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滂沱の日々  作者: 水下直英
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旅の終わりに去来する寂しさと新生活への懼れ


 大量に得た魚の三分の一を今夜の食事に回し、残りは加工して明日の二食分とすることとした。


これで一日分の食糧を浮かすことが出来たので、残り七日分を残して明日【獣人の国】へ向かえる。


山を越える必要があるが、目を凝らせば山麓さんろくに獣道が存在しているのが分かる。


獣人たちが踏み締めて出来たのであろう細い道だ。


馬車が通れる道幅があるか不安が残るが、前列で道を整えながら進めば通行は可能だろう。


夕食の魚料理を食べ終え、そんな相談をしてから就寝した。


夜中に警備の順番が回ってきたので、眠い目をこすり巡回を始めた。


小雨の降る中、壮年の警備団員と一緒に村人の眠る天幕の外側を歩く。


ふと、彼が真面目な顔で話しかけてきた。



「ジッガ、

 【ヌエボステレノス】は俺たちを受け入れてくれるだろうか?」


「正直なところ分からない。

 だが【力】を示し、無理にでも受け入れてもらうつもりだ。

 私たちには他に【道】がないのだから。」


「……うん、そうだな。

 俺らはお前を信じるしか無いんだよな。」


村にいた頃から何度も警備を共にしたことのある彼の顔を見つめる。


月明かりの中で彼の不安げな表情が照らされていた。


「【テビンス】、

 ここまで私を信じてついてきてくれたことに感謝する。

 かつてアグラスのジッガ団入りを拒絶した私だが、

 心の中に含むものは何も無い。

 これからも私たちを信じて欲しい。」


アグラスの父である彼に対し、私は胸の内を真摯に伝えた。


「あぁ、いや、アイツは本当に誰に似たんだか……。

 すまなかったな、馬鹿な息子で……。

 こっちの方こそお前さんに含むものなんて無ぇからな?

 アイツも妻も今じゃお前さんを【英雄】だ、って言ってんだぜ?」


「ん、そうか、ありがとう。」


感謝を告げたが、まだ彼は何か言いたげに視線をさ迷わせている。


「そんなに【獣人の国】が不安か?」


「あ、いや、行き先がどうとかじゃないんだ。

 ……ただよ、

 村を出る時にゃ【死】を覚悟してついてきたが、

 なんだかんだで危なかったのはツセンカの件だけだ。

 なんかよ、『楽しい旅だな』なんて思っちまって、

 逆に不安になったっていうか、なんというか・・・」


村人を誰一人死なせまい、と全力を尽くしてきたが、守られる側としてはそんな感想になるのだな、と括目かつもくする思いだった。


「恵まれ過ぎてる、と感じているのか?」


私の言葉にテビンスはハッとしたように右手で口を押さえた。


そしてゆっくり手を下ろすと、ぽつりぽつりと語りだした。


「そうかも……しれねぇ。

 ウングラク村がよ、皆殺しになったって聞いて……、

 次は俺たちの番か、って皆で相談して……、

 でも【奇跡】を何度も起こすジッガがいるからって……、

 それでもジッガは十歳の女の子だぞ、って……、

 俺たちは頼りっぱなしでいいのか、って・・・」


話している内に、テビンスは感情がたかぶってしまったのか黙り込んだ。


少しして気持ちを落ち着けたあと、今度は謝罪を繰り返した。


「テビンス、謝る必要など何も無い。

 さっきも言ったが、ついてきてくれたことに本当に感謝しているんだ。

 あの国を許せない気持ちがキミにも残っているだろう?

 その【こころざし】有る限り、私たちはともに在るべきだ。

 今は『恵まれている』と感じていても

 明日になればどうなるか分からない。

 どうか、これからも力を貸して欲しい。」


「おぉ、……ジッガ。

 なんか、少し前のことなのに、

 村に居た頃と違って見えるな。」


「あぁ、仲間や、村の皆が、

 私をどんどんと変えていってくれている。

 その内の一人がキミだ、テビンス。

 私がキミたちを誇るように、キミもまた誇って欲しい。」


テビンスはまた感極まった表情を浮かべた。


それは先程のものとは違う、熱に浮かされたような顔だった。


「ジッガ、お、俺も誓いを立てていいか?

