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滂沱の日々  作者: 水下直英
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全てが上手くはいかない、と理解しているつもりだ


 他人の感情を理解するのが苦手な私だが、自分自身の感情を抑えることも苦手らしい。


「俺たちゃ食料をもらってる立場なんだからよ。

 な? ジッガ、あんまキツく当たんなって。

 悪気わるぎは無ぇんだからよ。」


カカンドが優しい口調でさとしてくる。


もう落ち着いてるつもりだったが、横のカンディから「まだ顔が怖い」と指摘されてしまった。


顔の筋肉をぐいぐいと両手で揉みほぐし、ゼダックヘインの許へ向かった。



「あ~、ゼダックヘイン様、すまない、言葉が過ぎた。

 こちらも少々問題を抱えている最中なんだ。

 一年か二年したら果実が生る予定だ。

 それをお礼とお詫びの一部としたい。

 しばらく猶予をくれないか?」


私の謝罪に、狼男はチラリと横目で視線をくれた。


「なら、闘うの、どうだ?」


「忙しいって言ってるだろうが!!」


能天気な狼男の発言を聞いてまた怒鳴ってしまった。


キシンティルクとカカンドによって再び引き離されてゆく。



「王様、今のジッガたち、明日の食事、それすら不安。

 思い遣り、大事。」


「お、そうか、そうだったな。」


キシンティルクの説得が実り、ゼダックヘインは渋々ながら帰っていった。


これで数日後また来るようなら、お望み通り闘ってぶん殴ってやりたい。


だが恐ろしいぐらい強いあの狼男相手では私の方が怪我をする確率が高い。


今の状況で私自身が怪我をするわけにはいかない、私の【奇跡の力】が私自身の怪我を治せるかは分かっていないからだ。


これに関しては『じゃあ試そうか』と気軽に怪我をするわけにいかない。


『治りませんでした』と、自治区の発展を遅らせる訳にはいかないのだ。


研究馬鹿なエルフが残念そうだったが、戦闘馬鹿な狼男同様構っていられない。


日々様々な問題が発生し続けているのだから。



「なに? 鳥害?」


ソムラルディの話によると、【鳥害】は近々確実に訪れる問題らしい。


もちろん【ウサギ】などの獣害も予測される。


だが【柵】や【罠】が有効な小動物よりも、空中からやってくる【鳥】は何倍も厄介らしい。


エルフたちも有効な対策が出来ていない難問とのことだった。


畑の農作業でも鳥はたまに来ていたが、この世界の鳥たちは特に果樹の実や種が大好物らしい。


とりあえずはエルフたちもおこなっている方法を備え付ける。


ブドウ用の棚木などの上部に尖った木製の針をズラリと並べた。


これで鳥たちは棚木を止まり木とすることが出来ないので、ある程度【鳥害】を減らせるらしい。


しかし地面に降り立つことは防げない。


果実が実を付けるまでにはまだ時間的余裕がある。


草を食べる獣の方の対策を急がせ、【鳥害】に関しては後に回した。


警備団の夜の見回りとは別に、農夫らによる果樹園と畑の夜間巡回が多数決により決定される。


今、私たちに余裕は全く無い。


育てた芽ひとつすら鳥獣に荒らされる訳にいかないのだ。



「で、こうなったわけか……」


農夫による夜間巡回が決定した翌日、私は果樹園にて茫然と佇んでいた。


巡回は短い間隔で何度も行われたらしい。


だが、恐らく【小鳥】によって果樹園は荒らされた、種をほじくられ食べられた跡が何箇所も残っていたのだ。


『後に回す判断を下した私の責任か……』


奥歯を噛み締め空を睨む。


無駄な行いとは分かっているが気持ちが収まらず、【炸裂魔法】を鳥の縄張りである空へ向け爆発させてやりたくなる。


「ジッガぁ、そんな怒ることないよぉ。

 種なら私が力を込めて何度でも植えるから。

 ね? ほら、また頑張ろ?」


慰めてくれるカンディの頭をぐりぐりと何度も撫でる。


「あいたた、もう!

 優しく撫でてよジッガってばぁ!」


とりあえず今日の夜間巡回は私が行おう。


身体強化魔法によって視力も聴力も格段に研ぎ澄まされている。


鳥の襲来に気付ける度合いは格段に違う自信がある。


『見てろよ鳥ども!

 私の【片手剣】で全て両断してやる!』


槍での【点】より剣での【線】の攻撃の方が小さい獲物に当て易い。


私は腰にエンリケが強化した【片手剣】を備え、気合を入れて【夜】を待った。



「して、なりしよしか……」


翌朝、気の毒なものを見る目でソムラルディが私を見つめる。


巡回中に私は想定通り何度も【小鳥】を発見した。


だが農夫が丹精込め作成した果樹園の棚木は狭い間隔で並べられ、剣を振る際にその支柱が邪魔になる。


さらに地に下りた小さな鳥に対して、剣を地面に当てないよう気遣った攻撃は中々当たらなかった。


一応戦果としては小鳥を五羽ほど仕留めた。


飛び立つ際に両断したのだ。


つまり、【食われて】から、飛び立ったところを駆除しただけだ。


屈辱に身を震わせる。


私はこんなにも考えの足りぬ馬鹿だったのだろうか?


