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滂沱の日々  作者: 水下直英
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【心得違い】とは道に外れた考えのことだ


 今回の移住希望者二百名の中に、私たちへの【害意】を示す者は一人も居なかった。


チュバリヌも流石に猛省したものと見える、何度も調査を重ねたと己の苦労を声高に話していた。


真面目そうな外見とは裏腹に、非常にユーモラスな性格をしている。


彼女が精霊国で最も発言力のある議員とは、目の前で避難民たちに訓告を与えている様子を見ていても信じられない思いに囚われる。


精霊国を追い出された形の者らも五十名ほどいたが、なんの怒りも持たず、ただただ付き従っていた。


恐らく【犯罪者】と断じられた者たちの身内なのだろう。


感情は読めないが、人生を諦めたような表情が窺えてしまう。


事情の理解出来ぬ子供たち以外、精霊国と連邦の者たちは精神的に疲れ切っていた。


今は私たちに対して【無】の感情しか持たぬ彼らだが、何としても【好意】を勝ち取って我が国の一員となってもらわねばならない。


強制された【愛国心】など、次代に残らぬ欠陥教育だと身を持って知っているからだ。



 【演説】の為、用意された木製の台に上がり、避難民二百名を見下ろす。


私のような子供が何故ここに立っているのか、と次々いぶかしげな顔になっていく。


彼ら全員に聞こえるよう、私は魔力を込めた大声を上げる。


「リベーレン自治区へよく来た!

 この地をまとめる【区長】のジッガだ!」


途端にざわめく移住者たち、事前にチュバリヌがちゃんと私について説明してれば話は早かったのだが、今さら言ってもしょうがない。


ざわめきが中々収まらないため、上空に向け特大の【発破魔法】を投げ込む。


パァァァァン!!!


「静まれっ!!」


耳をつんざく破裂音が響き渡ったあとの、魔力による私の大声によって広場は一瞬にして静寂を取り戻した。


「今ので理解してくれただろうか!

 私は【魔法】を使える!

 精霊国の方々ならばチュバリヌ殿らと同じと分かってもらえるだろう!」


広場には私の声のみが拡がっていく。


「この自治区には私以外にも【魔法使い】たちがいる!

 諸君の生活に大きく役立つ魔法ばかりだ!」


『おぉぉ』と静かなどよめきが僅かに響き、すぐに消えた。


「諸君はやむにやまれぬ事情で国を追われた者たちだろう!

 私もそうだ!

 共に住まうほとんどの者がそうだ!

 祖国に苦しめられ、憎んでいる!

 諸君と同じようにだ!」


真っ直ぐに感情を乗せた私の言葉に、同じ境遇の移住者たちは力を込め頷いている。


精霊国の者たちもいるので、離れて聞いていたチュバリヌが苦い表情をしていた。


だが、そんなのに構っていられない。


「私たちで【国】を創ろう!

 皆が安心して暮らせる国を!

 子供たちが笑顔を絶やさず!

 大人たちはそれをいつくしむことが出来る国を!」


先程まで疲れ切った表情をしていた移住者たちの眼に、熱が戻ってくる。


「先程の説明にあった通り!

 我々が諸君に提供出来るものは少ない!

 だが!

 働くことが出来る! 変えていくことが出来る!

 家族を守ることが出来る!

 ここには! 諸君らに出来ることがたくさん有るんだ!」


私の言葉に頷く者が増えていく。


拳を震わせるものが増えていく。


「ともに生きよう!

 愚か者の指導者たちへ鉄槌てっついを下すために!

 生命いのちの価値を知らぬ者へ!

 死の苦しみつらさを知らぬ者へ!

 その拳を叩きつけるために生きていくんだ!」


オオォォォッ!!!

オオオォォォォッ!!!


移住者たちは勢いよく拳を振り上げ、私の激に呼応してくれた。


幼い子供たちも大人の真似をしてワァワァと叫んでいる。


私は彼らに手を振り、台を降りた。


代わってスムロイが台に上がり、テントへ移動させるための説明を始めた。


苦い顔をしたままのチュバリヌを招き寄せ、区役所へ向かい歩き出す。


今後のため、少し話し合うことがあるのだ。


『もうちょっと言い方を考えてくださいよ』『私完全に悪役じゃないですか』という愚痴は聞き流して歩き続けた。



 通い慣れた区役所の会議室に入っていく。


私たちの後に続いて仲間たちが次々と集結し、スムロイ以外いつもの面々が揃っていった。


座り慣れたいつもの席に着席して、周囲を見渡す。


さすがにチュバリヌも、この雰囲気の中で愚痴を零そうとはしないようだ。


「ではヘネローソ精霊国について少し話し合おうと思う。」


私の言葉にチュバリヌが目を丸くする、彼女の横に居るスィチャカも同様の表情をしていた。


「えっ? 移住者について話し合うんじゃないんですか?」


「誰もそんなことを言ってないと思うが?

