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滂沱の日々  作者: 水下直英
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私の心の中は本当に他人から見えていないのか


「思ったよりも畑は荒れてないね。」


「そうだな、まずは石や草を全て取り除こう。

 それが済んだら【鍬】で掘り返し土を柔らかくして

 うねを作り種を蒔く。

 芽が出始めたらシェーネおばさんに一度見てもらうことにしよう。」


すべきことを再確認して私たちは畑の整備作業に入った。


土中の石を魔力で探知し、エンリケとカンディに見付からぬ角度で押し上げる。


これは魔法力の訓練になるな、と手応えを感じながら二人に隠れて繰り返した。


だが畑は広い、一日で終わる気配はまるで無かった。



「エンリケ、

 一応家に一番近いこの辺りに少しだけ種を蒔いておかないか?」


「そうだね、試験的にここだけ始めておこうか。」


「うんうん、ワタシもそう思う!」


カンディがのけ者にされまいと元気よく反応している。


私はさほど背の変わらないひとつ歳上のカンディの頭を撫でる。


カンディはされるがままだ。


「カンディ、私たちはカンディを仲間外れになどしないよ。

 力を合わせて頑張っていこう。」


「う、うん!

 ジッガはなんで私の考えてること分かるの?

 ホントは魔法使いなの?」


「ぐっ、ふ。

 ハハ、それならエンリケも魔法使いだろう。

 なぁ、エンリケもカンディが何を考えていたか分かっていただろう?」


「うふふ、まぁね。

 カンディは分かり易いよね。」


「えー? そうかな?」


私たちは笑い合い、畑のほんの一部だけしっかりと土を掘り返した。


そして畝を作り、種を等間隔に蒔いて水をやり、本日の作業を終了した。




 私たち三人は今日の成果を報告するため村長宅へと向かった。


村長は私からの報告にウンウンと頷いていた。


そして買取所の男性からも報告が来ていたのだろう。


私たちに孤児院での訓練内容について確認を始め、生活が安定するようだったら村の警備隊と一緒に訓練しないかと提案してきた。


私たちはまず生活を安定させることが最優先事項なためいずれ、との旨を告げた。


村長は「確かにそうだな」と無理強むりじいすることなく笑顔で送り出してくれた。


子供に戦いを無理強いするような村なら夜逃げも考慮しなくてはいけないだろう。


この村に孤児院の院長のような者は今のところ存在しない。


だが人間は変わるものだ、油断してはいけない。



 ただ村長は私にとって有益な情報も伝えてくれた。


アグトとゲーナ、そしてこの村出身の孤児三人が帰郷中と教えてくれたのだ。


遠方から帰還中なので到着は明後日を予定しているとのことだった。


エンリケとカンディは素直に喜んでいる。


私としてもアグトらが協力的であれば、この村で生きていける可能性が高まることに繋がり喜ばしいことだ、と思っている。


私たちはエンリケの家に帰り、買取所で買った【イモ】を茹で、少しだけもらった【イノシシ】の肉を焼いて食べた。


塩などの調味料は私たちの家に手付かずで残っていた。


この村に盗人ぬすびとが存在しないことを嬉しく思う。


食事の間ずっとカンディがアグトたちの想い出話をしていた。


アグトたちが非協力的な場合は別々の生活をすることになる、そうなってしまったらカンディはさぞかし落ち込むだろう。


いや、アグトたちと一緒に生活すると言い出すかもしれない。


そうなるとエンリケと二人、もしくは私一人での生活となるのか。


そんなことを考えていると、


「ジッガ、

 アグトたちもきっと一緒に生活しようって言うと思うよ。

 まぁもし別々になるとしても僕はジッガと暮らしたいな。」


「うん! ワタシもジッガと一緒がいいよ!」


「え? あ、あぁ、ありがとう。」


二人が私の心中を読んだかのように答えてきた。


私はカンディ並みに考えが読まれ易いのだろうか?


魔法のことも実はバレてしまっている可能性があるのか?


