千里を走り鳴り響くのは悪事か名声か
「ジッガ、聞いたぞ。
【オーガー】、斃したこと。
俺も斃したことある、強かったろ?」
「そうだな。
今まで戦った中で二番目に強かった。
一番はキミだがな。」
「わっは! そうかそうか!」
ご機嫌な王様がワホワホと喜んでいる。
正直な気持ちだったので『おべっかを使った』という罪悪感も感じない。
昨日は首都南側の村に深井戸を掘り、今日は西と東の村に深井戸を掘る予定だ。
そのあとまたこの【王の館】で一泊して帰る手筈となっている。
昨日ゼダックヘインが【連合王国】との国境付近を調べに行っていたため会えず、今朝になって戻ってきた彼に開口一番【魔物退治】の話をされたところだ。
「北側から、魔物来なくなる、国の為になる。
ジッガ、感謝するぞ。」
「私たちは私たちの為に動いているだけだ。
今後も井戸掘りで恩を返していこう。」
「井戸掘り、それも感謝する。
民に代わり、井戸の数だけ、礼を言うぞ。」
相変わらず獣人たちは【善性】が濃い。
邪悪な人間に騙されないように気を付けて欲しい、と人間の私が心配するのはおかしな話だろうか?
と、上機嫌の狼男にキシンティルクが近寄り、真剣な面持ちで話しかけた。
「王様、あの話、ジッガにまだしてない。
どうする?」
「お、言ってないか。
今日の夜、会わせる、どうだ?」
「どうだろうか。
ジッガ、困る気がする。」
「むむ」
目の前でそんな話をされては否が応でも気になる。
何のことか、と問い質してみた。
「南の山の中で、人間見つけた。
大怪我してる、ほか二人いた。
連れ帰ってる。
アヴェーリシャから来た、そう言ってる。」
どうやら我々と同じ境遇の者が三人流れ着いたという話らしい。
同志となり得ると感じられるが、何が【困る】と考えたのだろうか?
「その三人、【反乱軍】、その残党。
はっきり言わない、だがたぶん、間違いない。」
「あぁ、……そうか」
得心がいった。
確かに【困る】な、と思ってしまう案件だ。
その出自が【野盗】でも【貴族軍】でも受け容れに難色が示される。
視線でカカンドやゲーナに問いかけると、難しい顔で返答を躊躇う様子が見られた。
だが情報は必要だ、ゼダックヘインが言う通り、今夜会うことに決めた。
「貴族の生き残りなんてのは問題外だが、
野盗だった連中だって性根は歪んでるだろ?」
「私は嫌だよ?
野盗なんて弱者を襲う卑怯者たちでしょ。
【仲間】になんてしたくないよ。」
「ゲーナの言う通りだよ、私も反対。
そんな人たちが近くに居たら安心して暮らせないよ。」
「そうだな、情報だけ聞いて【精霊国】にでも行ってもらおうか。」
受け入れに肯定的な意見は出ず、『会うだけ会おう』という結論となった。
首都の東西で深井戸を完成させ、夜となり、私たちは反乱軍残党と面会することとなった。
彼らは酷い有り様だった。
ゼダックヘインは『大怪我』と表現していたが、そんなものではない。
右手右足を失い、左目も潰れている。
どんな戦いを経てこうなったのか、と生きているのが不思議に思える傷跡を晒していた。
両脇に控える二人も衰弱している様子がありありと見受けられる。
アヴェーリシャから二つか三つの国を越え、よくここまで辿り着けたものだと感心すらしてしまう。
おかしな真似をしないように、彼らの背後には剛毛の騎士たちがズラリと並んでいる。
だがそんなに警戒しないでも、彼らにそんな力は残っていないだろう。
カカンドたちに目配せし、私が代表して話し始めた。
「【リベーレン自治区】で【区長】を務めるジッガだ。
怪我をした身で喋るのも辛かろうが、質問に答えてくれるか?」
「あぁ、大丈夫だ」
予想外だったが、大怪我している男が私の問いに答えるようだ。
ほか二人は中央に座る怪我人を心配した目で見つめるが、口を開こうとはしない。
どんな事情を抱えているのだろうか?
尋問のような形で面談が始まった。
「正直に答えて欲しい。
キミたちはアヴェーリシャで反乱軍に属していたな?」
私の質問に三人は身を固くする。
やがて、観念したように怪我人が答えた。
「そうだ、俺たちは【反乱軍】として戦っていた。
元は【野盗】をしていた罪人だよ。」
その言葉に両脇の二人がいきり立つ。
「んなこと無ぇっすよ兄貴!
俺ら弱いもんから奪ったりしなかったじゃねぇすか!」
「そうっすよ!
貴族だけ狙うのが俺たちのちっぽけな誇りだったでしょう!」
立ち上がりかけた二人だったが、背後の獣人たちが肩を抑え座り直させる。
「そうか、反乱軍の結末は私も伝え聞いている。
最後の戦いについて詳細は知っているか?
正規軍は【魔炎弾】を使用したらしいが?」
この私の問いに、中央の男が唇を歪ませ答えた。
「知ってるさ。
俺がこんな身体になったのは
【魔炎弾】を喰らったせいだからな。」
「ほぉ、身を持ってその威力を知った訳か。
どんな【魔法】だった?
