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滂沱の日々  作者: 水下直英
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人の口は災いの元なだけではない


 会議室に集められた面々が担当する業務について報告していく。


それぞれ急ぎの仕事が無いことを確認して、私は今日の議題について述べた。


「へぇ、【オーガー】が元は【人間】かも知れねぇってか。」


「【亜人戦争】を引き起こした【凶王】がそうだった、ってこと?」


「それが原因で【亜人戦争】が起きそうなのか?」


昨夜ラポンソと話した内容から推測される可能性を全て伝えてみると、みな当惑した表情となった。


先日ゼダックヘインがオーガー二匹と遭遇した件と、【亜人戦争再来】の危険性については既に伝えてある。


区民には余計な混乱を引き起こさぬよう内密にしてあるが。


現実離れした話だが、前世の世界よりは離れていない。


すぐに現実に起こり得る話だと適応していく。


「つまり、

 この先【オーガー】が出没する可能性が高い、

 そういうことか?」


ハザラが私の意図に真っ先に気付く。


「そうだ。

 前回【探索隊】に参加した者は思い出して欲しい。

 何故私たちは【オーガー】が西に向かったと判断した?」


「え? だってそれは、足跡が【西】に向かってたから・・・」


「そうか、それは【オーガー】が【東】から来たって話になるか。」


「あぁ、【闇の力】で生まれたにしろ、

 人間が変化したにしろ、奴は【東】から来た。

 おそらく、【サラパレイメン聖公国】から。」


「東側からやってきた【悪鬼】にゴブリンが怯え、

 次々に西へと追いやられて来たって訳か。」


「それより聖公国で【悪鬼】が生まれたってなら、

 あの国、いま相当ヤバいんじゃないかい?」


最後のハテンサの発言により、みな静まり返る。


【亜人戦争】の発端が【聖公国】となる可能性に思い至ったからだ。


「今の自治区に国同士の【戦争】に割って入る力は無ぇぞ?

 爺さん連中を含めてやっと三百、って兵力だ。」


「ううん、今の時点でどうこうなる可能性は低いんじゃない?

 南ではオーガー二匹出てるのに、

 こっちは結構前に一匹出ただけでしょ?」


「確かにそうだ。

 北の観測施設でもオーガーなんて発見してないからな。」


「聖公国の東や北に向かった可能性は?」


「ぬ、その可能性もあるか……、

 だがそれなら行商人から情報が入るじゃろう?」


「うむ、精霊国や皇国にも問い合わせておいた方がいいな。」


対応策が練られていくが、私には一つ知りたいことがあった。


「それと調べてもらいたいことがある。

 【悪しき神】に魅入られた者を【元に戻す】方法だ。」


「えぇ? 【オーガー】を【人間】に戻すってこと?

 うーん、……どうですか先生?」


ゲーナがソムラルディに問う。


確かにこの中なら一番手掛かりを掴んでいそうな相手だろう。


だが私が既に昨夜質問していた、ゆっくり首を左右に振っている。


「答えそのものじゃなくていい。

 何か手掛かりとなる【伝承】や【昔話】を調べてみてくれ。

 【悪しき神】の影響を弱められるような、そんな話だ。」


「わかりました、皆に訊いておきます。」


「それと、アヴェーリシャの近況を誰か知らないか?

 南の悪鬼二匹があの国から来た可能性も有る。」


「あぁ、最近東の【合衆国】に戦争吹っかけたみてぇだぞ。

 相変わらず狂ってやがる。

 俺らが手を下す前に勝手に滅んじまいそうだな。」


カカンドは一体どこからそんな情報を仕入れてくるのだろうか?


