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滂沱の日々  作者: 水下直英
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誇り高い者と高潔な者は同義ではない


 ドワーフはとにかく【性急】で、とにかく【頑固】らしい。


エルフの里から【亜人戦争】の兆候を伝え聞いたドワーフは、即座に行動を開始した。


長年の鍛冶で造られた内、会心の出来の戦闘用武具を身に纏い、数万いる中から選り抜きの強者を揃え、百名の部隊を形成してエルフの里へと訪れたのだ。


この性急な行動に対し、エルフの上層部は驚き呆れて、対応に困っているらしい。


まだ【悪しき神】の影響がチラリと視えているだけであり、戦うべき相手は定まっていない。


そう説明したのだが、ドワーフの部隊長は


『ならば我らで探す。

 人間の助力は不要。

 【悪しき神】に魅入られた【人間】は我らで斃す。』


と言って聞かないのだそうだ。


とりあえずそのまま行かす訳にもいかないので、足止めして私が呼ばれたという状況らしい。


如何いかがなり?

 かなりの白痴をこならん?」


ソムラルディが唇を片方吊り上げてそう馬鹿にするが、その問題を私に丸投げする自分のことはどう考えているのだろうか?


少しだけかんさわったので、ドワーフの味方をしてみる。


「やる気があって結構なことだ。

 【人間】に対する嫌悪感を何とかすれば、

 心強い味方となるだろう。」


如何いかなることやら。

 説得こそ簡単ならぬぞ?」


「他人事のように言うな。

 説得出来るような情報は何か無いのか?

 ドワーフが大切にしている【信条】や【教義】はどうだ?

 ご大層な知恵の中にドワーフは含まれてないのか?」


「むぅ」


私の挑発的な言葉によってじじぃエルフが眉根にしわを寄せる。


人を小馬鹿にするのは好きだが、その逆は嫌いらしい。



「さりな、

 確か【地の精霊】をまつれべき。

 【火の精霊】もあがめたりきや?

 いやされば彼ら自らが【ノーム】の子孫なりきや?」


ドワーフに関しての情報が、ぶつ切りのまま独り言形式でつむぎ出されていく。


ぶつぶつと呟く彼の言を要約してみると、ドワーフは【ノーム】と呼ばれる【地の精霊】を先祖に持つと噂される種族なのだとか。


現在地下に住む彼らは【地の精霊】を祀っていると聞いている、鍛冶をしているので【火の精霊】にも祈りを捧げている可能性も有る。


だが、総じて信仰心はあまり高くないのではないかと推測している。


数少ない使者の行き来の際に、【偉大なる魂】に祈りを捧げるエルフをドワーフの若者が珍しげに眺めて『何の為にそんなことをしているのか?』と聞いてきた、というのがその理由らしい。


【宗教】というものは己より上位の存在を認め、謙虚に生きるための方便という意味合いを持つ。


無宗教らしきドワーフが【俺様が一番】という気質でないことを祈りたい。


そういった【話の通じない】手合いと穏便に話が出来る自信が無い、きっとぶん殴ってしまう。


ドワーフの一団が傲岸不遜でなかったか訊いてみると、『馬鹿で我がままだが、迷惑になることはしてこなかった』という、何とも判断に困る答えが返ってきた。



 【草原】を精霊国と共同開発する件に関しては『問題無かろう』と太鼓判を押してくれた。


永世中立国の建国に比べれば些細な案件だ、と自信に満ちた表情だったが、ソムラルディがディプボスでどのような立場なのか未だにはっきりしないので逆に不安になる。


ゼダックヘインが【長老】と呼んでいるのは聞いたことがあるが、本人は何故かそれに関して口を開かない。


エルフの里に着いたらそれも判明するのだろうか?




