第23話 最強の相棒とその力
「じゃあ次は魔法だけど……なんかやたら熟練度が片寄ってなかった?」
私は先程見たクロード神父のステータスを思い出しながら、魔法の熟練度が攻撃魔法、防御魔法、サポート魔法で大きな偏りがあった事を思い出す。
因みに、ステータス画面では必ず攻撃、防御、サポートの順番で魔法が表示され、スキルによって習得した魔法は最後に表示される仕様となっているようだ。
そのため、今回のクロード神父の習得魔法で考えると、『土弾』から『大地の脈動』までが攻撃魔法、『土壁』と『大地の要塞』が防御魔法、『大地の加護』から『砂地獄』までがサポート魔法、そして最後の『大地の守護』がスキルによって習得した魔法と言った感じだろう。
それと余談だが、この世界で回復魔法はサポートの枠組みに入るらしい。
「まあ、そもそも俺は槍術メインであまり魔法を使わないからな。だから、一緒に戦う仲間を敵の攻撃から守れるように防御魔法と、接近戦がメインになるから自身の防御力を上げるサポート以外ほとんど使う必要が無いんだよ。因みに、土属性適合者にはこう言った戦闘スタイルのやつが多い理由も教えたはずだが、もしかして忘れたわけじゃ無いよな?」
ジト目でそう問い掛けられ、私はそっと視線を逸らしながらも必死で記憶を探る。
そして、以前習った『属性ごとのサポート魔法の特徴』と言う講義を思い出して直ぐさま視線をクロード神父に戻して口を開いた。
「土属性のサポートは対象者の防御力を強化する、からだよね!」
「答えるまでに結構間があったが、まあ良しとするか」
軽くため息をつきながらもクロード神父が告げた事で私はホッと胸をなで下ろす。
そして、もし聞かれても即答できるよう一応他の属性についても特徴を必死で思い出していく。
(確か、火が攻撃力、水が魔法力、風が俊敏力を強化するんだっけ? それで、他者に付与できないけど光が全体的に少量のバフを掛けて、闇が相手にデバフを掛けるだったよね。それで、光は他者にバフを付与できない代わりに回復魔法があるんだったはず!)
流石に、普段光の『光の加護』と闇の『闇の霊気』は自分で使用しているので間違いようが無いが、他も間違ってはいないだろう。
それと確か、それぞれの適応属性ごとに
【火属性】…物理攻撃特化型。覚える魔法は低コストの低威力か高コストの高威力と極端で、一撃必殺を狙うか倒しきれなくても相手に火傷を負わせたりで一気に勝負を決めに行くタイプ。基本的に大剣や斧などの重量武器の適性が高い者が多い。
【水属性】…魔法重視の後方型。覚える魔法はコストと威力のバランスが良く、一撃の火力はさほどでも無いが多彩な攻めを得意とする。基本的に遠距離攻撃武器や杖の適性が高い者が多い。
【風属性】…素早さを生かした技巧型。覚える魔法は近距離高威力、中距離の安定した威力、遠距離の低威力ながらも連射性能が高い魔法と言った形でバラエティ豊かに魔法を習得する。その特徴に合わせて複数の武器に適性が有る者が多い。
【土属性】…防御力を生かした前衛型。覚える魔法はコストも威力もそこそこのものが多いが、相手の動きを妨害するなどの付帯効果が付いたものや防御性能に特化したものが多い。基本的に近距離、中距離の武器適性が高い者が多いが、最も拳による攻撃が得意な者が多い属性とも言われている。
【光属性】…バランス型で、威力、コスト共に安定した魔法、バフも回復も自身で行える安定したサポートと単騎で戦うのに最も適した属性だと言われている。適性武器についても偏りが無く、前衛から後衛まで様々なタイプが存在するが、光属性の高い適性を持つ者は王族以外では滅多に現れない。
【闇属性】…光属性と同じくバランス型だが、回復魔法が無い分光属性より安定性に欠ける代わりに全体的に魔法の威力が高い。そのため、光属性を防御寄りのバランス型とすれば、闇属性は攻撃寄りのバランス型となる。闇属性については滅多に高い適性を有した者が生まれず、魔力の弱い平民に最も多い属性と言われている。
と言った感じだったはずだ。
「だから、俺とおまえで戦闘を行う時には俺が前衛で敵を引きつけつつ、後方からおまえが高火力の魔法で援護する形が理想だろうな。それに、もしもおまえでは対処するのが難しい相手に遭遇した場合でも『大地の要塞』で十分おまえを守れるだろうからな」
身構えていたが、どうやらクロード神父は更に私の知識を試す質問を行う意思が無いのかあっさりと話を先に進めてしまう。
そのため、ちょっとガッカリしながらも気持ちを切替えて私も会話を先に進めることにした。
「そう言えば、熟練度じゃなくレベルの表記になってたから『大地の守護』は【特殊】スキルで覚えた魔法だよね?」
「ああ、そうだな」
「どう言う効果なの?」
私は今までに2つ【特殊】スキルを育てて来たので分かっているが、基本【特殊】スキルで覚える魔法はレベルが上がるごとに見違えるような強さを見せる。
そして、クロード神父が覚えている『大地の守護』はレベルⅩなので間違い無く強力な効果を持った魔法なはずなのだ。
