相手を理解出来ぬまま受け入れる事は出来ない
ナパリィの魂が空へと還っていってから、数日の時が流れた。
彼女の両親は娘の死と逃避行により衰弱していたものの、【魔力循環】が効いたのか状態は安定したと聞いている。
彼らの他にも十名程、続け様に避難民が保護され続けている。
避難民たちから得た情報によると、連邦最南端の小領地では、やはり私たち【リベーレン自治区】を危険視した動きが始まっているらしい。
七つの小領地同士の戦いには無かった、【魔法使い】を複数人抱えた部隊による精霊国との戦闘の様子が大袈裟に伝えられているようだ。
我々に対抗するためなのか、連邦国内の各領地では【魔法使い探し】が躍起になって行われ始めた。
【魔法】について然程知識の無い連邦では、少しでも疑わしい人物をどんどんと攫い始めた。
特に子供を重点的に狙っている、というのは私たちの情報が伝わったことに関係あるのだろうか?
その為、我が子を連れ去られまいと親子が次々と逃げ出す事態となっている、ということらしい。
逃亡先としては精霊国が多く選ばれているのではないか、ということも聞いた。
弱者を守る精霊信仰が広まっている国なのだから、それも当然と思えた。
こちらに避難してきた人々は全員が連邦最南端の領地の者たちで、選択肢も無く山林へと逃れ、魔物に怯えながらも幸運に恵まれ辿り着けたのだとか。
以前ゲーナから聞いた【安心して暮らせる国】の条件に照らし合わせれば、連邦は愚か極まりない行いをしていると言える。
ナパリィの両親は衰弱した身のまま、祖国への怒りと恨みを口にしていた。
連邦の指導者たちにアヴェーリシャの愚かな王族貴族共の姿が重なる。
いずれ、そいつらにも死の苦しみを味わわせ、ナパリィら犠牲者たちの魂を慰める礎となってもらおうと心に決めた。
今日もまた、スィチャカがヘネローソ精霊国からの使節として案件を持ち込んでいた。
チュバリヌはレヂャンバ暴走の後始末に未だ奔走しているとのことで、精霊国内の動揺が窺える。
今回の【案件】は、またしても【移住者の受け容れ願い】だった。
前回と違うのは、移住希望者の大多数が【連邦からの避難民】だということだ。
その数は二百を超えるという。
国内の食糧事情、レヂャンバの暴走による悪影響、そういった理由が重なった結果、こちらに【丸投げ】しようという虫の良い話だった。
スィチャカを別室に待たせ、私たちは区役所で会議を始めた。
いつものように、まずカカンドが口火を切る。
「数が多過ぎるな。
けど、食いもんは間に合うっちゃ間に合う。
そうだなゲーナ?」
「うん、保管庫の建設が間に合わないぐらい収穫されてるからね。
でも総人数が三百から急に五百に増えるとなると少し厳しい。
計画を大幅に見直してみなくちゃはっきりしないけど、
畑を一気に拡張しないと冬の時期を越せないと思う。」
ゲーナの答えに、みな眉をひそめて考え込んでしまう。
私も腕組みし、この難問の答えを探そうとヒントを求めた。
「スムロイ、過去にこういった経験は?」
「村でも国への反逆者を度々匿った。
しかしこんな急激に村人が増えることなど無かったのう。」
「ハザラ、キミは?」
「俺らが一斉蜂起した時ぁ、
あの馬鹿公爵が結構溜め込んでたからな。
あと、近隣の貴族を襲撃し食料を奪ったりして賄った。
あんま参考になんねぇな。」
「そうかぁ」
ため息を吐きながら一度上を見上げ、視線を下ろすとラポンソが申し訳無さそうに身を縮めていた。
「ラポンソ、今回のことはキミたちのせいじゃない。
そんなに気に病むことはないんだ。」
「そう言ってくれるのは有難いけど、
私たちもまた、世話になってる身なので・・・」
「世話になってる、じゃなくて【共に生きている】んだ。
もう農作業には慣れたか?
そう言えば、連邦では何の仕事をしてたんだ?」
彼の気持ちを解そうと、少し世間話を振ってみた。
「あぁ、【鍛冶】をしてたんだ。
連邦では各地で【鉄】が採れるからね。」
「げ! そんじゃあ連邦の兵士たちは【鉄装備】ってことか?
