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滂沱の日々  作者: 水下直英
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死にたくないなら、生きるしかない


 モンゴらが発見した【難民】は自治区の北側にある国からの逃亡者たちだった。


旧集会所の一室に集められた彼らはいま、簡素なスープを啜り身体を温めていた。


保護したのは二十数名だが、国を発つ時は五十名以上いたらしい。


国境の山林を抜ける際に魔物に襲われ散り散りになり、南へ逃れ得たのが彼らなのだそうだ。


先程モンゴは私に「どうする?」と問いかけてきたが、倫理的にも感情的にも【見捨てる】という選択肢を取ることは出来ないだろう。


とは言え、ちゃんと話を聞いてみないことには結論を出せない。


代表者の【ラポンソ】が詳しい経緯を説明し始めたので耳を傾けることにした。



 まず彼らが逃れてきた国の名は【オンベリーフド連邦】という名前だった。


キシンティルクからも少し説明は聞いていた国だ。


低い山脈を挟みこの自治区からすぐ北に位置していて、小領地が七つ集まって出来た国らしい。


ただ、小領地同士の仲はとても悪いらしく、こちらに干渉してくることは今までほとんど無かったと聞いたので、あまり警戒をしていなかった。


ラポンソらもこんな所で【人間】が暮らしていることに戸惑っているという。


連邦と獣人の国は交流が皆無な為、その間には【道】が存在していない。


私たちの情報はあちら側にはまるで伝わっていないそうだ。


そして彼らが国を逃げ出した理由は予想された範囲内のものだった。


領地同士の争いが小競り合いと発展し、住んでいた村が壊滅状態となってしまい、命からがら何も持たぬまま山へと逃れ、ここまで辿り着いたらしい。


ラポンソが隣の妻を気遣っている、反対側から元気付けているのは娘だろうか?


二十歳は超えているように見える。


彼らの中に子供の姿は見えない。


近いとはいえ、三日か四日はほぼ飲まず食わずで逃亡していたのだ、怖くて中々そのことが訊けずにいた。



「で、どうするジッガ?

 受け入れるのか?」


カカンドがやけに冷たい声色で問いかけてきた。


思わずその顔を見つめるが、無表情のまま見つめ返された。


彼の【相談役】としての、そして【教師】としての【問い掛け】を感じた。


『安易に受け入れて本当に良いのか?』


そう【区長】としての資質を試されているのだ。



 この一ヶ月以上、私たちはアヴェーリシャへの反抗心という【こころざし】のもと、心を一つに新天地で居場所を築き上げてきた。


この数日でハッゲルらルイガーワルド兵士団が加わったが、彼らはあくまで【客分】だ、区民となった訳ではない。


ラポンソたちは明らかに立場が違っている。


アヴェーリシャとまるで関係が無いし、【志】があるとしても確実に目的を違えるだろう。


受け入れてしまえばオンベリーフド連邦との関係は【無】だったものが、確実に悪化してしまうし、最悪の場合攻め込まれる口実となってしまう。


それに、区民が質素な暮らしに耐え、必死に実らせた作物を分け与えなければいけない。


そのことを業腹に思う区民が出てくる可能性がある、彼らは獣人ほど【善性】高い人々ではないのだから。


私は【区長】として、皆を【ひきいる者】として、誤った選択をするわけにはいかない。


約二百名の生命と意志が、私の決断に左右されるという【責任】が重い。



『私の国を興し、死の意味を知らぬ馬鹿共の国を打ち倒す』



『仲間たちが安心して暮らせる【良い国】を創り上げる』



『【獣人の国】のように国民に信頼される【王】になりたい』



 脳裏を様々な【決意】が駆け巡る。


きっと『今、この時』が、私の【王の器】が変化する大きな転機となるに違いない。


一度、深呼吸してからカカンドに頷き、ラポンソたちの方へ向き直った。


避難民ら二十一名も緊張した面持ちで居住まいを正す。



「ラポンソ、そしてオンベリーフドから逃れてきた人々よ。

 受け入れるかどうか決めるために、

 まずはキミたちの【覚悟】を問いたい。」


私の言葉にラポンソらは顔を強張らせる。


それに構わず私はさらに激を発していく。


「私たちは君たち同様、国から逃げてきた。

 だが!

