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滂沱の日々  作者: 水下直英
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強かな人間は面の皮が厚くて手に負えない


 ある程度取り決めが終わり、解散を宣言する直前、ラポンソが口を開いた。


「あ、あの、チュバリヌ様、

 連邦からの避難民は先程の者で全員でしょうか?

 他にはいませんでしたか?」


ラポンソの必死さが窺える質問に、チュバリヌは口元に手を置き、考える素振りを見せた。


「そうですね、

 精霊国に逃げてきた方々はあれで全員の筈ですが……。

 お知り合いが見当たらないのであれば、

 恐らく【聖公国】側か北へのがれられたのでは?」


「そ、そうですか・・・」


あからさまに落ち込む表情となるラポンソ。


私もカンディらとはぐれて見つからなければ、あのような表情になることだろう。


「チュバリヌ殿、

 本日この自治区と貴国は友好が成った。

 我が区民の為にも、連邦からの避難民には手厚い保護を頼む。」


「えぇ、分かっております。

 ただし連邦側の避難民が移住する費用負担は致しませんよ?」


自分たちの策略で連邦は内乱が続き、ラポンソらは避難する羽目になっているのだが、彼女は罪悪感を然程さほど感じていないらしい。


踊らされている連邦の愚かな領主たちが一番悪いのだが、彼女にも少しはラポンソらをおもんばかる責任があるのではないだろうか?


