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滂沱の日々  作者: 水下直英
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噂をすると現れる影の正体とは


 若き部下の命が助かり、獣人の王は晴れ晴れとした表情をしていた。


「おぉ、そうだったか!

 長耳の長老、感謝するぞ!」


「素直に礼を言うべきは獣人の長所かな。

 これに知恵が高くば文句は無けれど。」


「お? 礼言ったのに、悪口か?

 なんだ? やるか?」


「まぁまぁまぁまぁ、

 ソムラルディのお蔭で怪我人が助かったんだ、

 感謝して小さいことは聞き流しておけばいいじゃないか。」


「うぬ、ぬぅ。

 ほとんど、ジッガの力。

 長耳への感謝、少しだけ。」


珍しく治療にソムラルディが力を貸してくれたので、獣人とエルフの友好改善に繋がるかとゼダックヘインに伝えたのだが、微妙な結果に終わった。


確実にソムラルディの物言いが悪い。


『私も手伝ったよぉ』と手を挙げるカンディの頭をゼダックヘインが撫でている。


少し機嫌が戻ったようだが、早々に話題を変えるべく、声を掛けた。



「それで?

 何故トルックゲイルとやらはあんな重傷を負ったんだ?

 国内の魔物はキミがほとんど斃したんだろ?」


「うむ、

 偵察で、南西の山行った。

 【連なる山々】、そこに、【オーガー】いた。」


「ほぉ、

 だが剛毛の騎士はかなり強い。

 それにキミも居たんだろう?

