第30話 私、人間やめました
「ケホッ、コホッ……うう、ドラゴンの血、結構な量飲んじゃったかも」
私を押しつぶしていたドラゴンの肉片を押しのけながら、どうにか這い出した私はそう悪態を付きながらべっとりとドラゴンの血で汚れた自分の服に視線を落とす。
「うーん、ここまで派手に汚れると洗濯で落ちるか心配だなぁ。それにしても……なんか少し体が熱い気がする」
そう言えば、ドラゴンの血は濃厚な魔力が凝縮されていて人体にとって毒になると本に書いてあった気もする。
だが、【全状態異常無効】を持っているから毒にはならないはずだし、『不屈』でギリギリ体力が1残ったのか体力ゲージはほとんど見えないが、代わりにバッドステータスを示す表示も見えないのでたぶん大丈夫だろう。
(一応ステータス画面で確認しとこうかな? 爆発の衝撃で良く聞こえなかったけど、レベルも上がったみたいだし)
一瞬そう考えた私だったが、それよりも先に確認すべき点があると思い直して慌てて周囲を見渡し、離れた位置にいたおかげか私がやらかした大爆発と砕け散ったドラゴンの破片の影響をミリアさんが受けていない事を確認し、私はホッと胸をなで下ろしてミリアさんの下へ駆け寄った。
(とりあえず、胸は上下してるから呼吸はしてるって事だし生きてはいるよね? それに、さっき『回復魔法』を掛けたおかげか火傷もだいぶ良くなってるみたい)
ミリアさんの容態を大雑把に確認し、一応もう一度『回復魔法』を掛けた後、『収納空間』から事前に『道具錬成』で作成しておいた簡易ベッドを取り出してミリアさんを寝かせる。
そして、ミリアさんが起きるまでに色々とやることを終わらせておこうと私は再び血と肉片が飛び散る爆心地へと視線を向ける。
(魔石タイプの魔獣と違って生物タイプの魔獣はきちんと処理しないと死体が残っちゃうのが問題だよね。ドラゴンの肉はきちんと処理すれば食べられるって話しだけど・・・・・・あれだけバラバラになって血液に浸かってたら無理だろうなぁ。それに、あそこまで損傷が激しいと素材として利用するのも難しいだろうし)
あれこれと考えた結果、とりあえず『道具錬成』で使えるだけの素材を新装備に変えてしまおうと比較的質の良さそうな素材が残っている部分に近付いていく。
(元が結構な巨体だったから一部でも案外量があるなぁ。どうせだったら洗い替え用に5セットくらいは作っとこうかなぁ。今回みたいに不測の事態で汚れちゃう事もあるし)
そう考えながら私は恐らく後ろ足だったと思う部分に手を触れ、管理がしやすく普段着にも使えるワンピースタイプの服とそれに合うブーツで私が装備可能な物と言う条件を付けて『道具錬成』を発動する。
するとその直後、目の前に残っていたドラゴンの残骸は見る間に姿を変え、5着の色とデザインが違うワンピースと、5足のこれまた色とデザインが異なるブーツに姿を変えたのだった。
「さて、あれだけ強いドラゴンの素材で作ったんだから、結構ステータスも高い装備が出来たはずだよね♪」
私は上機嫌でそう呟きながら、4組を『収納空間』に収納すると残り1組に『解析技巧』を発動する。
「あれ?」
しかし、表示されてのは『竜姫の礼服』『竜姫の足具』と言うそれぞれの装備の名前と、『レア度:幻想級 装備者に竜の加護を与え、強靱なる力を与える。』と言う説明文だけで、肝心のどれだけステータスが上昇するかが表示されなかった。
(素材がレア過ぎるから鑑定可能なレア度以上の装備が出来ちゃったのかな? まあ、装備した状態でステータスをみればどれだけ上昇値があるかは分かるからいっか)
そう結論付けた私は、一先ずドラゴンの血で汚れた装備を早く着替えてしまおうと辺りに人の目が無い事を確認し、『収納空間』から替えの下着や靴下も取り出してその場で着替えを済ませる。
そして、着替えが済んだところで『ステータスを確認する』か、『後処理を済ませてしまう』と言う選択肢でしばらく悩み、結果『楽しみは後に取っておこう』と言う判断から自分がやらかした惨状の後始末を再会する。
と言っても、もはや使い道の無い残骸は『大四大属性』を火属性で発動させることで焼却処分するしか無いため、ついでに熟練度も稼げるので魔力を大盤振る舞いしながら念入りに処理を行っていく。
その途中、2m程の巨大な宝石がドンと肉片の中に鎮座していたので、『これがドロップアイテムの欄に表示されていた『ドラゴンハート』ってアイテムなのかな?』と期待したが、鑑定の結果『竜宝珠』と言う魔石の超巨大版のようなアイテム(魔力を蓄積した宝石みたいな物質と言うだけで魔石では無いらしい)だと分かり、とりあえず『収納空間』の中に回収しておいた。
因みに、アイテムポーチは袋の口に入りきれないサイズのアイテムを回収することは不可能だが、『収納空間』にはそのような制限が無いのでアイテムだと認識される物体は何でも収納することが出来る。
ただ、『道具錬成』で作成したログハウスはアイテム判定されずに回収する事は出来なかったので、アイテムの定義にもいろいろ基準があるらしいのだが。
「さて、これで良しっと」
一通り後始末を終え、『これで『大四大属性』も結構な回数使ったからそろそろ熟練度が上がったかな?』などと考えながら、いよいよこれで心置きなくステータスの確認が出来ると心躍らせる。
(あれだけ強いドラゴンを倒したんだし、結構一気にレベルが上がったんじゃないかな? 前にクロード神父が教えてくれた情報が正しければ、格上のドラゴンを倒した英雄が一気に50くらいレベルが上がったって伝説もあるみたいだし、私もそれぐらい行ってるかも!)
