第25話 いざダンジョンへ
私達3人は昼食を取った後、直ぐにミリアさんが運転する魔動車で目的地あるエルトナド村に向かうこととなった。
その道中、ミリアさんはその未知のダンジョンが発見されるに至った経緯についても説明してくれる。
「事の発端は、今年の5月にオルランド第1王子様、ジルラント第2王子様、ユリアーナ侯爵令嬢様のお三方がメルポティシアにある王族の別荘を訪れたことでした」
そうしてミリアさんから語られた事情を整理すると、メルポティシアを訪れた王子達は王国南部に存在する国内最大の湖であり観光地でもあるルスペン湖に行く事になったらしいのだが、そこで怪しい動きを見せる商人達を見付けたのだという。
そして、文武両道な3人はあっと言う間にその商人達が悪魔を召喚するための儀式に必要な呪具(魔力の宿った儀式用の置物などをそう呼ぶらしい)や生贄に使う人々を集めている事を暴き出し、儀式を行うために魔力が集まりやすい場所、つまりは今回見つかったダンジョンの近くに祭壇を作り、そこを根城に活動している事を突き止めたのだ。
その後、神童と称えられる程の実力者であるオルランド様を初め、私と同じ歳ながらも既に100レベルを超えていると噂されるジルラント様、ユリアーナ様の3人が賊に後れを取ることなど無く、あっさりと賊は制圧されたのだと言う。
余談だが、当初その新たに発見された未知のダンジョンの調査をジルラント様とユリアーナ様の2人が自分達で行いたいと申し出たらしいのだが、その時点で2人はまだ12歳に達していなかったのに加え、2つ年が上のオルランド様も引率役に求められる成人(18歳)に達していなかったので却下され、国王様から相談を受けた教皇様が近隣の村を担当するガブリエルさんに人員の選定を一任したのが今回の話しの流れなのだと言う。
「それにしても、たった3人で100人近い賊を1人残らず捕縛するとは……噂には聞いていたが3人とも凄まじい実力者だな」
「そうですね。なんでも、オルランド第1王子様は既に150レベルを超えて過去最高の実力者と噂されたバルヘルム騎士団長様の同年の頃を超えていると言われているようです。それに、ジルラント第2王子様とユリアーナ侯爵令嬢様のお二人も12歳となったばかりなのに関わらず、既にレベルは100を超え、王都近郊に存在するいくつかの小規模ダンジョンを攻略されているとか」
「この調子なら、あと10年もすれば王国最強の称号は騎士団長じゃなくその3人の内誰かを指す称号に変わりそうだな」
「そうかも知れませんね」
そんなクロード神父とミリアさんの会話を聞きながら、私の心には焦りが生まれていた。
(同じ歳のジルラント様とユリアーナ様は間違い無いとして、2つ上のオルランド様も3年制のゴルドラント高等学院で一緒になる確率は高いんだよね? もしかして、私が目標にした入学までに200レベルでも低い!? でも、今回のダンジョンでどれだけレベルを上げることが出来るのか分からないけど、このままだと間違い無く不十分な結果で終わっちゃう)
どうにか打開策を考えなければと必死に思考を巡らせるが、結局エルトナド村に到着するまでの1時間、画期的な打開策が浮かぶこと無く時間だけが無情に過ぎて行ったのだった。
その後、エルトナド村に到着してからは嵐のような慌ただしい時間が過ぎていくこととなる。
先ず、エルトナド村の礼拝堂近くの宿所に到達した直後、宿所から飛び出してきたガブリエルさんは一直線に私のところへ駆け寄って来たかと思えば、一切の遠慮なしに全力もハグをお見舞いされた。
そして、「アイリスちゃんお久しぶり! 私がブルーロック村を出て以来だから5年ぶりくらいかな? それにしても大きくなったね! あっ、村長達にはきちんと話してあるし、髪は隠さなくても大丈夫だよ。私、久々にアイリスちゃんに会えるのが嬉しくて興奮しちゃって……昨夜なんかほとんど眠れなかったよ! 今夜はここに泊まるんだよね? だったら、今日は久し振りに私と一緒に寝てくれるよね!」と、怒濤のマシンガントークが展開されたのだった。
「ふふふ。ガブリエル先輩、絶好調ですね」
「あっ! ミリアちゃんもいらっしゃい。ね、前に話してた通りアイリスちゃんは可愛いでしょ!」
「ふふ、そうですね」
和やかに会話を交わす二人に、私は(えっ!? 今の会話の感じ、もしかしてガブリエルさんの方がミリアさんより年上なの!?)と(割とどうでも良い)衝撃を受ける。
正直、ガブリエルさんは私が初めて出会った7年前、つまり彼女が18の頃からさほど見た目が変わっておらず、(今の私が言える立場では無い気がするが)若干子供っぽい印象を受ける。
