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滂沱の日々  作者: 水下直英
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殴りつけようとしてきた拳を待つ義理は無い


 赤ん坊が無事生まれたことを知らされたのだろう、入り口付近から歓声が聞こえてきた。


『もう大丈夫だから』とニーナに背中を押され、部屋を出る。


「良かったねぇ、赤んぼ、小っちゃかったねぇ。」


「あぁ、思ってたよりだいぶ小さかった。」


嬉しそうに話すカンディを見ていたら、私自身も嬉しい気持ちでいることに気付いた。


血のつながりも無い、他人の子のはずだが、何故か嬉しい。


入口では元連邦の人たちから大歓声を受けた。


赤ん坊がいるから、と控えさせたが、次々と感謝の祈りを捧げられていく。


「無事生まれたのはダヤンサが頑張ったからだ。

 それに、キミたちの祈りが届いたのだろう。」


そう言って手を振り、足早にその場を離れた。



「あんなに祈られると対応に困るな。

 どうしたものか。」


「えぇ~? みんなジッガが凄いって褒めてくれてるでしょ?

 何がそんなに困るの?」


「そうだなぁ、

 カンディと私はこうやって普通に話しているが、

 私が急に

 『おぉ、カンディ様、いつもありがとうございますぅ!』

 とか話しだしたら困らないか?」


「うっへへぇ~! それは困っちゃう~。

 ジッガが頭おかしくなっちゃったと思うなきっと~。」


「ぬ、例えが悪かったか?

 そうだな、別の言い方で言えば・・・」


話しながら歩いていたら、いつの間にか食糧保管庫へ着いていた。


「あ! ジッガ!

 どうだった!? 子供産まれたのか!?」


開口一番尋ねてきたマグシュに頷くと「ぃやったぁ!」と飛び跳ねて喜び、それを伝えるためか、勢いよく外へ飛び出していった。


隣ではリルリカが目に涙を浮かべて安堵している。


「良かったよぉー、

 私オンベリーフドの人たちによく魔力流しに行ってたから。

 ダヤンサさんたちって夫婦仲良くてね、結構お話してたんだ。

 予定日よりだいぶ早い、って聞いてね、心配してたの。」


「へぇ、じゃあオンベリーフドのこととか聞いてるのか?」


「うーん、ちょっとだけ。

 でも逃げてきた国のことだからね。

 私たちだってアヴェーリシャのこと、

 あんまり話したくないでしょ?」


「……確かにそうだな。」


口に出すと怒りが湧き出るだろう、穏やかに話す事柄ではない。


ゲーナにも無事出産したと報告すると、ひと味違った感想を貰った。


「うんうん、良かった。

 これでジッガの【皆が安心して暮らせる国】が一歩近づいたね。」


「うん? どういうことだ?」


「ふふ、【平和な国】っていうのはね、

 【子供が多い国】なの。

 安心して暮らせるから民は子を生すし、

 守られているから子供が育つの。

 どんなに強い国だって、

 子供がいない国はいずれ滅んじゃうでしょ?」


「なるほど、確かにそうだな。

 ゲーナ、これからも色々教えてくれ。」


「うん、任せて!

 私はハザラにだって負けないぐらい知恵を付けるからね!

 ジッガの【参謀】の座は譲らないんだから!」


前々から思っていたが、ゲーナは結構負けず嫌いらしい。


様々な対抗心が言葉から見え隠れする。


アグトは結婚したら尻に敷かれるのだろう、そういえばこの二人は好き同士なのだろうか?


カンディは「たぶんそうだよぉ」と言っていたが、あまり当てにならない気がする。


ゲーナもいずれ子供を産むのだろうか?