私は急に不安になり口をつぐんでしまった。



「えへへ、ジッガって表情が分かり易いよね。」


「そうだね、感情がすぐ顔に出るからね。」


「そんなことはないだろう?

 私はいつも表情が変わらないよう意識してるぞ?」


「え~? ホントに?

 それ全然成功してないよ?」


「うふふ、本当だね。

 ジッガは笑ったり怒ったり不安になったりがすぐ顔に出るよ。」


「な、なんだと・・・」


ショックを受けた私はしばらく食事も出来ず、カンディとエンリケの笑い声が右耳から左耳へと流れ続けていた。



 なんとか気を取り直し食事を終え、就寝の準備を始めた。


お湯を沸かしカンディと一緒に互いの身体を拭きあう。


もちろんエンリケは物置の中へ詰め込み、身動き一つさせないようにしている。


私たちが身体を拭き終え着替えが済んだらエンリケの番だ。


一応手の届かない背中だけ拭いてやる。


戸締りをしたらもう後は寝るだけだ。


エンリケにいくつか質問をして性的な成長具合を確認する。


その上で私たちに性的な手出しをしたら本気で極刑に処すことを宣言し、寝た。


ここは石造りのしっかりした家だが、広いわけではない。


三人一緒の部屋で寝るのだ、エンリケにしっかりと釘を刺す必要性があった。


私とカンディは一緒の布団で寝た。


昨日に引き続き私はまた、人の温もりを感じながら眠りについていた。





 朝、目が覚めると私は自分が泣いていることに気付いた。


両親が夢に出たのかもしれない。


カンディもいま目覚めたらしい、涙を流す私をぼんやりと眺めている。


「おはよう、カンディ。

 よく眠れたか?」


「うん、畑仕事で疲れてたからぐっすりだよ。

 さ、朝ご飯つくろ?」


「あぁ。」


カンディは私が泣いていたことには触れず、立ち上がり着替え始めた。


エンリケの布団との間には目隠し用にシーツが掛けられてある。


シーツの向こうでエンリケも着替えている気配がする。


索敵魔法で覗いてみると、何故か恥ずかしそうな笑顔で着替えていた。


私は人の表情から感情を読み取るのが、カンディたちに比べ下手なのかもしれない。


いまのエンリケの表情からどんな感情を抱いているのか理解できないのだ。


だが魔法で見た表情について、カンディやエンリケ本人に確認することは出来ない。


疑問を胸に抱いた私は答えが出ぬまま朝食を終え、朝から畑仕事をするため自分に喝を入れ、二人を連れて外へ出た。


昨日に続いてエンリケの家近くの畑を耕す。


カンディに小石などの除去作業は任せ、

私とエンリケは鍬を振るって土を耕し続けた。


エンリケとは別区画で作業しているので、

私は魔力を如何にして有効活用出来るか試しながら作業した。


身体強化はもちろんのこと、鍬に魔力をまとわせたり、土に魔力を当てながら耕したり、魔力を回転させ空気の渦を作ったりしながら作業した。


感覚的には土に魔力を混ぜ込みながら耕すのが一番良いような気がした。


しかし確信は得られていない、得られるはずもない。


魔法について勉強したいと切に願う気持ちが高まっている。


我流で魔法を習得することへの限界を感じているのだ。



 だが土と混ぜ込んだ魔力には今までにないものを感じていた。


これは何かヒントになるような閃きがあった。


今まで無色透明の塊だった魔力が、土と混ぜ込むことによって変化しているのだ。


無色から土色になったような、なんと言っていいかわからない状態だ。


だがカンディとエンリケには何も見えないようで黙々と作業している。


こういったことを教えてくれる先生がどこかにいないものだろうか?


