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滂沱の日々  作者: 水下直英
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一度好きになったら中々嫌いになれない、逆に


 初めての【戦争】を経験し、リベーレン自治区は色々な変化を起こした。


老若男女で構成された総勢二百名の警備団員たちは集団行動の大切さを身を持って知り、訓練に真剣さが備わった。


カカンドら上層部もヘネローソ精霊国との【外交】を経たことで、国家間のやり取りの難しさを肌で感じることが出来た。


また今回の件を踏まえ、西の山間やまあい獣道けものみち周辺では、戦闘でこちらが有利になるような防備機構が幾つか開発されていった。


そしてそれを北側のオンベリーフド連邦との国境でも活用すべく、扇状地北の山林の中に観測施設と詰所が建てられることとなった。



「しかし、実質的なものは何も得られなかったな。」


「無い物は取れないよ。

 思ってた以上に精霊国が貧乏だったんだから。」


そう、結局ヘネローソから【戦後補償】は殆ど貰えなかった。


今後三年間、作物の実りの時期に少しばかりの食糧を持参してくる、という条件で手打ちとなったのだ。


攻め込んできた騎兵の馬が八十頭近く生き残ったので、それは貰い受けた。


騎兵の装備はお粗末なもので、エンリケが初期に造った木製防具の方がマシに思えた、全て廃棄してある。



「馬を貰ったはいいが、

 【牧場】を造らなきゃならなくなるとはな。

 訓練場近くのあの柵だと駄目みたいだぞ?

 もう何頭か逃がしてしまったらしい。」


「【牧場】って言ったってどこに?

 馬ってすっごく食べるんだよ?

 もういっそのこと【草原】に連れてっちゃう?」


「それで魔物が出たら即全滅だな。

 警備範囲内で良さそうな場所は無いか?」


「う~ん、

 警備区域を延ばして山道の手前辺りに造るしかないかなぁ?

 あそこら辺なら馬の食べる草もいっぱいあるでしょ?」


「その線で行くしかないな。

 アグト、柵を造る資材は大丈夫か?」


「資材は大丈夫だが建設期間が問題だ。

 大工が出来る者が限られてる、二週間は掛かるぞ?」


「太い杭で周囲を囲んで縄を張れば?

 縄はエンリケとベルゥラに作ってもらってさ。

 それならもっと期間が短縮できるよ。」


「もうそれで行こう。

 その間に何頭か逃げ出しても諦めるしかない。」



 色々な案件が重なったあおりを受け、【牧場建設】という問題が【ジッガ団】に回されてきた。


簡単な手綱を装着された裸馬に乗るのもだいぶ慣れてきている。


目的とする山間やまあいの獣道手前まで、みな乗馬して向かうことが出来た。


最近の引き篭もり具合を心配してエンリケも連れてきているので、久々に【ジッガ団】全員揃っての行動となっている。


「くぁー、久しぶりに馬に乗ったからお尻が痛いよ。」


「エンリケはもっと身体を動かした方がいいよ?

 私とマグシュみたいに色んな仕事してみれば?」


「えぇ……、でも造らなきゃいけない物いっぱいあるし。」


「エンリケの魔法は貴重なるものなり。

 今は彼のみ出来ることをやらすべきぞ。

 その方が皆の為になる。」


「ですよね先生!」


ソムラルディの言葉にエンリケが喜色を浮かべる。


牧場建設のためにジッガ団のほか、お目付け役数名と若い警備団員が作業員として付いてきていた。


いま私はドゥタンとキャンゾと共に牧場づくりに励んでいる。


縄を張る為の杭を丸太で打ち込んでいる横で、爺ぃエルフと引き篭もりは先程から見物を決め込んでいた。


「エンリケ、リルリカ、

 休憩はそれぐらいにしてアグトたちを手伝ってこい。

 ソムラルディ、

 キミもこんな時に何か役立つ魔法は持ってないのか?

 カンディの精神安定魔法のような。」


私の視線の向こうでは、カンディが馬たちに魔法をかけて回っている様子が見える。


彼女のおかげで馬たちは大人しく群れで草をんでいた。


「カンディの魔法も【ありがたき】ものかな。

 君の炸裂魔法ほどならねど。

 我は破壊魔法が得手なればな。」


「壊すのは得意だが創るのは苦手、ということか?」


「む、その言い方は気に入らぬな。

 では少し我が力を見せむ。

 馬ぞ逃げぬべき、

 それにてありぬべしな?」


「あぁ、そうなんだが、

 何をする気だ?」


「まぁ、見たりしまえ。」


私の挑発に乗ったソムラルディが近寄ってきて、なにやら精神統一を始めた。


魔力を練っている様子が伝わってくる。


本当に何をする気なのだろうか?



