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滂沱の日々  作者: 水下直英
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【敵の敵】は本当に味方と言えるのか


 アルザックの言葉に、ハッゲルの実直そうな顔を思い浮かべ、剣呑けんのんな想像をしてしまったが、詳しく訊いてみると大して裏のある話では無かった。


反乱軍を立ち上げ少し経った頃に、ルイガーワルドから支援の申し出があったそうだ。


そのタイミングの良さにいぶかしんだものの、支援は有難かったので貰えるだけ貰ったらしい。


恐らくの国王の【夢】によるものだろうな、と直感した。


それによって【戦争】を終わらせることが出来たのだから大したものだ。


アルザックはその際にルイガーワルド国王の能力ちからや、精霊についての情報を聞いたらしい。


「いや、全く信じてなかったんだが、

 目の前でやられたんじゃ信じねぇ訳にはいかねぇなこりゃ。」


【誓いの光】を目の当たりにしたおかげか、獣人たちはアルザックたちへの警戒心を弱めていた。


私の要望はすんなり通り、別室に移動させ全力の【魔力循環】を行うことを了承してくれた。


まだ全面的に信頼した訳ではないので、効果を説明しないまま、三人に【奇跡の力】を行使する。


子分二人を先に行い、カンディの魔法によって問題無く流すことが出来た。


そのおかげで、アルザックも顔をしかめつつ素直に受け入れている。


みるみる活力を取り戻す親分の姿に、子分たちは泣いて喜んでいた。


いずれ身体が元に戻り始めたら喜びで卒倒するかもしれない。


はしゃぐ彼らに『名前をどうするのか?』と尋ねると『任せる』という答えが返ってきた。


面倒なので名前を逆に読んだものにする。


『ハザラ』『インホゥ』『イドラァ』と名付けたが何も反論は起きなかった。



 翌日、ゼダックヘインらの見送りを受けながら家路についた。


【ハザラ】たち三人は、掘削用の道具に囲まれ馬車で輸送された。


休憩の度に魔力を流したので、なんとか怪我を悪化させることなく辿り着くことが出来たようだ。


自治区の民には『ゼダックヘインが山中で発見した同郷の避難民』とだけ紹介しておいた。


嘘では無いし、余計な混乱を生みたくないという理由からだ。


ハザラはしばらく治療に専念させる。


今の状態では知恵を絞らせることすら難しく思えたからだ。


子分二人にはその介護を申し付ける、言われずともそうするだろうが。



 区役所で留守中にあった出来事を報告してもらう。


今のところ何も問題は起きていないと伝えられ、安堵の息を吐く。


【法規】の定まっていない今、揉め事が起こった場合には判断基準が曖昧なまま結論を出さなくてはならない。


それでは不満が溜まる一方となってしまう。


今は個人個人の資産が確定されていない、住まいも【仮住宅】扱いだ。


現状では争いごとを起こす要因が少ないが、いずれ変わってゆくだろう。


人間は生まれついて欲深いのだから。


恐らく自治区内でその【欲】に最も触れてきたのは【アルザック】いや【ハザラ】だろう。


国の土台を創るのに彼の助言は貴重なものとなるはずだ。


戦闘力や魔力などよりも、私はそこに彼の加入する意義を見い出している。


欲塗よくまみれの反乱軍を上手く乗りこなしていた、彼の手腕に期待しようと思う。



 草原の川での橋建設は、ほぼ完成と言っていい段階まできていた。


あとはエンリケとベルゥラによる【強化】さえ出来れば完璧だろう。


今回ベルゥラは連れて来れたが、エンリケは深井戸掘りの影響で休ませている。


大人しく休んでいて欲しいが、たぶんまた武器防具の改良に精を出していることだろう。


何やらあの仕事に生き甲斐を感じている節がある。


研究馬鹿ソムラルディにおかしな影響を受けてなければいいのだが。


そんなことを考えていたら、橋向こうからその研究馬鹿が近付いてきた。



「おぉ、橋や得し。

 ヒトの勤勉さはさるものなり。

 ふむ、未だ【強化】やされたらぬか。」


会って早々、橋の欄干らんかんを撫でながらそんなことを言っている爺ぃエルフに白い目を向ける。


「ソムラルディ、

 久々の帰郷はどうだった?

