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4-4 本性

「くっそおぉぉお」

 心の底から悔しそうに声を漏らすイルデット。その肩を、ヴァレドがぽんと叩く。

「やっぱお前、めちゃくちゃ強ぇな」

「知ってる! お前はその僕に勝った訳だけどな!」

「そんなに怒らなくていいだろ」

「何であんな返し技が使えるんだ! 簡単に対策されるような技じゃないはずなのに!」

「簡単じゃなかったぜ。何度も見たし、何度も受けたし、じっくり考える時間もあったからこそ、対策できた」

「だからぁ、その程度で対策できるはずが無いってことなんだけど! しかも途中、僕と同じ技使ってただろ! 簡単に真似できるようなものでもないはずなのに!」

「毎朝、早めに起きて素振りしてただろ? それ見てた。見てたら、なんか真似できそうな気がして、やってみたらできた」

「~~っ! ああもう、お前が天才なのはよく分かった!」

 そう言ってから盛大に溜息を吐くイルデットに、ヴァレドはふと思いついたように問いかける。

「そういや、何でそんなに強ぇんだ? 自警団にでも入ってたのか?」

「別に。強くなりたかったから、村の……剣術道場っぽいところに入っただけ。まあ、そこから自警団に入る人も多かったけど、僕はそんなつもり全く無かった」

 その返答を聞いたヴァレドは、不審そうな顔をした。

「じゃあ、何のためだ? 強くなりたかったのは。村を守るためじゃねぇなら」

「お人好しを目指すため」

「は?」

「お人好しを目指すためには、強くないと」

「…………お人好しって、目指してなるようなモンじゃねぇだろ。あと強さ関係無ぇ」

「いや、関係大有りだ。弱いのにお人好し発揮したら死ぬだろ」

 イルデットが大真面目な顔でそう言うので、ヴァレドは少し気圧された。

「それは……まあ、場合によっちゃそうだろうが……」

「僕はただ、幸せに長生きしたいだけなんだ。そのために、お人好しを目指してるんだ」

「お前、訳分かんねぇこと言ってる自覚あるか?」

「ヴァレドには分からないだろうな」

「オレじゃなくても分かんねぇよ。お前の性根と言動がチグハグなのは何となく分かってたが」

「うぇ、気付かれてた?」

「冷酷な感じが剣に出てた。ってか、ずっと本性隠してたくせに、バラしちまって良かったのか?」

「良くはない。けど、隠し続けるのもしんどくなってきたというか……」

 気が緩んでいたのかもしれない。ロイスが()()だったと知ったことで、心境の変化は間違いなく起きた。それが、ヴァレドくらいになら知られても構わないという緩みに繋がったのだろう。ヴァレドはそのくらい許容してくれそうな良い奴だし、どうせ神使の件に片が付けば縁が切れるのだから。

 そこまで考えたイルデットは、

「そういえば神使はどうなったんだ? 音沙汰無し?」

 と尋ねた。それはヴァレドにとっては唐突な問いであり、正直に答えたくないことだった。

 ヴァレドは少し間を取って、神妙な顔をする。

「……来てねぇけど、このまま見逃してくれるはず無ぇよな」

「だろうな。そういえばお前、神使に見惚れてなかったか? 綺麗だとは僕も思ったけど、やめとけよ」

「何をだよ。見惚れてねぇし。……ただ、顔が……レリーシャに似てるような気がして」

「え。それって……」

「いや、髪の色も瞳の色も全然違うし、別人には違いねぇんだが」

「そんなの分からないだろ。神使になる時に変わったのかもしれない」

「レリーシャは超のつく運動音痴だったんだ。剣なんて持とうものなら振ろうとしてコケる」

「それも神使になる時に変わったのかもしれない」

「嫌なこと言うなよ」そう言いながらヴァレドは歩き出した。「そろそろ戻るか。リオネラより遅くなる訳にはいかねぇし」

「そうだな」



 イルデットとヴァレドが昼前には帰っていたのに対し、リオネラは日が暮れる直前に帰ってきた。

「遅くなってごめんねー」

 その表情は、少し暗い。

「どうだったの?」エシュカがずばりと聞いた。「その様子だと、成果無し?」

「あはは、実はそうなんだ。交換条件として色々手伝わされたのに、そのあげくに〝無理〟の一言だよ。まあ、そんなの納得できないって食い下がったら、〝ちょっと研究してやるから数日待て〟って言ってもらえたけど」

 それを聞いたイルデットは、にっこり笑う。

「じゃあ、待ってる間……明日から、村の人を手伝おうかな」

「なら私もそうするわ。じっと待ち続けるのは暇だしね」

 エシュカは便乗した。一方、ヴァレドは不思議そうだ。

「手伝いって何するんだ?」

「雑用とか。テキトーに聞いて回れば何かあるだろ」

 本当はやりたくない。だが、お人好しならきっと、隙あらばそういうことをするから、そうせざるを得ない。

「ヴァレドもやるか?」

「どうだろうな」

「何だその返事。まあ、どっちでも良いけどさ」


 そんなこんなで夜が更けていった。




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