 何故そうなったんだ?」


キシンティルクの顔を思い浮かべながら問いかける。


旅の途中で何回か手合せしたが、ツェルゼンやアグトの上を行く強さだと感じられた。


私の問いにゼダックヘインは狼相を苦々しく歪め答えた。


「トルックゲイル、まだ未熟、十六歳だ。

 初任務、オーガー、運悪い。」


「お、そうだったか。

 皆がキシンティルクのような強さは持ってないんだな。」


「当たり前、

 俺居なければ、あいつが王様。

 弱いはず、無い。」


それでも剛毛の騎士ならばある程度の強さはあるだろう。


話の続きを促した。


「オーガー、二匹いた。

 俺一匹、斃す間に、あいつやられた。」


「二人で偵察してたのか?」


「俺以外、五人いた。

 俺戦闘、もう一匹、間に合わなかった。」


オーガー二匹相手だと流石のゼダックヘインも瞬殺は出来ないだろう。


ツセンカがオーク相手に瀕死になった状況を思い出して身を震わせた。


仲間が死にかけた時の焦りには強く共感できる。


「二匹斃して、あいつの怪我見た。

 すぐに、近くの村運び、馬車で、ここまで来た。」


「獣人の国を縦断してきた訳か、

 あの怪我でよく死ななかったものだ。

 獣人の頑強さは本物だな。」


「助かったから、そう言える。

 ジッガの力無くば、死んでた。」


「……うん、助かって良かった」


一瞬【死】というモノを間近に感じて、ヒヤリとする。



 すると、今まで黙っていたソムラルディが急に発言した。


「【悪鬼】が二匹同時に出現せり。

 このこと、由々しき事態もこそ」


深刻そうなエルフの言葉に、居住まいを正す。


「ソムラルディ、どういう意味だ?」


ゼダックヘインも同様に真剣な面持ちとなり、話の続きを待っている。


ソムラルディは眉根を寄せた表情のまま話し出す。



 そもそも【オーガー】は【闇の力】が凝固してこの世に出現すると伝えられている。


【悪しき神】の影響を強く受けるこの怪物は、徒党を組んで現れたことなどここ数百年無かったとか。


だが、かつて【オーガー】が徒党を組んでこの世界を荒廃させたとする出来事が、五百年前に有ったという。



「長耳、つまり、

 【古の骨肉戦争】、また起こる。

 そういうことか?」


「その前兆や有る。

 【悪鬼】出現は【悪しき魂】の増加によるもの。

 昏き王の増えし世。

 条件が揃いつつあるうたてしも知れず。」


「うぬぅ」



 五百年前の戦争についてはカカンドはじめ、様々な人々から聞き及んでいる。


人間が【亜人戦争】と呼び、亜人側は【古の骨肉戦争】と呼ぶ【戦争】。


【ナステディオソ連合王国】がまだ単独の【シャーディン王国】だった時代、王国を治めていた最後の統治者は後の世で【凶王】と呼ばれることとなる。


狂った価値観で【亜人蔑視】の政策を掲げ、それまで共存していた各地の獣人・エルフ・ドワーフを迫害していった。


果てには獣人の国【ヌエボステレノス】へ攻め込み、国土の三分の一を併呑した。


これに対し亜人三種族は【古の盟約】を結びこれに対抗した訳だが、【凶王】は亜人とだけ戦っていた訳では無かった。


当時すぐ西に存在していた【ムガァヴ共和国】はドワーフが国民の二割を占めていたのだが、【凶王】の突然の奇襲により数ヶ月で滅ぼされた。


北に存在する【ガーランテ皇国】は現在と同じく各国と交流が乏しかったが、これにも攻め入った。


東の【デリンクワイォ公国】などは【凶王】の親族が治める小国で、同じく【亜人蔑視】の姿勢を掲げていたのに滅ぼされた。


国内が荒廃していく様に目もくれず、【凶王】は憑りつかれたように戦いに明け暮れた。


やがて【凶王】が死に、その息子である【小凶王】が死んだ頃、シャーディン王国は滅んだ。


経済がままならないまま戦争を続けたことにより自壊したのだ。


残された元王国民は生まれ故郷へ帰り、新たに興された国々の民となった。


獣人の国も元の国土を回復したが、その戦いの傷は今も癒えず、国民の数は当時を大きく下回ったままだ。


ドワーフとエルフは世界各地に散らばる愚を悟ると故郷に引き篭もり、外界との接触を絶った。


滅ぼされた各国も遠方から新天地を求めてやって来た人々によって復興され、新たな国となった。


それが【亜人戦争】の顛末だが、何故【凶王】がそのような行いに踏み切ったかについては原因が明らかにされていない。


有力な説としては【悪しき神】に魅入られたのだ、という話がある。


陣頭指揮を執って戦う【凶王】は、最早もはや人の姿をしていなかったと伝えられている。


【凶王】の配下には【悪鬼】や【怪物】が混じっていたとも噂された。


そんな悪夢のような【戦争】が、今また起ころうとしているのだろうか?




 渋い表情のまま、しばらく無言の時を過ごす。


「ゼダックヘイン、

 オーガー二匹と遭遇したのは【南西】と言ったな?」


「お? おぉ、

 南西の【合衆国】、南の【共和国】、

 たぶん、その中間。」


「国境的にはそうなんだろうが、

 【連なる山々】のこちら側だろ?」


「そうだ、山頂より、はるか手前。

 森の中で、遭った。」


「うん、

 となると、南の国どちらかから山を越えてきたか、

 【草原】の南側からやってきたか、だな。」


私の推論にソムラルディが頷く。


ゼダックヘインはまだ首を捻っているが、私は話を進めた。


「場所的に【連合王国】は原因じゃない気がする。

 私としては【アヴェーリシャ】から来たんじゃないかとも思える。

 今のあの【愚王】には【凶王】の姿が重なるからな。」


「可能性の一つとせば有る。

 昏さは【悪しき神】の好物なればな。

 君も気付け給え。」


「お? 長耳、

 また俺、馬鹿にしたか?

 お? お?」


「まぁまぁまぁまぁ、

 ソムラルディ、いい加減にしておけ。

 ゼダックヘインもすぐに挑発に乗るな。

 で? オーガーはちゃんと埋めてきたか?」


鼻先を私に抑えられ、鼻息を吹き掛けながら返答する。


「もちろんだ。

 残った者に頼んである。

 【闇の力】、残さない。」


「よし、

 ゼダックヘイン、

 今度共同で南方を【探索】してみないか?」


「ん? 構わない。

 が、何考えてる?」


「この前、

 土地にも【祝福の光】が出来ることが分かったんだ。

 土地に光を注げば、【オーガー】は出現しないんじゃないか?」


この話に研究馬鹿が食い付いた。


「ほぉ!

 そはゆかしき試みなり!

 いかにもやらむ!

 比べ対象を設くるため南西側ばかりとてみむ!」


「馬鹿言うな、

 それで東側にオーガーが現れて犠牲が出たらどうするんだ。

 万遍なくやるに決まってるだろ。」


私の言葉に研究馬鹿が唇を歪め不服そうな表情に変わる。


先程【悪鬼】複数出現の危険性を説いていた者と同一人物に思えない。


ゼダックヘインは後日キシンティルクを寄越す、と言い残し去っていった。


最後に固く握手した時、また優しい光が降り注いだ。




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