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滂沱の日々  作者: 水下直英
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道しるべの無いまま進む先にあるものとは


 草原がかなり近付いてきた頃、隊列は前進を止めた。


今までは【ディプボス】と【連なる山々】の間の荒地を進んでくるだけで良かった。


だが、ここから【獣人の国】へ向かうには【ディプボス】を離れていくほかはない、方角的には東北東となる。


ソムラルディの知識は当てに出来なくなった。


思った以上に目印が見当たらない。


グニャグニャと進んで村人たちの体力を無駄にするのは避けたいところだ。


今日の所はここで野営を行うことにした。


進み方、その方向、隊列の組み方、きちんと相談しなければならないだろう。



 坂での奮闘が響いたのか、休憩が告げられると馬車を押し上げていた担当の者らがへたり込んだ。


力無く座る一人一人に強めの魔力を流し、本日の功労者たちをねぎらっていった。


「おぉ~、いつもより強いけど効いてる気がするなぁ~。」


アグトが気の抜けた表情でそんな感想を漏らしている。


彼の身体から汗臭い匂いが漂ってくるのを感じた。


村人たちもおそらく同様に、汚れが疲れ同様に溜まっていると思われた。


何とかせねばなるまい。



「う~ん、ここかなぁ?」


「ほぉ」


自信無さ気なゲーナが一点を指し示した。


村人たちが食事の準備をする間に、私たちは【井戸】を掘るために作業を開始していた。


ソムラルディから知恵を借り、四大元素の【水】に関して適正をゲーナに見い出し、井戸を掘るポイントを探り当ててもらったのだ。


ソムラルディ自身はそれ以上力を貸してくれず、また私たちを【観察】しているようだ。


ゲーナが指し示した場所にカンディが手を置き、静かに念じ始めた。


土が次第に柔らかくなり、カンディの足元がやや沈んだ様に見える。


ここからは私の出番だ。


腰に命綱を結わえると、真下へ一直線に掘り進めた。


以前と同様に壁はエンリケが固め、布に積んだ土はアグトやマグシュが引き上げてくれた。


リルリカが風を送り込んでくれるため、息苦しさも全く無い。


何度目になるだろうか、降りてきたカンディが固い地層へ魔法を染み込ませると、水がじわじわと湧き上がってきた。


私が木板を打ち込むとみるみる水が溢れ出る。


念のため更に1メートル近く掘り進めてから引き上げてもらった。


水が出てホッとした表情のゲーナの頭を撫でる。


ここからはカンディに大いに働いてもらうこととなる。


汲み上げた水を浄化し、マグシュが起こした種火の火勢を強くし、煮沸した水の量を増やしてもらった。


全て終わったあとカンディはへとへとになっていたが、私が抱き締めて褒めると、充実した笑みを浮かべていた。



 私たちが用意した【お湯】を絞った布で村人たちは全身をき、身体を清潔にしていく。


馬車と天幕を使った男女別に仕切られた空間で、みんなワイワイと身体を拭き合った。


身体を拭き終えた後は残ったお湯を使い髪を拭いていく。


洗い終えた順に焚き火のそばで待つリルリカの所へ行き、風の魔法で髪を乾かしていった。


さっぱりとした気持ちになるのだろう。


洗い終えた村人たちはみな満足そうな表情で食事を摂っている。


ソムラルディも機嫌良さそうにスープをスプーンで回している。


人間の中で一人ぼっちのエルフは誰に背中を拭いてもらったのだろうか?


