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滂沱の日々  作者: 水下直英
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損得と感情、どちらが人を納得させるのか


 私の存在を認識した【ヌエボステレノス国王】がゆっくりと近付いてきた。


遠巻きに獣人らを眺めていた村人たちが慌てて私の背後へ回り込み、次々と片膝を突いて頭を下げていく。


貴族を相手にする平民の基本姿勢だが、獣人たちにはそれが理解出来ないようで不思議そうに見つめてくる。


私もまた、失礼にならないよう、顔は上げつつ片膝は突いている。


私の目の前、数メートルのところで獣人の王たる人狼が足を止め、口を開いた。



「お前が、ジッガか?」


先程子供たちを相手にしていた時とは違う、低く威厳のある声で問うてきた。


「はい、ヌエボステレノス国王様、御目通り出来て恐縮です。」


頭を下げる私に対し、狼男は鼻を鳴らしそれをさえぎる。


「あぁ、いらん、立て。

 話しづらい、ただでさえ、お前は小さい。

 本当にお前、強いのか?」


その言葉に私は立ち上がり、王の顔を真っ直ぐ見つめた。


アヴェーリシャでは考えられない行いだ、すぐさま打ち首になるだろう。


「王よ、強さは言葉で語る物ではない。

 望むならばその眼で確かめればいい。」


もはや敬語も意味が無いと判断し、分かり易くこちらの意図を伝えた。


その狼相のため表情は分からないが、愉快そうに笑い声を上げ始めた。


「いいぞ! 実にいい!

 【強き者】! そうでなくては!」


そして、戦いを始めようと言わんばかりの体勢になっていく。


だが、隣に立つキシンティルクがそれを押し止めた。


「王様、まだ早い。

 闘い方、勝った後、負けた後、何も、決めてない。」


「お、闘った後、ダメか?」


何も考えないで戦おうとしていたらしい。


それは私としても望ましくない。


「王よ、話は聞いているだろうか?

 私たちは住める場所を借り受けたいだけだ。

 支援も取引も必要ない。

 国の僅かな一端だけを我々は望んでいる。」


「おう、知ってる。

 だが、国の掟、獣人だけ住む。

 これ、破れない。」


「ならば国境ではどうか?

 国ではなく一時の自治区域として認めてもらいたい。

 お互い害意を持たず、干渉しないだけでいい。」


私の提案に、狼男は困ったようにキシンティルクを見やった。


剛毛の騎士が数人いて、もうどれが彼なのか私には判断がつかないが、恐らくそうだろう。


「王よ、あのわらべ、強い。

 闘う、強さ、知る。

 お互い、納得出来る。」


その言葉に狼男は嬉しそうに頷いた。


「よし! ジッガ!

 【力】、見せろ!

 強ければ! 認める!」


どうやら、お互いが望む形で【納得】が出来そうな状況になった。


思惑通りに進みそうで私はホッとすると同時に、緊張を覚えた。


戦いを目前にした狼男から、並々ならぬ闘気がほとばしり始めていたからだ。



 正直なところ、相手は国王に次ぐ者ぐらいが良かった。


国王を叩きのめしてしまうと、全てがご破算となる危険性があるからだ。


それにあの狼男は国民の信頼が厚そうだ。


変に勝利してしまうと国民から悪感情を抱かれる恐れもある。


かといって手加減してどうにかなる相手でもなさそうだ。


生体看破魔法で知れる彼の存在感は圧倒的だ。


【オーク】や【ユメクイ】の比では無い。


良い勝負をして引き分け、が最上の結末だが果たしてどうなるか。




 村の中にある訓練場へと連れてこられた。


ボストウィナのような半農半兵がいつも使っているのだろう。


ボロボロの巻き藁や練習用らしき木製武器が転がっている。


昨日話してみて、獣人の特性が『善性』ともう一つ有ると気付いた。


それは『戦いが好きだ』という点だ。


『善性』と矛盾するようだが、決して【殺し合い】が好きな訳ではない。


【力】を競い合うことが好きなのだ。


昨夜も獣人側からしきりに腕相撲を申し込まれた。


子供から老人まで実に楽しげに【力】を誇り合っていた。


私やアグトが【力】を示せば素直な歓声が沸き起こる、本当に分かり易い人々だ。


だが、決して知性に劣る訳ではない。


単語ばかりのぶつ切りの会話も、昔からそうだというだけで、呼吸器官の違いから息継ぎの頻度が高かった名残なごりらしい。


つまり、言葉による誤魔化しは効かない。


正々堂々と【力試し】を行い、あの【狼男】に私たちの【滞在】を認めさせねばならない。


闘志をみなぎらせ、こちらを視界に捉え続ける獣人の王。


私もまた、彼を視界から外すことなく、キシンティルクの注意事項を聞いていた。



「素手だ、いいか?