多少不満の残った今回の話し合いだが、ちっぽけな自治区と中堅寄りの小国である精霊国との関係性を思えば、上々の成果を上げられた。


ハザラのおかげで交渉が成立したが、私もチュバリヌのような【したたかさ】を見習う必要性を強く感じた結果となった。




 キシンティルクには北側への警戒は不要と言われたが、扇状地北と北東には観測施設の建設が続行された。


途中で止めるのが勿体無いというのもあるが、避難民を迅速に発見する目的が大きい。


見付けてから集落まで連れ帰ることなく、詰所で手当てをすることも出来る。


既に何度かそれで新たな避難民を助けることが出来ていた。


だが、中には助からない者も存在する。


山中で行き倒れとなった遺体も数人分発見され、ラポンソらに面通しして知り合いかどうか確認したのち、手厚く葬られた。


中には知り合いの顔を見つけ出し、泣き崩れる者もいる。


自治区の墓地には、名の刻まれた墓と、無縁仏が少しずつ増えていった。



 新たに区民となったテント暮らしの移住者たちは、良く働いている。


土地を開拓し、家屋を建て、持てる技術を既存住人に伝えていく。


テントが徐々に解体され、代わりに住宅が増えていった。


私も彼らに負けぬよう、労働に勤しんだ。


畑に魔力を練り込み、草原に出掛けて焼け野原を回復させ、増えた集落を守る為に堤防を延ばしていった。



 そうしている内にキシンティルクの訪問を受けた。


皇国の統領たる【天子】からの返事が届いたのだ。


この世界では貴重な筈の【紙】による文面を読み進める。


ソムラルディに対しての過去の貢献への礼が丁寧に述べられており、恩を忘れない誠実さと生真面目さが感じ取られる上、さらに彼宛の短い手紙まで用意されている厚遇ぶりだ。


返書には【精霊の力】に関しても色々書かれており、その関心の高さが察せられる。


手応えは充分、といったところか。


何時いつでも来訪して構わない、歓迎する、という一文で手紙は締めくくられていた。


出向くならば情勢の落ち着いた今をおいて他にはないだろう、というソムラルディの助言もあり、準備出来次第向かうことが決定された。



 早速皇国訪問へ向けた人選について話し合う。


心情的にはハザラを連れて行きたいが、まだまだ完治に程遠い身体だ、無理はさせられない。


ソムラルディは確定として、ゲーナとカカンドも組み入れたい。


カンディも強く同行を希望している。


あとは道中で【魔物】が出る地域が有るとのことなので、戦闘要員を連れて行きたい。


ツェルゼンがいれば心強いが、有事の際に備え守りの指揮官として残すことにした。


彼とハザラがいれば多少の問題は解決出来るだろう。


アグトには移住者の住宅建設に必要な伐採作業を急ピッチで進めてもらいたい。


リルリカとマグシュには区民への【魔力循環】を任せたい。


エンリケは確実に断ってくると思う、素直に武器防具開発の許可を出しておく。


ハテンサはベルゥラを残して一週間以上出掛けることを嫌がると思われる。


となると後は、ドゥタン・キャンゾ・ツセンカあたりか。


他に希望者がいるかと募ったところ、ウーグラとベイデルが名乗り出た。


ウーグラは『信頼を取り戻したい!』と意気込んでいる。


結構根に持つ性格なのだろうか、今後不用意な発言は控えようと思う。


ベイデルは自分の提案の行方が気になるようだ。


ハッゲルからも『広い世界を見せてやって欲しい』と言われたので許可する。


こうして以上の十名が皇国への使節団として決定された。



 歴史ある皇国に持参するような手土産が、今の自治区には存在しない。


だが【手ぶら】で訪問というのは、いかにも外聞が悪い。


他国では入手不可能なもの、という観点から、エンリケが作製した【青銅製の槍】と、オークの腱やユメクイの舌などから造られた【伸縮する鞭】が、手土産として選ばれた。


エンリケから『こんなので大丈夫なの?』と問われたが、答えを返す者は誰も居なかった。



 旅の準備は万端整えられ、区民らの盛大な見送りを受けながら出発した。


まずはヌエボステレノスの首都であるヴァーブルドムバへ向かった。


キシンティルクが同行するというのもあるし、皇国へ先触れを出す必要もあったからだ。


途中でボストウィナの村へも立ち寄った。


「皇国の強い奴、【武人】と呼ばれてる。

 戦ってみろ、土産話にしろ。」


見送りの際、面白がって言う彼女に『機会が有れば』と返して出発した。



「よぉ! ジッガ!

 【グリフォン】、戦ったか?

 あいつら、すごく強いぞ!」


ゼダックヘインが開口一番能天気なことをのたまってくる。


「いや、グリフォンとはまだ会ってない。

 というか私たちはこれから皇国に向かうんだ。

 皇国について知ってることを教えて欲しい。」


言ってしまってから、キシンティルクが同行するのだから彼に何か訊いても無意味なことに気が付いた。


「そうだな。

 皇国、この国より、歴史長い。

 強い奴、いっぱい居る。

 たぶん、ジッガと同じ、魔法使い。」


「ほぉ、【身体強化】を使えるということか?」


「そう、だが、似てるけど違う。

 【気功術】、そう言ってた。」


「へぇ、初耳だ。」


話している最中にキシンティルクが現れたので、彼にも訊いてみる。


だが、【気功術】は皇国独自の技術らしく、詳しい事は分からなかった。


ただゼダックヘインが【強い】というのだから相当なものだと理解出来る。


機会が有ればその【武人】とやらの【気功術】を体験したいものだ。


先触れとして獣人の騎士が二人出発するのを見送り、王の館で歓待を受けながら一泊した。



 親愛なる国王の見送りを受けながら、朝早く皇国への旅が再開された。


キシンティルクと馬を並べて情報を交わす。


国内の各地域に深井戸が掘られたことと【実りの種】によって、獣人の国はかつてない豊作に恵まれる見込みなのだとか。


生育の早いところではもう収穫が始まっているらしい。


ボストウィナの住むフォノビリ村は初期から関わっていたので、早い時期での収穫も納得できるが、他の地域でそんな成果が上がっていることに驚きを禁じ得ない。


更に聞けば食料の確保に比例して、各村で次々に子供が産まれているそうだ。


恐らくほぼ偶然なのだろうが、豊作により妊婦に栄養が行き渡ったことと無関係ではないだろうと彼は言う。


ヌエボステレノスは中堅国と同等以上の国土の割に、人口が小国程度しか居ない。


私たちが広い扇状地一帯を借り受けられたのはそのおかげなのだが、いま獣人の国はじわじわと生活区域を拡大中なのだそうだ。


水の大切さが思い知らされる。


生活用水の有無がこんなにも影響するのかと、教養深いキシンティルクも括目する思いらしい。


私の方は精霊国とのやり取りについて伝え、チュバリヌのしたたかさについて注意喚起したが、『大丈夫、慣れてる』という返答だけ貰えた。


もしかしたら、キシンティルクもまた、【強か】な一面を持っているのかも知れない、そんな気がした。




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