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2-5 魔物の群れⅡ

「なあ、ヴァレド。僕があの貴族より良い報酬を出せれば手を引いてくれたりするか?」

 適当に魔法を放ちながら、イルデットはそんなことを聞いた。ヴァレドは魔物を叩き斬りつつイルデットに目を向ける。

「無理だ。お前じゃオレが望む報酬を用意できねぇ」

「そうかな。僕の婚約者の家、多分あの貴族より地位高いんだけど。僕が将来その家を継ぐことになってるんだけど」

「そんなことは分かってる。任務の前に、ある程度の情報はもらってるからな。お前らの旅の理由も、分かってるつもりだ」

 ヴァレドの剣から炎が上がり、周りの魔物を焼き尽くす。その様子はどう見ても昨日より気合が入っていて、イルデットは呆れたような溜息を吐いた。

「ヴァレドってさ、もしかして、本当は僕を殺したくないのか?」

「…………任務だから仕方ねぇ」

「そんなことより、どうやって街を守るんだ?」

「お前から話振ったくせに。えっとな……とりあえず魔物を片っ端から倒す」

「おい、まさか湧き出る魔物を全部倒すつもりじゃないだろうな。無理だぞ。絶対に昼過ぎくらいで限界が来るぞ」

「陽が高く昇った時に、この剣とお前の魔力で瘴気を一掃するんだ。そうすれば、それ以上瘴気も魔物も湧いてこなくなる」

「なるほど、そのチートな剣を使うんだろうとは思ってたけど、僕の魔力も要るのか……って、それ先に言っとけよ! 魔法撃ってたら昼までに魔力切れになるだろ!」

 イルデットは魔力を練るのをやめ、剣を抜いた。ヴァレドは、しまった、というような顔をする。

「悪ぃ、なるべく魔力を温存してくれ。多分、魔力が多い方が成功しやすい」

「それで? どんな風に瘴気を一掃するんだ?」

「……それを説明するには、この剣について話さねぇとな」渋々、といった様子でヴァレドは言葉を紡ぐ。「この剣は魔剣だ。魔神との契約で得た剣で、まあ何か色々できる」

「〝何か色々〟でまとめるな」

「この剣、意思があるんだ。オレの思いに応じて力を貸してくれる。瘴気を一掃する方法も、この剣が教えてくれた」

「ふーん。喋るのか?」

「いや、喋りはしねぇけど」

「じゃあ何となく伝わってくる感じか。良いなぁ、僕もそんな剣ほしいなぁ」

 冗談とも本気ともつかない声音だったが、羨ましがるような響きを帯びているのは間違いなかった。

「でも、本当に瘴気を一掃する方法を教えてくれたのか? 騙されてない?」

「こいつがオレを騙したことなんてねぇよ。魔神から貰ったとはいえ、魔剣の意思は魔神とは切り離されてる」

「じゃあ魔神の邪魔になるようなことでも平気ってことか」

「ああ。それで瘴気を一掃する方法だが……お前、水系統の使い手だよな? 他に使える系統あるのか?」

「一応、火系統も。焚き火用の種火つくるくらいしかできないけど」

 それが何の関係があるのかと不思議そうな顔をするイルデットに、ヴァレドは当然のように語る。

「なら丁度良いな。魔力に宿る浄化の力を利用するんだ」

「は?」

「何だその顔は。この説明で分からねぇのか?」

「分かる訳無いだろ。そりゃ僕の使う魔法には、瘴気を浄化できるものもあるけど……」

「〝火〟〝水〟〝風〟には浄化の力がある。火は瘴気を焼き払い、水は瘴気を洗い清め、風は瘴気を吹き飛ばす。それぞれの系統に適性を持つ魔力そのものにも、その力が宿っている。——この話に聞き覚えはねぇか?」

「無いな」

「マジかよ。聖書の5ページ目だぞ」

「無いな」

「オレは毎日のように音読させられてたのに」

「そっちが驚きだ。聖書なんて聖職者が読むもので、一般人には関わりのないものだったぞ、僕の故郷では」

「そんなことが許されるのか……? ちゃんと教会で教育してないと、教会の偉い人が指導に来るとか聞いたんだが」

「地域差じゃないか? あそこ辺境だし」

「……まあとにかく、お前の魔力をこの剣に浴びせれば浄化の力を増幅できるから、それで瘴気を消し去れる」

「なあ、それなら瘴気病にも罹らないってことなのか、その3つの系統の適性なら」

「それは知らねぇ。オレは罹らねぇけどな」

「じゃあ瘴気濃いところは任せた」

「元々そのつもりだ」

 それからは黙々と、2人は魔物を斬っていった。

 数多の魔物が次から次へと切れ間もなく湧いて出ている。常人であれば音を上げてしまうであろう量だったが、彼らは無駄のない動きで息も乱さず倒していく。

 イルデットの洗練された動きと、ヴァレドの気合の乗った剣閃が、一切の魔物を街の奥へは進ませない。

 陽が中天にかかった時も、彼らの動きに鈍りは無かった。

「——そろそろだ」ヴァレドが剣を地面に突き立て、取り巻く魔物を炎で炙る。「刃に向けて、魔力を撃ち込め!」

「簡単に言ってくれるな!」

 少量ならともかく、多量の魔力をそのまま放つというのは、魔法よりも難しい。ボールなら遠くに投げられても、豆腐なら掴むのすら難しいように。

 魔法の使えないヴァレドには、それが分からない。魔法を使える奴なら魔力も放てるだろう、との考えだった。やれと言われた方はたまったものではない。

 しかしながら、イルデットにはその大変な作業をサクッとこなせる技量があった。

 魔力が糸を引くように魔剣へと吸い込まれていく。魔剣の纏う炎の猛りが清浄なる輝きを帯びた。

 次の瞬間、パァンと何かが弾けるような音がした。

 瘴気が、消えた。

 残りの魔物はすぐにイルデットに狩り尽くされて、ヴァレドは億劫そうに魔剣を鞘に戻す。

「……イルデット」

「何だ、やるのか?」

 バッと剣を構え、警戒を込めて問う。そんなイルデットに対し、ヴァレドは静かに首を振った。

「どうもそういう気分になれねぇ。今日の所は見逃してやる」

「どうせすぐ隠密部隊が見つけるから、か?」

「いや、この街は既に隠密部隊の探索範囲外らしい。これ以上王都から離れられたら、オレが自力で捜すしかねぇ」

「……なるほど」

 やはり魔剣の力を引き出すには、気持ちが重要なのだろう。わざわざ不利な情報を話しているのは、次会った時に心置きなく戦うために違いない。

 イルデットは溜息を吐いた。

「しょうがないな。それで貸し借り無しってことにしておく」

 それだけ言って、宿へ向かって歩いて行く。

 本当は、「それで借りを返したつもりか?」とでも言ってヴァレドを困らせたかったが、お人好しならそんなことはしないだろう。

(まあ、気分に左右されるって分かったのは大きいな。次に戦う時までに、何を言えば戦意を削げるか考えとこう。……いや、お人好しならそんなこと考えずに正々堂々戦うのか? それだと詰むんだよなぁ)

 悩むイルデットを、太陽が呆れたように見下ろしていた。






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