表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滂沱の日々  作者: 水下直英
70/123

悪意と善意とそれ以外の意志の集まり


 確かにそうだ。


あの馬鹿共のことだ、『我が国の民なのだから【リベーレン自治区】とやらも我が国の物だ』と言い出しかねない。


早く死の苦しみを味わわせてやりたい。


「ただまぁアヴェーリシャは簡単にここまで来れないからな。

 その、話に聞く【断崖の細道】ってのは潰しちまったんだろ?

 そこ以外の【ルート】なら無理だな。」


「うーん、一度確認に行った方がいいな。

 村から断崖までの道を整備してきてしまったんだ。

 発見されているかもしれない。」


「そんな余裕なことしてるとは思えねぇが、

 そうだな、確認は必要だ。

 だが、警戒すべきは北の【連邦】だろうな。」


「やはりそうなるか」


リベーレン自治区と唯一接した国境を持つ【オンベリーフド連邦】。


精霊国と戦って勝利した人間の集団がすぐ南にいる、というのは看過される事柄ではないだろう。


それに私たちは既にラポンソら避難民を受け容れてしまっている。


いつ兵を向けられてもおかしくない状況だ。


現世では【国際法】など存在しない。


宣戦布告無しの【戦争】は現世でも褒められたことではないが、各国が協同して非難する程のものでもない。


アヴェーリシャが周辺国の反感を買ったのは、ただ単にあの国が愚かだったからだ。


動きを見張る為の観測施設を建設中だが、連邦と接する国境は広い。


全方面を警戒することは不可能だろう。


「国境を越える、ということは、

 獣人の国にも戦争を仕掛ける、ということだ。

 軽々しく出来るものではねぇだろう。

 だが、精霊国の例もある。

 小領地の暴発を警戒しねぇとな。」


「そうだな、

 その場合、兵力はどれくらいになるだろうか?」


「ん……、七つの小領地が集まる中堅国、

 ラポンソの話だと、多くて五万人規模か。

 うち一つの領地の兵力、二千人は超えないだろう。」


「こちらは二百、向こうは二千、か。

 連邦が全力ならば一万を超える兵力が有るというのは怖いな。」


顔をしかめる私にハザラは笑いかける。


「いやいや、ラポンソから聞いてるだろ?

 領主たちの仲の悪さをよ。

 俺らを攻めて奴らに何の得があんだ?

 精々一番南側の領主がちょっかい掛けてくる程度だろうよ。」


「ん、そうならいいんだが……、

 あまり楽観はしたくないな。」


「人間なんてみんな欲深ぇんだからよ。

 それぞれの【行動原理】ってやつを考えるんだ。

 無駄なところに気を配ってると、

 本当に必要なとこに間に合わなくなんぞ?」


「なるほど。

 心掛けよう。」


治療を終え、子分に両脇を支えられながらハザラは出て行った。


またカカンドらと会議を行うのだという。



 周辺国の動きに頭を悩ましため息を吐いていると、聴き慣れてしまったエルフの嫌味が背後から襲ってきた。


「げにヒトの欲深さは心得るべからず。

 他者を屈服せさせ何や楽しき。

 争いの果てには死と徒労いたづらさばかりの待つにな。」


森で静かに暮らすエルフから見たら、争ってばかりの人間など【魔物】と変わらぬ存在に思えるのかもしれない。


考えの理解出来ない存在、村でゴブリンと戦った時、私も胸に抱いたことを思い出させた。


ふと気になり、問いかけてみた。


「ソムラルディ、

 キミの【行動原理】は何だ?

 何を望んで【生】をまっとうしたい?」


「そうぞな、

 知識を深め【偉大なる魂】を心得ばや。

 そは我ばかりならず、

 森の民全ての願いにもあり。

 その先に何のあるやはまた別の話なれどな。」


「うん、なるほど」


予想通りの答えが返ってきた。


偉大なる魂へ通ずるであろう、私の【精霊の力】に執心するわけだ。


「カンディ、

 キミはどうだ?

 人生に何を望む?」


「そうだなぁ。

 ジッガと出会ってから、楽しいことが増えてるから、

 もっとジッガと一緒に居たい!

 あ! マグシュが言ってた【滝】を見てみたい!

