異文化を取り込むには取捨選択が必要だ
エルフの里で一泊し、ウルヘアらの帰国を見送ったあと、我々も帰還することとなった。
ソムラルディが言った通り精霊国との『共同事業』を仲介する件は長老たちにあっさり受諾され、彼に一任されてしまった。
エルフらの中でソムラルディはどんな立場なのだと問うてみた所、なんと現役の中では【最長老】なのだそうだ。
そんな【ご年配】の老人をこき使っていることを謝罪してみると、『慇懃無礼とはこのことかな』と睨まれた。
元気なようで結構なことだ。
一緒に短い旅をすることとなったドワーフ三人組だが、上下関係がしっかりしている。
セッパは四十六歳で親方、アウタがその一番弟子で三十二歳、オペチュがその弟弟子で二十八歳なんだとか。
正直見分けがつかない。
セッパの髭にやや白いものが混じってるかな、という程度だ。
ドワーフ謹製の武具で全身装備をしていると最早判別不能となる。
ガッチャガッチャと金属音を響かせ私の周囲を守ってくれるのだが、どれが誰だかすぐに分からなくなる。
金属音がうるさいので最早話しかけることを止め、無言の時間が続いてゆく。
セッパらの移動速度に合わせたのでディプボスを抜け切れず、森の中で野営することとなった。
するとやはり深夜に【怪樹】の襲撃に遭ってしまう。
ここでドワーフの戦闘能力の高さを目の当たりにすることとなった。
【斧】や【鎚】での打撃によって、【怪樹】はメタメタに打ち壊されていった。
【怪樹】も枝でセッパらを打ち据えるのだが、全身鎧とドワーフの頑強さによってダメージを与えられない。
また、深夜の森の中であり、月明かりも通さぬ暗闇の中での戦闘だったが、ドワーフたちは木々をすり抜け躍動していた。
地下で暮らしている為に夜目が効くのだそうだ。
この状況で戦ったら私でも勝てる気がしない。
そう思わせられるぐらいドワーフたちは強かった。
明け方になり、怪樹は次々と砕かれ埋められていく。
木々に【闇の力】が宿ると怪樹になるらしい。
その【闇の力】がどこからやってくるのかが気になるが、ソムラルディもその辺りは研究中なのだそうだ。
念の為に怪樹を埋めた場所へ【祝福の光】を注いでから出発した。
ドワーフはエルフほどではないにしろ、【魔力循環】が良く通った。
その割に【魔法】を使えるものは殆ど居ないという。
以前ソムラルディが牧場を造る際に見せた【土壁】のようなものが精々なのだとか。
その分【身体強化】が為されているのかも知れない。
身長は高くないものの、筋骨隆々な彼らが【身体強化】されていたら私など問題にならない膂力を発揮するだろう。
そう思って力比べをしたところ、私があっさり勝った。
ソムラルディによると使用している【魔力】の大きさが圧倒的に違う、とのことだった。
負けたオペチュが涙目になっていたように見えたが、気のせいであって欲しい。
力比べ前は荒々しい態度だったアウタも、すごく大人しくなった。
孤児院に居た頃のドゥタンを思い出して微笑ましくなる。
セッパが二人の弟子に『相手の強さもわからんのか』と説教していた。
正直に言うと私も人間相手だと強さがわからない。
【魔物】であればその存在感から強さが計れるが、亜人含め人間は【戦闘技術】や【武具】、そして【魔法】によって強さが違ってくる。
セッパに強さの計り方を訊いてみたが、『勘だ』という職人らしい答えをもらった。
ツェルゼンあたりと話が合いそうだな、と思いながら旅路を再開した。
森を抜けてからもう一泊し、マシラの襲撃を撃退したのち、漸く【橋】まで辿り着く。
糧食が心許なかったので川で魚獲りをしたのだが、ドワーフたちの顔色が悪い。
聞いてみるとドワーフは水が苦手なようだった。
地下で暮らす彼らは【川】というものに触れてこない生活をしていた。
【泳ぐ】という概念を知らないためか大量の水を目の当たりにして怯えている。
「深いところへ落ちなければ大丈夫だぞ?