期待に胸を膨らませながら、私は意気揚々とステータス画面を表示する。
アイリス Lv.202(次のレベルまで4,080)
(能力情報)属性:星・人/竜 疲労度:― 疲労補正:0%
適性武器:剣 適性クラス:剣士、騎士、竜王
体力:396/20,120(10,060) 魔力:1,028/33,250 技巧値:300/300
攻撃力:11,242(3,042)+10,100 魔法力:16,402(6,102)+6,060
防御力:17,014(4,814)+2,020 俊敏力:16,081(5,481)
(装備)
武器:
神刀『三日月』
防具:
竜姫の礼服
竜姫の足具
アクセサリー:
幸運の指輪
戦神の祝福
ドラゴンハート
(状態)
【疲労無効】【全状態異常無効】【CP自動回復】
【弱体無効】【HP自動回復(極大)】【竜皮】
(習得魔法)
聖なる矢 熟練度10/10 MP25
聖なる槍 熟練度10/10 MP65
聖なる翼 熟練度10/10 MP90
聖なる光 熟練度10/10 MP250
漆黒の矢 熟練度10/10 MP25
漆黒の槍 熟練度10/10 MP65
漆黒の翼 熟練度10/10 MP90
漆黒の光 熟練度10/10 MP250
混沌なる光 熟練度1/10 MP800
小四大属性 熟練度10/10 MP40
中四大属性 熟練度10/10 MP130
大四大属性 熟練度8/10 MP290
極四大属性 熟練度1/10 MP620
回復魔法 熟練度10/10 MP30
自動再生 熟練度10/10 MP150
範囲回復魔法 熟練度6/10 MP300
光の加護 熟練度10/10 MP20
希望の光 熟練度1/10 MP320
闇の霊気 熟練度10/10 MP20
絶望の闇 熟練度1/10 MP320
転移魔法 Lv.Ⅹ MP200
創造魔法 Lv.Ⅹ MP360
幻影魔法 Lv.Ⅹ MP200
(習得技能)
ドラゴンスクラッチ MP300
ドラゴンブレス(小) MP500
ドラゴンブレス(中) MP800
ドラゴンブレス(大) MP1,200
ドラゴンブレス(極大) MP2,000
エリアバースト MP3,800
エナジーブラスト MP4,500
クイックチャージ MP???(ブレスの消費魔力×2)
フライ MP100
トランスポート MP1,200
(保有スキル)
【特殊】
次元の支配者 Lv.Ⅹ
創造者 Lv.Ⅹ
変質者 Lv.Ⅹ
竜の魂
完全なる肉体
【パッシブ】
属性支配者 Lv.5/5
解析者 Lv.5/5
縮地 Lv.5/5
不屈
回復魔力量向上(大) Lv.5/5
消費魔力軽減 Lv.5/5
収納空間
道具錬成
慧眼
【戦技】
解析技巧 CP5
分身 Lv.5/5 CP50
空間転移 CP30
物質変換 CP100
蜃気楼 CP60
一通りステータスを確認し終え、私はそっとステータス画面を閉じた後に数秒深呼吸を繰り返し、心が落ち着いたところで再度ステータス画面を表示させみる。
だが、別に表示ミスとか勘違いとかでは無いようで、表示されているステータスに変わりは無かった。(と言うか、数秒の間に体力が100以上回復してた。)
(ちょっと待って!? まあ、レベルが一気に103も上がったのはまだ良いんだけど、何このステータス!? これ、倍以上レベル差が有るクロード神父と同等以上のステータスになってるよね!)
この急上昇の原因の一端は先程作成した装備の影響である事は間違い無い。
だが、それにしても素のステータスの上昇率もおかしい。
何故なら、この数値は記憶が正しければ90以上の開きがあるミリアさんのステータスより高いのだから。
(それに、属性の『人/竜』って何!? そもそも、どうしてゲットした覚えも装備した覚えも無い『ドラゴンハート』が装備されてるの!!? あと、いきなり出て来た(習得技能)って何なの!??)
当然ながらその私の疑問はどれだけ考えたところで解決するはずも無く、その答えを教えてくれる人もいない。
(何なの、この異常なステータスは! 一気にここまで強くなっちゃうと、完全にゲームバランスとか崩壊しちゃうよ!?)
ふと、そこで私の脳裏にある不吉な予感が浮かび、思わず言葉を漏らしてしまう。
「……同レベル帯のはずなのに異様に高いステータスのキャラって、基本的に敵キャラに多いよね。だって、パーティーで挑んでくる主人公達を1人で相手するんだもん。じゃあ、もし私の今回の戦いが偶然じゃ無くてゲームのシナリオ通りだったら? もしかして私、主人公じゃ無くて倒される側のボスキャラなんじゃ……」
そんな私の疑問に答えてくれる相手などこの場には存在しない。
そう、未だ彼女と知り合えていない私にはその推察の答えを知る術など無いのだから。
だから、この推察の答え合わせは4年ほど先のことになるのだった。




