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滂沱の日々  作者: 水下直英
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石橋は叩くのではなく補強して渡れ


 カカンドらに情報収集を指示した翌日早朝、私の前には【ヘネローソ精霊国】で一番の権力者がにこやかな顔で鎮座していた。


「チュバリヌ殿、随分早いな。

 御足労頂き感謝する。」


「いえいえ、

 何やら情報を必要とされてるとか、

 私の得意分野です。

 御力になれると思いまして急いで参りました。」


「うん、期待している、のだが……、

 見返りには何を望まれるだろうか?」


「ほっほほ、ジッガさんたらお気が早い。

 私は嬉しいんですよ、

 やっと我が精霊国がジッガさん達の益になる道が見付かって。」


「あ、あぁ、それは良かった」


やはりこいつは苦手だ、いつの間にか会話の主導権を持って行かれてしまう。


「ですから是非ジッガさんを精霊国へご招待したいんです。

 いま()てば夜には到着出来ますよ。

 あ、もちろん手土産など不要です、ご心配なく。」


『気が早いのはお前の方じゃないか!』と言いたくなる。


条件は【精霊復活への尽力】ということらしい。


受け入れるほかなく、ゲーナに急いで旅の準備をするよう指示した。



 準備が出来るまでに獣人たちの治療を済ませようとテントにやって来た。


いつもはソムラルディが居る位置に、今日は別の研究馬鹿が居座っている。


「まぁ、【精霊の力】で失われた指が元通りに?

 素晴らしいですね!

 どのように回復していったんですか?」


治療をする私の背後で患者の獣人に色々な話を訊き廻っている。


鬱陶うっとうしいことこの上ないが、今は大事な商談相手だ。


情報を得るために背後の声をひたすら無視した。


気にしてしまうと怒鳴ってしまう自信が有る。



 獣人たちへの治療を終え区役所に戻り、精霊国への使節団参加者についての協議を始めた。


【精霊】に関わる案件なのだが、ソムラルディ不在というのに少々不安を覚える。


それを知った時のチュバリヌが、


「まぁ、それは都合が良、本当に残念ですねぇ。

 先生の見解も是非参考にしたかったのですが。」


と、少しだけ馬脚を露わしていたのも懸念の一つだ。


己より上位の存在がいないことで、チュバリヌが好き勝手しそうで怖い。


彼女の『曲者ぶり』に対抗出来そうなのはハザラなのだが、身体が完治するまではやはり旅に連れ回したくない。


チュバリヌが参加している前で、


「チュバリヌ殿が自儘じままに振る舞えないような人選をしたい。」


と宣言しておいた。


「まぁ! 私は決してジッガさんに不利益なことはしませんよ!?」とのたまう声を聞き流し、会議は進められた。



 ゲーナとカカンド、カンディは確定として、自薦他薦により候補者の名が次々と挙げられてゆく。


ゲーナはリルリカの同行を希望した。


リルリカの内気な性格に少しでも刺激を与えたいらしい。


私も同感なので参加を認める。


「だがそうなると、

 【魔力循環】をする者が誰も居なくなってしまわないか?」


マグシュはアグトと共に【断崖の細道】の偵察に出掛けている。


ドゥタンらは【身体強化】のみだし、ベルゥラはその魔力の質により【魔力循環】を行えない。


「それなら大丈夫、

 【エィドナ】さんが最近魔力を発現して、

 【魔力循環】だけは出来るようになったの。」


「ほぉ! そうなのかラポンソ?」


「えぇ、私も妻も驚いてて。

 まさか娘が【魔法】を使いだすなんてね。」


区民の若者や子供に【魔力】の発現の兆候が見られる、という報告は受けていた。


だがそれはドゥタンやキャンゾのような、微弱な【身体強化】のものばかりだった。


【身体強化】以外の発現はベルゥラ以来ではないだろうか?


厳密に言えば【魔力循環】は【魔法】ではないらしいが、私たちにとっては大差ない話だ。


研究馬鹿ソムラルディの細かいこだわりには付き合ってられない。


「まだ慣れてないけど、何とかなるでしょ。

 病人も出てないし、三日か四日ぐらい大丈夫だよ。」


「うん、それは頼もしい話だな。」


私の頷きに、ラポンソが少し誇らしそうな表情になる。


元連邦避難民からエィドナのような存在が出てきたのは喜ばしい。


ラポンソが以前言っていたような『世話になっている』という感覚から、『共に生きている』という意識に変化させる大きな一歩となるだろう。



「よし、あとは誰がいいだろうか?」


「あの、また私を連れて行って頂けませんか?

