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滂沱の日々  作者: 水下直英
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勝つ為に時間を掛けず準備する意欲は有るか


 【オーガー】の溜まり場から無事に離れることが出来た私たちは、至急南端の村経由でヴァーブルドムバへと帰還する。


キシンティルクが剛毛の騎士たちを引き連れ、すぐさま南西へ取って返し【悪鬼】の群れ襲来に備えて【陣】を張りに行く。


慌ただしい準備の音が鳴る中、私はゼダックヘインとソムラルディに相談していた。


「オーガーが五十匹か……、

 どうする?」


「どうする、こうする、無い。

 殲滅する。」


「それを【如何どう】するやと言えるなり。

 少しは考えば如何いかがなり。」


「ぬぬぬ」


「真剣な話し合いだ、

 二人ともそこまでにしてくれ。」


「む」

「すまん」


腕組みして考える私に二人を気遣う余裕は無い。


「ゼダックヘイン、

 【オーガー】と渡り合える騎士は何人ぐらいいる?」


「む……、四十……いや三十、ぐらいだ。

 しかし・・・」


「そうか、

 ソムラルディ、自治区の方はどうだ?

 ハッゲルたちルイガーワルド兵士団はいけると思うんだが?」


「練度にばらつき有る。

 彼らに二十。

 ツェルゼン率いし者が十。

 セッパら三人、他アグトら。

 待つべくば森の民増ゆ。」


「エルフの派遣は少なくともあと十日以上掛かるだろう?

 それから連携の訓練などしている時間は無い。

 いま挙げた七十名をすぐに呼び寄せて訓練し、

 討伐に向かうのはどうだ?」


「急ぎ過ぎ、良くない。

 武器防具、揃ってるか?

 弱き者、すぐ死ぬぞ?」


「我は森の民至りを待つべき、

 と思へど?」


二人は慎重論を唱えるが、私の方にも看過出来ぬ理由がある。


「二人とも、【オーガー】がそれだけの数がいる意味を分かっているのか?

 それだけ【悪しき神】に魅入られた魂が増えているということだ。

 僅かの時間遅れたことで【凶王】が誕生するかもしれないんだぞ?」


「それは、そうだが……、」


「即死さえしなければ私が全力で治癒する!

 皆で悪鬼らを抑え込む間に私たちがさっきの様に斃していけばいい!

 我が【戦士】たちを私は信じている!

 少しでも早く、【闇の力】を消し去るんだ!

 それが犠牲者を減らすことに繋がる!」


「【闇の力】の循環を止むる、か。

 確かに急ぐべきやもな知れそ。」


「長耳!?

 犠牲、出るぞ?」


トルックゲイルのことがゼダックヘインを慎重にさせているのだろう。


己のことより民を想う彼らしさを感じた。


「犠牲は出ださぬとジッガ言いたり。

 【友】の言の葉を信じよ。

 ジッガ、

 君もさ言うては死なばならぬぞ?

 遠間より鞭を振るうのみなり。」


「む、わかった」


「……ジッガ、俺も、心決めた。

 今躊躇して、民襲われたら、ずっと後悔する。

 お前たちの力、貸してくれ。」


ゼダックヘインが頭を下げる。


私はその右肩をぐっと押し上げた。


「ゼダックヘイン、

 キミの国と私の国は【永遠の友】だろう?

 そして友の間に貸し借りは無い。

 力を合わせて【悪鬼】を殲滅しよう!」


「……ふっふ、あっはは!

 そうだな! ジッガ!

 我らの【仲間】、死なせない!

 まずは【使い】、出せ。

 俺も、キシンティルク、呼ぶ。」


「いや、私が走る。

 それが一番早い。」


「おお、任せた」



 ソムラルディに後を託したのち、【王の館】を飛び出し、まずは馬に【魔力循環】を行う。


ヴァーブルドムバを出立し、マグシュらがおこなったように途中途中で馬に【魔力循環】をすると、確かに格段に早く自治区へと辿り着けた。


到着してすぐ緊急の鐘を鳴らさせ、【幹部】格の者らを【区役所】に呼び集める。



「【悪鬼の巣】を見付けた、五十匹ぐらいの溜まり場だ。」


私の報告第一声で、皆が緊張に身を固くした。


即座に殲滅隊を結成するべく人員の相談が始まる。


ソムラルディの予測を少し超え、ハッゲル率いるルイガーワルド兵士団が二十二名、ツェルゼンとモンゴ率いる警備団から十七名、セッパら三名、ジッガ団からエンリケとカンディ以外の五名が選出された。


人員を広場に集めると同時に、エンリケらが武器防具を揃え、牧場からは馬が到着した。


視界の端では戦場へ赴くルイガーワルド兵士を新婚の妻が見送る様が見える。


他にもそこかしこで、命を賭けた戦いに出立する者らを見送る者が涙を流していた。


私の傍にもカンディとニーナがいて代わる代わる私を抱き締めてくる。


なんとか彼女らを宥めたのち、殲滅隊の四十七名を集め出立の檄を飛ばす。


「諸君!