やべぇじゃねぇか、そりゃ。」
「あ、いやそんなに豊富に出る訳じゃないさ。
たぶん兵士の一割も装備出来て無い筈だね。」
「それでも千人以上【鉄装備】がいる計算だ。
領地軍でも百人ぐれぇは居そうだな。
弓矢が効かないのは怖ぇな。」
「いや、連邦では防具に鉄を使わないよ。
重過ぎて動けなくなるから。
鉄の槍と鉄の盾が精々かなぁ。
余った鉄は交易品になるし。」
「それでも充分脅威だな。」
世間話のつもりが思わぬ情報を引き出した。
自分では大した情報のつもりが無くても、他人からしたら貴重なものになり得る。
もっと話し合う必要性があるだろう。
とは言え、今は精霊国経由の連邦移住者について話し合わなければならない。
「獣人国に支援を申し出るのはどうだい?」
「貸してくれ、と言ったら貸してくれそうではある。
だが、彼らの【善性】に付け込むような真似はしたくない。」
「あっは、我らが【区長】は誇り高いね。
じゃあそれは最後の手段てことになるか。」
ハテンサが快活に結論付ける、確かチュバリヌと同い年のはずだが若々しい精気が漲っている。
ベルゥラは父親似なのだろう。
「ジッガ、受け容れを拒否するつもりは無いんだな?」
「あぁ、悪意持つ存在でなければ全員引き取る。
移住希望者の内、五十名程が子供と聞いている。
【子供を大切にする】ことは、
私たちの国の【国是】の一つと心得て欲しい。
子供が安心して暮らせぬ国で、大人が安心して暮らせる筈が無い。」
私の言葉に、ゲーナが嬉しそうに微笑んでいる。
逃避行を共にしてきた【仲間】たちもまた、笑顔を見せていた。
「ジッガ様!
素晴らしいお考えです!
ここへ移住してきて良かったと改めて思います!」
「ありがとう、ウーグラ。
で、今回の移住希望者には精霊国の者らも混じっているんだろう?
どんな人々なんだ?」
「レヂャンバ失脚によって精霊国で生活出来なくなった者、
と聞いております。
前回の生き残り含め【犯罪者】は居ない筈ですが、
もし【害意】ある者が居たならばお教えください。
我々が責任持って【排除】致します。」
「あぁ、うん、任せるかもしれない。」
精霊国からの【刺客】を捕らえた一件で、私が生体看破で【悪意】や【害意】を感じ取れることが知れ渡った。
区民の中には、私に【畏れ】の感情を抱く者が現れ始めたと聞く。
人の考えを読める【異能の存在】という認識に変わったのだろうか?
実際にはそんなことはなく、畏れられていることに全く気付いてなかったのだが。
いずれゼダックヘインのように、【異能】を受け入れられる存在になりたいと思う。
「子供が増えるならば【学校】を建てては如何でしょう?
ルイガーワルドでは村や街など関係なく学びの機会があります。
規模の違いはありますが、
王や精霊に関する知識を増やすことには大切な【価値】があります。」
兵士団参謀のベイデルが初めて意見を述べたので、注目が集まる。
確かに学校はあれば良いものではあるが、今の議題に相応しいと思えないのだが?
元教師であるカカンドが嬉しそうな表情を見せたものの、また難しい顔をし始める。
すると、若き参謀は照れたような表情で、さらなる提案を差し出してきた。
「教育によって人は他人との交流を図れるようになります。
【自治区】も交流の幅を広げては如何でしょうか?
東に友好を図れそうな【大国】が在るではないですか。」
「ガーランテ皇国か!」
会議の場が一気に熱を帯びた。
話に聞く彼の大国ならば文化水準も高く、北側の不作などに経済が左右されていない筈だ。
「【交流】といっても何を【取引】するんじゃ?
我らは食糧や生活物資を望むとして、
向こうが興味を持つものなど自治区には無かろう?」
「そうだな、
いずれ【果実】が生れば貴重な【交易品】となるが、
現状では特に思いつかないな。
ベイデル殿、心当たりはあるのか?」
私の質問に、また彼ははにかんだ笑顔を見せた。
「いえ、ハッキリとした品は思いつきませんが、
ジッガさんの【精霊の力】などはどうでしょうか?
あの力を目の当たりにすれば皇国も興味を持つと思うのですが?」
「【精霊の力】か、アリかもな。
【魔法】に関してだと皇国も長い研究の歴史があるみてぇだが、
【精霊の力】なら世界的に貴重なもんだ。
そうだよな? ソムラルディ?」
カカンドの問いにソムラルディが重々しく頷く。
「然り。
【精霊の力】は皇国も興を持つべき。
されど左程に助けを得らるるやは疑問なり。
いまひと工夫もがな。」
「ひと工夫、か。
交渉の仕方を考える、ということか?」
私の疑問にはハザラが答えてくれた。
「いや、交渉の【起し】としては獣人の王様に頼むしかねぇ。
そんで上手い具合に皇国の気を引く情報を伝え、
皇国の使節を迎え入れるとこから始めなきゃな。
交渉の仕方に工夫する余地はあんま無ぇぞ。」
「そうなんですよね。
ジッガさんの力を魅せつける為の前準備が難しいし、
その魅せ方もまた難しい。
なにせこちらはまだ【国】としての立場も無いですからね。」
「だよなぁ~」
両手を頭の後ろに置き、お手上げの様子を見せたカカンドを筆頭に、皆の口数が急激に減った。
と、ここで私の斜め後ろに控えていたカンディが呑気な声を上げた。
「じゃあさぁ、ジッガが直接その皇国に行けばぁ?
ゼダ王みたいにさぁ、すぐに友達になればいいんだよぉ!」




