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滂沱の日々  作者: 水下直英
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無理難題には無念無想で挑む


「答える前に訊きたい。

 それを聞いてどうするつもりなのか?」


私の返答にウルヘアとセッパは驚いたように眼を剥く。


ここで初めて私という存在がただの【目撃者】ではなく、【人間の代表】という立場なのだと気付いたようだ。


「ほぉ!

 人間の代表は他におらず、

 この小童こわっぱが代表ということか!

 おい! エルフの賢者! そういうことか!?」


「さ言うことなり。

 侮るなかれ、この幼娘おさなごは君よりこわし。

 【魔法】と【精霊の力】兼ね具したり。」


「なんだと?」


ソムラルディの言葉を聞き、ウルヘアは急に声色を低くして、私をじっと睨みつけてきた。


「何の精霊じゃ?」


「光の精霊なり」


「ぬぅ」


またもやウルヘアとソムラルディとの間で、短く言葉がやり取りされる。


低く唸っていたかと思えば、またもや吠えだした。


「しかし人間は変わる!

 堕落し我らから全てを奪わんとす!

 ドワーフの誇りに懸けて!

 我らは我らの力のみで【悪しき神】に対抗す!」


鼻息荒く宣言するウルヘアを横目に、ソムラルディが私にささやいてくる。


如何いかがなりジッガ?

 回毎かいごとくなるぞ。

 何か策や有る?」


「そう言われてもなぁ。

 まるで話にならないじゃないか。」


「来る前にさ言いけめど。

 案の浅きは中々直らぬものかな。」


「うるさい、

 嫌味はもう言わないんじゃなかったか?」


「嫌味にはあらぬ、事実なり。」


小憎たらしい爺ぃの戯言たわごとはさて置き、意固地なドワーフの方を何とかせねばならない。



「ウルヘア殿、

 『ドワーフの誇りに懸けて』と言っていたが、

 それはどのようなものか?」


「ぬ?」


私の問い掛けにウルヘアは片眉をピンと上げる。


意図を計りかねている様子だったが、こちらは意図など持っていない。


まずは相手のことを知ろうと雑談を振った程度の気持ちだった。


「我らの誇り、

 それは大地を裏切らぬこと、

 それは恩をあだで返さぬこと、

 それは我が一族を力の限り守り抜くこと、

 人間に裏切られて以降、

 それがドワーフの誇りとなった。」


「ん、なるほど、

 人間が原因となっていたか」


「そうだ!

 我らが祖先は地上で暮らすことを諦め、

 地下での暮らしを選んだ!

 人間の欲望に二度と巻き込まれないようにだ!

 そのあだを恩で返すことは無い!」


「『その仇』と言うがキミ自身が何かされたわけではあるまい?

 外に出たければ出ればいいじゃないか、

 人間がそれを押しとどめることなど無いんだから。」


「やかましい!

 人間の【甘言】には乗らんっ!」


別に甘言をろうしたつもりは無かったが、凝り固まったドワーフの観念は私の言葉を受け付けない。


まずは話を聞いてもらう為の言葉を投げかける必要がありそうだ。



「ウルヘア殿、セッパ殿、

 私は魔法によりその人の【悪意】や【怒り】を読み取れる。

 キミたちから【怒り】は感じるが【悪意】は無い。

 何に対して【怒り】を覚えているのか教えて欲しい。」


「む?」

「ほぉ」


ウルヘアはまた片眉を上げたのみだが、セッパなるドワーフは応答してくれそうな気配を醸し出した。


「セッパ殿はその【怒り】に心当たりがあるのか?」


「そうじゃな、

 五百年前まで我らが祖先は人間を信じていた。

 共に暮らし、共に楽しみ、共に酒を交わしていた、と聞く。

 それが人間側から一方的に破られた。

 幼き頃からそんな話を聞いて育った故の【怒り】じゃな。

 しかし、

 今のお主らに抱くべき【怒り】では無いかも知れんな。」


「セッパ! 何を言うか!

 血迷うたか!」


セッパの方は少しだけ歩み寄る雰囲気を見せてくれたが、ウルヘアは頑ななままだ。


私たちをほったらかしてドワーフ二人が口論している。


同席しているエルフの長老たちは先程から一言も口を挟まない。


らちが明かないので私が割って入るしかない。



「四、五百年前の【凶王】の行いにより人間不信となったのは分かった。

 だがその昔の話の中でも【凶王】に従わなかった人間も居ただろう?

 皇国などはその愚かな凶行に抗ったと聞いている。

 それに、未だに人間と和解出来ないという現状は、

 ドワーフが【凶王】に踊らされ続けている、ということにならないか?」


「何じゃと!

