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滂沱の日々  作者: 水下直英
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【拙速】は本当に【巧遅】に勝るのか


 陽が高くなる頃、【ディプボス】の中心近くにある小高い丘の【エルフの里】へあと僅かのいう所まで来ることが出来た。


果樹園や畑が周囲に広がる道をゆったりと歩く。


安全圏まで辿り着いたので護衛の若者らは既に自分たちの集落へと帰ってしまっている。


たまにすれ違うエルフは人間の私に気が付くと、皆ギョッとした表情を浮かべる。


横を歩くソムラルディに遠慮して何も言わないが、悪意を感じないのが不思議なくらいにいぶかしげな表情で去っていく。


あれはどういう感情なのかと訊いてみると、『人間が何しに来たのか?』と思ってるに決まっているだろうと呆れられた。


私が他人の感情の機微きびうとくなったのは、この【悪意】を感じる生体看破魔法を覚えてから顕著になったように思える。


【悪意】を感じなければそれでいい、という判断基準が出来てしまったのはあまり良い事では無いだろう。


それだけでは上手くいかないことが現実には溢れているのだから。



 【エルフの里】に名前は無いそうだ。


名前を訊いても『【里】は【里】だ』としか返事をしない。


そもそも【ディプボス】という名すら【深き森】と同義の古語らしい。


各集落はどう呼んでいるのかと問うと、長の名で呼び分けているという。


長寿であり、平穏の中で暮らすエルフならではという気がした。


人間国では有り得ない呼び方だろう。



 里の様子を見物しながら歩き、やっと集会所らしき大きな家に到着した。


自然と暮らすエルフのことなので、ツリーハウスの様な家を想像していたが、割と普通の建物だった。


細身の丸太で出来た古い建物は【長老屋敷】と呼ばれているそうだ。


ソムラルディがエルフの中では変わっている方と聞いていたので今まで気にしていなかったが、エルフ自体が美醜に左程関心が無いのだと窺い知れた。


室内も飾り気が殆ど無い、快適性のみ追求した家屋だという印象を受ける。


一万人も人口が居たら一人ぐらい芸術家が誕生しても良さそうなものなのだが。


しかし芸術家が一人生まれても賛同者が居なければ埋もれてしまうのかも知れない。


民族性とはそういうものなのだろう、一人の力で劇的に変わることは無い。


何か大きな出来事が無ければ、【大多数】による【普通】の感覚で【基準】が出来上がり、その民族の【気風】が完成される。


我が自治区は問題を解決していけば、これから国へと成長していくだろう。


【気風】を創り上げるには最初が肝心だ。


これに関しても皆と話し合い、なるべく全員が納得出来る答えを見つけ出したいものだ。



 そんなことを考えていると、引き戸が開けられエルフが数人入室してきた。


今まで他国へ訪問する際は仲間たちが一緒だった。


だが今回見知った顔はソムラルディのみで、しかもその他国側の者だ。


ソムラルディに対して信頼は置いているが、この訪問に関しては完全に私の味方をし続けるわけにはいかないだろう。


分かっていたことではあるが、急に不安になってきてしまう。


エルフの長老たちと自己紹介を交わし合い、すぐに本題であるドワーフの件について話し合いが始まった。


「【悪しき神】につかば【賢者】より聞けり。

 戦いの本格化する前にドワーフとは連携を取らばや。

 されどドワーフはかたくななり。

 説得すべき目算や有る?」


どうやらエルフたちは既に【悪しき神】の影響を現実的な問題として捉えているようだ。


ソムラルディの発言力の高さが窺える。


「昨日の今日で連れてこられたんだ。

 目算など無い。

 ドワーフの【人間不信】を解かねばならないんだろう?

