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4-1 「英雄様」

「英雄様だ!」

「今までどこに⁉」

「お帰りなさい!」


 村人たちから向けられた歓迎の言葉に、イルデットは面食らった。

 ここはリオネラの故郷である。もちろんイルデットがここを訪れるのは初めてで、英雄扱いされるいわれは無い。

 ぽかんとしているイルデットの隣で、リオネラが肩を竦めた。

「あはは、違うよ、みんな。この子はイルデット。ものすごーくロイスに似てるけど、別人! ほら、訳分かんないこと言われて困ってるじゃん」

 その言葉に村人たちは、顔を見合わせたり首を傾げたりしながら、一つの疑問を口にする。

「じゃあ、英雄様はどこに……?」

「王都で出稼ぎ。出て行く前にちゃんと言ったっしょ? あたしは用事があって戻ってきただけで、終わったらまた王都に行くから」

 軽い口調でそう言いながら、リオネラはイルデットの背をぐいぐい押して歩き出した。その後ろを、エシュカとヴァレドが不思議そうな表情でついていく。

「……リオネラ。あなたの弟が英雄として讃えられてることくらい、道中で話してくれてても良かったんじゃない? いきなりあれはびっくりするわよ」

 文句というよりは戸惑いに近い言葉を吐くエシュカ。それに対しリオネラは、足を速めながら苦笑する。

「ごめんごめん。まさかあんな風に出迎えられるなんて思ってなかったんだー。そりゃあね、弟は村を救った英雄だよ。魔物の襲撃で自警団が壊滅して、もう駄目だーってなったところを弟が一人で戦って、残りの魔物を全部やっつけたんだから。でもその直後は、〝何でもっと早く戦わなかったんだ〟〝そんなに強いなら自警団の被害も防げたんじゃないのか〟みたいに責めるようなことばっか言われたし……。だから、逃げるように村を出たって感じかな。王都に行くのはもともと決めてたんだけど、日程を早めてね」

 その話を聞きながら、エシュカは強烈な違和感に顔をしかめていた。

 リオネラがイルデットにべたべたくっついているのは、弟に会えなくて寂しいからだったはずだ。気軽に会える距離にいないということだと思っていたが、実際は王都にいたという。

「王都にいるのなら会えそうなものだけど。何かあったの?」

 エシュカの問いかけに、リオネラは答えなかった。ただ足早に村の外れに向かっていき、一軒のそれなりに立派な民家の前まで来て、大きく息を吐いた。

「…………とりあえず、ここでゆっくりしてってよ。あたしの家だからさ」

 痛みを堪えるような声だった。

 イルデットは驚いてリオネラを見、エシュカは眉をひそめながら家の扉を開ける。ヴァレドは呆れたような顔で「だから言ったのに」と呟いた。

 4人で家の中に入る。長らく無人だったことを表すように埃が積もっているが、それに目をつぶれば綺麗なものだ。この空気の重苦しさは、家のせいではないだろう。

 不意にエシュカが、漂う沈黙を破った。

「ねえイルデット。父親の名前は知ってる?」

「え? 父親って、僕の?」

 何でいきなり、と不思議そうな顔で聞き返すイルデットに、エシュカはこくりと頷く。

「知ってるなら言ってみて」

「ルイース、だったはず」

「……⁉」息を呑んだのはリオネラだ。「何で……父と同じ名前……」

「やっぱりそうなのね」

 エシュカは呟いて、イルデットに目を向けた。

「リオネラの弟は、あなたの双子の兄よ」

「え……」

 イルデットは目を丸くする。それを横目にエシュカはリオネラに向き直った。

「さてリオネラ、あなたの弟のこと、ちゃんと話してくれるわね? 少なくともイルデットには聞く権利があるはずよ」

「……そっかぁ……」

 リオネラはぽすんとソファに座り、うなだれる。

 少し経って。

「弟は、ロイスって名前でね」

 語り始めたリオネラの声は、暗く沈んでいた。

「〝魔物を倒せるようになりたい〟っていつも言ってた。ただ、魔力量は多かったけど適性が闇系統で……魔物と戦うのに向いてなかった。だからロイスは魔法の練習そっちのけで自警団の詰所に入り浸って、剣の修練をしてたの」

「自警団には入らなかったのか」ヴァレドが口を挟むと、

「ここの自警団は18歳以上じゃないと入れないから」リオネラはすぐ答え、苦笑した。「もし自警団に入れてたら、きっとロイスは最初から最前線で戦ってたと思うよ。魔物が出たのは自警団の詰所の近くで、あの日は自警団員が全員で集会してた。だからこそ、ロイスはあの日、詰所に行ってなかった。自警団員以外は立ち入り禁止の日だったんだ」

「それなのに責められたのか」

「そーだよ。酷いっしょ。そのくせ今更手のひら返して『英雄様』なんて」

 話しているうちに開き直ったのか、リオネラの声には明るさが戻りつつあった。

「まあそれで、さっき話した通り、あたしとロイスは村を飛び出したんだ。王都に向かって歩くこと1週間。初めて街に入った時、ロイスが倒れた」

「あの街か」

 ヴァレドが視線を東に向ける。リオネラは頷いて、大きく息を吐いた。

「……瘴気病だったんだ。魔物と戦った時に罹ったみたい。ロイスは、魔法で辛いの誤魔化してて……あたしはそれに気付けなくて……だから、ロイスが倒れた時は何が起きたか分からなくて、混乱しちゃってね。たまたま術師のレーネさんが通りがかって治療院に運んでくれて、ロイスがどういう状態か教えてくれたから、状況は理解できたんだけど……もう、ロイスは、苦痛の無い穏やかな最期を迎えさせてあげることしか出来ない状態で……」

 言葉が途切れる。膝の上で握られた拳の上に、透明の雫がぱたぱたと落ちていた。

 誰かが何かを言う前に、リオネラは勢いよく顔を上げた。涙も思いも何もかも振り払うように。

「ほら暗い。だから話したくなかったのにー」

 すっと立ち上がり、笑ってみせる。

「今日はもう休もっか? 掃除もしなきゃだし。部屋2つしか無いから男女で分かれよー。ベッド足りないのは勘弁してね」




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