 完全に日が暮れて、暗い森での移動が困難になった頃、近付いてくる者たちがいた。


「賢者様、呼びに負うや?」


それは以前森の入口で初めて出会った様な五人一組の一団だった。


先程の【狼煙のろし】に気付きやってきた、近隣の集落の若者なのだそうだ。


私の会ったことのある五人とは違う集団の者たちだったが、ソムラルディに対してとても従順な行動を取り始める。


ソムラルディは【賢者】などと呼ばれ【里】ではやはり高位の者らしい。


その命令により五人は私たちの護衛となり、野営の準備も手伝ってくれた上に、仮眠を取る間の見張りもしてくれた。


せめてもの礼にと【魔力循環】を行うと、みな最初は何故か戸惑ったまま何か口篭もってしまっている。


ソムラルディが『疲れがとれる【精霊の力】だ』と説明しても、微妙な表情のままで短い感謝の言葉をくれるのみだった。


ソムラルディと二人になった時に小声でそのことを尋ねると、『愚かな存在である人間ヒトが【精霊の力】を使えることをいぶかしんでいるのだ』と返答された。


その際に『嘆かわしい』という言葉も添えられたのが意外だった。


同じエルフなのにかばわないのか、と更に尋ねてみると『ヒトをさげすむ行いは【凶王】の亜人蔑視と変わらぬものだ』という【賢者】らしい返答をしてきた。


倫理をわきまえているのならば、と私は少しだけ反撃をする。


「そう思うならキミ自身の普段の嫌味な行動を控えた方がいい。

 キミがどう考えているかは分からないが、

 されているこちら側は『馬鹿にされている』と感じているぞ?」


「ぬ、了解せり。

 【凶王】のごとき振る舞いは二度とせず。」


「うん、良かった。

 私も今後キミのことを『嫌味なじじぃ』だ、

 とは考えないように努力する。」


「な! ジッガ!

 君は我をしか考えたりきや?

 あさまし!」


プリプリした表情となった【ご年配】のエルフをまぁまぁと宥め、護衛の若者らに感謝の挨拶を送ってから、心地良く眠りについた。



 翌日薄暗い中、肩を揺すられ目を覚ます。


ソムラルディが緊張感伴う真顔だったので、危機感からすぐに意識を覚醒させる。


生体看破の索敵を放つと、周囲は違和感有る【魔物】の群れに囲まれていた。


「おおかた君の【精霊の力】に引き寄せられきな。

 常ならばさまを見せぬ【怪樹】なり。

 移動速度は遅けれど枝の攻めは疾し。

 弓矢がさほど効かぬわずらわしき相手なり。」


「では私が一体倒すので一点突破しよう。

 荷物は整えてあるか?」


「万端なり」


それに頷き、私も自分の荷物を背負いながら、五人のエルフに短く作戦を伝える。



「行くぞっ!」


私の号令で全員が一体の【怪樹】目掛けて駆け出す。


「てやっ!」


中型の【炸裂魔法】を進行方向へ全力で投げ入れる。


音も無く怪樹が一体爆散する。


背後で若いエルフたちが驚いた声が聴こえるが、構わず駆け抜けた。


索敵魔法で怪樹の群れを振り切ったことを知って尚、かなりの距離を駆けてからようやくひと息つく。



「ソムラルディ、

 【魔物】は【精霊の力】に寄ってくる習性があるのか?

 初耳なんだが?」


「一部のモノにて全てならず。

 深き森に棲む中には怪樹ほどなり。

 木や土など自然に由来する魔物、引き寄せられ易し。」


「ほぉ」


今まで出会った魔物はほとんどが【動物型】だった。


先程の【怪樹】という魔物は、確かに初めてのタイプな気がする。


エルフも高位の者たちならば【精霊の力】を僅かながらその身に宿していると聞く。


色々な検証を重ねてその結論に辿り着いたのだろう。


エルフの方は私の【精霊の力】を感じ取れるが、私の方はそれが出来ないのが悔しいところだ。


それが出来れば索敵の精度を高められそうなのだが。



「ん?

 では【オーガー】はどうだ?」


【闇の力】により生み出されるという、今最も懸念されている【魔物】はどうなのか気になった。


「研究中なり」


周囲に若い同族が居る前で『分からない』とは言いたくなかったらしい。


不機嫌そうに短く答えを返してきた。


「そうか、

 出現した例の少ない魔物だからな。

 済まなかった。」


私が謝ると、ソムラルディはあまり見た事の無い穏やかな微笑みを見せた。


「ヒトは不可解なる存在なり。

 小憎たらしき振る舞いせるやと思わば

 何とも心憎き行いもす。

 かつて君のごときヒト居き。

 いま寿命に隠るれどな。」


「……ん、

 友達だったのか?」


「言の葉にすと安く聴こゆ。

 ただ、

 あれは【善き人物】なりき。」


その言葉を聞き、周囲のエルフたちが驚きを露わにした。


私としても普段人間のことを【ヒト】と呼び、一段下に見ている節があったソムラルディにしては珍しいと思えた。


それだけその亡くなった『友人』を敬愛しているのだろう。


いま、私の姿にその『友人』を重ね合わせて見てくれたのだとしたら、光栄なことだと思えた。




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