表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滂沱の日々  作者: 水下直英
61/123

罪深い行いは慣れるものではなく、心を壊す


「気を付けろ! 大蜘蛛おおぐもだ!

 尻から出す糸に触るな!」


ツェルゼンの鋭い警告の声が飛ぶ。


洞穴の中にもまだいる可能性があるが、私は湧き出た十数匹の大蜘蛛に狙いを変え投石を続けた。


ゲーナやハテンサらも弓矢で大蜘蛛の頭を射抜いていく。


それらを潜り抜けた数匹が眼前に迫る。


「でやっ!」


片手剣で脚を斬り飛ばし、動けなくなったところで頭へ切っ先を突き刺した。


他の大蜘蛛たちも次々と仕留められていく。


索敵魔法で残りが居ないことを確認し、皆に声を掛ける。


「誰か傷を負ったものはいないか?

 毒を持っていた可能性もある、大丈夫か?」


幸い誰も攻撃を受けていなかった。


洞窟の奥に近付き確認すると更に十数匹の大蜘蛛の死体が残されていた。


「どう後始末すればいいんだ?」


「魔物は放っておくと他の魔物を呼ぶ、

 と昔から言われている。

 やはり埋めてしまうのが良いだろう。」


こういう時にカンディがいれば、と思わせられる。


土を柔らかくする魔法はこういった場面でこそ、とても有用だ。


しかし無いものねだりをしていても始まらない。


ツェルゼンがその存在の噂だけは知っていたものの、解体方法までは知らないらしい。


洞窟の奥から私の背丈より大きい蜘蛛の死体を引き摺りだし、まとめて埋めた。


「我らの知らぬ魔物が多くいるようだ。

 気を引き締めろ。」


「わかった」


再び索敵魔法を飛ばしながら未知の領域を埋めていく。


だが、今回もまた巨人の痕跡は見当たらず、ゴブリンの巣も発見出来ぬまま、探索は終了された。



 集落に戻ると獣人の伝令が来ていた。


どうやら【ナステディオソ連合王国】の使節団がまた来たが、打ち合わせ通り強気の対応で追い返したらしい。


捨て台詞に憎まれ口を叩いて帰ったようだが、恐らく【戦争】までは発展しない見通しだという。


ゼダックヘインが自ら国境を越えて哨戒活動を行い、人間たちの【本気具合】を確かめた結果なので信頼性は高いそうだ。


また、別件で深井戸掘りの依頼もあった。


首都の東西、南の三箇所を掘る二泊三日の予定を組みたいらしい。


だが、【巨人】をこのままにして何日も自治区を離れる訳にはいかない。


その旨を伝え、巨人退治が終わったらボストウィナの村に伝令を走らせることを約束して帰らせた。



 探索隊の効果があったのか、警備団はあれからゴブリンを見掛けていないらしい。


「いや、そんな効果なんてないだろう。

 巨人もゴブリンの巣も見付けてないんだ。

 ただ、北東から来てる可能性が消えただけだな。」


言われてみれば確かにそうだ。


自分のしていることが無意味だと思いたくなくて、希望的観測をしてしまったようだ。


「でも大蜘蛛は気持ち悪かったね~。

 ホントは触りたくないし、

 見るのも嫌だったよ~。」


「んなこと言ってたら隙を見せることになるよ?

 魔物はみんなぶっ殺す! ぐらいの気概を持ちな。

 魔物退治は命懸けなんだからね。」


「はい、ごめんなさい」


ゲーナがハテンサに注意されしょげている。


ハテンサの言う通りなのだからフォローのしようも無い。


「しかし何故こんなに【巨人】の痕跡が見つからないんだろうな?