 ワシらが昔のことばかり言う間抜けだと抜かすか!」


「ウルヘアよ、小童こわっぱは【間抜け】など言うとらん。

 間抜けじゃと思うとるは【お主自身】ではないのか?」


「う、ぬ」


ウルヘアが自身の言葉をかえりみて片手を頭に当てている。


しかし、これ以上言葉での説得は出来そうもないと感じられた。


部隊長らしきウルヘアは話を理解する許容量が限界な気がする。



「ウルヘア殿、

 私の【精霊の力】は戦死者の魂を慰める力を持っている。

 そうだな、ソムラルディ?」


まことなり」


「なんじゃ小童こわっぱ

 それがどうかしたのか?」


「あぁ、キミたちの部隊全員の前で、

 【古の骨肉戦争】で亡くなった人々の魂をとむらおう。

 過去に縛られないようにする第一歩としたい。」


「なんじゃと?」

「ほぉ」


またもセッパの方に好感触を得られた気がする。


ゲーナやハザラならもっと気持ちの機微を捉え、上手く立ち回ることが出来るのだろうか?


しかし私は相手の気持ちをなかなかおもんばかることが出来ない。


ゲーナらに教わった通り、ただひたすらに相手を自分と思って考え、最善と判断した行動を取るのみだ。


『出来るもんならやってみろ』というウルヘアの言葉に乗り、ドワーフの一団とエルフの長老たちを引き連れ広場へと向かった。



 エルフの里の広場は夕焼けに照らされ、木々が赤く染められていた。


私をソムラルディたちエルフの長老が取り囲み、その周囲をドワーフたちがひしめくように囲んでいく。


これでは外側のドワーフから私の姿など全く見えないだろう。


せめて声だけでもと思い、声に魔力を込め、皆に聴こえるように祈りを捧げ始めた。


いにしえに命(はかな)くした者たちよ。

 その魂は全て天に還っただろうか?

 大地に残りし我らが祖、

 その魂の欠片も正しく天に還り給え。」


ドワーフのことを想い、エルフのことを想い、私は一心に冥福を祈った。


いつもなら私自身から溢れ出る筈の魂の光、だが今回はそうならなかった。


「おぉぉ!」

「なんと!」

「なんじゃこれは!?」


エルフの長老やドワーフの一団からも光が飛び出したのだ。


今までの様に真っ白な光だけではない。


畑を耕した時の魔力に見られる『土色つちいろ』の光だったり、木々や風の色とおぼしき【薄緑】の光が数え切れないぐらい舞い上がり、夕焼けとの美しいコントラストを描きながら天に還っていった。


気付けばエルフの長老たちばかりでなく、ドワーフの中にも、天へ還る魂に武骨な祈りを捧げる者が多く見られた。



 しばらくは祈る者や茫然とする者がそれを終えるのを黙って見守った。


ウルヘアが最後まで茫然としたまま朱色の空を見上げていたので声を掛ける。


「ウルヘア殿、

 祈りは終わった。

 死後の行方にはドワーフも、エルフも、人間も関係ない。

 皆が天に還っていく。

 ただ闇の者のみが地下深くへ沈みゆくのみだ。」


ウルヘアは呆然とした表情のまま、私に向き直り、静かに首を縦に振った。


「なんだろうな、

 憑き物が落ちたような気分じゃ。

 ワシこそが【悪しき神】に魅入られていたのかも知れん。」


そばにいたセッパがウルヘアの肩を優しく叩いている。


それに頷き再びウルヘアが口を開いた。


「ジッガ、といったか。

 ワシらは一旦【剣閣】に戻る。

 年寄りはワシら以上に頑固じゃからな、

 説得せねばならん。」


「おぉ、それでは?」


「早まるな、ワシらが納得しても国の連中は簡単に頷かん。

 じゃがワシらだけとなってもお主の力になる。

 ドワーフの誇りに懸けて誓おう!」


「あぁ、嬉しく思う」


その言葉と共に光が降り注ぐ、誓いを受け入れた故の発現なのだろう。


ソムラルディがウルヘアに簡潔に説明している。



「ウルヘアらは一時いっとき帰国するが、

 ワシらがジッガ殿についていって良いだろうか?

 【悪しき神】の情報を得たいし、

 お主ら人間の現在の様子も知りたい。」


その間にセッパからそんな提案が為された。


私としては大歓迎だ。


ドワーフとの友好の懸け橋になるし、彼らの知識を得ることも出来るだろう。


技術は簡単に教えてくれるとは思えないし習得も難しいとは思うが、損になることは無いだろう。


話を聞いたソムラルディも鷹揚おうように頷いていた。


また、セッパらの同行を知った長老たちはエルフの一団を自治区へと派遣することを提案してきた。


さすがに【悪しき神】へ対抗する件はソムラルディ一人に任せられない、と判断したようだ。


数十人規模のエルフが準備を整え次第来訪することとなったので、自治区へ戻ったら受け入れ体制を整えねばならない。


人間を見下すへきのある彼らに注意を払う必要があるだろう。



 こうして私は『ドワーフの説得』という無理難題を少しだけ達成し、あとはウルヘアらが帰国してからの状況次第ということになった。


自治区へ一緒に行ってくれるという【セッパ】だが、聞いてみるとドワーフ国の中でも名うての【鍛冶師】なのだそうだ。


【アウタ】と【オペチュ】という弟子にあたる者が一緒についてくることとなったので、後で色々話してみて分かった情報である。


性急で頑固なドワーフとの会談はこうして終了した。


大成功とはいかなかったが、ソムラルディからは「上出来なり」と褒められた。




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