第27話 迷子になりました
「アイリスちゃん、大丈夫? ケガは無い?」
未知のエリアに辿り着いて直ぐ、ミリアさんにそう尋ねられた私は一応自分の体を確認し、何も異常が無い事を確認するとコクリと首を縦に振って「大丈夫、です」と返事を返した。
「それにしても、いったい何階層に飛ばされたのかしら? 一応、クロード様がダンジョン内に残っておられるのか確認してみましょうか」
ミリアさんはそう告げながらアイテムポーチから1つの魔道具を取り出す。
確かあれは、ダンジョン探索では必須の魔道具で同じ魔道具を持っているの者がダンジョン内に何名残っているかを知ることが出来る物だったはずだ。
「……うん、アイリスちゃんに渡していたやつとクロード様に渡していたやつの2つを感知しているから、あたし達は事前の打ち合わせの通り行動しましょうか」
その言葉を聞いて、私はコクリと肯きを返すと『転移魔法』を発動させようと意識を集中する。
元々いくつかの不測の事態を想定した打ち合わせは行っており、このように何らかの理由でパーティーが分断された時の対処も当然打ち合わせ済だ。
『転移魔法』を使用出来る私が一人で分断された場合、パーティー内で最も弱い私が単独でダンジョン内を動き回るのは非常に危険であるため、直ぐに『転移魔法』でダンジョン入り口へと戻る手筈となっていた。
そして、ミリアさんと2人で分断された場合も同じ対応を予定している。
何故なら、パーティー内最強のクロード神父と一緒であればそのまま探索を続行したところで大抵どうにかなるのだが、私よりも強いとは言ってもミリアさん1人で私を守り切れるかは疑問が残るからだった。
つまり、誰が分断されたにしろ私とクロード神父が離れた場合はその時点で私はダンジョンの入り口に戻らなければならない約束なのだ。
だが、この対処法も万全では無い。
「……あれ?」
「もしかして、『転移魔法』が発動出来ない?」
ミリアさんの問い掛けに私はコクリと肯きを返す。
実は、ダンジョン内で自由に『転移魔法』を使って外に出ることが出来るのは1から9階層までなのだ。
一応入るのは一度訪れた階層なら何層だろうと行く事が出来るらしいが、10階層以降はその階層の入り口までしか転移出来ず、今の私達のように正規のルートを通っていない、つまりは転移すべき入り口を確認していない状態だと完全に『転移魔法』が発動不可能になってしまうのだ。
「そっか、10階層以降の領域まで一気に飛ばされちゃったかぁ。……最善策はクロード様と合流できるまで動かない事だけど……どうやら無理そうかなぁ」
そう呟きながらミリアさんが視線を向ける先から、ガシャンガシャンと金属鎧を着た何者か、それも複数がこちらに向かって来る音が聞こえる。
「とりあえず、5分待ってもあたし達の反応がダンジョン内から消えなければクロード様が探しに来てくれるはずだから、合流できるまで余計な戦闘は極力避けて隠れていましょうか」
ミリアさんはそう告げると、私の手を取って音が聞こえて来るのとは逆方向に歩き出したので、私は何も言わず素直にそれに従う。
そして、途中何度か鎧を着た骸骨(スケルトンソルジャーと言う150レベルくらいの魔獣)と遭遇し、それを難無く2人で討伐しながら先へと進んでいった。
幸い、時々スケルトンソルジャーと遭遇はするものの、特に罠などは見つからずに順調に歩を進めていき、何度か短い休憩を挟みながら1時間半ほど私達はその階層を彷徨い歩いた。
その結果、いくつか判明したこともある。
この階層は、どうやら金属鎧を着込んだ何者か、それも複数が通路を巡回しているようで、同じ場所に長く留まっていると必ず何処からかこちらに向かってくる足音が聞こえて来る。
そのため、この階層ではほぼ休憩無しに歩き回らなければならない仕様になっているが、代わりに罠などの進行を阻害するギミックはほぼ設置されていないようなのだ。