 大事な話だから、落ち着いて話し合おう。

 いいだろうか?」


二人の表情が引き締まり、緊張感を漂わせ頷く。


国の規模的には圧倒的に彼女らの方が上なのだが、現状では何故か私の方が精神的優位に立っているような構図だ。


本来ならば、こちらが彼女の言葉ひとつひとつに気を配らねばならない立場だろう。


「話というのは我が【リベーレン自治区】と、

 貴女方【ヘネローソ精霊国】との関係についてだ。」


「【関係】とは?」


「現状我が自治区と精霊国との間には何の取り決めも為されていない。

 その認識で合っているだろうか?」


「え、えぇ、まぁ。」



 精霊国は獣人の国【ヌエボステレノス】と友好関係を築いている。


両国との間には【不可侵条約】が結ばれており、商人の行き来も自由にされている。


先日のレヂャンバ襲撃の際に国境の守りが皆無だったのには、そのような理由があった。


だから精霊国は獣人の国との約束を違えているのだが、キシンティルクは特に非難するつもりは無いらしい。


ゼダックヘインに至っては『今まで結構良くしてもらってるからそんなに怒るな』と訳の分からない説得をしてきた。


どう考えてもチュバリヌが獣人の【善性】に付け込んでいるようにしか見えない。


何も言われないからそのままにしてます、という態度がありありと分かる。


ユーモラスな態度に騙されがちだが、かなりしたたかな一面を持ち合わせているようだ。


さすが精霊国でトップを務める議員、といったところか。



「初めて来訪された際、【僅かな】支援を頂いたことには感謝する。

 ウーグラたち移住者も敬虔な生活態度で自治区に貢献している。

 だが、他の点では貴女方にいいように使われている、

 そう思えてならないんだが?」


「ジッガさん、それは誤解です。

 我々はリベーレン自治区と良い関係を築きたい、

 そう真摯に考えております。」


真面目な顔をして話すチュバリヌだが、その【胡散臭さ】に何故か笑いが込み上げてくる。


もしかしたらそういう【魔法】なのだろうか、そんな気すらしてしまう。


魔力を感じないので違うとは思うが、どんどん向こうのペースに巻き込まれていく。


「先日、ウーグラから【精霊国に実りの種を与えて欲しい】と陳情があった。

 あれは貴方の【差し金】か?」


「いえ、彼女の純粋な気持ちからの願いでしょう。

 今日連れて来た者らと違い、彼女は我が国に含むものがありませんから。

 今後もどうか自治区の一員として信じてあげてください。」


ウーグラは会議に同席している。


彼女を見やると少し悲しそうな表情で頷いていた。


「すまない、ウーグラ。

 決してキミのことを疑ったわけではない。」


「まぁ! つまり私のことを疑ったんですね?」


芝居がかったチュバリヌの言葉に何箇所からか笑い声が漏れた。


私も必死で唇に力を込めて口角を上げないよう努力する。


もはやらちが明かない。


「ハザラ、現状精霊国とはどんな【取り決め】が必要だ?」


「そうだな、

 ヌエボステレノスと同等の不可侵条約の締結、

 行商人の通行許可、移住希望者受け容れに関する費用負担、

 あとは【実りの種】についての取引条件、

 んで、【自治区】に関しての【情報制限】、てとこかな。」


ハザラの述べた五つの条件に、チュバリヌは困惑の表情を見せた。


「あの、四つは理解できたのですが、

 最後の【自治区の情報制限】とは?」


「自治区で得た我々に関する情報を【他国】に漏らすな、って話だ。

 連邦や聖公国に情報を流してるのはお前さんの仕業なんだろ?」


「まぁ! そんな!

 ……ほほほ。」


言葉の前半は心底驚いたような表情を浮かべたが、私たちのジットリとした視線を受け、後半は笑って誤魔化していた。


「連邦の領地同士が争ってるのも、

 お前さんが情報操作してるからじゃねぇか?

 さっきの移住者たちにも何か情報を与えてんだろ?」


「ほほ、自治区のご迷惑になることはありませんよ、

 お約束致します。

 ただ、ちょぉっとだけ、

 精霊様に力が戻れば自治区に援助出来るのになぁ~って伝えただけで。」


「正直に言ってくれるのはいいが、

 まずは段階を踏んで友好を高めてからだな。

 精霊国は人間国共通の通貨を扱ってるんだよな?

 ジッガ、【実りの種】は金次第で渡せばどうだ?」


ハザラの追及により、チュバリヌのしたたかさが明るみに出た。


国の窮状をあれだけ訴えて戦後補償を極小に抑えたのに、【実りの種】はかなりの金額で買い取ることを了承している。


前回手玉に取られたことを察したゲーナとカカンドが、顔を強張こわばらせて交渉を見守ることとなっていた。




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