 方向が間違ってるのか?」


「その可能性はあるな。

 北西に行き過ぎたかも知れん。

 明日は【西側】に絞ってみてはどうだ?」


「はい、そうしましょう。

 あの足跡ひとつだけで方向を決めたのは早まったかもしれないので。」


明日の探索方針が定まっていく。


西側奥はほとんど手付かずの状態だ。


扇状地をぐるりと探索することは今後のためにもなるだろう。


「ではそれでいこう。

 予想が当たれば今日以上の激戦となる。

 巨人対策を練り直し、明日へと備えよう。」


皆の頷きを確認し、いくつか要点を話し合ってから寝床に付いた。



 探索三日目、今日も朝から扇状地西側へ向け出発する。


そして、ソレはすぐに発見されることとなった。


「これ見てよ! 足跡じゃない!?」


マグシュが【巨人の足跡】を見付けたのだ。


「うむ、恐らく扇頂からここに来て西へ向かったな。」


「やっぱり方向違ってたんだ」


「気にするなゲーナ、

 未知の魔物の動きなんて誰にも分からないさ。」


「そうだぞゲーナ、

 それより気を引き締めろ、今日中に仕留めるぞ!」


「うん!」


痕跡はそこからいくつか見つかった。


辿たどって行きながら索敵を飛ばす。


するとまず、ゴブリンの群れとぶつかった。


かなり多い、五十匹以上いるだろう。


まずは遠距離から【発破魔法はっぱまほう】を放った。


群れの頭上で大きな破裂音が響き渡り、ゴブリンたちは右往左往し始める。


役に立たない魔法と思っていたが、弱い敵への威嚇には効果的だった。


ゴブリン程度に弓矢を使うことはせず、それぞれが群れに斬り込みバッタバッタと薙ぎ倒していく。


装備の質が上がった我々の戦闘力の前に、ゴブリン程度はもはや練習相手のような存在だった。


ツェルゼンとハテンサ、アグトとゲーナ、ドゥタンとキャンゾ、ツセンカとマグシュが、二人一組で全く隙を見せない戦いぶりを見せる。


私は単独で跳ね回り、ゴブリンの息の根を止めていく。


そんな中、索敵に引っ掛かる存在を感じた。


「気を付けろ! デカいのが西から来るぞっ!」


私の大声に皆ゴブリンを仕留めつつ、西に向けた迎撃態勢を整えていった。



 現れたのは真っ黒い【悪鬼】だった。


黒い肌に黒い剛毛、爛々と黄色く輝く両眼と額から伸びるねじれ角、前世の記憶に在る【鬼】や【悪魔】と呼ばれる存在がそこにはいた。


悪鬼は足元のゴブリンを振り下ろした剛腕ごうわんで次々肉塊へと変えていき、逃げ惑う憐れな魔物たちを踏み潰しながらこちらへ迫ってきた。


「撃てっ!」


ツェルゼン、ハテンサ、ゲーナの弓から青銅で切っ先を強化した矢が放たれる。


両腕で顔をかばった悪鬼だが、うち一本が片目に突き刺さった。


誰の矢か判別できないが会心の一矢だっただろう。


この隙はがせない、真っ先に飛び込んだ。


「ジッガに続けぃっ!

 狙いを分散させろ!」


ツェルゼンの激が響き渡る。


私の剣は既に悪鬼の右太腿を切り裂いている。


高速で迫る爪での攻撃を躱し、なおも脚を狙い斬撃を放ち続ける。


この動きに合わせてツェルゼンとハテンサが槍で、私が付けた傷を更にえぐっていく。


やはりこの二人は群を抜いて技術が高い。


アグトやドゥタンの攻撃はカウンターを喰らいそうでハラハラするものだったが、ゲーナやキャンゾが悪鬼の動きを牽制している。


攻撃している途中で気付いたが、驚くべきことに悪鬼は傷を回復させる【自己修復能力】があるようだった。


だが、それにも限界は訪れる。


やがて私の斬撃で悪鬼は脚の腱を切り裂かれ、膝を突いた。


苦し紛れで両腕を振り回すが、その力を利用して手首から斬り飛ばした。


グァァァ!


残った右目をツェルゼンの槍で潰され、悪鬼はなますにされるほか無くなり、絶命した。



「こいつは恐らく【オーガー】だな。

 聞いていた特徴に当てはまる。」


「じゃあ【角】とか【腱】が武器加工出来るんじゃないかい?

 だいぶかったそうだけど、解体しようか?」


「時間を掛けたくない。

 角だけ切り取ったら埋めよう。」


「ん、勿体無いけどそうしようか。

 ゴブリンの巣も見付けなきゃならないもんね。」


少しヒヤリとする場面もあったが、無事に【討伐】出来た。


だが他にも【オーガー】級の魔物がいるかもしれない。


手早く後処理あとしょりを済ませ、さらに西へ向かった。



 陽が高くなる頃、私たちは【滝】を発見した。


「こんな山の中に川が流れているのか……。」


「山中だからこそ流れていて滝が出来たんだろう。

 水は高みから低きへ流れるのだから。」


「そりゃそうだけど、なんか不思議な気分だ。」


アグトらは初めて見る景色に茫然としている。


狭い世界を飛び出し、初めての体験を次々とする彼らの心中は、私には想像出来ない。


前世の記憶が邪魔して純粋な感動が味わえないのは、残念に思うことの一つだ。


美しい滝の流れを見ながら小休止した後、方向を南東に変更して探索を再開した。



 その結果、無事にゴブリンの巣を見つけ出し、残党を残らず片付けた。


これでしばらくは魔物の襲撃に怯えることは無くなるだろう。


いずれは北の山中に潜む【翼を持つ四足獣】を駆除したいが、まずは周辺の安全性を確保してからだ。


夕刻前には集落に戻ることが出来たので、ボストウィナの村へ伝令を走らせた。


夕食時、区民が大食堂へ集まってきたところに、マグシュが【オーガーの角】を自慢げに掲げて大歓声を浴びていた。


【滝】の美しい景色の話を大声で触れ回り、羨ましがられている。


マグシュのお調子者ぶりは今のような場合、癒されるような思いを感じる。


戦いで荒んだ心が修復されていく気がした。


少しはリルリカにその能天気ぶりを分けてあげて欲しいな、とも思う。


危険生物を排除した安心感からか、この日はよく眠れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