 ゆっくり、本気出せ。

 王には、爪、使わせない。

 王の本気、すぐ、死ぬ。

 ジッガ、いいか?

 ゆっくり、本気出せ。」


やけに心配してくれるな、と不審な気持ちが湧いたが、これが獣人の気の良さかと思い直す。


私のような子供が2メートルを超す狼男と戦うのだから、心配も当然だろう。


ツェルゼンいわく『善性濃き』彼らは【子供の死】という結末を望んでいないのだ。


周囲で見守る獣人の村人らも【王の勝利】を願い声援を送ってくるが、言葉の端々に『手加減』や『優しく』などが入り混じる。


大して人間側からも熱い応援が聞こえてくる。


主に村長やギルンダら老人たちが拳を振り上げ声を張り上げている。


言葉の端々に『聖女』や『精霊』などが入り混じる。



「俺の名前、まだだな。

 【ゼダックヘイン】、だ。

 過去三人目、神祖しんそ返り、だ。

 なるべく、殺さん。

 が、覚悟は、しておけ。」


「ジッガだ。

 【覚悟】はとっくに出来ている。

 そちらはどうだ?

 【負ける覚悟】は出来ているか?

 【本気】を出さねば負けるのはキミだぞ?」


煽りでもなんでもなく、正直な考えを伝えた。


手を抜かれて居住を認められても、後々問題が起こりそうだ。


獣人からは心底からの敬意を受け取りたい。


この国からいずれ【出て行く】としても、この善良な種族とは円満な関係を築いておきたいと判断した。


「ぬ、分かった。

 侮らぬ。

 【魔法】、使え。

 全て、見せろ。」


「【全て】は見せられない。

 【炸裂魔法】を使うと周りの人たちが死ぬかもしれないんだ。

 【身体強化魔法】だけで戦う。

 キミが【爪】を使わないのと同じだ、【対等】でいこう。」


「なるほど。

 いいぞ、ジッガ。

 俺と、【対等】かどうか、見せろ。」


私の言葉を聞いていた審判役のキシンティルク達が見物する村人たちを下がらせ始めた。


改めて【魔法】に警戒心を抱いたのだろう。


昨夜その【魔法】の力を見せつけられた獣人の村人たちが、真剣な面持ちに変わり下がっていった。


訓練場を遠巻きに見つめる村人たち、場内には決闘する二人と、審判役の剛毛の騎士三名だけが残った。


静まり返った中、キシンティルクが右腕を振り下ろし、【闘い】が始まった。




 開始の合図とともにゼダックヘインは地を蹴り、真っ直ぐ私に接近して右腕を振り抜いた。


ただそれだけの動きだが、凄まじい速度で行われた。


身体強化を全開にしている私がかろうじて避けられるスピードだ。


『ゆっくり本気を出す』のではなかったのか、と思いながら距離を空ける。


土煙を上げた獣人の王の一撃に、人間側の集団が息を呑んだのが分かった。


おおよそ人間に可能な動きではない。


対して獣人側の集団からは歓声が上がった。


自分たちの王の異能を目の当たりにした興奮が伝わってくる。



 ゆったりとした動作で、ゼダックヘインは私が体勢を整えるのを待っていた。


そして、私が重心を低く落とし、構えたところで二撃目を放ってきた。


右後方へ回り込むと見せかけた高速ステップで接近し、しゃがみ込みながら回転し、私の足元目掛け右足の踵を振り抜く【水面蹴り】を見舞われた。


短く飛び退り躱しながら、手の届く距離となった狼男の頭部へ跳び膝蹴りを放つ。


かなり力を込めた攻撃だったが、狼男は両手の平によって引きながら受けることで衝撃を吸収しつつ、そのまま左足を振り上げた。


下方から迫るその左足に両足を乗せ、今度はこちらが衝撃を殺しつつ後方へ宙返りして攻撃をいなした。


一瞬、場内に沈黙が流れた後、歓声が爆発した。




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