が多かったかも)
いったい何をやらかしたんだろうと思考を巡らせていると、オルランド様から「それでは、そこまで分かった上で断る理由を聞いても?」と問い掛けられた事で直ぐさま思考を中断し、『思わず勢いで言葉が出た』とは言えないのでそれっぽい言訳を瞬時に考えて言葉にする。
「先に少し訂正しますが、別に生徒会の手伝いを行う事は受けても構わないのです。ですが、それは私単独での話でお二人と一緒に、と言う事であればお断りします」
「それは、今年の補助役員をキミ1人にして欲しいと言う事かい?」
「いえ、今年入学の生徒で最高レベルであるお二人には是非お願いすべきでしょう。そうで無ければ、色々とイレギュラーな存在である私1人に頼んだ理由に政治的事情があると勘ぐられれば余計な諍いの原因になりかねないですし」
「ふむ、確かにそれは懸念すべき点だね」
「なので、私が言いたいのはお二人と一緒で無く別行動でお手伝いをさせていただきたい、と言う事です」
「理由を聞いても?」
「教皇様からお聞きになっているとは思いますが、ユリアーナ様は幼少の頃より私の存在に気付き探りを入れていたと聞き及んでおります。その理由が何であれ、ユリアーナ様が私という特殊な存在を欲しておられる事実がある以上、活動中に私よりもレベルが高いお二人と3人だけになる機会が増えればどのような事が起こるのか分からないため、そのリスクを避けたいのです。それに、入学前に教皇様にお目にかかった際、ユリアーナ様の動向や接触の際には十分注意するよう仰っておられましたし」
とりあえず、オルランド様は幼少期から教皇様により様々な手ほどきを受けており、かなり教皇様を心酔していると噂があるので『教皇様も言ってたよ!』アピールをしておく。
そして、それがどの程度効果があったのかは分からないが、オルランド様は「なるほど。そういう事でしたら仕方ありませんね」と納得してくれた。
その後、結局基本はジルラント様とユリアーナ様の2人に生徒会の手伝いをお願いし、その2人だけで不安が残るような大きな案件(つまり宣伝効果が高い案件)では私も手を貸し、私は基本的にレベル上げも兼ねて素材集めを中心に手伝う方針で話しが纏まる。
そして、話しが終わるとこれ以上長時間拘束しては悪いからと直ぐさま解放され、久々に慣れない仕事モードを発動したことでどっと疲れた私は足早に帰路に付くのだった。




