表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滂沱の日々  作者: 水下直英
91/123

抱えきれぬ想いが零れた先にあるものは


 自治区へと帰還する前に、再び精霊国の議員らと話し合いが設けられた。


【有事の際】となった場合の連携などについて打ち合わせが為されていく。


いつ、どの国が【亜人戦争再来】の引き金となるかわからない。


【アヴェーリシャ王国】か、【サラパレイメン聖公国】か、想定を幾重にも重ねて議論が続けられた。


ヘネローソ精霊国は半兵半農の制度を用いておらず、中央と各地方に【国軍】が分散配置されている。


精霊健在時は総人口四万を超えていたそうだが、現在は減少傾向にあり、国軍の規模も縮小されているという。


それでも総動員すれば八千人の純粋な兵力を保持しているのは大したものだと思う。


「でも正直なところ、

 今年の『不作』によって兵数を持て余し気味なんですよねぇ。」


「なら農作業をさせればいいだろう。

 半兵半農を取り入れてみたらどうか?」


「国内の労働力はもう足りています。

 連邦の脅威がこちらに向いていない現状、

 兵力が無駄になっていますね。」


以前ゲーナがウーグラたち移住者の目的に『口減らし』の可能性を唱えていたが、あながち外れてはいなかったのかも知れない。


と、ここでそのゲーナがリルリカに耳打ちされ、意見を述べ始めた。



「ではひとつご提案をしたいのですが宜しいでしょうか?」


ゲーナの発言に精霊国の議員たちが少し戸惑いの表情を見せた。


年若い少女が一体何を言うのか、と困惑したのかも知れない。


私が代表となっている時点で免疫を付けて欲しいものだが、【精霊の力】によって例外視されていると思われる。


チュバリヌが視線で彼らの動揺を抑え、ゲーナに頷き続きを促す。


「ありがとうございます。

 しかし、私の提案は至極単純なものです。

 労働力が余っているのでしたら使えばいいのです。

 あんな立派な【公道】が出来たのですもの、

 【南側】の開発を私たちと【協働】して行うのはいかがでしょうか?」


「なるほど!

 南の【草原】区域ですか!」



 ゲーナと少し意見をやり取りしたのち、精霊国議員たちは立ち上がり、部屋の端でひとかたまりとなって相談を始めた。


私たちも同様に反対側へ集まり話し始める。



「【草原】を共同開発する、と言っても、

 何から始めるつもりだ?」


「【集落】を作り、【畑】を作り、

 【生活環境】を整えるの。

 自治区の時と同じ。」


「そんで俺たちも手伝うとして、

 【自治区の利益】についてはどう考えてる?」


「【草原】一帯は広い。

 そこにジッガの【国】を創る第一歩を踏み出せる。」


「無理だ!

 精霊国と自治区じゃ規模が違う!

 こっちが呑み込まれちまうぞ!」


「向こうの労働力に対する対価はいずれ実る作物で返すの。

 【実りの種】【土の魔力】無しに【草原】での生活は維持出来ない。

 【手綱】はこっちが握ったままだよ。」


「ぬぅ、そう上手くいくか?」


カカンドがチラリと視線を送る先では、チュバリヌたちが真剣に相談を続けている。



 するとリルリカがおずおずと手を軽く上げ話し出した。


「あの、

 私たちが主導権を持ち過ぎても反発されちゃうでしょ?

 だから、

 【アバディマヘイド】みたいにしたらどうかな?」


「エルフに裁定を委ねるってことか!?」


「【ディプボス】のすぐ近くの話だし、

 ソムラルディさんも賛成してくれそうだな、って。」


「いい考えの様に思えます。

 今後【亜人戦争再来】に向け、協力もし易くなります。

 エルフやドワーフが暮らせる環境に出来れば尚良いでしょう。」


ベイデルの同意により、皆の顔に納得する色が見え始めた。


「確かにそうなりゃ万々歳だがよ、

 まずは【あちらさん】の賛成が得られんことにはな。」


「賛成致しますよ?」


「うぉっ?」


いつの間にか相談を終えたチュバリヌが近くに立って、カカンドの疑念に反応していた。


「こちらとしても持て余していた兵力を有効活用したいですし、

 エルフに仲介して頂くならば不利益はこうむらないでしょう。

 『草原開拓』作業時の食糧や費用に関して詰める問題はありますが、

 私どもと致しましては【賛成】と考えて頂いて結構です。

 エルフとの折衝もジッガさん達にお任せしていいんですよね?」


「あぁ、任されよう。

 だが本当にこんな即決していいのか?

