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滂沱の日々  作者: 水下直英
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悪意無く人を騙してしまうことがある


 ようやく老人二人は戯れをやめ、私に【精霊の力】の発現を促してきた。


「いや済まぬ、つい興が乗ってしまった。

 ジッガ殿、【精霊の力】見せてくれぬか。」


「はい、

 ではかつての大戦により亡くなられた戦死者の魂の為、

 祈りを捧げても構わないでしょうか?」


「うむ、争いの悲惨なるは余を含め国の皆が未だ忘れ得ぬ。

 為るならば、彼らの御霊みたまを癒してもらいたい。」


「では」


私は両手を組み、祈りを捧げる体勢を取る。


背後で仲間たちも同じ体勢となったことが衣擦れの音で感じられた。



「戦いによって命を散らした勇者たちよ。

 争いに巻き込まれ命を儚くした者たちよ。

 その犠牲によりこの地には平和が訪れている。

 その魂に安らぎ在らんことを願う。

 さ迷うことなかれ、還るべき先は天の上なり。」


皇国の戦没者のため、おごそかに祈り続けた。



「ほぅ!」

「おぉぉっ!」

「なんと!」


私の身体から無数の魂の欠片が飛び出していく。


それは大国同士の激しい争いを物語るかのように、何千、いや何万という光の珠が次々と舞い上がり、謁見の間を光が埋め尽くした。


過去最大の光のうねりは、やがて微かな残滓を残しつつ、高い天井を突き抜け消えていった。


しばらくの間、部屋を静寂が支配していた。


私たち使節団は皇国の反応を待ち、口を開かない。


皇国の人々もまた、天子の反応を待っているのか驚きに言葉を失っているのか黙りこくったままだ。


恐らく一分以上、無音のままに時が流れた。


そして、やっと己を取り戻したらしき天子が言葉を発した。



「うむ、

 確かに、確かに見せてもらった。

 ソムラルディ殿も意地が悪い。

 『効果の分からぬ力』などとはのぅ。」


「ほぉ、

 天子殿は今の力のしるしをいかが感ぜられき?」


ソムラルディが興味深そうに問い掛けると、天子は穏やかに笑い答えた。


「余の大切な宝たる民の魂が慰められ、

 神の住まう天へと還っていった。

 余の胸に去来するは【つぐなえた歓び】なり。

 ジッガ殿、いや【巫女みこ】殿、感謝致すぞ。」


「いえ、罪無き者らが在るべき場所へ還っただけ。

 民を【宝】と心得る天子様の御心、見習いたく思います。」


「うむ、

 余もそなたの堂々とした振る舞いを見習おうぞ。

 我がガーランテとリベーレンの友好は成った。

 チェチャル、シェイピン、良いな?」


「はい」

「はっ!」


先程の文官と、反対側に控える武官が同時に応える。



 皇国の統領たる天子の了承は得られた。


丁寧に挨拶をして謁見の間を辞し、休憩するための部屋へ案内される。


後はいかに交渉を上手く運び、多くの支援と有利な取引条件を掴み取るかだ。


「御力を使いお疲れではありませんか?