 【精霊様】復活の場に是非立ち合いたいのです。」


ウーグラが真剣な表情で願い出てきた。


【精霊】を復活させることが出来るかは分からないが、その心情をおもんばかり同行を了承する。


「我が国から【草原】へと繋がる道は整備されています。

 女性や子供でも安心して通り抜けられますよ。

 観光するような気楽な人選でいいと思います。」


チュバリヌからそんな助言がなされた。


かといって本当に子供を連れて行ったら確実に足手まといになる。


アグラスやゲルイドのような悪餓鬼ワルガキを同行させたら、はしゃいで問題を起こす様が脳裏にありありと浮かぶ。


チュバリヌの発言は真に受けてはいけない。


「ハッゲル、どうだ?

 同行してみないか?」


「えぇ、【精霊】の関わることなので興味はあるのですが、

 やはり我らは自治区の守備を任せて頂きたく。

 代わりにまたベイデルの同行をお許しください。

 我が国の知識が役立つかも知れません。」


「ん、そうか。

 彼の知恵には私も信頼を置いている。

 言う通りにしよう。」


「はっ」


それ以上推薦される者が現れなかったので、同行希望者の中からツセンカを加えた八名が精霊国への使節団と決定された。



 旅の準備が整い、チュバリヌらと共に出発した。


広場の子供たちがワァワァと騒ぎながらついてきて、私たちを見送ってくれる。


自治区から離れ、公道へと出た辺りでチュバリヌに話しかけられた。


「来るたびに自治区は発展していってますね。

 まるで昔話に聞く【精霊様】の建国のようです。」


「精霊国の始まりの様子に似ている、ということか?」


馬の手綱を操り、私と並走しながら彼女は会話を続ける。


「我が国に限った話ではありませんが、

 ジッガさん達からは【建国初期の熱気】が感じられます。

 【亜人戦争】後に興された南方の国々とは、

 その【熱量】が全く違うように思えますね。」


「それが私たちに【肩入れ】する理由か?」


「まぁ! 私の心を読んだんですか?

 ジッガさんたら怖いですねぇ~。」


本当は欠片も恐怖を感じていないだろうに。


チュバリヌとの会話は、時折苛立ちも感じるがとても勉強になる。


何でもないような話から、自分が伝えたいことを自然に相手へ理解させるのが上手い。


こうやって周辺国に情報を流し、精霊国の地位を確立させているのかも知れない。


まだ【国】として成立していない我が自治区は、大いに見習うべきだろう。



「チュバリヌ殿、

 そういえば精霊国のすぐ西は【ドワーフ王国】なんだろ?

 交流は無いのか?」


「無いですねぇ~。

 ドワーフは武器に関して一流の技術を持ってるはず。

 【亜人戦争】前は人間と最も融和が進んでいた種族でした。

 何とか交流を復活させてその技術を学びたいんですがねぇ~。」


「ふぅん」


ドワーフという種族について私はほとんど知識が無い。


背丈が人間より低く、男女ともに筋骨隆々で、鍛冶の技術が高い、【前世の知識】からなるイメージ通りの情報しか持っていない。


あとは寿命が人間とエルフの中間、という話ぐらいか。


「【亜人戦争】で最も被害を受け、

 【凶王】に最も被害を与えたのはドワーフと伝えられています。

 もし【亜人戦争】の再来が事実なら、

 是非とも力を合わせたいですよねぇ~。」


「そうやって私たちにドワーフとの交渉を薦めて、

 自分たちも国交回復して益を図ろうというわけか。」


「おっほほ、ジッガさんてば。

 そんなに警戒しないでください。

 言葉の裏を読んでばかりいると疲れちゃいますよ?」


「ふん」


チュバリヌの言葉に惑わされてはいけない、と思うものの、ドワーフとの連携は確かに必要だろう。


ソムラルディはいま深き森を移動している頃だろうか?


【悪しき神】の影響が強まる前に、私たちは力を蓄え、対抗出来るように補い合える関係を築き上げなければならない。


多少胡散臭いこのチュバリヌだが、【悪意】や【害意】は出会った頃から感じたことは無い。


彼女一人だけを見て精霊国の【総意】を汲み取るのは早計だろう。


だが精霊国代表の彼女との力の合わせ方を憶えることは重要なことだ。


願わくばこの精霊国訪問が、今後の私たちの未来を切り拓く一助となるように。


そんなことを考えながら、馬を走らせ続けた。




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