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滂沱の日々  作者: 水下直英
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何事も【初めて】成し遂げた者が偉大なのだ


 次の日の明け方、まだ朝日が顔を出す前から私たちは作業をおこなっていた。


目の前には、昨夜の内に工作に優れた村人らが作ってくれた、片面が凹の曲線に削られた長い板がある。


私は土をギュウギュウと球体になるよう押し固め、それをエンリケが固着させる。


前世の記憶で覗いたスポーツの【ボウリングの球】というのが最も近いイメージだろうか?


現世では似たようなものは思い付かない。


私は前世の知識から【大砲】というものを活用しようと選んだ。


といっても現状では金属加工など夢のまた夢である。


木材と土を材料にエンリケの【魔法】頼みで制作していった。


傾けた長い板に【球】を乗せると、コロコロとつっかえること無く転がる。


どちらもエンリケが加工しているので強度は抜群だ。


板の端には小さな枠止めが付けられ、球の半分が飛び出るようになっていた。


この部分を丸太で思いっ切り叩けば球は真っ直ぐ飛び出していくだろう。


しかも【球】はマグシュとカンディによって加熱され真っ赤になっている。


魔力で強化されているので板も球も丸太も燃えない。


さぁ、日の出の刻がやってくる。


私は丸太を構えた。


事前の相談通り、煌めいた日の光に向かって飛ぶように、全力で丸太を叩きつけた。




「う~ん、これは成功なのかなぁ?」


「成功でしょ? 実際進めてるわけだしぃ。」


私の横でゲーナとカンディが議論している。


今朝の実験的な試みの結果について話し合っていた。


ゲーナにとっては満足のいくものではなかったらしい、しきりに首を捻っている。


発案者の私としては非常に居心地が悪い。


結果として、私が飛ばした火の球は【草原を焼き払った】。


私が思い描いたのは、火の球が通った場所が焦げ付いて、一直線になった道を進んで行くものだった。


実際には草はあっという間に燃え尽き、かなり遠方に飛び込んでいった火の球は、煙を高く立ち昇らせた。


私たちは馬車の為に草を刈ることも必要なくなり、ただ煙を目指して進んでいる。


この結果を受けたカカンドの発案で、出発地点にも火の球が置かれ、煙が立ち昇っていく。


煙の元へ辿り着いたらすぐにまた火の球が打ち出されることとなった。


立ち昇る現在地店の煙と出発地点の煙の方向を確認し、再び板が設置され火の球が装填されたので、私は全力でぶっ叩いた。


また新たな煙が見え始め、行進は再開される。


私たちは想定外の早さで進み続け、夕方には川に辿り着くことができ、この場で夜を越すこととなった。



「ジッガは狼藉者かな。

 草原が滅茶苦茶にせりな。

 生類の暮らせる所ぞ?

