自分が他者より劣る部分はわきまえるべきだ
夕食を終え、用意された客室へと戻る。
私たちは一旦集まって簡単な会議を行うことにした。
といっても交渉が上手く纏まったので、主に世間話のような話題が続けられる。
「いやぁ、なんか大国相手だ、って肩に力入れてたけどよ。
すんなりと上手くいっちまったな。」
「そうですね。
皇国の皆さんには獣人のような【善性】を感じます。」
「お、ベイデル、お前さんもそう思うか。
なんか雰囲気似てるよな?」
自分たちが好意的な印象を持たれていると再確認し、キシンティルクから嬉しそうな気配が漏れ出る。
私もベイデルらと同意見なのでさらに補足情報を入れた。
「天子殿は私と同じように【悪意】を感じ取れる。
恐らく悪意を排除していった結果、
獣人の国と似た気風が出来上がったのだろう。
もしかしたら他にもその力を持つ者が居るかもしれない。」
「なるほど。
他国との交流を絶っている【理由】として納得出来る。
それもまた獣人の国との共通性がありますね。」
確かにそうだと皆が頷いていく。
私では思い至らない推察がいくつも生まれていく。
幼い頃から【思考】をすることは出来ている私だが、己の知恵が高いとは決して思っていない。
私より頭の良い者たちを目の当たりにしてそれが実感出来ている。
「ジッガの【精霊の力】が国の偉い人たちに認められてる、
それでいて相手は【信頼】出来る国民性がある、
それなら獣人の国と同じように
【実りの種】の【先行投資】が出来そうだね。」
「そうだなゲーナ、
打ち合わせ通りチェチャル殿に伝えておこう。
今の内に伝えておけば、
明日の午前中に種の準備は間に合うだろう。」
想定の中でもかなり良い方向に進んだので【実りの種】の力も【交易品リスト】に入れても大丈夫だろう。
精霊国と交渉した際のチュバリヌのような【曲者ぶり】は皇国の人々に感じない。
皇国が多少富んだところで、こちらに害意を向けられる可能性は低い、と皆が判断したということだ。
ソムラルディの話では皇国に【実りの種】と同種の【術】は存在しないと言う。
それならば精霊国の時と同様に【実りの種】は貴重な【交易品】足り得る。
カンディが私に向かい得意げな笑顔を見せていたので、優しく頭を撫でておいた。
「文化水準の高さにも驚かされましたね。
様々な【娯楽】があることに
生活の【豊かさ】を感じました。」
ウーグラが自分の祖国と比較したのか、言い終えてため息を吐く。
「確かにな、
【工芸品】ってやつをもらったけどよ、
俺らの国で言う【工芸品】とは意味が違うって感じだよな。
あのカタカタ言う人形なんて【魔法】みてぇだぞ?」
ドゥタンが言っているのは【絡繰り人形】のことだろう。
アヴェーリシャでは【工芸品】とは、様々な模様の彫られた【家具】を意味していた。
貴族向けの高価な品なので、私たちはその存在のみ知っていた。
旅の邪魔にならないようにと、嵩張らない【工芸品】を【手土産】に貰ったのだが、祖国の品との違いに皆面食らってしまったようだ。
「ベイデル、
ルイガーワルドでは【工芸品】や【娯楽】はどんな感じだ?」
「うーん、
アヴェーリシャと大差無いですかねぇ?
ただ、最近は戦争によってしてませんが、
私が少年の頃は【競技】が盛んでしたね。」
話を聞くに、【競技】はスポーツのことだった。
私たちが村に居た頃にしていた『小石蹴り』のような遊びではなく、しっかりしたルールや道具を使ったもので、【プロ選手】が存在するほどの【国技】のようなスポーツなのだとか。
軽く内容を説明されたが、前世の知識のどれにも当てはまらないスポーツだった。
怪我の危険性が心配されるが、それを改善出来るなら自治区で広めても構わないと思う。
そう伝えるとベイデルが今まで見た事の無い笑顔を見せて喜んでいた。
「ああいうのって俺達でも作れるかな?