 私たちはいずれあの愚かな祖国を打ち倒す!

 そう【志】を一つにして【生きること】にしがみ付いた!」


避難民たちがどんどん眼を見開いていった。


「キミたちは祖国に殺されるために生きてきたのか!?

 違うだろう!

 生きることを諦めるな! 死にたくなければ足掻け!」


ラポンソが両手を震わせながら握り込む。


「理不尽を許すな!

 死の苦しさを! つらさを知らぬ馬鹿共に!

 死の何たるかを教え込むんだ!

 その為に私は【国を創り上げる】!

 理不尽の無い! 安心して暮らせる国を!」


「おぉ」


避難民たちの口から感極まったため息が漏れる。


「どうだみんな!

 私について来れるか!?

 その【覚悟】はあるか!?

 覚悟有る者は残れ! 覚悟無き者は去れ!」


「ある! 俺はある!」


まず一人の若者が立ち上がり拳を握り締め叫んだ。


ラポンソら避難民は次々立ち上がり覚悟を示した。


「キミたちの【覚悟】、受け取った!

 そして命を落としたキミたちの村の者らに祈りを捧げる!」


大声で宣誓してから手を組み、天に祈った。


「おぉ!?」

「な、なんだ!?」


彼らの【決意】を受け入れたことで光が降り注ぎ、魂の欠片が私の身体から飛び出し天へと昇っていく。


光溢れる室内で、避難民たちは驚き慌てふためくが、対して自治区の面々は静かに祈り続けていた。


「ラポンソ、キミたちを受け入れよう。

 志を一つにして、良い国を共に創っていこう。」


「は、はい!」


彼らは一斉に椅子を退け、ひざまずいて私に祈りを捧げ始めた。


そこまでは求めていないのだが、いま無理矢理立ち上がらせるのは違う気がしたので気が済むまでそのままにした。


恍惚の表情を浮かべるソムラルディは無視して、カカンドの方を見やる。


彼は「合格だ」と言わんばかりの笑顔で、大きく頷いてくれた。


モンゴには引き続き山林に他の避難民が居ないか探索を行わせた。


結果、残念ながら他には発見出来ず、ラポンソたちは落胆していた。


気の毒だがどうしようもない、彼らを元気付け、まず身体を休め体調を戻すよう指示した。




 その日から、旧集会所である【区役所】に人が集まり始めた。


今までは村に居た頃の簡単な規則でなんとかなっていたが、国が違う者同士が暮らし始めた今、規則の改正と新規作成が必要となったからだ。


法規を設定し罰則を取り決める準備が始まった。


区長である私の特例も許されない、厳しいものとするつもりだ。


人間は獣人と違い【善性】と【悪性】を持つ。


しっかりとバランスを取らないと、すぐにどちらかへ傾き、極端な結果に終わってしまう。


文化の違いを知るためにしっかりと聞き取り調査を行い、擦り合わせを行う。



 私も出来るだけ区役所へ足を運び、規則の草案が刻まれた木板を確認した。


【区長】の私は皆の規範とならねばならない、しっかり目を通す必要があるのだ。


だが、そればかりもしていられない。


区民が増えたのだから畑の拡張作業は必須だ。


ハッゲルたちのおかげで周辺警備に回す人員は足りており、若い区民を畑や果樹園で働かせられるようになってきている。


治水工事も順調で、果樹園などに対して方向を逸らすだけの簡素なものだが、雨季に入るまでに強固な堤防が出来上がるだろう。


いくつか問題は片付いたが、難民を受け入れたことにより、外交問題の火種を抱えた。


結局悩み事は尽きないが、出来ることからやっていくしかない。


生きることを諦めぬ限り、やり続けねばならないからだ。




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