訊いてみるとカカンドと拭き合ったそうだ、意外とカカンドは気遣い屋なので、孤独な状況の彼を見てられなかったのだと思われた。



 心機一転出来た我々は、またそれぞれの分担業務に戻っていった。


私はカカンドや村長らと共に、明日からの行動指針の会議をせねばならない。


私の背後に立つソムラルディだが、周囲の者にとってもはや見慣れた存在になったらしく、誰も反応しなかった。


この会議にはゲーナも参加している、彼女の【知恵】が周りに知られてきたことを喜ばしく感じる。


その代わりアグトが弾き出されて、今は周辺警備に勤しんでいる。


他にツェルゼンと旅の経験がある老人二人を加え、会議は始まった。



 まず第一に考えるべきは方向の定め方だ。


右に【連なる山々】が見えているものの、東北東へ真っ直ぐ歩く為の指針とはなり得ない。


地図を睨みながらみな唸っている。


おそらくこのまま二日ほど進めることが出来れば、草原を越え、獣人の国を囲む低い山々が見えるだろうと考えられる。


だがそこに至るまでに方向がズレてしまうと、おそらく一日、最悪二日無駄にしてしまう。


乏しい食糧事情からそれは許されない。


獣人の国へ着いた時、私たちは【力】を示さなければいけないのだ。


ボロボロの状態で辿り着いても、追い出されるか、皆殺しにされてしまうだろう。



 ソムラルディに【獣人の国】へ行った経験が無いか尋ねたが、どうやら【エルフ】と【獣人】はそもそも不仲らしく、『交流はまるで無い』との答えだった。


だが、逆にかつて【ディプボス】近くへ【獣人の軍隊】がやって来たことがあるらしい。


魔法による痛撃を与え、この草原の先にある【川】まで追い返したらしい。


「川が有るのか、どうにか活かしたいな。」


「あぁ、飲み水や生活用水だけじゃなく、

 魚を獲ったりなどの【食糧】を何か確保したい。」


「食事は制限しとるし、余裕はまだある。

 そうじゃろゲーナ?」


冷却魔法を持つ為、糧食の管理はゲーナがおこなっている。


「【余裕】とまではいきません。

 今日でこの【旅】は六日目、

 エルフとの遭遇などで時間は取られましたが、ほぼ予定通りです。

 あと八日分ぐらいは持つ計算です。」


「地図上での直線距離で考えれば、残りの行程はあと約半分だ。

 だが年寄り女子供の【疲れ】や、【悪路】のことを考えれば、

 あと六日では着かんだろなぁ。」


到着時には糧食ゼロの可能性が高い、ということか。


それはマズイ、獣人の国で【力】を見せつけても二、三日は何がしかのやり取りが必要だろう。


確かに食糧確保をどうにか考えたい。


さらにふと思いついてソムラルディに問いかける。


「それで、この草原の向こうに在る【川】というのは、

 一昨日おとといの川に比べ、どれくらいなんだ?」


「うむ、

 しか大きにはあらず。

 一昨日の二倍程度ならむ。」


「充分でけぇじゃねーか!」


カカンドが大きな嘆声を上げる。


一昨日は森が近かったので丸太を活用できた。


だが既に森から離れだした地点に進んできている、丸太を取りに戻る時間は無い。


丸太橋作戦は不可能だろう。


解決しないままに問題点がどんどん見つかっていく。



 難しい顔を並べて苦悶の声を上げ続ける人間たちに飽きたような表情で、ソムラルディが口を開いた。


「致し方なし。

 川を渡るよしに関せばわれがいかでかせん。

 ただ飯を喰らう由にもいかねばな。

 草原の進み方に関せば君らで如何いかにかしたまえ。」


「川の渡り方、どんな方法だ?」


「氷結さす。

 我はその系統魔法が上手なればな。

 ゲーナも同系統なれば

 その時はひしと見おきたまえ。」


「はい、ありがとうございます。」


ソムラルディは既に何度か我々に魔法に関しての講義をおこなっている。


各人の魔力の傾向は掴んでいるようだ。


ゲーナが自分と似た傾向なため、道中ちょくちょく捕まえて魔力の話をしていた。


そのやり取りを見て少し安心した気持ちになる。


こうして少しずつ打ち解けていくのだな、と。


まだ完全には信じられていないが、言葉が通じる分だけ【ゴブリン】とは違うのだなぁとホッとした。


気持ちを切り替えて【草原の進み方】を考えよう。


きっと適切な方法が見付かる筈だ。


そう信じて【獣人の国】を目指す。


【力が全て】の国へ向かうのだ、全てにおいて【全力】で乗り越えねば。



そう思っていると、私の中でひとつの【閃き】が生まれた。




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