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滂沱の日々  作者: 水下直英
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力尽くで解決したとしても、長くは続かない


「ソムラルディ、聞いていたか?

 どうやらエンリケのような魔力を持つ者がいるぞ。

 あの魔力はかなり【珍しい】んじゃなかったか?」


私の質問に、研究家の眼をしたエルフが澄まし顔のまま頷き答えた。


「確かに、

 以前訪れしには無かりきべき。

 独自研究の成果ならむな。

 されどエンリケと全て同じには無し。

 恐らく【硬化】ぞし足らぬ。」


「ほぉ、じゃあ破壊は出来そうだな。」


「うむ、

 エンリケの槍こそ硬度は高けれ。

 存分に打ち崩すべし。」


「よし」


全力を出して大丈夫なようだ、と確認して場内中央へ進む。



「待たせた。

 では始めようか。」


「うむ、

 鐘のが合図だ。

 では!」


青銅の穂先を持つエンリケ特製の槍を構え、突撃の体勢をとる。


チラリと横目でシェイピンの手に持つ槍を確認すると、一見鉄製のように見えるが【はがね】と思われる光沢を感じた。


恐らく私がこの勝負に負けたとしても『武器の性能の差だった』という言い訳を用意してくれたのだろう。


彼は私に花を持たせるつもりは無いようだ。


『望むところだ!』と闘志を燃やし、無残な姿にすべく人形を睨み据えた。



ガァァァァン!!



銅鑼どらに似た鐘が鳴らされた瞬間、全速力で駆け出す。


視界の中にシェイピンは映っていない。


観衆が私の身体能力に歓声を上げている。


一歩先んじることが出来たことを確信し、藁人形の胴体を槍で突き上げた。


確かな手ごたえと共に槍が人形を貫く。


だが一撃で破壊することは出来ない、即座に引抜き四方八方から連続で突き刺し、胴体を破壊していく。


人形が徐々に傾き、あと少しで倒れる、というところで『ワッ!』と大歓声が上がった。


「なにっ!?」


慌てて振り向くと、ボロボロに破壊された人形と、高々と槍を掲げたシェイピンの姿が見えた。


得意満面な表情で大歓声に応える彼に、苦々しい思いを胸に仕舞い込みながら、拍手して賞賛を贈った。


「どうやら私の負けのようだ。

 だが武器はもう一つ在る。

 もう一戦お相手願おう。」


「はっは!

 ジッガ様は存外に負けず嫌いらしい!

 今のは武器の違いもありましたな!

 いいでしょう!

 もう一戦お相手(つかまつ)る!」


見物人が『わっ!』と盛り上がる。


自分たちの将軍が他国の【魔法使い】に勝利して湧き上がっているところへ、『もう一戦』見ることが出来ると喜んでいるのだろう。



 仲間たちの許へ戻り、今の勝負について確認した。


武器が違うとはいえ槍は槍だ。


私の方が身体能力は上と思えたが何が違っていたのかを知りたかった。


「シェイピンさんは槍を捻じりながら突いてたよ。

 そしたら人形が巻き込まれるように大きくえぐられた。

 たぶんそういう【技】なんじゃないかな?」


「【魔法】ということか?」


「ううん。

 純粋な【技術】だと思う。

 もちろん【身体強化】は使ってると思うけど。」


「なるほど。

 さすがは【将軍】といったところか。」


身体強化により、ゲーナも視力を上げている。


しっかりとした観察眼で今の勝負を解説してくれた。


「ジッガ、大丈夫?

 次は【むち】で勝負でしょ?

 使い慣れてる?」


「安心しろゲーナ。

 ツェルゼンから叩き込まれてる。

 槍や剣より得意かもと思ってるんだ。」


「うーん、まぁ頑張って。

 外交的には負けてもいいんだから気楽にね?」


「いや、絶対勝つ」


私の言葉にゲーナたちは苦笑いしながらも手を振り見送ってくれた。



 場内中央ではシェイピンが既に準備を整え待っていた。


人形も新しいものへと取り替えられている。


と、シェイピンが私に見慣れぬ武器を差し出してきた。


「ジッガ様!

 貴国から送られたその【鞭】なる武器は我が国には無い!

 よって似たものであるこの【星球武器】を使いたいのだが如何か!?」


【星球武器】とやらは鉄棒の先に紐が付けられ、その紐の先端に小さな鉄球が繋がっている武器だった。


魔物素材で造られたエンリケ特製の【鞭】に比べ、見た目が遥かにいかめしい。


だが、他に無いと言うならば仕方ないだろう。


それにこれならばゲーナの言っていた『ひねり』の技術も使えないだろう。


「構わない。

 さ、始めようか。」


「おぉ!