 支援と取引を求められているそうですが、

 話し合いは明日でも構いませんよ?」


再びやって来た文官の【チェチャル】からそんな申し出を受けた。


「いや、お心遣いはありがたいが、疲れは感じていない。

 可能であればすぐに交渉の場を得たいと思う。

 みな、構わないか?」


「おぅ」

「大丈夫だよ」


仲間の頷きを確認し、チェチャルへ向き直る。


「そうですか。

 では会議室へ御案内致します。

 皆さま全員でご参加されますか?」


「あぁ」


「ではこちらへどうぞ」


チェチャルに連れられて行った先は重厚な雰囲気漂わせた大部屋だった。


指示に従い着席していくと、チェチャルは『担当の者を連れてきます』と言い残して去っていった。


仲間たちだけとなったので、みな緊張をほぐす。


「いやぁ、ここまでは順調だな。」


「さすがジッガだよぉ」


「ソムラルディ、キシンティルク、口添え感謝する。

 キミたちのおかげだ。」


「気をな抜きそ。

 粗忽者の癖ぞ怠りたらぬ。」


「そうだ、ジッガ。

 全て成功、そののち、喜べ。」


「あ、あぁ、すまない」


亜人代表の二人に揃って苦言を呈され、気を引き締める。


自らの発言の機会など考えてもいないドゥタンやツセンカが、真剣な声でゲーナやベイデルに「頑張れ!」と応援していた。


適材適所とも言えるが、本人たちも少しは努力して欲しい。



 そうしているとチェチャルが十人程の文官を引き連れて戻ってきた。


立ち上がり挨拶を交わしてみると、チェチャル本人が皇国文官のトップである【丞相】の地位にある者だと知れた。


交渉相手の最重要人物に先程まで身の回りの世話を任せていたのか、と顔を青くした。


『余計なことを言ってなかったか』と心配しながら始まった会議だが、チェチャルは話し合い初めからかなり友好的だった。


精霊国から【実りの種】の引換に巻き上げた通貨を元手に、色々な物資を提供してもらえることとなった。


食糧支援に関しても十年単位での返済を了承してくれて、『冬が無事に越せる』とゲーナを喜ばせた。


精霊国と同様に不可侵条約や今後の交易条件などを締結させていき、粗方終えたところで尋ねてみた。


「チェチャル殿、

 随分私たちに有利な条件で受けてくれたように思える。

 何か理由が?」


考えていたよりもだいぶ直球での質問になってしまった。


もっと話し方をハザラから学ぶ必要があるなと反省してしまう。


チェチャルは僅かに苦笑を漏らしたが、好意的な姿勢を崩さず答えてくれる。


「何、大した理由はありませんよ。

 ただ、お帰り頂く前に幾つかのお願いが有るだけです。」


「え?

 なんだろうか?」


「ソムラルディ様からジッガ様の御力の一端を聞き及びました。

 魔力を流すことで相手に【活力を与える】ことが出来るとか。

 それを是非我らが【主上様】へもお願い致します。」


「あぁ、それなら問題無い、うけたまわろう。

 この後にでもすぐ行える。」


「おぉ、ありがとう存じます。」


喜色を浮かべるチェチャル。


心から天子を敬愛している様子が伝わり微笑ましく思う。


「それと、……もう一つの方はお断り頂いても良いのですが・・・」


言い淀むチェチャルの様子に何かしら難題の予感を禁じ得ない。


「どんなことだろうか?

 こんなに支援を頂くんだ。

 出来ることならば全力で応えよう。」


「そう言って頂けるのはありがたいのですが、

 先ほど謁見の間におりました【シェイピン】の件なのです。」


「あぁ、先程の。

 強そうな御仁だったな。」


「はい、実際強いのです。

 だからこそ頭が痛いのです……、

 彼が皆さまの中の一番強い方と

 【腕試し】をしたいと言ってきかないのですから。」


「なるほど、そういう話か」


この話を聞いて、ひとり、目を輝かせるものが居た。


「ジッガ、シェイピン、確かに強いぞ。

 前に王様、戦った。

 王様勝った、でも、良い勝負だったぞ。」


キシンティルクが剛毛の下に喜色を隠して『受けて立て』と煽ってくる。


それを見てチェチャルが目を剥く。


まさか私が戦うのだとは思っていなかったらしい。


不安を滲ませた視線を送り続け、何度も『断っていいんですよ?』と言い募ってくる。


「いや、受けよう。

 貴国としても新たな友好国が弱小すぎというのは、

 かなえ軽重けいちょうを問われることと思う。

 丁度良い機会を得られたこと、感謝致す。」


「えぇ……、

 それでやはり戦われるのはジッガ様なのですか?

 他の方が務められては如何でしょうか?」


チェチャルの言葉を受け、仲間を見渡す。


ドゥタンやツセンカが力強く頷いているがのだが。


「戦うのは私だ。

 仲間を信じていない訳ではない。

 ただ、

 【我が友】ゼダックヘインと互角の勝負をしたと云う、

 シェイピン殿の力を私自身で感じてみたいんだ。」


「おぉ! ジッガ!

 王様! 喜ぶぞ!」


「任したぜジッガ!

 ぶっ倒してやれ!」


「怪我だけには気を付けてね!」


湧き立つ私たちにチェチャルが諦めたようにため息を吐いた。




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