表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滂沱の日々  作者: 水下直英
68/123

望まぬ謝罪は嫌がらせなのだと気付いて欲しい


「大変申し訳ございませんでした!」


もう何度目の謝罪だろうか?


チュバリヌとスィチャカが揃って頭を下げている。


少々うんざりしているのだが、事前にカカンドやハザラから『甘い顔を見せるな』と釘を刺されている。


『もう謝らなくていいぞ』と言ってはならないらしい。


言葉を選びつつ口を開いた。


「うん、それはもう分かった。

 事前情報をくれたスィチャカ殿にも感謝している。

 だが、攻め込まれて何も得る物が無い、というのはな。

 命を賭けて戦ってくれた兵士たちに申し訳が立たないし、

 死なせてしまったキミたちの国の者らにも済まない気がするんだ。」


「大変申し訳ございませんでした!」


何だろうか?


二人してふざけているのだろうか?


内心少し笑いが込み上がりそうになっている。


命懸けの戦いを強いられたし、私はまた人殺しをしてしまった。


笑えるような精神状態にない筈なのだが、二人の息の合った謝罪に正直なところ気勢を削がれている。


笑い出す前に何とかすることにした。


「ゲーナ、少し任せる。」


「はい」


ゲーナに振ったあと、頭を抱える振りをして笑顔を隠した。


頼れる仲間は全く笑うことなく交渉を始めている。


ふと、索敵に覚えのある存在を発見した。


「ゼダックヘイン様が到着したようだ。

 私は少し席を外す、

 戦後補償の話はこのままゲーナとカカンドに預けていいな?」


「あぁ」

「任されました」


『では』と軽く挨拶したあと部屋を出て広場へ向かう。


そこには【王様】が供も連れず、呑気にアグトと力比べをしている姿があった。



「うんうん、お前もなかなかだ。

 いいぞ、いい【力】だ。

 今度闘ってみよう。

 お、ジッガ! 心配したぞ!

 でも、勝ったみたいだな! さすがだ!」


「あぁ、ありがとう。

 それで、なんで一人なんだ?」


「心配だったからな、

 全速力で来た、ほかの者、ついて来れない。」


「なるほど、ありがとう、感謝する。」


「はっは、何度も、感謝するな、一度でいい。」


「ふはっ」


自然に笑い声が漏れた。


この【王様】は相変わらずだ。



 ゼダックヘインにわれるまま、今朝の戦いの詳細を語った。


話している最中に、四歳ぐらいの子供が物珍しげに獣人の王を遠目から見つめてきた。


彼はその子を招き寄せ、抱き上げると肩車をしてぐるぐると歩き、あやしながら話を聞き始める。


キャッキャと笑う声を聞きつけ、母親が恐縮しながら引き取りに来たので優しく渡していた。


「そうか、【魔法】か。

 【炸裂魔法】、見た事ない、今出来るか?」


「いやいや、ちゃんと聞いてたか?