それに加え、感情を全力で表現する性格や度々ミスをやらかす落ち着きの無さも相まって余計幼い印象を強めてしまっている。
だから、そんなガブリエルさんが見るからに出来る大人の女性感を漂わせるミリアさんに『先輩』と呼ばれているのは凄い違和感を感じてしまうのだ。
「おい、ガブリエル。前から言ってるが、私情より先ずは仕事を優先させろ。特に、今回はお前が任務を発注して俺達が派遣されてきたと言う事を忘れるなよ」
呆れたような口調でクロード神父がそう告げたことで、ガブリエルさんはようやく私から離れて背筋をピンと伸ばしながら、「すみません! それでは皆様、こちらへどうぞ!」と慌てたように私達を宿所内へ案内してくれた。
それから一旦全員で相談室(普段、教会に依頼を持ってくる人達が通される応接室のような場所)へ移動し、お茶の用意を済ませたところで今回のダンジョン探索について依頼内容を話し始めた。
もっとも、話の内容は既にミリアさんから聞いていた『何故このダンジョンが発見されたか?』や、現状ダンジョンが周囲に与えている影響、事前調査として1階層を探索した状況などが語られた程度で30分も掛らずに終了したのだが。
ここでダンジョンについて、ある程度の覚えておかなければならない知識を語っておこうと思う。
先ず、ダンジョンは総じて遺跡のような建物の中にワープホールのような入り口が有り、そこから異空間へと転移して行くと言う仕組みになっている。
そして、最初に転移した地点を第1階層とし、それから次の空間へ転移する度に第2、第3と階層数が増していくと言った形になっている。
次に、ダンジョン内は現実世界とは異なる異空間になっており、見た目上は平野や山林などの屋外に見える階層も存在するが、必ずそのエリアの果てが決まっており、閉ざされた空間に広がる限られた世界となっている。
そのため、次の階層に繋がるワープホールを見付けるか、入る時に使ったワープホールを戻る以外にその階層から出る手段は無いとされている。
因みに、『転移魔法』を使用しての出入りも可能だとされているが、その場合戻れるのはダンジョンの入り口となる最初のワープホール前で、入れるのは行った事がある階層の入り口となるワープホール前だけとなっているらしい。
あと、ダンジョン内で出て来る魔獣は全て魔石タイプとなり、現地に生息する植物や水は強力な魔力に汚染されていて飲食には使えないため、必ず食料と水は持参する必要があるのだと言う。
そして最後に、ダンジョンの最奥に存在するボス魔獣を倒してもダンジョンが消滅することは無いが、一度倒したボス魔獣が復活することも無いので何度も獲得経験値が多いボス魔獣を倒してレベル上げを行う事は出来ないらしい。
その代わり、ボス魔獣の経験値は他とは比べ物にならない程多く、ドロップアイテムのドロップも100%である事から、力を求める者が監視の目を搔い潜って我先にとボス魔獣討伐に挑むなんて事もあるらしい。
もっとも、ダンジョン内は危険な罠が多数仕掛けられていたり、他では遭遇しないような非常に強力な魔獣が闊歩している場合もあるので、事前の調査が行われて情報がある程度判明していなければ、余程の命知らずでも無い限りそのような暴挙に至る事例は非常に少ないようだが。
そんなこんなで事前説明が終わった私達は、特に何か準備が必要と言う訳でも無いので、明日からのダンジョン探索に備えて体を休めることにする。
本来なら、前日は食料や水、睡眠を取るための野営地を設営するのに必要な資材調達で忙しいはずなのだが、収納できるアイテム数に限りがあるアイテムポーチと違って無制限にアイテムを収納できる『収納空間』を私が習得しているので既に準備はブルーロック村で済ませてきたのだ。
因みに、『収納空間』に収納している食材は腐ることも無いし、もしも腐ってしまっても私の『道具錬成』で(質量は減るが)腐る前の状態に錬成することが出来るのだ。
それに、水はダンジョン内で手に入れた物を人間が飲める基準の物へ錬成する事が出来るので最悪手ぶらでダンジョンに突入したとしても最悪1週間くらいはどうとでもなるのだ。(もっとも、『転移魔法』もあるので最悪魔力さえ切れなければ何時でも撤退で出来る。)
そうして、その夜はガブリエルさんが張り切って用意していた食べきれないほどのご馳走を堪能し、半ば強制的にガブリエルさんとミリアさんと共に宿所の大風呂で汗を流した後、ガブリエルさんに抱き枕にされながら一夜を明かし、次の日の早朝にはダンジョンに向かって出発したのだった。