 今度一緒に行こぉ!?」


「わかった、西の巡察の時連れて行こう。

 先生、キミはどうだ?」


「そうじゃのう、

 この歳まで生きるのに必死じゃったからなぁ。

 残り少ない寿命で、人の役に立ち続けられれば、と思っとる。」


「あぁ、先生に私たちは助けられてるぞ。

 誇りに思って職務を全うしてくれ。」


「ふぁふぁ、相変わらず小生意気なことを言う。」


訊いてみると改めて皆色々考えて生きているのだな、と感じられた。


その日は会う人全員に『人生に何を望むか』を訊いて回った。


様々な意見が聞けたが、マグシュ含め同年代の少年たちが声を揃えて『美味いもの食べたい!』と言っていたのには笑ってしまった。


皆の人生への希望を聞き、やはりこの【仲間たち】を誰一人死なせたくない、と強く思った。


ゼダックヘインも同じように思っているのかもしれない。


守るべき民、それがどれだけ大切なものか、と。




 北への警戒を強める中、今日も訓練場を訪れ身体を動かす。


鍛練している時は余計なことを考えずに済む。


頭をからっぽにしてツェルゼンから格闘術を学んだ。


充分に運動した後、歴戦の老兵と戦談義をしてみる。


「うむ、二百対二千か。

 当たり前に戦えば、まず勝てんな。」


経験豊富な老兵士から見ても無謀らしい。


と、逆に問い掛けられた。


「ハザラは何と言っている?」


「山の中に【罠】を仕掛けておくべきだと。

 真面まともにぶつからず、

 相手の兵力を少しずつ削ぐ作戦しかない、と言ってた。」


「だろうな」


むっつりと黙り込んだ老人だが、私は何とかして戦いの知識を増やしたい。


「二千人の兵力を、

 どれぐらい削れば撤退すると思う?」


「こちらの兵力を損なわないまま、という前提なら、

 三割も削れば完勝だろう。

 指揮官がどんなに言っても下が逃げ出すはずだ。」


「六百人か、こちらは二百。

 この前の百人の騎兵に奇襲した時は、

 斉射二回と私の炸裂魔法で一気に五十人近く斃せた。

 それを十二回か、至難の業だな。」


「お主の炸裂魔法は何回も使えんだろう。

 もっと難しくなる。」


「むぅ、三回はいけると思うが」


魔力の調整が出来るようになったおかげで、三連続ぐらいなら可能と思う。


一撃と決めて強烈に練り込んだならば、オークの群れを撃退した時より広範囲の爆発を起こすことも可能だろう。


それでも六百人を一度には斃せない、数十人が精々と思われた。


二百人を一度にほふったという【魔炎弾】の恐ろしさが分かる。


「他の連中はどうだ?

 ソムラルディに師事して魔法は上達しとるのか?」


私の背後にチラリと視線を送ったあと、ツェルゼンが興味深げに訊いてきた。


「ゲーナの氷結魔法とリルリカの風魔法は罠や陽動で使えると思う。

 マグシュの火魔法は一人に火傷程度なら、ぐらいだ。」


「エンリケとカンディは問題外か、

 そもそも戦に向いとらんからな。」


「あぁ、ベルゥラも同様だ。

 アグトは【身体強化】だけだな。」


「ふっふ、それでも近頃はだいぶマシに戦えるようになった。」


ドゥタンやキャンゾに刺激されたのか、アグトは熱心に訓練を重ねている。


最近【身体強化魔法】に目覚めかけている歳の近い二人に、ライバル意識を持っているのかもしれない。


「これだけ【魔法使い】がいる部隊など聞いたことが無い。

 ある程度の兵力差ならばひっくり返せる。

 と言ってもよくて三倍程度の相手、魔法使い無し、のな。」


「ぬぅ、ハザラの完全復活に期待したいな。」


「確かに彼奴きゃつの力は当てになる。

 だが所詮一人の力だ、過度の期待はするな。

 彼奴には部隊指揮能力にこそ真価が有る。」


「なるほど」


戦いの話になるとこの老人は饒舌じょうぜつになる。


ハザラの正体を知った時などは、すぐさま会いに行っていくさ談義をしたと聞いている。


獣人に近い気質なのだろう。


この国に来て真っ先に獣人たちへの好感を口にしたのはこの老兵だった。


そんな者でなければ、貴族に睨まれはりつけになったカカンドを助けたりしないだろうと納得も出来る。


「今出来ることは【先制攻撃】を受けないよう気を配ることだな。

 ワシらの方が数が少ないのだから、

 先に痛撃を受ければそれだけで負ける。

 戦いは指揮官の思い通りになぞならん。

 兵士一人一人の精神状態も勝敗を左右する要素だ、忘れるな。」


兵士たちの気持ち、か。


味方の兵士たちに『負けるかも』と思われた時点で敗北は必至となる。


いかに自陣を鼓舞し、敵陣の意気をくじくかに心を砕かねば。


ツェルゼンに礼を言い、訓練場脇にある井戸に向かい水を浴びる。


風邪をひかぬよう、カンディが魔法で身体を温めてくれた。


こういう魔法は色々使えるのに、攻撃魔法はまるで覚えない。


ツェルゼンが言うように戦いに向いていない性格が原因なのだろう。



でもそれでいい


彼女ら戦えぬ者の分も私たちが槍を振るおう


皆が安心して暮らせる国、それが現実となったならば


きっと彼女のような者たちこそが


人々の役に立てる存在となるのだから




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