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滂沱の日々  作者: 水下直英
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【いい人】とは【都合のいい人】と思っていないか


 突然『国を救ってほしい』と言われて、困惑しない人がいるだろうか?


私を見詰め続けるチュバリヌに対し、表情を変えぬよう努力しながら見詰め返し、次なる言葉を待った。


「いきなりこんなお願いをしてしまい申し訳ありません。

 でも前回訪問した際、

 先生からジッガさんの【精霊の力】が本物であると聞き、

 我々は【希望】を得ました。

 そして国へ戻りそれを皆に伝えたのです。」


彼女は変わらず私を見詰めたまま話を続けてゆく。


「私の伝え方もまずかったな、と反省しております。

 喜びに沸き上がる者たちが出始めてしまいました。

 国を束ねる有力者たちの中に、

 『是非とも我が国に迎え入れよう』と言い出す者が現れたのです。」


さっきカカンドが言った通りだな、と思いながら続きを聞いていく。


「ジッガさんなら【力を失くした精霊】に

 再び活力を与えられるのではないか、

 そんな【希望】を私は抱いたのですが、

 彼らは【強引な手段】を用いてでも

 貴女あなたを連れ出そうとしているようです。」


ソムラルディがため息を吐く音が聞こえた。


人間の愚かさに嘆息が漏れたのだろう。


ここで初めてチュバリヌは視線を私からソムラルディに変えた。


「先生、申し訳ありません。

 精霊様を助ける手段を見い出した喜びで、

 私は目が曇り足元が見えておりませんでした。」


「精霊を想う君の心地は心得るべし。

 我とて救うべきものならば救はばや。

 されど確証無き話ぞ?

 夢物語を現実うつつと混同し過ぎなり。」


「本当にそう思います。

 彼らの愚かさを目の当たりにして、

 冷水を掛けられた如く目が覚めました。」


また彼女は私に向き直り、深々と頭を下げながら懇願を始めた。


「いま国内では意見が二分しています。

 【ジッガさんと友好関係を結び精霊様を救ってもらおう】と考える者らと、

 いま一方は【ジッガさんをさらい奪おう】とする者らです。」


思わず顔をしかめてしまった。


南方に鬱陶しい国が現れたと思ったら、無警戒だった国に不穏分子が現れ始めたのだから。


私の顔色が変わったことに気付いたのだろう。


チュバリヌが慌てて言い募る。


「あ、ジッガさん!

 お気を悪くされるのも当然ですが、

 貴女を害しようとする者は極少数です。

 私どもが必ず抑えつけます、どうかご安心を!」


そう聞いて「はい、そうですか」とは頷けない。


そんな私に彼女はさらに言葉をつづる。


「今回移住者のご提案をするのもその為です。

 貴女の周辺警護を任せられる者たちを集めました。

 精霊様への信心厚い者たちです。

 きっとお役に立てると思います。」


【移住者の目的】は事前の話し合いに無かったものだった。


カカンドやソムラルディらの顔を見回す。


多少呆れているようだが、それぞれ頷いている。


アグトが張り切って材木を集めている為、資材に余裕はある。


連邦の避難民らも落ち着いているし、他に問題も見当たらない。


「わかった。

 移住希望者を受け入れよう。

 ただし、【永住する覚悟】のある者たちに限定してくれ。」


「はい、既にそう説明してあります。

 みな精霊様のお力になれるならば、と覚悟した者たちです。」


「ん、そうか。

 家族と別れることの無いよう手配してくれ。」


「はい、必ずや。

 では時期は十日後で宜しいでしょうか?」


「その辺はカカンドやスムロイに任せる。

 二人と相談して進めてくれ、いいか?」


「大丈夫だ」

「任された」


二人の返答を聞き、私は席を立った。


チュバリヌに右手を差し出し、握られた手に左手を添えた。


心痛めているであろう彼女の気持ちをおもんばかり、祈りを捧げた。


「あぁっ! これが!?」


【祝福の光】がチュバリヌたちの頭上に降り注ぐ。


ソムラルディの満足気な顔が若干(かん)に触るが、言及はしない。


感激の面持ちで、光が消えてもなお天に祈り続けるチュバリヌたちを立たせ、一緒に夕食を摂るべく歩き始めた。


その後、夕食の時から翌日帰るまで、チュバリヌはまたソムラルディとの研究談義に没頭し続け、私との会話は【精霊の力】関連のみとなってしまった。


結局移住者の話はまたしても他二名の使節だけで引き受けていた。


彼女らの帰国を見送ったあと、なんとなくモヤモヤした気持ちをカンディの精神安定魔法で振り払い、私はまた日々の業務に打ち込むべく身体を動かし始めた。



 チュバリヌと共にソムラルディも旅立っていった。


連合王国の動きを報告するため、【ディプボス】に一時帰国するのだ。


川付近までは道程が一緒な為、連れ立って出発したのだろう。


橋は未完成だが、骨組みは出来ているので一人旅ならば渡っていける。


アグトかマグシュと同行すれば、と提案したが『一人で大丈夫だ』と嫌そうな顔をされた。


年寄りの癖に年寄り扱いされるのを嫌うのは何なのだろうか?


