人生を共有出来る友は得難い宝だ
作物の実りを得たことで、私たちは自給自足への第一歩を踏み出すことが出来た。
ボストウィナの村【フォノビリ】に報告がてら、逗留時の礼にと野菜を運ばせる。
いずれフォノビリ以外の村へも【井戸掘り】に向かうことになるだろう。
ラポンソらを匿ったことでオンベリーフ連邦との国境付近の探索を行っているが、今のところ動きは見られない。
落ち着いている内に獣人たちとの約束を果たしておかなければ。
また、ソムラルディとの【約束】も忘れてはいない。
今、私たちは投げ縄漁の護衛がてら、【川】に橋を架けようと作業中だ。
焼け野原にしてしまった【草原】を回復させるため、向こう岸に渡る手段を得なければならない。
前回はソムラルディの氷の橋で渡ったが、あれでは一日とて保てない。
行きはアグトらが伐採した木材を運び込み、帰りは魚を積んで帰ることを数度繰り返し、今回から橋の建設にとりかかることが出来た。
ソムラルディの話によると、この川は草原の中を枝分かれして穏やかに流れている為、雨季でもさほど増水しないらしい。
恐らく上流付近で地下深い水脈へと流れ込んでいるのだろうな、と前世の知識から直感した。
獣人の国【ヌエボステレノス】の水不足もそれが原因だったのだろう。
地下深くまで掘らなければ豊富な水脈まで辿り着けないのだから。
しかし、と私は周囲を仰ぎ見る。
人間も亜人も住んでいないこの地域は、【移住】に適しているのではないだろうか?
野生動物が適度に暮らし、強い魔物も見当たらない。
私たちが回復させれば、川向こうの広い草原も生命の営みも活力を取り戻すだろう。
現世に存在すればの話だが、【稲作】に向いている土地だと思えた。
ソムラルディに確認したところ、この一帯はエルフが住む【ディプボス】と獣人の国に挟まれている為、昔から人間が住みついたことは無かったそうだ。
つまり【空白地帯】ということだろうか?
キシンティルクに確認してみる必要がある。
問題が無ければここに国の礎を築くことが出来るかもしれない。
一緒に来ていたゲーナに相談してみると『気が早い』と笑われたが、『【国】と呼べるだけの人員が増えたなら、ここは最適だろう』との同意を得た。
南は【連なる山々】で人間たちは入り込めず、西は【ディプボス】、東には【ヌエボステレノス】、ただ一つの懸念は北の【ヘネローソ精霊国】だ。
以前来訪したチュバリヌという議員はソムラルディの知り合いだったので友好的だったが、【国】として私たちに好意的だった訳ではない。
すぐ南にアヴェーリシャに対して戦意溢れる【国】が出来上がることを歓迎するとは思えない。
アヴェーリシャを滅ぼしたあとのことを想像すれば難色を示すだろう。
自国を脅かす存在となる前に潰してしまおう、と考えるのが当然な気がする。
そこまで考え至り、再びゲーナに相談すると、また『気が早い』と笑われた。
「おぉ! ジッガ! よく来た!」
ボストウィナが満面の笑顔で迎えてくれた。
今日はキシンティルクに案内され、獣人の国の首都へ向かうところだ。
素通りするのも悪い気がして彼女の村へと立ち寄ったのだ。
私は馬から降りて肩を叩き合い友好を示した。
「お前たちがくれた【トマト】は美味いな!
ここでも育て始めてるぞ!」
「喜んでくれて何よりだ。
ただ私たちは【魔法の力】で育ててるから生育が早い。
普通に育てると半年以上かかるかも知れないぞ?」
「なーにぃ!? そうなのか?」
ガッカリしているボストウィナを慰め、リルリカに【トマト】の栽培方法や調理方法を村人に詳しく説明させた。
その間にカンディには村にある種全てに【実りの種】の魔法を掛けてもらう。
思ったよりも時間を取られてしまい、キシンティルクに急かされて慌ただしく再出発することとなった。
姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれるボストウィナたちへ、何度も振り返りながら手を振り返した。
初めて獣人の都【ヴァーブルドムバ】へと足を踏み入れた。
思っていたより立派な【街】である。
【税】が存在せず、【通貨】もあまり流通していない社会なので、正直【大きめの村】を想像していた。
周囲に百を超える村があるためか、防備施設はほとんど無く、街の周辺には畑が広がっていた。
だがその中心地は【都】と言えるだけの繁栄ぶりが見て取れる。
木造石造入り混じった高い建築物は【歴史】を感じさせ、【国王の館】は威風堂々とした【格】を否応なく魅せつけてきた。
「いやぁ~、立派なものだな。」
「はっは、褒めてくれる、嬉しいぞジッガ。」
既に館の玄関先で待っていたゼダックヘインが呵呵と笑い、中へと案内してくれた。
相変わらず気安い国王様だ。
