3-6 治療院
翌朝から街で聞き込みを始めた。イルデットとエシュカはいつも通り一人で調査し、リオネラはヴァレドと一緒に行動することになった。
「お前も一人で大丈夫なんじゃねぇか? あの防御魔法はかなりのモンだったし」
「そーいうこと言ってるとモテないゾ?」
「オレにはレリーシャがいる」
「あー、そういえば恋人って言ってたね」
「それで、手分けしねぇのか?」
「しないよ。あたしがキミと一緒に聞き込みするのは、見張りのためと神使避けのためだから。一人で大丈夫じゃないのはキミの方ってわけ」
「……そうか」
大通りを歩きながらのんびり喋るヴァレドとリオネラ。2人とも、目は真剣に看板の文字を追っている。
料理店、床屋、武器屋……様々な店の並ぶ中、リオネラが目的の文字を見つけた。
「あ、あった、〝治療院〟」
瘴気病の対症療法を行っている施設だ。王宮から派遣された優れた術師が治療を行う公的施設だが、主要な街にしか無いため、その恩恵を受けられる人は少ない。
手当たり次第に聞き込みをしても仕方がないということで、治療院の術師に話を聞くことにしたのだった。
「どうもー。ちょーっと聞きたいことがあるんだけど、時間いいかな?」
「あら、リオネラちゃん」
反応したのは妖艶な笑みを浮かべた美女だった。椅子に座ったままカウンターに頬杖をついている彼女は、喪服のような黒いドレスに身を包んでいて、髪も瞳も靴も装飾も全てが黒い。
「知り合いか?」とヴァレドが尋ねれば、
「前にちょっとねー。レーネさんっていう凄腕の術師だよ」リオネラは軽く答える。
レーネは薄く笑ってリオネラを見つめた。
「何を聞きたいんだい? 今は貴重な休憩時間だ、手早く頼むよ」
「魔力と瘴気の結びつきを切り離すことって出来る?」
「何だね、それは。魔力と瘴気は結びつくのかい?」
「そうみたい。瘴気病の原因は、体内の魔力と瘴気が結びつくことなんだって」
「ふーん……」
興味無さげに息を吐き、レーネはゆっくりと立ち上がった。
「悪いね、ここの術師にそんなことが出来る人はいないよ」
「レーネさんでも無理?」
「闇系統の魔法は〝結びつける〟ものなのさ。〝切り離す〟のは対極。光系統の使い手なら出来るかもね」
「お、それ凄い収穫。良い情報ありがと、レーネさん」
明るく手を振り治療院を出ていくリオネラ。その後を、ヴァレドは不思議そうな顔で追う。
治療院から出て少し歩いたところで、ヴァレドは疑問を口にした。
「さっきの、〝結びつける〟ってどういうことだ? 瘴気病の対症療法って、痛みを取ったり苦しさをやわらげたりだろ。切り離してるんじゃねぇのか」
「うーん、あたしもそう思ってたんだけどね。レーネさんがああ言うなら、そうなんだよ」
「あいつは闇系統の使い手なのか」
「うん、治療院の術師は大体そう。苦痛で眠れない人を魔法で眠らせたり、悪夢にうなされてる人が夢を見ないようにしたり、そういう治療もするんだよ」
そう語るリオネラの声音に、違和感があった。表情に、違和感があった。何かを隠しているような、誤魔化そうとしているような、とってつけたような、そんな感じがして。その正体を探るべく、ヴァレドは言葉を投げる。
「詳しいな」
「弟が闇系統に適性持ってたからねー」
「……過去形なんだな」
「あはは、気にし過ぎ。言葉の綾ってやつ。まあとにかく、〝結びつける〟性質の魔法がどんなものかあたしは知らないけど、闇系統にそういうのがあるってことっしょ。それぞれの系統に色んな性質があるものだからね。聖系統だってそうだし」
「なあお前、この街来たのは初めてって言ってたよな? 聞き込み始める前に。〝初めて来たけど多分この街の規模なら治療院があるから探してみよう〟って」
「言ったけど、それがどうかした? レーネさんと知り合ったのは別のところだし、あそこにレーネさんがいるなんて知らなかったよ?」
「そうだろうと思ってたんだが……やっぱりおかしい。お前はこの街の、この道に、治療院があることを知ってたんだ」
「だったら何?」
リオネラが立ち止まる。俯いた顔に髪がかかり、表情を隠してしまう。だが声は、ハッキリと拒絶の色を宿していた。
「関係無いじゃん。そんなこと聞いて、何が知りたいの? キミだって何も過去を語ってないくせに、あたしのことは聞こうだなんて虫が良すぎるよ」
「……知りたいのは、嘘ついてまで隠す理由だ。お前がこの街に詳しいなら、それをイルデット達にも話してたら、情報収集の効率が上がったんじゃねぇかと思ってな」
「あ……そっか。うん、それは誤解だ。あたしはこの街のこと、本当に全然知らないんだよ。来たことはあるんだけど、記憶がぼんやりとしてて……あんまり覚えてないの。ハッキリしてるのは治療院の中での記憶だけ。だから看板見て探さなきゃ分からなかった。何となくこの道だったかなーとは思ってたけどね」
「何でわざわざ隠してた?」
「だって、こんな話したら、弟のことも話すことになるかもじゃん。暗くなるの嫌だし」
「やっぱお前の弟は……」
瘴気病で、命を落としたのか。ヴァレドがそう続けようとした時、リオネラの顔がグイっと近付いた。
「キミの恋人は、瘴気病で亡くなったの?」
嫌な話をさせたお返しだと言わんばかりの声音だった。
「……違う」ヴァレドは拳を握りしめ、リオネラを真っ直ぐ見る。「レリーシャは、オレが殺した」