詳しく教えてくれないだろうか?」
そこから彼は【魔炎弾】が使用された反乱軍最後の戦いを詳しく話しだした。
噂通り【魔炎弾】は恐るべき魔法で、四方五十メートルの範囲を一気に焼き尽くすというのは本当だったと証言してくれた。
あの国を打ち倒すためには避けて通れない、最難関のひとつとはっきり理解できた。
だが話の最後で、私たちは驚きを禁じ得ない発言を聞いてしまった。
話し疲れた怪我人の男に、隣の男が心配げに声を掛けたのだ。
「大丈夫っすか?
アルザックの兄貴、無理しないでくだせぇ。」
「【アルザック】だと!?」
私とカカンドが同時に立ち上がる。
この目の前の半死半生の男が、反乱軍を率いたという【アルザック】なのか?
カカンドが興奮そのままに男に問いかけた。
「お前さんが【あの】アルザックなのか!?」
「あぁ、どのことを指してんのか知らねぇが、
反乱軍を馬鹿な結末にしちまったのは、
【この】アルザックだ。」
【アルザック】の名はキシンティルクも知っていたらしい。
ゼダックヘインに何やら耳打ちして教えている。
「そうか、キミがアルザックか。
キミの噂は色々聞いている。」
「へっ、どんな噂だろうな。
身に覚えが有り過ぎて見当がつかねぇよ。」
「そう卑下することは無い。
良くも悪くもキミの名は国を越え名高いものだろう。
キミの出自が【野盗】でなかったら、
私も反乱軍に身を投じたいとすら思っていたぞ?」
「は、ありがとよ。
……で、なんでお前さんみたいな子供が頭ぁ張ってんだ?
なんだぁこの状況?」
漸く人心地ついたのか、アルザックから当然過ぎる質問が飛び出た。
「私もキミ同様【魔法使い】だ。
恐らくキミの魔法は【身体能力強化】だろう?
私もそれを得意としている。」
「なるほどな、にしたって子供過ぎんだろ。
魔法で【頭が良くなる】なんて聞いたこと無ぇぞ?」
「私の【思考能力】と【話し方】は生まれつきだ。
気にしないでいいぞ。」
「気にするな、って言ったってお前ぇ。
……でよ、
俺らはどうなるんだ?
俺はもう死ぬしかねぇ身体だけどよ、
この二人は見逃しちゃくれねぇか?
頼む! もっと何でも話すからよ! この通りだ!」
動かすのもやっと、という状態で左手と頭を机にこすり付け、アルザックは【仲間】の命乞いをしてきた。
「兄貴! 死ぬときは一緒じゃねぇすか!
俺らだけ助かろうなんて思ってねぇすよ!」
「そうすよ兄貴!
貴族の連中にまた一泡吹かせてやりましょうよ!」
ずたぼろの身体ながら、彼らの内に在る闘志はまだ燃えているようだ。
朝の時点では彼らに否定的だった私の【仲間】たちだが、今はどう考えているだろうか?
目を向けると、カカンドは頷いており、ゲーナたちはどちらともつかない表情をしていた。
「アルザック、
キミたちが貴族を憎む気持ち、
それは私たちの志に通ずる。
迎え入れることも吝かでない。
だが、それには幾つか条件が有る。」
三人が居住まいを正す、緊張した顔で私の出す【条件】を待ち構えていた。
「まず一つ目は、【心を入れ替えること】。
【野盗】のような振る舞いをしたら即【縛り首】にする。」
それぞれが頷くのを待ち、話を続ける。
「二つ目の条件は、【弱者の為に尽くすこと】。
私は近い将来、皆が安心して暮らせる国を興す。
その目的の為に尽力して欲しいんだ。」
三人の中で特にアルザックが熱を込めた眼差しで頷いている。
「三つ目の条件、【名前を変えること】だ。
【アルザック】という勇名は惜しいだろうが、
私の国には必要のない名だ。
今後一切名乗らない、と誓うならば、
キミたちを受け入れよう。」
アルザックが両脇の子分たちに頷いたあと、私に向き直り、誓いの言葉を紡いだ。
「全て誓おう。
俺はもう知恵を絞ることぐれぇしか出来ねぇだろうが、
この二人と共に、お前ぇさんの国造りに尽力しよう。
約束する! 絶対に裏切らねぇことを!」
「俺もだ!」
「オイラも誓うぜ!」
私は立ち上がり、机をぐるりと回ってアルザックの許へ歩み寄り、両脇の二人も引き寄せ、三人の手を重ねあわせた後に両手で包み込んだ。
「キミたちの【誓い】を受け取ろう。
志半ばで散っていった者の意志も携え、
私たちで志を貫徹させよう!」
「おぉっ!?」
「ななっ!?」
「ぬぉ!?」
突然湧き出た光にアルザックたちが驚きの声を上げる。
剛毛の騎士の中にも初見の者がいたようで慌てふためいていた。
天へと舞い上がる光に、【仲間】たちは慣れた様子で祈りを捧げている。
「こりゃあ、もしかして【精霊の力】か?」
「知っているのか?
どこで知ったんだ?」
初見で【精霊の力】と見抜いたアルザックの知識の元が気になった。
「あぁ、【ルイガーワルド】の奴らに聞いたことがあんだよ。」