疑問に思うがまずは今の情報を精査したい。


「その戦争で【悪鬼】が生まれ、

 山を越えてゼダックヘインらと遭遇した、

 これは考え過ぎだろうか?」


「いや、可能性の一つとしては大いにアリかもな。」


「山を越えてきたのが二匹だったってんなら、

 山の向こう側は一体どうなってるんだ?」


「うぅん、情報を集めてみないとなんとも、ね?」


「カカンド、情報収集出来そうか?」


「いや、難しいな。

 さっきの情報も実はチュバリヌ経由のものなんだわ。」


「ほぉ?」


つまり、チュバリヌは広い情報網を持っている、ということになる。


「カカンド、チュバリヌから情報を引き出してくれ。

 【実りの種】でも【精霊復活の件】でもいい。

 今は【早く】【正確な】情報が力となる。

 どんな条件を付けられても構わないから

 ありったけの情報を集めるんだ。

 ウーグラも手助けを頼む。」


「了解だ!」

「お任せください」


「ツェルゼン、

 戦闘訓練は【悪鬼】を想定したものを重点的にしてくれ。

 戦力になりそうな者を選抜して編成するんだ。」


「わかった」


「ゲーナ、

 アグトとマグシュを【断崖の細道】の調査に向かわせてくれ。

 彼らなら馬での往復で四日もかからないだろう。」


「了解!」


「ソムラルディ、

 すまないがまたディプボスに戻り情報を集めてくれないか?

 それと【ドワーフ】に注意喚起、出来れば助力を申し出てくれ。」


「【古の盟約】は今尚健在。

 定めていなびはすまい。」


「ハザラ、

 あと何か有るか?」


「なんも無ぇよ」


「よし!

 では皆情報をよろしく頼む!

 ただし無理はしないでくれ!

 いいな!?」


「おぉっ!」


皆が勇んで会議室を出て行く。


部屋を出ようとするソムラルディに改めて「無理はするなよ?」と告げたのだが、無視された。



 獣人の患者が待つテントに入ると先客がいた。


「なんだハザラ、何してるんだ?」


「おぅ、いやなに、

 俺はまだ身体が動かねぇからよ。

 代わりに働いてくれる若者を勧誘してんのさ。」


それで目を付けたのがトルックゲイルという訳か。


だが、ハザラが以前提案してきたことが思い出される。


「ハザラ、【決死隊】は許さんぞ?」


「あぁ、もう言わねぇって、安心しろ。

 情報収集してもらうだけだ、

 この少年はもう大丈夫なんだろ?」


「ん? んー、

 どうだトルックゲイル?

 身体に違和感は残ってないか?」


「はい!

 農作業や訓練、参加してる!

 感謝! 山盛りです!」


「ふふ、そうか」


純粋な物言いに、『なら良し!』と言いたくなる。


こんな純朴な少年を百戦錬磨のハザラに預けていいものだろうか、と心配になった。


「なぁハザラ、ちゃんと配慮するんだぞ?

 獣人は嘘を吐けないし、気分で行動し易いぞ?」


「わかってるって、心配しなさんな。

 獣人同士で話してもらうだけさ。

 なんせこの国は歴史が古いからな。

 昔話は色々あると踏んでんだ。」


「あ、なるほどな」


つまり現在この世界で最も古い歴史を持つガーランテ皇国が一番期待を持てる国ということか。


「もうキシンティルクに皇国関連の使いは送ってあるんだろ?

 焦りなさんな。」


「ぬ、顔に出てたか?」


「あぁ、お前さんは分かり易い。

 も少し腹芸を覚えな。」


「む」


『ならお前が今すぐそれを教えろ!』と思ってしまったが、それを口に出してはソムラルディに対するゼダックヘインと変わらない。


私はもっと理性的な対応が出来る筈だ。


「あぁ、努力しよう。

 あ、今の内にキミも魔力循環しておこう。

 カンディ、準備を。」


「うん」


ハザラを座らせて両手を取る。


もう既に右手は肘先まで回復している、段々とやり易くなって結構なことだ。


「あれ? いてっ、いててっ!

 おいなんか! いつもより痛くねぇか!?」


「そうか?

 それでキミの軽口が治るなら結構なことじゃないか。」


「あっ! てめぇっ!

 そんなんで立派な王様になれると思って……

 あ痛てっ! いででででっ!」


強く流せばそれだけ治りが早くなるだろう、結構なことだ。


私は気分良くそのあとの獣人の治療を終えることが出来た。




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