3-5 旅館
旅館の部屋に戻ってきた3人を出迎えたエシュカは、「お帰りなさい」と言いかけて固まった。
「………………どうしてヴァレドも一緒なの?」
「色々あって、情報収集を手伝ってもらうことになった」
「その色々を知りたいのよ」
「じゃあ、おねーさんが話してあげるよ」リオネラが陽気に口を挟む。「どうやらヴァレドはチョー強い神使に命を狙われてるみたいでね。イルデットは、ヴァレドを助けてあげようとしてるんだよ」
「神使……ああ、そういえばヴァレドは魔神と契約しているんだったわね」
納得したように呟き、エシュカは改めてヴァレドを見る。
「仲間になってくれるなら、魔剣が瘴気病の治療法を教えてくれたりしないかしら? それか、魔剣の出す炎が瘴気病を治す力を持っていたりとか」
「悪ぃ。こいつも瘴気病の治療法は知らねぇらしい。治す力も無ぇ」
「そう。まあ、あまり期待はしてなかったわ。それであなたは、その魔剣で何をしようとしてるの? 何のために魔神と契約して、何のためにあの貴族に従ってたの?」
「そ、れは……」ヴァレドは拳を握りしめ、絞り出すように言葉を紡ぐ。「レリーシャを……恋人を、生き返らせるためだ。そのために、魔神と契約した。〝強い負の感情を持つ魂〟をいっぱい魔剣に喰わせれば、何でも願いを叶えてくれる。あの貴族は、報酬として〝強い負の感情を持つ魂〟を10も20も提供してくれるから、従ってた」
それを聞いた3人は、何とも言えずに顔を見合わせた。〝強い負の感情を持つ魂〟がどういうものかピンと来ない。魔神が何でも願いを叶えてくれるというのも、すんなり信じるのは難しい。ヴァレドが嘘を言っているとは思わないが、魔神に騙されているのではないかと疑ってしまう。
そんな微妙な空気を察したのか、ヴァレドは言葉を付け加えた。
「魔剣も、魔神が契約を守ると保証してくれてる。ただ、〝強い負の感情を持つ魂〟は見つけるのが大変でな。結構特殊な……拷問で痛めつけられてるような人とかだから」
「見つけるのが大変なら」イルデットが思い付きを口にする。「自分で作れば良かったんじゃないか? どこかの村でも襲って、自分で村人たちを拷問して〝強い負の感情を持つ魂〟に仕立て上げれば、あの貴族の命令に従ってるよりも効率良かっただろ」
「……発想が怖ぇよ。そんなの考えもしなかったぜ」
「嘘だろ……これくらいのことが頭に過ぎりさえしないくせに悪人気取ってるのかよ……」
うわぁ、とお互い引いていた。
そこへリオネラが疑問を投げかける。
「魔神に生き返らせてもらう人ってさ、何人でもいけちゃう感じ? それとも一人?」
「一人だ」
即答するヴァレドに、今度はエシュカが問いかける。
「あなたが魔神に協力することで、私たちにとって不都合なことは起こらない? 例えば、魔神の力が増すことによって、既に瘴気病に罹っている人の状態が悪化するとか。魔物の発生頻度が上がって被害が増えるとか」
「……魔神が魔物に人を襲わせるのは、力を得るためだ。充分に力を得れば、魔物を出す必要が無くなって、魔物による被害はゼロになる。瘴気病の悪化については……それもねぇって魔剣が言ってる」
「なら良いわ。……もう遅いし、そろそろ寝ましょ」
エシュカはそう言いながら、隅の布団に潜り込んだ。その隣にリオネラが陣取り、更に隣の布団をポンッと叩く。
「イルデットはおねーさんの隣ね。ヴァレドは向こう。たまたま4人部屋で良かったね」
「布団2つくっつけて広々と寝るつもりだったのになぁ」イルデットは苦笑しながら布団に入り、
「そういえば部屋に入った時、何か違和感あると思ったんだ。布団が4つ敷いてあったせいだな」ヴァレドは納得げに呟いた。