「ソハッ!」


ソムラルディの気合いの掛け声とともに地が揺れた。


慌てて飛び退すさると同時に、彼の眼前で土が盛り上がり、壁が形成されていく。


横に居たドゥタンらが驚きに目を見張る。


土壁が連鎖するように繋がっていき、あっという間に十メートルを超える防壁が出来上がった。


厚さは一メートル、高さは三メートル、といったところか。


そういえば以前の一人旅の際、『土魔法で野営をするから心配無い』と言っていたが、このことなのだろう。


「いかがかな?

 破壊ばかりならぬ、

 わかれりやな?」


少し息を荒げたまま、爺ぃエルフが得意気に振り返る。


確かに大した魔法だが、この土壁はずっと残るものなのだろうか?


何日かで崩れるようなら、ただ単に杭を打ち込むのに邪魔なだけなんだが。


しかし言い方に気を付けねばならない、爺ぃはすぐにへそを曲げる。


「うん、大したものだ。

 これはどのぐらいの期間保つものなんだ?」


「魔力練り込まれたるなり。

 壊さんとせずば、かなりの年月保つぞ。

 深き森では魔物除けに周囲をこれに囲めるほどなり。」


「へぇ、結構丈夫で保つんだな。

 でもこれだけではな。

 杭を打ち込んで縄を張っても大差無いかもしれないな。」


「ぬ、見よ。」


挑発に乗ったソムラルディはそれから更に二十メートルほど土壁を延ばしたが、『少しだけ休む』と言い残して木陰へ去っていった。



 ソムラルディが去った後、ドゥタンとキャンゾが呆れたように感想を漏らす。


「なんかあれだな。

 エルフって言っても人間の爺さんと変わんねぇな。」


「本当だな、無理して体調崩さないといいんだが。」


「エンリケと同じだ、たまには運動をさせた方がいい。

 さ、続きを始めるぞ。

 有るだけ打ち込んでしまおう。」


「あぁ」


再び三人で作業を始める。


見物人がいなくなったおかげか、スムーズに作業が出来た。



 牧場づくりが開始されたが、そればかりする訳にはいかない。


獣人国内に深井戸を掘りに出掛けたり、畑の拡張を手伝ったりと、やることはかなり多い。


【魔法】に関連した作業は私たちしか出来ない為、あちこちを飛び回ることとなってしまう。


今は区役所内の医療室にて、イスレノの治療をカンディと二人でおこなっていた。


肘から先を失っていたはずの彼の左腕は、もう少しで手首を形成しそうなぐらいに回復してきている。


「いやしかし、本当にすごいのぅ。」


横で見ているコゥヌス医師も改めて感心した様子で彼の腕をとって眺めていた。


「本当だよな、早く訓練に参加してぇよ。

 でもツェルゼンさんが

 『変な癖がつくから完全に回復してから参加しろ』

 って言うからさ。」


「戦闘に関してはツェルゼンの言が一番信頼出来る。

 きっと正しいのだろう、

 大人しく従っていればいい。」


「そうだな、畑の小石取りも大事な作業と思って頑張るよ。」


「実際大事だ、頑張ってくれ。」


生えかけた左腕を振ってイスレノは農作業へ向かって行った。


すぐに次の患者が子分に支えられやってきた。


「よぉ、ジッガ。

 今日も頼むぜ。」


ハザラが上機嫌で椅子に座る。


イスレノの左腕を目の当たりにして、己の身体に明確な【希望】が見えたのだろう。


【魔力循環】を行いながら、【魔法】について尋ねてみた。


「ハザラ、キミの魔法は【身体強化】だけか?」


「おぅ、そうだな。

 他の魔法はやってみたが使えなかった。」


「【やってみた】?

 他の魔法を誰かに教わったことがあるのか?」


「あ、……まぁな」


急にバツが悪そうな表情に変わり、ハザラは口をつぐんだ。


人には誰しも事情がある。


言いたくないことなら言わせないでおこう。


「じゃあその話はもういい。

 外交問題についても訊きたい。

 今後私たちに干渉してくる国は有るだろうか?」


「有るだろうな。

 精霊国との小競り合いはもう各国の耳に入ってるだろう。

 アヴェーリシャが絡んでくる可能性だって有る。」


祖国の名を聞き、私とカンディは身を固くした。




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