 なほ弱きものを慈しまざらばならぬぞ。」


「わかっている、すまなかった。

 今晩の内に出来るだけ魔力の土を練り込み、

 草原が元に戻るように努力しておく。」


ソムラルディの怒りの込められた注意に、私は自らの非を認め、草原の回復を約束した。


逃避行中ではあるが、後々そしられる行いをしていては、善き国を興すことなど出来ない。


イモを蒸した簡素な夕食を終え、村人たちに魔力を流したあと、私は警備を他の者に任せ、辺り一帯を木板で掘り起こし、焦げた草と魔力を帯びた土を混ぜて廻った。


夜間に野生動物が現れたらしいが、遠巻きにこちらの様子を窺った後、姿を消したらしい。


草原に住む生物だったのだろうか、警備交代時にそれを聞き、私は罪悪感が胸に広がるのを感じた。



 翌朝、久々の農作業に打ち込んで深い眠りを終えた私は、周囲を見渡し少し驚いた。


「ほぉ、成長が早いんだな。」


見る先には、私の腰辺りの高さまで生育した草が生い茂っている。


エルフも生育魔法は持っているらしく、ソムラルディは全く驚いていなかったが、感心はしてくれた。


だが、自然を愛し生涯を捧げるエルフなのだ、この程度では焼け石に水なようで、眼の奥にはまだ怒りの色が浮かんでいる。


私が彼に今後また機会を設けこの荒地を草原に戻すことを約束している横で、馬たちがもしゃもしゃと草をんでいた。



 朝食を早めに終えた【ジッガ団】の面々で、まずは約束の第一歩として荒地を耕す。


広大な草原は私たちが通って来た部分が広く焼け焦げている。


せめてもの罪滅ぼしに、と周辺に魔力を練り込んだ。


「案の足らぬ行いなれど、

 償わぬよりは遥かに良きなり。

 大自然の御霊みたまも一度目の過ちならば、

 さだめて目をつむらん。」


ソムラルディから訓戒を貰った所で野営の片付けは終わり、我々は移動を始めた。



 大幅な前進は果たしたものの、大自然の魂を崇拝するソムラルディの不興を買ったことは頂けない行いだった、と反省している。


咄嗟とっさの思い付きで行動してしまった自分の迂闊さに唇を引き締める。


無事に【獣人の国】へ辿り着いたならば、もっと周りの者と熟慮を重ねた言動を心掛けねばなるまい。


今の集団の中で私の発言力は群を抜いている。


だからこそ軽挙妄動は絶対に控えねばならない。


それが集団を率いる者の【責務】だろう。

 

みなが安心して暮らせるようにする為に、みなの規範となる【生き様】を示したいのだ。



 前進して一時間ほどで、ソムラルディの言っていた【川】べりに到着した。


先日の川よりもかなり大きい、倍程度ではないように見える。


【氷結魔法】で何とかすると言っていたが、本当に何とかなるのだろうか?



 私やマグシュ、アグトなど、足の速い者らで川を偵察し、最も渡河に適した場所を見つけ出す。


浅瀬、とまではいかないが、川幅が一番狭い箇所を川上に発見し、全員で移動した。


ソムラルディは私に丸太を持ったまま川に入るように指示し、自らは目を瞑って魔力を練り始めた。


私は川幅の三分の一程度の長さが有る丸太を水面に置き、流れに逆らいながら対岸に向け真っ直ぐに構え続ける。


「ソハッ!」


さほど待つことなく、ソムラルディの気合一閃、彼の差し込んだ腕から対岸に向け、水面がパキパキと凍り始め、川の中ほどまで届いた。


凍った水面は流されるが、私の持つ丸太によってき止められる。


「エンリケ!」


ソムラルディの指示ですぐにエンリケが動きだし、凍った水面を固め始めた。


固める先からソムラルディが氷の上を渡り、魔法で氷結部分を伸ばしていく。


対岸まで届いたところで私の名を呼んだ。


慌てて私は丸太を抱えて氷上を渡っていき、対岸の川下側で再び凍った水面を丸太で押し止めた。


後はエンリケが固め終えるのを待つだけだ。


私が川の水の冷たさに顔をしかめる横で、ソムラルディはゲーナ相手に氷結魔法のコツを教え込んでいる。


ゲーナによって氷道の幅が少し増した部分をエンリケが補強していく。


三人の魔法使いが疲れ切った結果、少し斜めになっているものの、充分な強度の橋が完成した。


村人たちは【魔法による奇跡】に歓声を上げながら川を渡ってくる。


【丸太橋】の時よりも今回の方が噂話に聴く【魔法】らしさに溢れているのだから、村人の興奮もさもありなんといったところだ。


焚き火に当たりながら私は村人たちの渡河を見守った。


身体の冷えを心配して、カンディとリルリカが抱きついてきている。


ありがたいことだ、と思いながら見ていると、年寄りたちが「ありがたや、ありがたや」と祈りながら氷橋を渡っていた。


感謝してくれることに感謝したくなる。


信じてくれる人々の為、あと数日の旅路にまた【全力】を尽くすことを誓った。


途端に、また祝福の光が村人たちに降り注いだ。


歓喜に沸く村人の中で、へたり込んでいたソムラルディがガバッと此方こちらへ振り返った。


今の光は彼の身体にも吸い込まれていったようだ。



 初めての体験に興奮したらしき彼に、


「川に橋を架けしことにより、

 魂に絆や生まれし?」


と、問いかけられたが、ありのまま「分からない」と返しておいた。




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