 国運を左右する問題だろう?

 連邦との関係だって悪化するんでは?」


「元から良くないので左程問題では無いですね。

 ただ国防を考えると早急な【富国強兵】が必須になります。

 ジッガさん、

 引き続き【精霊様】復活にご尽力頂けますようお願い致します。」


「あぁ、それも任された。

 私自身も【彼女】に問いたいことがまだまだある。」


精霊国の議員たちが今の【草原】に関する件に『賛成』と即決した背景には、今日【精霊復活】のきざしが見えた事に大きな要因があるのだろう。


もはや私たち自治区と精霊国は切り離せぬ関係となった。


それなら『毒を喰らわば皿まで』と決断したとしても不思議ではない。


全てが上手くいけばドワーフとの国交樹立まで、と目論んでいるようにも思える。


この国の【人任せ】な気風は【したたかさ】に裏打ちされたものかも知れないな、と感じられた会議はそうして終了した。



 帰り際、今後両国は連絡を密にする必要性がある、とチュバリヌに要請され、互いの情報を行き来させる外交官を定めることとなった。


精霊国側は引き続きスィチャカが担当することとなっていたが、自治区側の担当者として、チュバリヌがリルリカを推薦してきた。


「今までも何度かお話していましたが、

 今日は彼女の知恵に感心致しました。

 それに彼女は私と同じ【風の魔力】を持っています。

 エルフである先生より、

 私の方が分かり易く教えることが出来ますよ?

 勉強がてら度々来訪してみては?」


本来なら他国の人事なのだから口を出すべき事では無いのだが、その理由には頷けるものがある。


いつもの強かさや悪ふざけする様子は見せず、純粋にリルリカに対しての好意で言っているように思えた。


リルリカは出会った頃から私を【精霊】みたいだと言っていたくらい精霊信仰に馴染んでいる。


それに連邦避難民と交流が深い彼女ならば、精霊国へと逃れる新たな避難民をないがしろにしないだろう。


「リルリカ、どうだ?

 行き来の際はウーグラたちと一緒に来れば大丈夫とは思うが。」


「うーん、でも、私なんかがそんな大任なんて……、

 ねぇゲーナ?」


泣きそうな表情でゲーナに助けを求めるリルリカ。


だが問われたゲーナはリルリカの肩に手を添え、キッパリと言った。


「リルリカ、

 『私なんか』なんてこと無いよ。

 あなたはもっと色んなことが出来る人なの。

 でもその引っ込み思案な性格がそれを邪魔してるの。

 責任は私が持つ。

 リルリカ、受けなさい。」


「ゲーナ・・・」


少しの間、リルリカは呆然とした表情で視線を周囲にさ迷わせた。


が、すぐに決意した表情となり、力強く頷いた。


「うん、私やるよ!

 いつまでも年下のジッガやカンディに助けられてちゃ駄目だもんね!

 私この仕事、立派に務めて見せる!」


「あぁ!

 精霊国との連絡はリルリカに任せた!

 チュバリヌ殿!

 リルリカを宜しく頼む!」


「えぇ、お任せください。

 我々の友好を示す良い機会です。

 今後の彼女の成長が両国の絆の成長とお考えください。」


「有難い言葉だ。

 両国の友好を今ここに祝おう!」


私の祝福の言葉と共に、質素な会議室に絢爛豪華な光が降り注いだ。


自治区側だけでなく、精霊国の出席者たちも揃って祈りを捧げ始める。


そこにはただただ純粋で平穏なる人間の平和への願いが感じ取れた。


過去の人間が勝手に定めた国境など関係ないと実感できる。


泉に眠る精霊もこの場に捧げられたような祈りを受け続ければ、きっと力を取り戻せるだろう。


そう思わせられるぐらい、真剣で、心地良い祈りだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