『精霊国からの移住者が来る前に戻る』と言い残して去っていった。


魔物と出会わぬよう幸運を祈るしかない。



 扇央にある、川の氾濫に備えた堤防の出来具合を確認していると、索敵魔法に人間以外の反応が感じられた。


扇状地の扇頂付近へ駆け上がっていくと、ゴブリンの群れがいた。


強化された【片手剣】によってズバズバと切り裂いていく。


二十数匹全て斃し、一息ついて山林の方を見回す。


連邦から逃れてきたラポンソによると、この山林にはゴブリン以外の見た事の無い【魔物】が生息しているらしい。


大きな四足獣に見えた、という情報のみなので正体は判明していない。


しかし、野生動物では有り得ない、その獣には【翼】が生えていたというのだから。


未知の危険生物は一刻も早く排除したい。


広く索敵を飛ばすが、残念ながら大型生物の反応は無かった。


ゴブリンの後始末をしてもらう為、警備団を呼びに行かなくてはならない。


駆け足で扇状地を降りながら、私は山林の探索方法を模索していた。



 果樹園付近にモンゴが居たのでゴブリンの件を伝える。


すぐに団員が五名程選抜され、【スコップ】を携え扇頂へ向かって行った。


「モンゴ、山林の探索は進んでいるか?」


「そうだなぁ、

 アグトの伐採に併せて地図作りもしてるんだが、

 そのせいで東側ばかり進んでるな。

 北や西はあんまり進んでいない。」


「なるほど、無理せず進めてくれ。

 ただ、警備団とは別に探索隊を創りたい。

 どうだろうか?」


「いいんじゃないか?

 ハッゲルたちが来て戦闘要員が増えたんだ。

 周辺の【魔物】は減らすに越したこたねぇよな。」


モンゴの同意に気を良くした私はさらに【探索隊】の人員も相談してみる。


「おぉ、そうだな。

 強い奴で固めた方がいいわな。

 お前さんとツェルゼンは確定だな。

 あとぁ、ん~、経験積ませる意味でアグトか。」


「アグトだと何か不安か?」


「ん~、あいつ生真面目だからよ。

 咄嗟の動きに【迷い】みたいなもんを感じんだ。

 判断速度が遅いっていうかな、まぁ慣れるしかねぇけど。」


周囲から見てもアグトは生真面目だと思われてるのだな、と少し面白く感じた。


いやいや、面白がっている場合ではない。


警備団長で戦闘員を全て把握し見てきているモンゴの人物評は参考になる。


ちゃんと聞いておかねば。


「あとは伝達要員も兼ねてマグシュか。

 【足が速い】ってのは戦いで重要な意味を持つからな。」


「うん、それは分かる」


「んで、アグトと反対に状況判断が早く的確なのがハテンサとゲーナだな。

 ハテンサはツェルゼンと同じで鍛えられた【勘】がある。

 ゲーナは地頭が良いんだろうな、動きに無駄が無ぇ。」


「モンゴから見てもそうか、私も同じように思っていた。」


考えが通じたようで嬉しくなってしまった。


そんな私を見てモンゴが優しく微笑んでいる。


モンゴには、妻はいるが子供がいない、二人とも同い年で四十近いので子は諦めてると聞いたことがある。


『子が居たならば』という想いがその視線から感じられ、少し寂しさも湧き出てきてしまう。


「よし、これで六人か、もう何人か欲しいな。

 他はどうだ?」


言った後、唇に力を込め引き結び、モンゴの二の腕を叩いて続きを促す。


「おう、そうだな。

 強さで言ったらハッゲルだが、

 あいつはルイガーワルド兵士団の要だ。

 動かさない方が力を発揮するだろな。」


「それも理解出来る。

 彼らは集団戦でこそ活きるだろうからな。」


うんうんと頷く私の反応が面白いのか、モンゴは楽しげに人物評を続ける。


「だから成長させる意味で若い奴がいいかもな。

 ドゥタンとキャンゾの【コンビ】は使えると思うぞ。

 二人組での模擬戦じゃぁかなりつえぇからな。」


「へぇ、ドゥタンは力任せな印象だが?」


「それをキャンゾが補ってるのさ。

 ドゥタンもそれが分かってるから思い切りやれるんだろ。」


「ほぉ、見ていたことでも、

 聞いてみないと分からないことが在るんだな。」


「はっは、さすがのジッガでも頭の中はわからんか。」


「わからないな。

 しかし人の心が読める者など、恐怖の存在にしかならんだろう。」


「おぉ、確かにな」


二人で可笑しげに笑い合う。


「あとはまぁ、ツセンカ辺りはどうだ?」


「うぇ? こないだ死にかけたばかりだぞ?

 今度こそ死にそうで怖いな。

 本人だって本調子じゃないんだろ?」


「いや、その本人が【絶好調】だって言ってるぞ。

 それにアイツは若い割に守りが上手い。

 前のオークの件だって、アイツじゃなかったら即死だっただろうよ。」


「へぇ、そうだったのか」


「楯がぶっ壊れて受け流し切れなかったみてぇだがよ。

 防具の質が上がった今ならあんなことにならなかった、

 って悔しがってたぞ。」


「どっちもエンリケが造っていて、守った相手もエンリケか。

 そう言えばエンリケはどうだ?」


私の質問にモンゴは眉根に皺を寄せる。


「エンリケは、まぁ、あんま良くねぇな。

 武器防具作製の才能が有るなら、そっちで頑張りゃいいと思うぞ。」


「お、ん、そうか。

 そうだな、向いてないことを強制は出来ないな、うん。」


「探索隊ならいま言った九人が最適じゃないか?

 自治区の守備は俺らに任せとけ。」


「うん、じゃあ早速声を掛けに行く。

 ありがとうモンゴ。

 これからも頼りにしている!」


「あぁ、俺も頼りにしてんぞ、【区長】殿!」


集落に向けて駆け下りながら、私は胸の内に暖かいものを感じていた。


モンゴと話している内に、自分がどんどん人との繋がりを強めていってることを実感したのだ。


共に戦う仲間、支えてくれる仲間、守るべき仲間、思い浮かべる顔全てに親愛の情を抱きつつ、更なる建国の決意を天に誓った。




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