 俺も、俺もお前の創る国の一員にしてくれ!

 もう若くない俺だが、命を賭ける、全てを賭ける!

 妻や子の為にも、俺の誓いを受け入れてくれ!」


「もちろんだ、テビンス。

 キミの誓いを受け入れよう。

 皆が安心して暮らせる国を絶対に創る。

 そのために力を尽くしてくれ。」


祈る彼の両手に手を添えると、光が溢れ出し、雨空の向こうへと昇っていった。


「きっと【偉大なる魂】が誓いを認めてくれたのだろう。

 カカンドらの誓いを受け入れた時もそうだったからな。」


「そうか、……そうか、うん。

 ありがとな、ジッガ。

 何だか生まれ変わったみてぇな気分だ。」


「うん、不安はもう無いな?

 さ、気を抜かず警備の仕事をこなそう。

 何が出るか分からないんだからな。」


「おう、任せろ」


結局私たちは異変に出会うことなく交代となったが、テビンスは満足気に天幕へ入っていった。


純朴な彼の姿に、在りし日の父の面影が重なる。


アグラスを羨ましく感じながら自分の寝床へ戻り、濡れた身体と頬を拭き取ったあと、膝を抱えて眠りに落ちた。




 翌朝、丸焼きにされた魚をかじりながら、ソムラルディの魔法講義を仲間たちと共に受けた。


一緒に学んだベルゥラの理解がかなり早い。


何らかの魔法が発現する日が近いのでは、と感じさせられる。


そんな気配を感じたのか、彼女と同い年のカンディが焦った顔を見せたのが可笑しくて笑ってしまった。



 隊列が整えられ、発見した【獣道】目指して前進が再開された。


草原を抜けたので私は中列に戻り、カカンドが御する馬車と並び歩く。


横には外套がいとうを深くかぶったソムラルディがいる。


エルフは種族的に獣人と仲が悪いため、用心して目立たぬようにしているらしい。


こんな不審人物を獣人の国へ連れて行って大丈夫なのだろうか?


ディプボスで会談をした時、彼は獣人の国での【旗揚げ】に『我が経験を活かすべし』と言っていた。


仲の悪い獣人相手に何を【活かす】つもりなのか気になって訊いてみた。


「我は国をおこしし経験あり。

 君には役立つ経験ならん?」


驚いて訊いてみると、彼は以前カカンドが話していた、戦争に疲れた国同士の国境に【永世中立国】を興した者らの一員だと言う。


【魔力の高い部族】と確かに言っていた、まさかエルフのこととは思っていなかった。


横にいるカカンドへと振り向いたら、悪戯っぽい笑顔でこちらを見ていた。


昨日語り合った時にでも聞いていたのだろう。


色々腑に落ちる思いでしばし語り合った。


エルフ独特の言い回しを時々カカンドが補完してくれる。


建国の中心人物ではなかったようだが、その一部始終を体験している彼の言葉はとても勉強になった。


近い将来、きっと役立つだろう。



 山麓の獣道は多少荒れていたが、先を行くツェルゼンやアグトらが整備してくれるので問題無く馬車も通ることが出来た。


山裾やますそを二度越えるとひらけた場所に出たので、野営地と定めて夜を越した。


またマシラの集団に襲われたが、ソムラルディの魔法に頼らずに撃退することが出来た。


今まで戦闘経験の無かった村人たちも、魔物の襲撃に慌てずに対応出来るようになってきている。



 夜が明け、充分な準備を終えた我々は、遂に最後の山を越え、獣人の国【ヌエボステレノス】があるという広大な平野を眼下に収めた。


「おぉ、この先が【ヌエボステレノス】か!」


ざわめく村人に落ち着くよう声を掛け、私は先頭集団へ加わるべく移動した。


ここから先は獣人らとどこで遭遇するか分からない。


村長、カカンド、ソムラルディやゲーナなど、知恵深い者らを先頭に据えて進み始めた。


もう獣道ではなく、はっきりとした【道】が続いていて、何ら苦労なくただ進んでいく。



 太陽が高く昇る頃、進む道の向こうに土煙が舞い始めた。


索敵魔法に頼らずとも分かる。


【獣人の兵士】たちが近付いてきているのだ。




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