あと、この階層には基本的にスケルトンソルジャーしか魔獣は出現しないようなのだが、時々聞こえて来る足音はスケルトンソルジャーの物より重量感を感じるので、恐らくは違う魔獣が階層内を徘徊しているのだろうと予想できる。
ミリアさんの予想では、スケルトンソルジャーの上位種であるスケルトンナイト(200レベルくらいの魔獣でスケルトンソルジャーより立派な鎧を着込んでいる)ではないかと言う事だ。
なんでも、ダンジョン内で出現する魔獣は基本的に同種か相性の良い種族が存在するのがセオリーのようで、最初に遭遇した魔獣を基にその階層で出現する可能性がある魔獣を予測し、厄介な魔獣と遭遇してしまった場合の対策を考えるのが基本なのだとか。
因みに、今回出現しているスケルトン系が出没するダンジョンでは、実体を持たないため魔力による攻撃でしか対処が出来ない死霊系、肉体から発せられる悪臭と状態異常を付与してくるゾンビ系の魔獣が出没する傾向が強いらしいが、これまでに一切その姿を見ていない事からこの階層に生息している確率は低いだろうと言う事だった。
「それにしても、アイリスちゃんの魔法って凄い便利ね! 100レベルに到達していない状態でそれなら、将来どれだけ強くなるのか楽しみになってくるわ♪」
また1体のスケルトンソルジャーを火属性に変換した『中四大属性』で焼き払ったところでそう声を掛けられる。
「ええと…その、ありがとう、ございます」
本当なら、ここで気の利いた返しで話しを盛り上げる場面なのかも知れないが、残念ながらまだ昨日会ったばかりの相手とそこまで会話を広げられるほど私の話術は達者では無い。
だが、そんな私の代わりにミリアさんは会話が途切れないよう(恐らくは私を不安にさせないようにとの気遣いだろう)話を続けてくれる。
「正直、あたしの使える魔法はこう言った狭い空間だと扱いづらいのが多いのよね。それに、風属性じゃ火や光みたいに効率的にダメージを与えられないし、この鉄扇も殴打系のダメージじゃ無いから効率が悪いし」
手に持った親骨から扇面まで全てが鉄製の扇をヒラヒラとその重さを感じさせない動きで振りながら控え目な笑顔でミリアさんはそう告げる。
正直、親骨の部分でバンバン殴り飛ばしておいて殴打系じゃ無いと言われてもあまり納得は出来ないのだが、使っている本人がそう言うのだから殴打系の攻撃じゃないのだろう。
ここで1つ補足しておこう。
魔獣の中には本来の魔力属性による相性とは別に弱点がある個体も少なく無い。
例えば、今回対峙しているスケルトン系は基本闇属性なので光属性に弱いのだが、それに加えて炎属性やハンマーなどによる殴打武器に弱い、と言った感じだろうか。
そのため、それらの特性を熟知していれば少ない消費で効率的に魔獣討伐を行えるのだ。
「それでも、ミリアさんの魔法は凄いと思います」
消え入りそうな音量ではあったが、どうにか私は会話を続けるべく言葉を返す。
それに、ミリアさんの魔法が凄いと思っているのは事実なので、なんとか言葉を詰まらせずに言い切ることが出来た。
「ありがとう! アイリスちゃんにそう言ってもらえると嬉しいわ♪」
嬉しそうに笑みを浮かべながらそう告げるミリアさんに、『初めて会った時にはクールな印象を受けたけど、本当は表情豊かな人なんだな』などと感じていると、今度はその表情を何かに気付いたような表情に変え、再び口を開いた。
「そう言えば、あたし達ってまだお互いのステータスをきちんと確認していなかったわね。これからクロード様が合流するまでどれだけの期間二人っきりか分からないし、丁度敵の姿も確認出来ないからここら辺でお互いの戦力を把握しておきましょうよ!」
その提案に、『確かにお互いの力が分かっていた方がやりやすいな』と納得した私は、コクリと肯きを返して同意を示す。
そして、先ずはミリアさんが私のステータスを確認して疑問に思ったところを質問してもらい、次に私がミリアさんのステータスを確認する事になった。