「範囲内に存在する味方に物理的、魔法的な如何なる攻撃も1度だけ完全無効にする加護を与える魔法だな。ただ、一応注意しとくがこの魔法を使用した後に受けた最初の一発で必ず効果を発揮するから、使い所を間違えると大した役にも立たず魔力を消費するだけに終わっちまうがな」
まあ、完全防御なんて確かにターン制のゲームで有れば相手の大技を放つタイミングに合わせて使えば便利な技だが、現実で扱うとなる発動のタイミングを見極めるのが難しい玄人専用の技になってしまうだろう。
ただ、大技を放つタイミングではどうしても相応の溜があるのでそれを上手く察知すればタイミングを合わせるのも不可能では無いだろうし、戦闘前に発動しておいて不意打ちを防ぐ事も出来るので便利な魔法であるのは変わりないが。
「じゃあさ、クロード神父は2つ【特殊】スキルを持ってるのに何で【特殊】スキルで覚えてる魔法が1つなの?」
今までのパターンから考えると、【特殊】スキルは取得時に専用の魔法を覚え、スキルレベルを上げるのと連動して魔法のレベルも上がって行き、最終的には専用の【パッシブ】と【戦技】を取得するのが一連の流れなはずだ。
「ん? ……ああそうか。おまえは【特殊】スキルを覚えると必ず魔法を習得出来ると思ってるのか。まあ、そのパターンが一番多いのは間違い無いが、【特殊】スキルの中には【パッシブ】のように特定の効果を発揮し続け、レベルが上がるごとに効果が強くなるタイプもあるんだよ。さっき俺のステータスを見た時、装備で付与していた【CP自動回復】の他に【疲労無効】、【全状態異常無効】、【弱体無効】の3つが表示されてたのは覚えてるか?」
クロード神父の問い掛けに私は少し記憶を遡り、確かにその表記があった事を思い出して首を縦に振る。
「俺が取得した【特殊】スキル、『屈強なる者』は【疲労軽減】、【全状態異常耐性】、【弱体耐性】を与えるスキルなんだが、その軽減割合はレベルごとに10%ずつ上がって行く物だった」
「つまり、レベルⅩになった事でその軽減割合が100%になったから無効効果になった、って事?」
「そう言う事だな」
(なるほど、そう言うタイプもあるんだ。じゃあ、もしかすると私が習得可能な残り2つの【特殊】スキル、『破壊者』、『召喚者』もそう言ったタイプの可能性があるのかも。特に、『破壊者』とかレベルに合わせて攻撃力が一気に上昇する、とかあり得そう。それに、『召喚者』が召喚系の魔法を覚えるんじゃ無くて、そう言った魔法が使える前提で召喚される対象が強くなる、とか)
そう考えると、新たな魔法とスキルで一気に戦力向上を図りたい私としては次に習得する【特殊】スキルは良く考えないといけないな、と改めて認識する。
だが、もっとレベルを上げて魔力に余裕が出来るまでは新たなスキルを習得する気は無いので考える時間は十分あるだろう。
「そう言えば、『屈強なる者』がそう言う能力だったら『大地の守護』はもう一つの『守護者』で覚えた魔法なんだよね? だったら、こっちの方では【パッシブ】と【戦技】のスキルを覚えてるの?」
「ああ、『護人の決意』と『守護結界』の2つだな。効果はざっくり説明すると『護人の決意』が守護対象がいる戦いだとステータスが向上する【パッシブ】で、『守護結界』が発動中動けなくなる代わりに結界内にいる味方の物理的、魔法的守りを飛躍的に向上させる【戦技】だ」
先程、『守護結界』の説明でクロード神父が『防御力と魔法力を向上させる』と言わなかったことから、恐らく『純粋に受けるダメージ量を軽減させる効果』なんだろうな、と私は予想した。
正直、もしもステータス値に影響を及ぼすタイプの効果ならクロード神父はハッキリとそう告げるだろう。
だから私は『そのスキルで私の防御力と魔法力を強化して固定砲台の高火力魔法連射戦法』を提案することを思い止まり、代わりに別の質問を投げかける。
「『護人の決意』で上昇するのは全部のステータス?」
「だな。もっとも、体力と魔力は上がらないが」
「どれくらい上がるの?」
「大体1割から2割と言ったところだな。まあ、今確認出来る最大では5割までは上昇するようだが」
あまりに開きがある数字に、『まさかのランダム強化!?』と驚きながら、とりあえず「それって何かの条件で変動する感じ?」と問いを投げかけてみる。
すると何故かクロード神父は渋い表情を浮かべながら「ああ」と短く素っ気ない返事を返した。
「それってどう言う条件なの?」
「……知らない相手より、知り合いの方が効果が強くなる感じだな」
「あっ、じゃあ他の人より普段一緒にいる私が対象の方が効果が強くなるって事だよね! じゃあ、もしかして私を守りながら戦うと1.5倍の強さになってるって事?」
「……まあ、そうなるな」
こちらに視線を向けずに素っ気ない返事を返すクロード神父に、私は『それだったら私がクロード神父と組んでいる限り向かうところ敵無しだね!』と、心の中で興奮を覚えながらも、あまりはしゃぎ過ぎては周りに迷惑だと何とか興奮を抑える。
そして、丁度その話が一段落したタイミングで間もなくメルポティシアの飛空艇停留所へ到着することを告げるアナウンスが機内に流れるのだった。