 連合王国の件は受けれられたのか?」


訊いてみたところ、『何も問題は無い』という答えが返ってきた。


「それは良かった」と答えてはみたものの、その裏を返せば『エルフは未だ人間の国に怒りを抱いている』という証明に思えた。


『気が長い』と云われるエルフだが、その分『怒りも長い』のだろう。


慌ててソムラルディに『橋が出来たから【草原】の回復に着手する』ことを伝えておいた。


ウンウンと満足気に頷く爺ぃエルフが、ちょっと恐ろしく感じてしまった。



 申し訳程度に草原の荒地部分を耕してから、ソムラルディを伴い自治区へと帰る。


彼の不在だった一週間の出来事を簡潔に伝え、訊くべき情報をまとめて確認した。


まず【オーガー】について、エルフは知識を持っていた。


だが、それは十年以上も前にさかのぼる話で、『【闇の力】が濃くなると現れる魔物』というものだった。


エルフも手を焼く魔物だったが、当時一兵卒だった獣人によって退治されたらしい。


たぶん王になる前のあの【狼男】のことなのだろう。


素直にそう言えばいいのだが、エルフの矜持が素直に褒めることを邪魔するようだ。


併せてカンディが疑問に思った『魔物はどうやって生まれるの?』という質問をしてみると、眉をひそめて考え込み始めた。


独り言のような呟きを拾い集めてみると、『悪しき神が造った、と言われているが魔物が産まれる所を直接は見た事が無い、人間のように繁殖するのだと思い込んでいたが違うかもしれない』とのことだった。


何でも知っていそうな【エルフ】たちだが、深き森に引き篭もっているのだからそんなに知識は増えないだろう。


外界にちょくちょく飛び出すソムラルディのような者が最も物知りなのだろうが、それでも知らないことは数多く在るのだと思う。


最後に気になった言葉について確認してみた。


「ソムラルディ、

 さっき言ってた【闇の力】とは何のことだ?

 初めて聞いた言葉なんだが?」


魔物がどう生まれるかに心(とら)われていたエルフだったが、ここで再起動を果たす。


「【闇の力】とは悪しき神の力。

 魔物の産まるるゆえはこれもこそ。

 と言うとも詳細は知らず。

 昔より言い伝えられたるものなり。」


結局のところ、『良く分からない』ということか。


そのまま言うとへそを曲げそうなので、話を曖昧に終わらせた。


数日後にやって来る【精霊国】からの移住者についても考えなければならないからだ。



 スムロイやカカンドと話し合い、移住者五十人の仮住まいや仕事の内容などを打ち合わせた。


【草原】の回復やエンリケの手伝いなどをする内に数日が流れ、チュバリヌが五十名の移住者を引き連れて来るに至った。


「ジッガさん、お待たせ致しました。

 この者らが【精霊様】への忠誠心厚い五十名です。

 願わくば、この者たちへも【祝福の光】を授けて頂きたく。」


集落の中央広場で、到着の挨拶もそこそこにチュバリヌが熱の籠もった願いを申し出てきた。


前回の【精霊の力】が余程衝撃的だったのだろう。


だが、私にはその前にやることがあった。


ひざまずく五十名、その内の一人から明確な【悪意】が感じられたので、それを排除しなければならない。


私の生体看破魔法についてはチュバリヌも知らなかったようだ。


急に私が移住希望者の一人を蹴り上げたので周囲は一気にざわめいた。


アグトたちが蹴り上げられた男を縛り上げる横で、私は大声を上げた。


「この者は我々に対して【悪意】を持っていた!

 私は【魔法】によりそれが理解出来る!

 チュバリヌ殿!

 この者は貴女が責任を持って連れ帰って頂きたい!

 残すと申されるならば【処刑】するしかない!」


縛り上げられながらも男は暴れ、無実を訴えた。


だが、未だ彼からはハッキリと【悪意】が溢れ出ている。


「嘘を言っても虚しいだけだぞ?

 その【悪意】、チュバリヌ殿へも向けられているな。

 チュバリヌ殿、心当たりは?」


「は、はい。

 今思えば怪しいところも、

 しっかりと調査したはずですが、

 【強硬派】の手の者という可能性があります。」


震える彼女を立たせ、適度な魔力循環を行う。


カンディにも精神安定魔法を掛けてもらうと、シャンとした表情を取り戻した。


「ツェルゼン!

 チュバリヌ殿と一緒にその男を連れて行け!

 裏にいる者の名を吐かせろ!」


「はっ!」


ツェルゼンがチュバリヌを伴い区役所へと入っていく。


精霊国からの移住希望者の手前、殊更に【苛烈さ】を印象付けた。


これで心象に悪意が湧き出すようならば即刻帰国させる手筈を整えている。


だが、怯えは見て取れるものの、悪意を晒す者は一人もいなかった。


この地で共に暮らすと言うならば【覚悟】が必要だ。


今の一件は移住者たちの性根を試すに相応しい出来事だっただろう。


「ここにいる皆の心の内に悪意は感じられない。

 キミたちを受け容れよう。

 これから私たちは【同志】となる。

 まずは【精霊】を慕うキミたちに【祝福】を送ろう。」


精霊国に住まうという、力を失くした【精霊】を想い、祈りを捧げる。


途端に五十名からなる移住希望者たちの頭上へ【祝福の光】がキラキラと舞い降り始めた。


伝え聞く【精霊の力】を目の当たりにして、彼らは一斉に跪き、天に祈る体勢を取る。


信心深い者、というチュバリヌの言葉は真実なのだろう。


ただひたすらに祈る彼らに、今後どうやって【普通の人間】として歩み寄ろうか、と今さらながら新たな問題を発見した。




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