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滂沱の日々  作者: 水下直英
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危険なことと分かっていてもやらねばならぬ


 獣人の国の首都であるヴァーブルドムバへ到着した。


ゼダックヘインと南方を【探索】するためだ。


危険が見込まれるためカンディには留守番を申し付けてある。


【オーガー】に対抗する準備が出来ていないため、今回の探索は私とゼダックヘイン、そしてキシンティルクとソムラルディの四人だけだ。


セッパも同行を希望していたが、足が遅過ぎるため却下となった。


ソムラルディは戦闘能力では劣るのだが、索敵魔法や氷結魔法が使えるし木々の中での動きは素早い。


何より【精霊の力】の実験なのだからと強硬に参加を申し出てきて、断れる空気では無かった。


キシンティルクはこの【ご年配】エルフに慣れてきており、衝突することは少なくなっている。


問題は【王様】の方だ。



「ふん、長耳が一緒か。

 足手まとい、死ぬなよ?」


「案足らずの言いおる。

 不様を晒ししほどの言い訳にも考えおくよし。」


「ぬぬ!

 また、馬鹿にしたか?」


「まぁまぁまぁまぁ」


詰め寄ろうとするゼダックヘインをキシンティルクと二人掛かりで何とか押し止め、返す刀でソムラルディの嫌味癖を注意する。


「これから【悪鬼】の潜む場所を探索するんだぞ?

 連携を壊す言動は慎んでくれ。

 ゼダックヘイン、キミもだぞ?」


「うぬ、ぬ、わかった」


私よりも断然付き合いの長いであろうこの二人だが、一向に仲良くならない。


危険が伴うこの【南方探索】だが、何とか乗り越えて二人には【友情】を育んで欲しい。



 獣人の国最南端の村までは馬に乗って移動した。


馬上でゼダックヘインと語り合い、精霊国訪問やドワーフのことなどを話していく。


ゼダックヘインの方も今までだいぶ忙しかったらしく、正月の催しや雨季に向けた国内の準備などについて話してくれた。


「ジッガ、

 【悪しき神】、情報集めてるな?