 武具の不利をものともしないその振る舞い!

 それがし感服仕る!

 では尋常に!」


「よし!」



 二度目の勝負に向け、態勢を整える。


訓練場内は打って変わって静けさに包まれた。


手に持つ鞭はしっかりと手に馴染んでいる。


魔物素材が原因なのか、鞭全体に私の魔力が巡らされているのが分かる。



ガァァァァン!!



再び鐘が鳴り響いた。


先程と同じ様に私の方が先に人形へ接近し、空中高く飛び上がり鞭を振り下ろした。


バァァァァァンッ!!!


長く伸びた鞭が音速を超える速度で人形へぶち当たり、空気を切り裂いた衝撃音を派手に響かせた。


オオォッ!


見物していた観衆が一斉に驚きの声を上げた。


私の渾身の一撃によって、人形が破裂したかのように粉々に砕け散ったからだ。


「なんと!」


シェイピンは人形に一撃も入れられないまま、茫然とした表情で私に破壊された人形を眺めている。


やがて、彼はゆっくり首を振りながら、先程の私のように称賛の拍手を送ってくれた。


観衆からも大歓声が沸き上がる。


それに手を振り応え、シェイピンと共に天子の御車へと進み出た。


「ジッガ殿、シェイピン、見事だったぞ。

 我が皇国の友邦として相応しいと民も認めただろう。

 また近いうちに会えること、

 楽しみに待っておるぞ。」


「はい、必ずや。

 それまでご自愛尽くされるよう。

 私もまた、健康な天子殿とお会いしたいので。」


「ふぉっほ、

 またお会いしたら【巫女様】の【奇跡の力】、

 余に施してもらいたい、よいか?」


「はい、

 皇国の平穏の為に、私も力を尽くしましょう。」


「うむ、

 ではのジッガ殿、壮健でな。」


「はい、天子殿も御壮健で。」


別れの挨拶を終え、天子の御車が遠ざかっていく。


私たちも客室に戻り、帰宅の準備を整える。


チェチャルとシェイピンから国境まで盛大に見送りをすることを申し出られたが、丁寧に辞退した。


皇国国内に然程さほど危険は無い。


心許せる仲間たちとの気楽な旅を選択し、皇国首都ラストゥーリアをあとにした。



「いやぁ、しっかしジッガの鞭は凄かったな!

 あれって普通じゃねぇよな?」


「ユメクイの舌とかが材料だからか、

 魔力が込めやすいんだ。

 そうやって打ち出すとあの威力が出る。」


「へぇ、いい武器じゃねぇか。

 じゃあ皇国に渡すのは勿体無くないか?」


「武器庫にもう一つ在るし、

 今後また素材は手に入るだろう。

 何も惜しくはないさ。」


国境に在る皇国詰所に泊めてもらえたので、のんびりと仲間と会話を楽しめた。


兵士たちは『天子の恩人に感謝を!』と、私たちを丁寧にもてなしてくれている。


天子は国民に敬愛されているのだな、と羨ましく思う。


私も斯くなりたいものだ。



「おぉ! ジッガ!

 どうだった!?

 上手くいったか!?」


ワホワホと尻尾を揺らし、獣人の王が問いかけてくる。


「あぁ、大成功だ。

 キミやキシンティルクたちのお蔭だ、感謝する。」


一緒に旅をしたからか、キシンティルクは以前より更に親愛の情を示してくれるようになっている。


今もまた、カカンドと肩を叩き合い、何やら歓談していた。


「ゼダックヘイン、

 自治区も存続の道が視えてきた。

 私たちも助けられるばかりではなく、

 キミたちを助けるように務めよう。」


「お? 井戸や種で、充分だが。

 これ以上は、貰い過ぎだぞ?」


「そうか、

 だが、私個人がキミに大きな恩を感じている。

 私に出来ることがあったら何でも言ってくれ。」


「わっは! 気にするな、【我が友】。

 【友】の間に、貸し借り、無い。」


「……うん。

 では、せめて【祝福】を贈ろう!」


ゼダックヘインの言葉に嬉しさが溢れ出し、僅かな祈りで盛大な光が降り注いだ。


逃避行先に獣人の国を選択して本当に良かった。


こんなに素晴らしい【無二の友】を得られたのだから。




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