子供たちが喜びそうだ。
エンリケんとこ持ってったらどうだ?」
ツセンカがそんな提案をしてくる。
ますます【開発室】に引き篭もって外に出てこなくなる気がするのだが、皆は笑顔で賛成していた。
「自治区でも早く独自の【娯楽】が生み出せるようにしたいところだ。
しかし、それには生活に【余裕】が必要だ。
今回の皇国訪問で大量の移住者の件は何とかなるだろう。
だが【余裕】とまではいかない。
今後も努力していこう!」
「おぉ!」
「はい!」
「任しとけ!」
皆の力強い頷きに嬉しくなり、最後に【祝福の光】を降り注がせて会議の終了を宣言した。
ぐっすりと眠った翌朝、ゲーナに起こされて朝食に向かう。
体感で感じただけだが、皇国の人々から昨日よりも【活力】を感じられる。
【天子】快癒による精神的なものなのか、それとも何かの【術】なのか、後で誰かに訊いてみようと思う。
寝惚け眼の私と対照的に、忙しそうに食事の準備に動き回る人たちを眺めながら、そんなことを考えていた。
広い食堂で皇国の高官らと共に朝食を摂った。
チェチャルに先程思ったことを問うと『朝が一番【気功】が高まる』との答えをもらった。
昨日から思っていたが、皇国では【魔力】を【気功】、【魔法】を【術】と呼ぶ。
ソムラルディに言わせると厳密には違うモノらしい。
だが私の眼には同じモノとしか思えない。
朝食後に小部屋に案内され、【種】がぎっしり詰まった箱にカンディが魔力を注いだ。
普通の物と比較栽培を行い、今後の取引条件を決めようという話となった。
数ヶ月後が楽しみだ、いや、芽が出るスピードの時点で驚かれるかもしれない。
土に魔力を練り込んでおこうかとも思ったが、ゲーナたちに『それは交易品にならないから』と止められてしまった。
確かに私やリルリカたちが皇国までやってきて畑を耕しても、労力と釣り合う対価は得られないと思われる。
残念だがカンティの力だけでも充分と思い直し、次の【私の出番】となる場所へ向かった。
「よく参られた! ジッガ様!」
シェイピンが良い笑顔で訓練場のど真ん中に立ち、出迎えてくれた。
私たちに同行していたチェチャルが再度『わかってるな?』と念を押す。
鬱陶しそうな顔で手を振り彼を追い払い、私ひとりが中央に残された。
戦い易いようにと皇国風の稽古着を纏った私は少しの間準備運動をする。
ゼダックヘインのような『特別な理由』が私には無い。
【自己修復能力】を持たない私は、チェチャルが言うように怪我をしてはいけないのだ。
周囲は皇国の見物人で大賑わいとなっている。
やがて、ざわざわとした喧噪が近付いたかと思ったら、御簾に囲まれた御車に乗り【天子】が登場した。
片膝を突き礼を尽くす私に【天子】から声が掛かる。
「ジッガ殿、
そなたのお蔭で昨夜は久しぶりに健やかな眠りを得られた。
改めて感謝しよう。
我が国の秘伝の技も包み隠さぬので存分に見るがよい。
シェイピンには余からも伝えてあるが、
怪我をせぬよう気を付けよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「うむうむ」
普段はこんなところに現れないのだろう。
天子の御車が少し離れ場所に留まり、この勝負を観戦するのだと分かった人たちのざわめきが凄い。
昨日の謁見の間の様子を見ても、一般の人から見たら【天子】は雲の上の人という認識なのかもしれない。
それは下級兵士でも同じらしく、見物人は次々と増えていった。
「おおぅ、かなり人が集まってしまったな。
誠にかたじけないジッガ様、
見世物のような有り様となったが、大丈夫か?」
「構わない。
で、どのような勝負をする?
身体は充分に温まったから始めていいぞ。」
「お、そうか。」
シェイピンは一瞬、獣人が戦いに臨むような好戦的な眼になった後、場内に居た部下を呼び寄せた。
持ってきたのは私たちが【手土産】として持参した『エンリケ作製の槍と鞭』だった。
「ん?」とシェイピンの顔を見やると、彼は大きな声で説明を始めた。
「ジッガ様!
あちらに訓練用の人形が置いてあるのが視えるだろうか!?
アレは我らが【術】にて簡単には壊れぬ代物!
お互いが自国の武器を使い!
先にアレを破壊出来た方の勝利というのは如何か!?」
「ほぉ」
なるほど、どちらも怪我をしない勝負だ。
だが掛けられた【術】とやらが気になる。
「シェイピン殿、
人形に掛けられた【術】とはどのような代物か?
変に打ちかかって怪我をしたくないんだが?」
「うむ!
藁人形数体分を凝固させ密度を高める【術】である!
かなり固くなっておるからそのつもりで打ちかかられい!」
「なるほど、少しお時間頂きたい。」
「うむ! しっかり対策なされぃ!」
頷き、シェイピンから離れて仲間たちの所へ戻る。
心配そうな顔ぶれの中で、平然とこちらに観察眼を向けるものに問いかけた。