 トルックゲイルから、聞いた。」


「あぁそうだ。

 ん? 何か知ってるのか?」


「ああ、【凶王】の昔話、

 どうする? 聞くか?」


「聞かない理由が無いだろう。

 それとも話したくないことか?」


「ぬ」


既にトルックゲイル経由でハザラも知っているという話だったが、その内容は凄惨なものが含まれていた。


ゼダックヘインが年若い私に気遣って言い淀んだのも理解出来る。



 【凶王】の名付けの由来は戦争の首謀者というだけに留まらなかったらしい。


近隣の国々を滅ぼした理由は【悪しき神】への【生贄】を得る目的だったとか。


人々の苦悶と怨嗟の声を聞くために眼前での処刑を大量におこなったと云う。


一説にはそれが【凶王】の【力のみなもと】ではないか、と伝えられている。


つまり、犠牲者を出さないことが【悪しき神】の力を抑え込む要因となるのではないか、という話だった。



 処刑の様子などは婉曲えんきょくな表現をするところに、ゼダックヘインの気遣いを感じた。


実際にはもっと残酷な処刑方法が伝えられているのだろうと推測出来る。


この話を聞き、私の脳裏にはやはりアヴェーリシャの【愚王】の存在が浮かんでくる。


ハザラから伝え聞いた反乱軍の最期、ファスデショナ公爵は一族郎党が残酷な方法で処刑されている。


嫌な共通点を見い出してしまい不安が湧き出る。


アヴェーリシャは現在東の合衆国に戦争を仕掛けているそうだが、続報は届いていない。


【草原】に私たちが国を興すとすれば、【連なる山々】に挟まれているとはいえ合衆国はすぐ南に存在する。


今回の探索では獣人の国南方の【連なる山々】付近を東から順々に回り、【草原】まで巡る予定だ。


我が自治区にはまだまだ【国】と戦えるだけの戦力は整っていない。


今はまだ【愚王】が【凶王】となる片鱗は現れて欲しくないと思う。


単純な憎しみに囚われていた私はもう存在しない。


ただ、私について来てくれた【仲間】を守る為に、【悪しき神】に抗いたいのだ。



 南端の村に到着し、村長宅で一夜の宿を借りる。


翌朝にゼダックヘインらと模擬戦をしてみるが、やはり強い。


神祖返りの【自己修復能力】が有る為、私は全力で、彼の方は手加減しながらの手合せだったのだが、ほとんどダメージを与えられない。


今回私は武器として【魔物素材のむち】を持ってきているが、素手だとゼダックヘインに敵わないことが分かった。


参考までに彼の前で魔力を込めた【鞭】の威力を披露してみる。


大きな岩を派手に砕いたところ、『それは【反則】だろ』というお褒めの言葉を頂いた。



 【悪しき神】の痕跡を見つけるため、四人での探索が開始された。


まずは南東の【ナステディオソ連合王国】に面した国境沿いに向かう。


山裾やますそからソムラルディと二人で手分けして索敵魔法を放つ。


以前からゼダックヘインが近隣の魔物討伐を済ませてある為、野生動物以外の反応は見当たらない。


山林深く入ると遭難の危険があるのでは、と躊躇ちゅうちょしたのだが、ゼダックヘインの帰巣本能と嗅覚によって方角を見失うことは無いとのことだった。


【我が友】にはまだまだ知らぬ能力があるのだな、と頼もしく感じその背中をポンポンと軽く叩いた。


「なんだ?」と問われたので思ったまま答えたところ、何故かキシンティルクやソムラルディにまで微笑まれてしまった。


何か可笑おかしなことをしてしまったのだろうか?



 南東近辺では異常が認められず、広範囲に【祝福の光】を降り注がせて【探索】は終了した。


ここから山裾やますそに沿うようにして西へと向かう。


途中途中で祈りを捧げ、【祝福の光】を降り注いでゆく。


魔物に一切出遭わぬまま、獣人の国の南東と南の探索は終わり、再び南端の村へと戻ってもう一泊した。



「さて、今日が【本命】だな。」


「うむ、油断するな。

 お前怪我する、誰も治せない。」


「分かってる。

 先陣は任せたぞ?」


「おお、任された」


ゼダックヘインは相変わらず腰布のみの装備だ。


自身の爪が最も信頼出来る【武器】なため、身軽さ重視で何も持っていない。


食糧等もキシンティルクに背負わせているので、【魔物】出現時は彼に一番槍が任されることとなる。


戦術的にそれが一番効率が良い、と皆の意見が一致した結果だ。



 昨日とは違い、南西の【探索】は慎重に進められた。


トルックゲイルが瀕死の重傷を負った現場に【祝福の光】を注ぎ、その反応を確かめる。


私は感知出来なかったが、ソムラルディは【闇の力】の残滓を感じられたという。


それは光を浴びたことで消失したようだが、エルフが【闇の力】を感じ取れる、というのは大きな発見のように思えた。


『【精霊の力】と逆の力の様に思えた、おそらく【闇の力】なり』と言っている。


これからの進み方はそれを利用することにした。


ある程度進んでは【祝福の光】を注ぎ、ソムラルディに反応が無いか調べてもらう。


これで【奇襲】を受ける可能性は大きく減らすことが出来るだろう。



 陽が高くなり始め、そろそろ帰還しようかという頃、ソムラルディが鋭く声を発した。


「居るぞ!

 一匹こなたへ向かい来!」


「来たか!」


生体看破の魔力を放つと範囲ギリギリから接近してくる存在を感知した。


この感覚には覚えが有る、【オーガー】だ。


ゼダックヘインに方向を指し示すと、彼もまた【嗅覚】によってそれを感じ取っていた。


キシンティルクも荷物を投げ捨てて臨戦態勢を取る。


私たち三人が迎撃の構えをしているところへ【オーガー】が姿を見せた。


この【闇の力】より生まれし【魔物】が【精霊の力】に反応しているか確認するため、私のみが右方向へと移動する。


すると【オーガー】は方向を変え、私目掛けて速度を上げ突進してきた。


その瞬間、



ゴァァッ!



ゼダックヘインの奇襲が成功した。


木々の陰からオーガーの横腹目掛けて突進し、左フックが炸裂したのだ。


すっ飛ぶ【悪鬼】に追い縋り、更なる打撃が叩き込まれてゆく。


その間に接近を果たした私とキシンティルクがそれぞれの武器での痛撃を打ち込む。


剛毛の騎士の槍は首元を貫き、私の鞭先は右肩を一瞬で破壊して腕を千切った。


身体のバランスが崩れ満足に動けないオーガーなど物の数では無い。


ゼダックヘインの爪に引き裂かれて【自己修復能力】を発揮することなくしかばねとなった。



 一匹斃したと安心したのも束の間、ソムラルディが真剣な表情で私たちを手招きしてきた。


「静かに聞け。

 この先の森の中、

 【悪鬼】が【五十】ぞ居る。」


「っ!」


声が漏れそうになる口を慌てて右手で塞ぐ。


「ジッガ、精霊の力、出すな。

 今は、退こう。」


「それよし。

 この人数には無謀なり。」


「わかった」


私たちは細心の注意を払いながら、その場を離れていく。


場所は【草原】南東の森。


私たちは【悪しき神】による【闇の力】の溜まり場を見つけ出したのだ。




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