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2-4 魔物の群れⅠ

「ああもう、ゆっくり休む暇も無い」

 イルデットは愚痴りながら窓を開け、水弾を連射した。道を埋めていた魔物たちが瞬く間に消滅し、ぽっかりと場所が空く。

「2人は作戦会議続けといて。よっと」

 窓から飛び降り、ストっと着地。遠くで誰かが何事か喚いているのが聞こえる。逃げ惑う人々の声が重なり合って、個々の言葉が聞き取れない。

 魔物は街の外からなだれ込んでいるようだった。一つしかない門からだけでなく、壁の上からもドロリと侵入してきていた。

「……多いな」

 合理的に考えるなら、街を見捨てて逃げるべきだ。ヴァレドとの戦いに備えて消耗を避けたいのはもちろんのこと、魔物の数が多すぎてまともに戦って無事で済むか怪しい。エシュカの転移魔法で街から離れるのが最善だろう。

 しかしイルデットは、魔法で魔物を消し飛ばしながら門に向かって歩いて行く。お人好しならきっと魔物に立ち向かうから。一般人が逃げる時間を稼ぐために。或いは、魔物と戦う警備兵たちの助けになるために。「放っておけないから」などと言って、たとえ不利でも戦うことを選ぶ。イルデットの考える「お人好し」は、間違いなくそうするのだ。

 門には人が殺到していた。一刻も早く街を出ようとする人と、そう思って門に来たものの魔物が続々と迫り来るのに恐れをなして回れ右をした人と、魔物を倒すべく門に押し掛けた警備兵が、それぞれ思うように進めないまま、魔物の大群に踏み潰されそうになっていた。

「やばっ」

 慌てて魔力を練り、放つ。魔物の群れの一端が音も無く消え失せたが、街の住人の窮地には変わりない。

「皆、門から離れてください! 全員! 街の中心に向かって動いてください!」

 大声で呼びかけてみるが、恐慌状態に陥る人々の耳には届かず、叫びと悲鳴にかき消されてしまう。

「駄目か……」

 とにかく魔物を片っ端から倒すしかないらしい。イルデットは溜息を吐きながら、強力な魔法を魔物へ撃ち込んでいく。

 水の塊が次々と魔物を穿っていったことで、人々は徐々にイルデットの存在に気付いた。「おいあれ見ろよ。すげー強い奴がいるぞ」「わ、わたしたち助かるの⁉」「役立たずな警備兵よりあの少年にカネを払ってやりたいね」「誰が役立たずだ! チクショウが、さっさと家に帰りやがれ!」「こら、一般人を煽るな」「皆聞いてくれ! 残りの魔物は我々警備兵が倒す! 街から出ようとせず、建物の中に避難してくれ!」

 それらの、少し安堵したようなざわめきを。

 魔物の唸りが一蹴した。

「……!」

 開け放たれたままの門の外には、いつの間にか新たな魔物の群れがあった。地面からは瘴気がとめどなく溢れ、際限なく魔物を生み出している。

 イルデットは、この現象に覚えがあった。フェイが瘴気病に罹った原因。村の戦士たちをもってすれば魔物などどれだけいようと簡単に倒せたのに、それでも村の奥に魔物の侵入を許してしまった原因。

 日の光が当たり続ける限り、無限に魔物が湧いて出る。これは、そういう現象だ。

(あの時は昼からだったし、皆強かったからほとんど被害が出なかったけど……)

 まだ朝だ。日の入りまではあまりに長い。警備兵の戦力も、あの様子ではあまりアテにできない。

(どうすれば——)

 ドゥッ、と門の外に火柱が立ち昇った。

 湧き出ていた魔物の群れが、一瞬で焼き消された。しかし魔物は出続ける。それらを斬り伏せながら、ヴァレドが街へと入っていく。

「げ」

 と思わず声を上げたイルデットを、ヴァレドは一瞥して、

「魔物退治が先だ。後で覚えてろよ」

 当たり前のことを念のために確認したような口調で告げた。

 イルデットは目を瞬かせる。

「……僕、今一人だしチャンスだぞ?」

「人が多い。一般人を巻き込んじまう」それに、とヴァレドは魔物を見据え、剣を振るって炎を放つ。「魔物、一人じゃ捌き切れねぇからな。お前が協力してくれれば何とかなりそうなんだが……」

 だから、見逃す代わりに手伝ってくれ。そう言おうとしたヴァレドは、イルデットの

「僕はこの隙に逃げることも出来る。お前が魔物と戦ってる隙に、な」

 という言葉で口をつぐんだ。

 これでは交渉が成立しない。協力してもらうに足るメリットを提示できない。ヴァレドが眉間にしわを寄せていると、イルデットは笑った。

「なあヴァレド、魔物と戦うのは傭兵としての仕事なのか?」

「仕事じゃねぇ」

「やっぱそうか。うん、そんな気はしてた」

「はあ?」

「僕が協力すればどうにか出来るんだな? 街を救えるんだな?」

 念を押すように言うイルデットに、ヴァレドは慌てて頷いた。

「ああ、そうだ」

「分かった、協力する」

「え、マジか。良いのかよ」

 驚くヴァレドに、イルデットは笑顔で頷く。

「それで、僕はどう動けば良いんだ?」

「ちょっと待ってくれ。まずは……」


 ヴァレドは警備兵たちに一般人の避難誘導を頼み、人々を門から遠ざけた。

 魔物はあちこちから入ってくるが、門からが圧倒的に多い。既に街の中にも数多くの魔物が入り込んでいるとはいえ、門の側よりは安全だ。

 門周辺以外の魔物を退治するのは警備兵に任せ、イルデットとヴァレドは門に陣取った。



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