そうなればきっと、今日以上に喜ばしい気持ちになると思う。


想像しただけで、こんなに嬉しいのだから。




 ハザラ考案の警備団再編成によって、集団としての統率力と戦闘力は格段に上がってきていた。


半農半兵にしたことで、部隊ごとでの訓練が可能になった。


少人数によるローテーションではなくなったということだ。


第一部隊が日中警備に当たり、第二部隊が夜間警備、翌日の日中警備は第三部隊、となり、それと同じように訓練が組まれるため、集団戦の訓練が出来るようになったのだ。


乾季であるため雨による訓練中止も無い、ぐんぐんと力を付けていってる。


【鬼教官】のツェルゼンを頷かせる程度にはまとまったと言えよう。


ハザラにも問いかけてみると、「まだまだだな」と辛口の評価を頂いた。



 明け方、激しく扉を叩く音によって強制的に起こされた。


戸を開くと相手はテビンスだった。


彼の報告によって私は急激に目覚めさせられることとなる。


「大変だジッガ! 【精霊国】が攻めて来るぞ!」



 中央広場に駆けつけると、既に大勢の区民が集まっていた。


中で取り囲まれているのは、来訪三回目となる【スィチャカ】というチュバリヌの側近の一人だ。


私の到着に気付いた区民らが道を開け、中に通してくれた。


夜間警備明けらしきモンゴが既に話を聞いていて、簡潔に説明してくれた。



 前回私を襲おうとした【刺客】を連れ帰ったチュバリヌは、すぐさま敵対勢力を弾劾だんがいしたという。


精霊国を訪問したことのあるソムラルディによると、元々避難民が集まり【精霊】の庇護下で興された【ヘネローソ】という国には、【他人任せ】という気風が存在するらしい。


力ある者の指図に左右され易く、現在でも選出された十人程の【議員】たちの手によって運営されているとのことだった。


チュバリヌも実は【魔法使い】で強風を巻き起こすことが出来るらしい。


そんな気風の国民たちだが、その一部の【力ある者】が追い詰められて暴発した。


チュバリヌに弾劾され、議員としての立場が危うくなった【レヂャンバ】なるやからが私兵百人を率いて【精霊の力】を持つ私をさらいに来るのだとか。


その動きを察知したチュバリヌが即座に馬術にけたスィチャカを遣わし、馬を潰すほど酷使して先回りを果たし、ここに至ったらしい。


ツェルゼンが既に警備団を編成し、戦いに備え始めている。


編成されている一団の中にウーグラがいたので呼び寄せ、レヂャンバなる人物のことを尋ねてみた。


「愚物ですが、魔法を使えます。

 魔力を鞭の様に伸ばし捕らえることが出来ます。」


頷き、またツェルゼンのもとへ戻す。


「スィチャカ殿、全滅させていいんだな?」


「……はい、ただこれはの愚か者の私兵、

 国同士の戦いでは断じてありませんことをどうか!」


「それは戦いの後で話そう、今は身体を休ませておくがいい。」


「……はい」


振り返り、戦慣れしている者に意見を問う。


「ハザラ、どう戦おうか?」


山間やまあいの入口に伏兵を置き、

 三分の一が通り過ぎた所で弓矢で仕掛ける。

 そののち袋叩き出来れば壊滅するだろう。

 問題はその【魔法】とやらだ。

 こちらの兵力は一兵たりとも減らしたく無ぇからな。」


「うん、同意見だ。

 レヂャンバなる者は私が引き受けよう。

 ゲーナ! カカンド! 意見はあるか!?」


「こうなっちまったら、やるしか無ぇな。」

「時間が勿体無い! もう行こう!」


「よし! ツェルゼン! どうだ!?」


「揃った!」


居並ぶ兵士たちの顔を見回し、最後の檄を飛ばす。


「よし! 出陣!

 我らの力を見せる時が来た!

 愚か者の魂を天に還してやれ!」


オオオォォォッ!!!


総勢【二百名】の戦士の雄叫びが響き渡る。


望まぬ戦いだが、カカンドの言う通り「やるしかない」。


敵に先んじて山中に伏兵を置かなければならない。


ニーナたちの心配する眼差しを背に、私たちは出発した。



 馬に乗る私の周囲には見慣れた【仲間】たちがつどう。


ジッガ団で参戦しないのはマグシュだけだ。


マグシュには首都まで走ってもらい、ゼダックヘインにこの顛末を伝えてもらうことにした。


馬より早く走れるため、途中までは馬で、それから走れば四半日で首都に辿り着く。


『重要な任務だぞ』と頭を撫でると不承不承だが頷いてくれた。




 獣人の国を囲む【低い山脈】の獣道を通り抜け、遠方に臨む川までの道を睨む。


土煙が上がっているのが【敵】の一団だろう。


ツェルゼンの指揮で部隊がどんどんと配置されてゆく。


後は待つのみだ。



 やがて、先頭の騎馬隊が見えた。


徒歩かちの兵士は見当たらない、全て騎兵の部隊だった。


チュバリヌたちの追っ手を警戒して速度重視の編成をしたと思われる。


何も知らず【奇襲】を受けていたら確実に死者が出ていただろう。


無意識の内に奥歯を噛み締めている自分に気付く。


だが、この怒りはすぐにぶつけることが出来る。


息を潜めて、ただ、待ち受けた。




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