秘密を持たない人間など存在しないだろう
成長の速度にムラがある作物たちは収穫時期に差が有るということになる。
私たちはエンリケ家の畑を見回り、収穫出来るものを見付けては買取所へ売った。
そうして新たな種を購入して蒔いていく。
既にシェーナからもらった【トマト】の種は全て作物に変わって売却してしまっている。
【トマト】は実から種が取れるのでそのまま蒔いて試している最中だ。
また、【イモ】も収穫の一部を種イモにして埋めて、増やせるかどうか試している。
ゲーナ家の畑もどんどんと再開墾して再生させているような進捗ぶりだ。
畑の作業はとても順調だ、後は【狩り】の準備だがひとつやることがある。
これは私のこれからにとって、とても重要なこととなる。
慎重にコトを進めたいが、もう先延ばしには出来ない案件だ。
「え!? ワタシに魔力があるの? ウソ!?」
「カンディ、声が大きい。
このことは誰にも知られない方がいいことなんだ。」
私は作業途中のカンディをエンリケ宅に連れて行き、遂に魔法についての秘密を打ち明け、カンディも魔力を持つことを伝えた。
そして魔力を持つことの危険性や私が行う魔力開発や鍛練法も語った。
「そっかぁ、ジッガが強いのって魔法の力だったんだぁ、なっとくぅ。」
「カンディも同じ力を持つ可能性がある、頑張る意志はあるか?」
「うん!
前から言ってるでしょ? ワタシはジッガにずっとついてくって!」
依存するな、といつものように言いたいが、私は嬉しくて口が開けないでいた。
さらに、秘密を打ち明けるというのはこんなに精神を消耗するのかと驚いている。
しかしカンディにはしっかりと口止めしないといけない。
この力は国に知られたらすぐに捕まえられてしまうのだから。
戦争は一時停戦中なだけでいつ再開するか分からない、そんな中で魔法研究は各国の至上命題となるほど重要なものとなっている。
それだけ魔法の価値はこの世界で高いものなのだ。
「だから絶対に秘密にしないといけないんだ、カンディもそう思わないか?」
だが意外にもカンディの考えは違っていた。
「ねぇジッガ、それならアグトたちにもちゃんと話した方がいいと思う。」
「え? 駄目だろうそれは。
どこから秘密が漏れるかわからないんだぞ?
秘密の共有は少人数の方がいいだろう?」
「ううん、それこそダメだよジッガ。
こんなに一緒に暮らしてるんだよ?
村の人に言っていい事と悪い事、街から来る人にどう対応するか、
ちゃんと私たちは考え方を、
なんというか、まとめなきゃダメじゃない?」
カンディの言葉に私は思わず右手の平で口をふさぎ深く考え込んでしまう。
カンディの言には一理ある、説得力が感じられた。
カンディも魔力を鍛えたらこれまで以上に生活に異常な部分が増えるだろう。
それを共に暮らす仲間たちに隠し通すことは至難の業と思われる。
それならばしっかりと話し合って意思統一を図るべき、とカンディは言うのだ。
私が最終目標としている国家打倒の志はまだ伝えないにしても、魔法についてはそろそろ限界かも知れない。
打ち明けるべきか、隠し通すべきか、
いまが【決断】の時だ。
「カンディ」
「ん?」
「みんなを呼んできてくれ。」
「んっ!
うん!! わかった!!」
カンディは嬉しそうに答えて笑顔で走っていった。
しかし私の方は再び秘密を打ち明けることについて緊張がひどくなっていった。
「なるほど、ジッガの強さは魔法の力だったのか。」
私が魔法について説明を終えると、アグトがカンディと全く同じ感想を漏らした。
「野菜の成長が早いのって魔法だったのかー。」
「成長が早いし美味しいよね、あの野菜たち。」
マグシュとリルリカが野菜に関しての少しズレた感想を言い、
「孤児院の頃もなんか変な時あったもんね。」
「ふふ、【ドゥタン】を蹴り飛ばしたりしてたもんね。」
エンリケとゲーナが孤児院時代の話をして笑い合う、ドゥタンとは私を子分にしようとしたガキ大将のことだ。
生きていれば近隣の村のどこかへ帰還していることだろう。
「隠していてすまなかった。
国に知られると研究所へ連行されると思って言えないでいた。
すまない。」
「謝ることないさ、孤児院の頃なら隠して当然だ。
バレてたら多分いま生きていないだろ。」
「そうだよ、でも隠してるにしてはやり過ぎなとこあったよね。
ゴブリン退治なんて全力だったじゃない。」
「あれは、その、全力でやらないと誰か怪我をする危険性があって、」
「まぁまぁ、でも話してくれて良かった。
ジッガの強さについては警備団でもちょくちょく話題になるし、
これからは全力で有耶無耶にしていかないとな。」
アグトが嬉しそうに笑って話す。
それに続いて他の五人も次々と私に秘密の共有を誓った。
さらに魔法に関しての注意事項などを話し合っていると、驚くことがあった。
「なに!?