恐らく顔を赤くしているだろう私に、ゲーナが話しかけてきた。



「ねぇジッガ、私考えたんだけど・・・」


「待て、ゲーナ。

 我も策有る。

 同時に言わん。

 ヒトと森の民の知恵比べなり。」


ソムラルディはゲーナの知恵をかなり高く買っているように思える。


彼女だけは正式な【弟子】のように考えている節がしばしば見受けられた。


今もまた、排他的なエルフとは思えぬ振る舞いでゲーナと楽しげに話している。


「ふふ、では言いますよ?

 せーの、」


「「【あみ】!」」


二人同時に同じ単語を言った。


同じ対策を考えていた、ということは間違いないようだ。


それにこの二人が考えた【策】だ。


有効でない筈がない。


その詳細を聞いて、更に確信が持てた。


そして、また【彼】の能力が活かされることになる。


いや、今回は【彼女】も活躍するかもしれない。


自治区民たちの努力も必要だ。


早速集落に戻って皆に話さねば!


私は全速力で足を回転させ、扇状地を降っていった。



 久々の手仕事に、ニーナたちは張り切って作業している。


あみ】とは言っても、村の時のように綿花から糸を作る作業ではない。


畑周辺から草を刈ってきて、細かい網目で結び繋げていくだけだ。


出来上がった先から【エンリケ】が魔力をり込み強化していく。


本来であればそれで充分効果を発揮するが、更にその【網】に【ベルゥラ】が粘着力のある魔力を塗り付け固着させていった。


彼女は既に魔力を発現させており、それはソムラルディの予測通りエンリケに似た粘着する力を持った魔力だった。


魔力に覚醒したばかりのベルゥラだが、その総量は少なくない。


網という総面積の小さい物が相手なのも都合が良い。


エンリケもベルゥラも魔力を尽きさせることなく、【仕掛け網】はどんどんと大きく拡がっていった。



 各所に細い丸太で柱が組まれ、巨大な【仕掛け網】は果樹園をおおった。


エンリケが魔力を抜けばすぐに外せる柱なので、修繕も簡単に行える。


ひとつ懸念があるとすれば、小鳥がかかり過ぎて生態系が狂わないか、というものがあった。


これをソムラルディに伝えたところ、『少しは成長したか』と微妙な褒められ方をした。


「それならば【アレ】を用いるべし。

 先日教えしアレなり。」


このエルフが関わってきてから教わったものは索敵魔法以外、【アレ】しかない。


私は四元素の魔法に関して全然魔力を発現させられなかった。


正確には攻撃に関する魔法を全然覚えられなかったのだ。


土に魔力を練り込むのと、魔力で土壁を形成することはまるで違うモノらしい。


唯一覚えた【アレ】も攻撃に向いているモノでは無かった。


「【アレ】か。

 どう使えばいいんだ?」


問いかける私に、この【鬼畜教師】のエルフは、『分からないのか?』とまた小馬鹿にした様子で答え始めた。



 次の日、【仕掛け網】は大盛況だった。


小鳥の鳴き声は『ピーチクパーチク』ではなかった。


ジュンジュンジュンジュン!!!


と、激しく空気を震わせ、捕らえられた小鳥たちは鳴き声を上げていた。


エンリケによって強化された網は千切れることなく、小鳥を捕らえ続けている。


これを全て殺していてはやはり生態系が狂うだろう。


昨日殺した小鳥はほとんど食べる部分が無く、無駄な殺生をした気分だった。


やはりソムラルディに教わったアレをするしかない。



「てやっ」



パァン!!



強烈な破裂音が鼓膜を刺激する。


私が網付近に放り投げた『アレ』とは【大きな音】と【少しの衝撃】を与えることが出来る魔法だ。


ソムラルディに教わった中で、【炸裂魔法】を改良して、今のところ唯一出来るのが『アレ』だった。


音に驚き、また、衝撃によって網から一瞬足の離れた小鳥たちが一斉に遠ざかってゆく。


次々と、小鳥の固まっている部分に向け【小規模発破魔法アレ】を放っていく。


粗方逃がしたところで、残った十数羽は夕食用に捕らえた。



 これで警戒心が増して果樹園に近付かないようになれば良いのだが。


しかし彼らは【鳥頭】だ、ソムラルディも『また来るだろう』と嫌な予言をしている。


繰り返し続けるしかない。


彼らも含め、私たちの未来を守る為に。




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