まずは浅い場所で水に慣れてみればどうだ?」
「む、人間の甘言には乗らん」
弟子二人は私の言葉に耳を塞ぎ、川べりに近寄ろうともしない。
セッパが『鍛冶に必要だ』と水質を調べているのと対照的だ。
【好奇心】と【探究心】が物造りをする上で大事なのだな、と内心納得する。
初めて【魚】を食した彼らだが、『食えないことはない』という微妙な反応を示した。
これから【剣閣】での生活がどのようなものだったか聞き取りし、【狭い世界】での常識を早く塗り替えていき、慣れていってもらいたいと思う。
「そういえば北に在るという【アーマルイト王国】、
その北側には【海】があるんだったな。
ソムラルディは行ったことがあるのか?」
「あり。
見渡す限り水在り、
その水は塩辛く飲み水とは得ず。
魔物溢れ沖には出でられぬ畏きかたなり。」
「なるほど」
現世では造船技術は発達していないらしい。
それに【海の魔物】というのも巨大な怪物のようだ。
【前世の記憶】を覗き見ると【海】で獲れる海産物は美味しいものが多い筈なのだが、現世では気軽に漁を出来る環境ではないと分かった。
「うぅむ、
【悪しき神】を打ち倒す前に、
この数百年で失われた【知識】を得る必要がありそうじゃな。」
セッパが難しい顔をして【川】を眺め、苦々しく呟いている。
それは私たちにも同じことが言えるだろう。
まずは【知ること】から始めないと誤った【判断】を下すこととなる。
カカンドやハザラからも同じようなことを繰り返し注意されている。
『一つの事柄でも様々な角度から見る必要がある、
そうで無ければ【理解】は深まらない』
焼き魚を齧りながら、ドワーフやエルフの様々な考え方を学んでいった。
翌朝【草原】を出立し、整備された道を通って自治区へと帰り着く。
出迎えたカンディに抱き着かれ撫で回された。
広場で遊んでいた子供たちが、初めて見るセッパらドワーフに大騒ぎしている。
まずは区役所へ行き、会議室で諸々の報告を行う。
「そうか、その結果なら上々の出来だ。
セッパ殿、これからよろしく頼む。」
「【殿】など要らぬ。
で、ワシらはまず何をすれば良いのだ?
【悪しき神】と戦う準備は出来ておるのか?」
セッパが早速ドワーフならではの性急さを垣間見せ、私が宥めることとなる。
ひとまずは集落の端に【鍛冶小屋】を建築し、元鍛冶師のラポンソらと交流しながら生活に慣れてもらうこととした。
キシンティルクに使いを出し、獣人の国で保管している【鉱石】を物々交換で得られるよう申し出ることも決定される。
エルフの一団が派遣される件に関しては皆が思案顔となった。
「ソムラルディ、
エルフは自治区で【何をすればいい】と思う?」
「魔法が使うべきなり。
如何様にも使うべからずや。」
「いや、その魔法で何が出来んのかって話なんだが・・・」
ソムラルディと仲の良いカカンドだが、エルフの活用法はまだ把握していないらしい。
その様子にセッパが呵呵と笑う。
「何じゃ、
エルフは人間の役に立つことが出来ないでおるのか。
いつも偉そうにしとるのにな。」
「うぬ、
聞き捨てならぬ。
ジッガ、ともかくも言え。
森の民は徒には無き足らむ?」
「まぁまぁまぁまぁ、
ソムラルディは今まで自治区に凄く貢献してくれている。
区民の中で一番役に立つ存在と言っていいくらいだ。
外交面では彼無しにはこれまでの成功は有り得ない。
きっとこれからやって来るエルフたちも役立ってくれるだろう。」
「ふん、
お手並み拝見、じゃな。」
セッパとソムラルディが剣呑な空気を醸し出す中、会議は進行していく。
「おぉ、じゃあ精霊国との【共同事業】は進めていいんだな?」
「うむ、
森の民代表し請け負う。
公平に明快なる仲介しせむ。」
先程セッパと鍔迫り合いをしてから、ソムラルディは積極的に会議に参加している。
プライドを刺激されているのだろうと思われ、その分かり易さに口許が綻ぶのを止められない。
終いには『何を笑っているのか』とご年配エルフに睨まれてしまった。
会議はさらに進み、もうすぐ訪れる【雨季】についての話となる。
「キシンティルクからの情報だとかなり降るらしいな。
【堤防】は大丈夫なのか?」
「扇頂から溢れだす分は扇状地西側に誘導できる筈だ。
あと牧場の方にも簡単な堤防を建設中だ。
しかし単純に雨が多過ぎると畑の方が心配だな。」
「ジッガが言う【土砂崩れ】って方はどうだ?
果樹園や北の観測施設が崩壊する危険性は無いか?」
「正直なところ分からんな。
危険そうなところは立入禁止にすべきだと思う。」
様々な意見が交わされる中、長い話に我慢の限界が訪れた者らが居た。
「なんじゃなんじゃ!
大地が崩れるのを心配しとるのか!?
それならワシらに見せろ!
地盤がしっかりしとるか見てやるわい!」
「ほぉ?
セッパ、そんなことが分かるのか?」
「おぉとも!
ノームの名に懸けて断言してやるわい!
大地の状態を把握することも出来んとはな!
ワシらに任せておけ!
どれ! 案内せい!」
会議の途中なのだが、これ以上引き留められない雰囲気となった。
これから付き合わせることとなるラポンソに案内役を頼み、ドワーフらを連れ出してもらう。
どやどやとした喧噪が遠ざかると、ソムラルディがポツリと漏らした。
「白痴に付くる薬は無し。
この先ぞ思いやらるる。」