エンリケ! 本当か!?」
私含めエンリケ以外六人全員が立ち上がるほど驚いた。
「うん、たぶん僕も魔力が有ると思う。」
言われてみると確かにおかしかった。
エンリケが作成した槍と楯は【丈夫】過ぎる。
あれは魔力が込められていたと言われたら納得するしかない。
しかし何故私が気付かなかったのだろうか?
「魔力に気付いたのは村に帰ってからだけど、
僕もやっぱり隠してたんだ、
魔力を持ってるって知られたらどこかへ連れていかれるでしょ?
みんなと離れるのが嫌だから人前では使わないようにしてたんだ。
魔力を引っ込めるようなこともすぐ出来るようになったし。」
「それで私に気付かれなかったのか、
既に魔力操作の自己鍛錬は出来そうだな。
だが槍と楯に魔力の痕跡は無かったぞ?」
「うん、槍や楯に馴染ませ続けると魔力が消えたみたいになるんだ。
結構練習したり研究したりしたんだ。
ジッガの魔法の練習方を教えてよ、僕も教えるから。
あとたまに僕の方がジッガの魔力を感じた気がするなぁ。
それも試していい?」
「な、あぁ、うん、構わない。」
なんとか答えた私だが心の中身はだいぶ動揺していた。
エンリケが魔力を感じていたとすると、私が認識魔法で覗き見していたのも知られてしまっているのだろうか?
恥ずかしさで足が震える、椅子が無かったらへたり込んでいただろう。
気付いたら少し涙が出ていた、すぐに魔力で押し退け平静を装った。
今日の農作業は取りやめにして、夕飯までいかにして魔法に関して隠蔽するかの話し合いが行われた。
また、エンリケの例があるので全員の魔力の有無の確認もした。
ひとりひとり私が両手を掴んで魔力を流し入れ、反応するか試した。
結果やはりカンディとエンリケだけが大きく反応した。
カンディは魔力量がエンリケより大きくなっているように感じられた。
素質、ということなのだろうか?
他の四人は残念そうだったがまだ諦めるには早い気がする。
この魔力を通す訓練を繰り返せば魔力を感知することが出来る。
四人の反応からそれが窺えた。
魔力が無いはずなのに、強く魔力を流すとそれを感じている反応が見られたのだ。
これを続ければもしかしたらエンリケのように魔力を発揮するかもしれない。
魔法に関して秘密を打ち明けたことにより、私の研究はだいぶ進みそうな予感がしてきた。
この日は夕食後も様々な話をした。
「じゃあエンリケの魔力はジッガのとは全然違うんだぁ?」
「そうみたいだね、ジッガの話は僕には全く理解出来ない時があるよ。
僕のはなんというか、物と物をくっつけるような魔力が出るんだ。
あと槍の刃先とかにそれを繰り返し塗りつけるようにすると丈夫になる。」
「私にはそれが逆に理解出来ないな。
魔力をくっつけるとは何のことだか、と思ってしまう。
エンリケ、後で教えてくれ、練習したい。」
「あ、羨ましい。
私も魔法が使えてたら一緒に練習出来るのに。」
「ではゲーナも一緒に練習しよう。
私も魔法について詳しくなくて我流なんだ。
最初から出来ないと決めつけることはない。
エンリケの例もあることだし、
急に使えるようになるかも知れないだろう?」
「あ、じゃあ俺も練習する!」
「アグトも一緒にやろうよぉ!」
「あぁそうだな、みんなでやろうか。
いいだろ? ジッガ?」
「もちろんだ。
私の索敵魔法で周囲に村の誰かが来たら分かるからな。
その時は合図をするから静かにするんだぞ?」
「うん、わかった。」
そうして魔力訓練を行い、私は皆の前で魔法を披露した。
物を動かしたりする単純なものだがみな喜んでくれた。
明日からはより忙しくなりそうだ。
エンリケの鍛練法からヒントも得られたしカンディも鍛えねばならない。
もちろん他の四人もどんどん鍛える。
皆と意思統一出来たことにより私は高揚していた。
秘密が漏れる危険性が高まったことによる不安はまだある。
しかしこういった試練を乗り越えていかねば私の野望は達成されない。
強くなり、強くしていく、
私と、私の【仲間】たちを。