 まずはそれに関しての問題点を挙げてもらえないだろうか。」


「うむ」


そこから何点かドワーフの気質や過去の人間との関係性などが述べられていく。


大半はソムラルディから聞いていたものと同じだったが、いくつか新たに知れたこともあった。


ドワーフは思っていた以上に獣人と仲が良い事、近しい気質を持つらしい。


かといって力が全てと思っている訳では無い。


エルフ同様数百年【剣閣】に閉じこもっていたので独自の価値観を形成したのだと思われる。


武具の作製に並々ならぬ関心を持つに至ったらしい。


狭い世界で物造りに勤しみ続けていたのだから、そうなるかと納得出来る。


また、地下の暮らしが長いため、馬などの生物を扱えない。


作物まで地下で生育させているらしく、鉱石採取以外で地上に出ることはまれとのことだった。


そして、これが最難関と思われる事柄なのだが、ドワーフは長ったらしい話が大嫌いなのだそうだ。


即決即断を好み、理屈めいた話には眉をひそめる。


古臭く冗長な話し方のエルフとは反りが合わないのが頷ける特徴だな、と頷いてしまった。


気の長いエルフの時間を無駄に使う言動には、人間の私でさえ時々ウンザリすることがある。


せっかちで短気らしきドワーフでは耐えられないだろう。


かつて亜人三種族の内、ドワーフが最も多く人間と共存していたという。


人間はドワーフの【技術】に敬意を払い、逆にドワーフは人間の【知恵】を尊重して共に暮らしていたそうだ。


だが、その人間の【知恵】が【悪しき神】に魅入られる原因と知れてしまった。


【知恵】は生活を豊かなものにするが、より大きな【欲望】を生み出す。


【欲望】により【凶王】が出現し、ドワーフは【技術】を奪われ、人間と協同して作った住処を追われ、遂にはその生命まで次々と奪われていった。


ドワーフは人間に絶望し、熾烈しれつで過酷な【戦争】を経て、生誕の地【剣閣】へと戻っていくに至る。



如何いかがかな?

 ドワーフの不信のよしや心得るべかりし?

 彼らを説得するは並大方にはあながちぞ。」


「確かに難しそうだ。

 しかし【悪しき神】に対抗するならば、

 ドワーフの助力は是非にも得たい。

 まともな装備無くば【悪鬼】と戦えないからな。」


私やゼダックヘイン並の戦闘力があれば今の装備でも戦える。


しかし警備団の若者らでは話にならないだろう。


剛毛の騎士であるトルックゲイルでさえ瀕死の重傷を負ったのだ。


装備の品質向上と普及は【戦争】に関しての至急命題と言っていい。


戦闘員数が増えても装備の充実が無ければ【無駄死に】する兵が増えるだけなのだから。



 そうしてエルフの長老らとドワーフの説得方法を探っていると、廊下からどやどやと騒ぐ声が聴こえてきた。


その声はどんどんと近付いてきて、引き戸が開かれ、大きく響き渡った。


「おいエルフの長老殿!

 いつまで待たせるのだ!

 人間の代表は来ているのだろう!?

 何故会わせん!」


現れたのは案の定ドワーフたちだった。


身長は私と同じか少し高いぐらいだろうか、身体の厚みは倍以上有りそうだが。


ずんぐりむっくり、という表現がピッタリくる外見をしている。


だが何より目を引くのはひげと髪だ。


物凄く【もっさり】している。


獣人と違い顔一面に生えている訳では無いが、目の周辺以外は毛に覆われているような印象を受けた。


普段着であろう布を重ね合わせた上着からは、鍛え上げられた筋肉が透けて見える。


生体看破魔法で既に彼らの様子は捉えていたが、【悪意】が無いことよりも、その【存在感】の大きさに生命力の高さが窺えて驚いてしまう。


肉弾戦ならば無類の強さを発揮するに違いない。


【戦力】として獣人以上に期待出来る存在足り得る。


しかしそれも【説得】が成功し、【味方】となったならばの話だ。


【悪意】は無くとも【怒り】は感じ取れる。


ここから私の立ち居振る舞いによってドワーフと【共闘】するかどうかが決まる。


正念場だ。



「【ウルヘア】殿、

 今はこの【ジッガ】殿に現状ことわりせり。

 何の物語か分からで語らひすともいたづらならむ?

 いま少し待ちて頂けずや?」


「構わん!

 ワシらも参加する!

 居て困る話などしてないだろうな!?」


エルフの長老のひとりが【ウルヘア】なるドワーフを制しようとするが、荒々しく拒絶される。


二人のドワーフが空いていた椅子にドッカと腰掛けていった。



「ジッガ、と言うたか?

 ワシは剣閣から来た【ウルヘア】だ。

 こいつは【セッパ】という。

 で、【悪しき神】の影はどこで見た?」


話以上にドワーフとは性急な性格をしているらしい。


人間代表が私のような少女でもお構い無しだ。


いや、代表と思わずただの【目撃者】と思っているのかも知れない。


これは性根を据えて説得に挑む必要がある。


私は髭と髪に覆われた鋭い眼光へ視線を合わせ、ゆっくりと口を開いた。




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