見た目が完全に【狼男】なのだが、毛むくじゃらのキシンティルクら【剛毛の騎士】もいるためか然程気にならない。
というか、館の中には毛の薄い【人間寄り】の獣人が殆ど居なかった。
王の周りは強者で固めている、ということなのだろう。
毛の濃さで強さが一目瞭然なのは分かり易いことこの上ない。
中へ案内されると、外観に比して格段に質素な大広間に通された。
「まずは、来てもらって、礼を言う。
今日は、井戸掘り以外、話ある。」
「格闘訓練の話じゃないよな?」
「闘いたい、思ってる。
けど今日は、違う話。
キシンティルク、任せた。」
キシンティルクに任せるということは、難しい話か面倒な話なのだろう。
カカンド、ゲーナ、ソムラルディらと一度視線を合わせてから、剛毛の騎士へと向き直った。
もはや見慣れた毛むくじゃらの顔から、辟易した表情が見て取れた。
「何回か、人間の国、使者来てる。
南東の国だ。
我々と、一番仲悪い。
【亜人蔑視】、ひどい国。」
ヌエボステレノスの南東に位置する国、名前は【ナステディオソ連合王国】というらしい。
三つの王国が徒党を組んだこの国は、『【亜人】討つべし』と昔から何度も【戦争】を仕掛けてきたのだという。
そして最後の【小競り合い】でゼダックヘインの人外の戦闘力を見せ付けられ、ピタリと国交断絶状態に落ち着いたはずだった。
それなのに厚顔無恥にも【平和の使者】と称して使節団がやって来て、『貴国の領地に住まう【聖女】を引き渡したまえ』とぬかしているそうだ。
その度にキシンティルクは『彼らはただの【避難民】であるし、国境付近で【借り暮らし】しているだけだ』と突っぱねているらしい。
だがその度に『神に愛されし【聖女】は人類の宝、大事に【保護】すべきだ』と引かないらしい。
「あいつら、頭おかしい。
ジッガ、良い案ないか?」
ゼダックヘインが心底嫌そうな声色で問いかけてきた。
正直に言えば『その使者を殺してしまえばどうだ』と思ったのだが、それで【戦争】になれば自国の民が争いで死ぬ、彼はそんな選択肢は望んでいないだろう。
カカンドに目を向けると、顔をしかめながら口を開いた。
「俺らのせいで迷惑かけて申し訳ないとは思うが、
たぶん奴らは獣人に難癖つけてぇだけだろな。
うまく追い払っちまいてぇところだ。」
「うん、戦いになれば人が死ぬ。
しかも戦った所で益の無い勝利しか得られないもんね。」
「うむ、戦えば勝てる、だが【意味】が無い。
意味無く、民を死なせたくない。」
「むぅ~」
悩む人間と獣人たちを尻目に、ソムラルディが澄まし顔で話しだした。
「ならば斯くせばいかでか?
【聖女】ならず【精霊】と。
既に森の民に【保護】されたり。
手いだし無用。
【古の盟約】よりて一戦も辞せぬ、と。」
この提案に皆が驚く。
私もまた動揺を抑えきれぬまま声を発した。
「え? ソムラルディ?
そんなに簡単に言っていいのか?
【エルフ】の名前を出して【威嚇】するってことだろ?
【ディプボス】に確認しなくていいのか?」
質問を並べ続ける私に対し、いつもの馬鹿にした苦笑を挟みつつ、答えを返してきた。
「見定むるまでも無し。
かの国は五百年前よりの仇敵なり。
かの国の昏さよりヒトとの争い始まりけり。
森の民へは事後報告にてありぬべし。
かの国の意の侭にさせぬるこそ森の民の心憂くなる。」
どうやらエルフたちは【ナステディオソ】が大嫌いらしい。
その国が原因で人間との戦争が始まったのなら、互いに多くの犠牲者が出たことは想像に難くない。
寿命が長い分、エルフたちには原因となった国に対しての怒りが大きいと見える。
私も心情的には完全に【獣人の味方】なのでこの提案に乗っかった。
「ゼダックヘイン様、
ソムラルディの言う通りにしてはどうか?
私もそんな恥知らずの国は大嫌いだ。
我が愚かな祖国に重ね合う想いになる。
仮に【戦争】になったならば、私を【先陣】にして欲しい。」
「ぬぅ!? だが、お前、こども。
駄目だ。
キシンティルク、言ってた、お前を【友】だと。
俺もそうだ、お前は、【友】だ。
死地になど、出さない。」
獣人の主従による真っ直ぐな友情を告げられ、私は刹那の間も待たず、感極まった。
「おっ!」
ゼダックヘインとキシンティルクの頭上から光が降り注ぐ。
煌めく光が消えるの間ももどかしく、私は言葉を紡いだ。
「ありがとう、ゼダックヘイン様。
ありがとう、キシンティルク。
祖国を捨て、ここへ辿り着けて本当に良かった。
キミたちの【友情】に感謝する。」
眼に涙を浮かべ話す私の頭を狼の手が撫でる。
キシンティルクもその横で穏やかな笑みを浮かべていた。
結論としてソムラルディの提案が採用され、私が強硬に言い募ったので【戦争】の際は【リベーレン自治区】が全面協力することも決定された。