 私とゼダックヘイン王は南西の森に【悪鬼の巣】を発見した!

 これから【リベーレン自治区】の四十七名の勇士によって退治しに行く!

 我が【ジッガ・リベーレン】の名において宣言する!

 誰も死なせない! 私を信じ! 【悪しき神】に挑め!

 行くぞ!!」


おおおぉぉぉぉ!!!


降り注いだのは【祝福の光】か【誓いの光】か、はたまたその両方か。


煌めく残滓を残したまま、私たちは獣人の国首都へと旅立っていった。



 かなりの強行軍により、夕方には首都へと到着した。


その入口近くではゼダックヘインが仁王立ちで待ち構えていた。


「おお、ジッガ、待ってたぞ。

 お、そいつらが、ドワーフ。

 うん、何回か、見た事あるな。」


「ほぉ、獣人の神祖返りか。

 ワシは初めて見るのう。」


「セッパ、

 この神祖返りがゼダックヘイン、獣人の王だ。」


「ほほぉ、王が自ら出迎えか。

 ジッガは期待されとるんじゃな。」


「期待、違う。

 我が友、それが理由。」


「がっはは! いいのう! 真っ直ぐな奴じゃ!

 共に【悪しき神】を打ち倒そうぞ!」


「うむ! ドワーフ! いい奴だ!」


良く分からないが友情が芽生え始めたらしい。


バンバンと背中を叩き合い中央部へと歩いていってしまった。


私たちもその後を追い、馬を進めた。


着いた先は訓練場だった。


セッパと離れたゼダックヘインが尋ねてくる。


「ジッガ、

 戦士たち、戦う準備、出来てるか?」


「ん……、セッパたちは全身鎧が重いのでまだだが、

 もう始めるのか?」


「『もう』、ではない。

 すぐに始める、明日の朝、出発出来る。

 今日中に、戦術、まとめるべき。」


「そうだな、済まない。

 ん? ソムラルディは?」


「武器庫だ。

 【魔法の弓】、造るらしい。」


「ほぉ」


「ジッガ! 準備出来たぞ!」


「あぁ!」


アグトの声が聴こえてきた、全員の武器防具の装備が完了したらしい。



 訓練場では剛毛の騎士が三十名程、整列して待っていた。


率いるは勿論キシンティルクだ。


南方の守備から再びとんぼ返りして来たらしい、昨日今日での移動距離は彼が一番長いかも知れない。


「訓練! 始めるぞ!」


ゼダックヘインが大声で皆に緊張を強いる。


もしかしたら威嚇効果のある雄叫びに近いのかも知れない。



 訓練は主にゼダックヘインや剛毛の騎士を【オーガー】に見立てたものだった。


【オーガー】同士は連携をすることが無い。


そこに勝機を見い出し、防ぐ者、妨害する者、誘導する者など、役割を決めていき、一撃の威力が高い者を殲滅役に選抜し戦術が組み立てられていった。


アグトやドゥタンらが殲滅役でツェルゼンやキャンゾがその補助に当たる。


「なんだい、アタシも殲滅役が良かったねぇ。」


「ハテンサ、キミの強みはその機敏さと【勘】だ。

 セッパたちが良い武器を造るまで、

 力仕事はドゥタンたちに任せればいい。」


「あっは、ジッガもなかなか【区長】ぶりが板に付いてきたね。

 いつ【王様】になってもいいと思うよ。」


「からかうなハテンサ。

 しかし……、

 まずは【悪鬼の群れ】を殲滅してからの話だな。」


「違いない。

 さ、もうひと訓練行こうか。

 生きて帰ってベルゥラの婿を見付けなきゃね。」


「ん? お、おぉ、

 その意気だ、やろう!」


実は良く理解出来ないが、やる気なのは間違いないだろう。


そして、『生きて帰らなきゃ』というのも間違いない。


さらに、【闇の力】は全て地下深くへと送り還し、【凶王】誕生を少しでも遅らせなければならない。


私一人では為し得ない。


ゼダックヘインと二人でも、無謀だろう。


【異能】が有れども、【数】には【数】で対抗しなければ無駄死にとなる。


これまでに心血注いで築き上げてきた絆を持つ【仲間】たちを信じよう。


誰一人死なせない為に、私自身の力も信じよう。


明日、私たちは、【悪しき神】へ挑む。




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