ミリア Lv.297(守護者第21階位)
(能力情報)属性:風・人 疲労度:18% 疲労補正:0%
適性武器:鉄扇 適性クラス:暗器使い、騎士
体力:9,268/9,268 魔力:5,835/6,500 技巧値:/300
攻撃力:2,217 +6,200 魔法力:8,067(5,467)
防御力:8,124(2,324) 俊敏力:6,096(4,896)-700
(装備)
武器:
鉄扇・神楽(攻撃力+6,200 俊敏力-700)
防具:
バトルジャケット(防御力+3,800 魔法力-400)
風加護の靴(俊敏力+1,200)
聖者の外套(魔法力+2,500 防御力+2,000)
アクセサリー:
聖魔の首飾り(魔法力+500)
守護者の証(CP自動回復付与)
(状態)
【CP自動回復】
(習得魔法)
風刃 熟練度10/10 MP20
風弾 熟練度10/10 MP30
風槍 熟練度10/10 MP60
風塊 熟練度10/10 MP65
風撃砲 熟練度10/10 MP90
竜巻 熟練度10/10 MP120
大いなる暴風の渦 熟練度10/10 MP220
雷撃 熟練度10/10 MP10
降り注ぐ雷 熟練度10/10 MP60
襲い来る雷の嵐 熟練度10/10 MP130
裁きの雷 熟練度10/10 MP250
風壁 熟練度10/10 MP55
風神鎧 熟練度10/10 MP75
雷界 熟練度10/10 MP55
雷神鎧 熟練度10/10 MP75
風の加護 熟練度10/10 MP20
風神の加護 熟練度10/10 MP80
雷の加護 熟練度10/10 MP20
雷神の加護 熟練度10/10 MP80
大空の守護 Lv.Ⅹ MP250
(保有スキル)
【特殊】
守護者 Lv.Ⅹ
魔術の達人 Lv.Ⅹ
【パッシブ】
解析者 Lv.5/5
防御強化(大) Lv.5/5
魔法力強化(大) Lv.5/5
俊敏強化(大) Lv.5/5
回復魔力量向上(大) Lv.5/5
消費魔力軽減 Lv.5/5
護人の決意
【戦技】
解析技巧 CP5
鎌鼬 Lv.5/5 CP20
流水 Lv.5/5 CP30
戦舞・高揚 Lv.5/5 CP50
守護結界 CP100
「あれ?」
そのステータスを確認した直後、思わず私は疑問の声を漏らしてしまう。
「ん? 何か気になる事でも有った?」
「ええと……クロード神父と同じ【特殊】スキルを覚えてるのに、魔法が違うなって」
因みに、魔法に関して言えば『風属性のはずなのに雷系統の魔法を覚えている』と言う点には疑問は持っていない。
何故なら、基本4属性はそれぞれに直結する魔法だけで無く、火なら熱、水なら氷、土なら木、そして風なら雷とそれぞれの属性に近い魔法も関係する基本属性に対応した魔法として扱えることを知っているからだ。
「ああ、『守護者』で習得出来る魔法は少し特殊なの。基本的に、この『守護者』は守護者に任命された時、洗礼を受けることで誰でも習得可能になるスキルなのよ。それで、このスキルで覚える魔法はその人の適性がある属性によって名称が変わると言う不思議な特徴があるの。もっとも、効果はどれも同じなんだけどね」
ミリアさんの説明に、私は『なるほど、そんな事例もあるのか』と感心しながら、覚えている魔法がどういった効果の物か、もう一つの【特殊】スキルがクロード神父の『屈強なる者』と同じ魔法やスキルを覚えるのでは無く【パッシブ】のように『魔法の熟練度が上がりやすくなり、発動が早くなる』と言った効果が永続で適応される物である事を教えてもらう。
そしてその後も2体ほどのスケルトンソルジャーを倒し、とうとう行き止まりにワープホールを発見する。
更に、『転移魔法』が依然使えないことからそれが入り口では無く次の階層に繋がる物だと言う事を理解するが、そのタイミングで後方から例の足音が聞こえた事から、私達はそのまま次の階層へ進むことを決めたのだった。




