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1-8 脱出

「茶番って。酷いなー」

「茶番じゃなければ何だというの?」

 女2人の視線が交わり、火花を散らす。

「弟に激似だったもんでつい、ね。いくらあたしでも、何の理由も無く初対面の相手に『お姉ちゃん』って呼ばせようなんてしないよ」

「……そういえば、〝やっぱそっくり〟なんて言ってたわね」

「そうそう。キミたちが話してるの、廊下で全部聞いてたんだけど、まず声が似てたんだよね」

 感慨深そうに何度も頷くリオネラ。その様子を、エシュカは胡乱な目で見つめる。

「そんなことってある? 声も顔もそっくりだなんて。気のせいじゃない?」

「うーん、そうかも。いやぁ、本当可愛い弟だったからさ、会えなくて寂しいんだよね。そのせいかな。まあまあ、それよりキミたち、魔神を倒しに行くんだよね?」

「違うわ」

「冗談、冗談。でもさ、瘴気病を何とかしようとして旅してるのは合ってるよね? その旅、おねーさんもついて行きたいな」

「イルデットを狙ってるなら無駄よ。婚約者がいるんだから」

「ありゃ、残念」

 おどけた調子で言いながら、リオネラはイルデットへ目を向けた。

「でもね、あたしはキミたちについて行く。まさか拒否なんてしないよね?」

 そのために〈魔力封じ〉を壊してあげたんだから——言外にそう告げられ、イルデットは渋面を浮かべた。

「何でそんなに僕たちと旅したいんだ? 雇い主を裏切るなんてリスクを冒してまで」

「言ったでしょ、キミたちの話を全部聞いてたって。瘴気病なんて、皆、どーしよーもないって投げ出してるし、あたしもそうだったのに、キミたちは違う。治す方法を探してる。そこに惹かれちゃったんだよ。キミたちの旅を傍で見たい。力になりたい。結末を知りたい。そういう思いが膨れ上がって、気付いた時には〈魔力封じ〉を壊しちゃってた」

 その言い分をイルデットはよく理解できなかった。だが、お人好しなら拒まないだろうと考え、頷く。

「分かった、一緒に旅をしよう。エシュカも良いよな?」

「まあ、異論は無いわ。とりあえず転移魔法でここから出て……」

「ちょっと待って。おねーさんは着替えてくるよ。こんなカッコで旅なんて出来ないからね」

 リオネラはひらりと手を振りながら廊下へ向かい、出入り口の手前で立ち止まった。弱い灯りに照らされた紅梅色の髪が流れ、橙色の瞳がイルデットたちに向けられる。

「キミたちは先に脱出しておいて。見回りが来ちゃうから。王都から西に出たところで落ち合おう」

「ああ」

 イルデットは短く返事し、エシュカに視線を向ける。エシュカは心得ているとばかりに魔力を練って、転移魔法を発動させた。


 * * *


「なに?」

 地下の見回りをしていた使用人の報告を受け、屋敷の主は眉をひそめた。

 イルデットとエシュカがいるはずの牢には誰もおらず、〈魔力封じ〉の破片が散乱していた——明らかにリオネラが裏切ったのだと分かる報告だ。この屋敷で聖系統の魔法が使えるのは彼女だけなのだから。

「あの小娘、折角この私が魔法の腕を買って雇ってやったというのに……」

 怒りをこらえるように拳を握る。

 そこへ、間が良いのか悪いのか、ヴァレドが訪れた。

「なあ、もう何日かこの屋敷に泊めてもらえると助かるんだが……」

「丁度良い。ヴァレド、お前に新たな任務を授けよう。イルデットを殺してこい」

「……どういうことだ?」

「ろくに情報を話さず逃げよった。私以外の誰かに利をもたらすくらいなら、死んでもらった方が良い」

「気乗りしねぇな。他のやつに頼んでくれよ」

 渋面でそう言うヴァレドを、屋敷の主は鼻で笑う。

「ふん、罪人以外は殺したくないと? その下らない思想は、目的とどちらが大事だ?」

「何が言いたい」

「お前は先ほど、もう何日か屋敷に泊まりたいと言ったな。つまり、まだ目的を果たしていない——あの罪人どもを殺しきれていない。そうだな?」

「ああ」

「残りはお前がイルデットを殺してからだ」

「なっ……約束が違う! 既に依頼は」

「違わない。地下の罪人をお前にやる、という契約だったが、()()という契約ではないのだから」

 契約書をひらひらと見せ、口角を吊り上げる。

「どうだ、ヴァレド。〝イルデットを殺せば地下の罪人の残り全員をお前にやる〟という契約を新たに結んでやっても良いと言っておるのだ。結ばないなら去れ。その場合、二度とこの屋敷に足を踏み入れさせないがな」

「……分かった、結ぶ」

 苦虫を嚙み潰したような顔で告げ、ヴァレドは踵を返す。同時に契約書のインクが輝きを放ち、内容が更新された。






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