 純粋な破壊魔法だ、こんなとこじゃ出来ないだろうが。」


「む、じゃあ、場所変えよう。

 東の林、どうだ?」


「ん、まぁ遠くなければいいだろう。

 アグト、ちょっと行ってくる。」


「わかった、気を付けてな。

 何本も壊すなよ?」


「あぁ、気を付ける」


こうして、私はチュバリヌたちを放っぽらかしてゼダックヘインと出掛けることとなった。



 扇状地東の山林はアグトの計画的な伐採によって、清々しい景観を保っていた。


等間隔に残された大木を破壊することに罪悪感を覚え、私たちはどんどん東へと進んでいく。


「ジッガ、この辺り、どうだ?」


「うん、いいだろう」


遂には手付かずの地域まで辿り着いてしまい、一本だけ生えた木を探すのに手間取る有り様となった。


「無音で爆発する、見逃すなよ?」


「ほぉ、そうなのか。

 珍しいな、ホントに聞いたこと、無い。」


私は一度目配せをしてから、目標の大木たいぼく目掛け、炸裂魔法を放った。


「おぉっ! すごいな!」


音も無く炸裂した魔法により、太い幹が破壊され砕け散る、大木は倒れていき轟音を立てた。


今朝既に使用していたせいか、思ったより威力が出なかったのが不満に思えた。


もう少し調整の感覚を鍛えねばなるまい。


だが、ゼダックヘインは満足してくれたようだ。


倒れた木の断裂部分を興味深そうに撫でている。



 気の良い獣人の王の姿に油断してしまったのだろうか。


私は思わず、しないでもよい質問を口から出してしまった。


「なぁ、ゼダックヘイン様。

 戦争で相手を殺してしまうこと、つらくないか?」


急にそんな質問をされて驚いたのだろう。


彼は尻尾を固まらせ、こちらへ振り向いた。


「ジッガ、戦うこと、辛いのか?」



 少しだけ沈黙が流れる。


こんな弱音のような話をしてしまったことを後悔しつつも、こちらから向けた話題に応えない訳にはいかず答え返した。


「あぁ、辛い。

 相手がみんな悪人なら、こんな気持ちにはならないだろう。

 でも、現実はそうじゃないからな。」


「そうだな。

 今まで殺した人間、良い者も、居ただろうな。

 辛くない理由、無い。」


「そうか」


ゼダックヘインは倒した大木に腰掛け、隣を叩いた。


座れ、ということなのだろう、素直に従い飛び乗った。


足をブラブラさせながら、今まで晒したことの無い弱音を吐いていく。


「あの腐った国を打ち倒したい気持ちは本物なんだ。

 だが、その為にどれだけの人間を殺さなきゃならないのか、

 それを考えると、心が冷えていくんだ。」


「あぁ、成し遂げること、犠牲出る。

 目的、大きいほど、犠牲多い。」


「私はやり遂げると固く決意したんだ。

 それなのに、時々揺らいでしまう。

 そんな自分が嫌になる。」


「そうか」


また、静かな時が流れ、風に揺れる木々のさざめきが鼓膜を震わせていく。



「ジッガ、俺の話、聞いてくれるか?」


「あぁ、聞こう。

 何でも話してくれ。」


彼の話は【神祖返り】についてのものだった。


獣人の国の長い歴史の中で、初代の王を除き三人しかいない、突然変異としか思えぬ怪異の力を持つ人狼。


だがその異能ゆえか、神祖返りは初代と違い、子をすことが出来ないという。


彼の子供好きはそれ故か、と寂しい気持ちになりながら話を聞き続けた。


その代わり、というわけでもないのだろうが、神祖返りは普通の獣人に比べ寿命が少しだけ長いらしい。


それでも獣人に比べて、というだけで、人間と同じぐらいでしかない。


「俺は今、三十二歳だ。

 キシンティルクに、最近子供、産まれた。

 かなり、毛が濃い。

 次代の王に、なれるかもだ。」


「ほぉ」


「俺が今、頑張ることで、

 次の王、楽になる。

 戦いで人を殺す、その罪、引き受ける。

 俺はそう、納得してる。」


「そうか、

 うん、そうなのか」


能天気な王だ、と思っていたが、そんなことは無かった。


彼の【王の器】は本物だ。


我が身を振り返り恥ずかしくなる。


家族の死を恨みに思い、愚かな王を憎むことで自らの無念な気持ちを誤魔化してきた。


私はただ【憎みたかった】だけだったんだ。


哀しい気持ちの責任全てを、あの国の上層部連中に被せて憎んでいただけだった。


そんなあやふやな感情に乗せられた決意だからすぐ揺らいでしまうのだろう。



 黙り込んだ私に、ゼダックヘインは更に言葉を紡いだ。


「正直な気持ち、言う。

 俺は、ジッガのこと、羨ましい。」


「え?」


横を振り向くと、彼は笑っていた。


狼の顔に表情はほとんど無いはずだが、確かに笑顔だった。


「ジッガには、【仲間】、たくさんいる。

 そしてどんどん、増えている。

 信頼の証、あの、【祝福の光】だ。」


「そうだ、な」


「人を殺す、確かに辛い。

 でも、ジッガを信じる人、増え続けてる。

 その意味、考えろ。

 もちろん俺も、信じてる。」


「ゼダックヘイン・・・」


話し終えた彼の尻尾が小刻みに揺れている、照れているのだろうか?


気付けば私たちの頭上には、【光】が降り注いでいた。


「これは、俺の、信じる心か?

 それとも、お前のか?」


「両方だろう、

 ゼダックヘイン、色々聞かせてくれてありがとう。

 目が覚めた思いだ。」


「礼は一度だ、俺からも、感謝する。

 ありがとう、ジッガ。

 お前の国と、我がヌエボステレノス、

 永遠の【友】だ、忘れるな。」


「あぁ、決して忘れない。

 私たち二人の、魂に賭けて誓おう。

 そして、

 私の方こそキミとキミの【仲間たち】を羨ましく思ってるぞ。

 キミは【き王】だ。」


「おぅ、そう言ってくれるか……、

 よし!

 そろそろ、帰るか、すごく遅くなった。

 キシンティルク、多分着いてる。

 怒られる、気がする。」


「確かにな。

 あ、この木を持って帰ろう。

 言い訳になるかもしれない。」


邪魔な枝を叩き壊し丸太を成形して、二人で引き摺って帰った。


案の定、帰ったら皆に怒られた。


私とゼダックヘインは息を合わせ、何度も何度も謝ることとなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