しかし無い物ねだりをしていても仕方がない。


私は直感に従って土色の魔力を畑に混ぜ込んで耕す作業に没頭した。


作業の最後に昨日同様、わずかな部分に畝を作り種を蒔き水やりをした。




 朝から夕方までの作業で私たちはかなり疲労したが、昨日のように【イノシシ】が出ることもなく、今日の仕事は終了した。


一応村長に問題ない旨を報告し、ニーナやモンゴら知り合いに『いまのところ上手くいってる』と挨拶廻りした。


モンゴは明日アグトらが帰郷することを知っていて喜んでくれた。


彼らが帰ってきて落ち着いた頃、いまのように報告に来ることを約束して家路についた。



 昨日と同じ食事をして同じように就寝した。


翌日の朝もエンリケの着替えの光景を索敵してみた、しかし笑っていなかったのですぐ撤収した。


また朝から畑の再開墾作業をしていたが、昼頃に村の中央が騒がしくなったので道具を放り出し三人でそちらへ向かった。




 案の定アグトとゲーナの姿を確認することが出来た。


その傍にいるのが、私たちと別の孤児院にいたこの村の孤児三人だろう。


帰還兵の歓喜の輪に加われずにいた様子なので声を掛けやすかった。



「アグト、ゲーナ、おかえり、無事で良かった。」


「ああ! ジッガ!

 エンリケとカンディも!」


アグトはエンリケを、ゲーナは私を相手に喜びを爆発させ抱きしめた。


視界の端でカンディが上げかけた両手をさまよわせている。


「ゲーナ、ほらカンディにも。」


私はゲーナを誘導しカンディと抱擁ほうようさせる。


そして私はほぼ初対面の残り三人に挨拶をした。


「ええと、【リルリカ】と【ロイガ】と【マグシュ】で良かったか?

 あまり話したことはなかったな、同じ境遇のジッガだ、よろしく。」


「あ、うん、私はリルリカ、よろしくね。」


「俺はマグシュ、よろしく。」


「……ケッ。」


どうやらロイガという、私より少し歳上の少年は非友好的らしい。


そしてそんなロイガと私の顔をリルリカとマグシュはあわあわと見比べる。


それに構わず私は言葉を続けた。


「皆が良ければ孤児同士で共同生活をする提案があるんだが、

 あとで村長から訊かれるだろう、それまでに考えておいてくれないか?」


「は!? 俺は絶対嫌だね!

 やっとあのくそつまんねー孤児院を出れたんだ!

 俺は自由にやらせてもらう!」


ロイガが私に噛み付くように答えた。


「そうか、私には決定権は無い。

 あとで村長にそう伝えればいい、余計な口出しをして悪かった。」


「ハッ! なんだテメー?

 偉そうな口ききやがって、テメーのツラァ覚えたからな!」


私に尚も挑発的な言葉を投げ掛けようとするロイガから視線を外し、再びアグトたちと話そうと横を向く。


すると私の顔面を殴りつけようとするロイガを索敵魔法で感じた。



パァァンッ!!



 私はロイガの拳を躱し、カウンターで右手の甲をロイガの右頬部分に叩きつけた。


たぶん右耳の鼓膜は破れてしまっただろう。


衝撃で脳震盪も起こしたらしく、半回転して地に両膝を突きバタリと倒れた。



 周囲の人間は私たちのイザコザの一部始終を見ていた。


それはそうだろう。


戦争から村人が帰還して喜んでいるさなか、怒声を上げる少年がいたのだから。



 それに私は三年前、村にいた時にロイガについて噂を聞いていた。


幼い頃から近所を荒らしまわる悪童がいるという噂を、


この少年はあれから凶暴性が抑えられるどころか増しているようだ。



 ゆえに誰もロイガを助け起こさず、十秒ほどの長く感じる時間が過ぎ、ロイガはふらつきながらも自力で立ち上がった。


「へっ! クソどもが!

 どけよ! 俺は自由になったんだ!」


居並ぶ人を押し退け、何故かロイガは私を睨みながら捨て台詞と唾を吐き、どこかへ向かってヨロヨロと歩いていった。


向こうにはロイガの生家があるのかもしれないな、と私はぼんやり考えていた。



 いま、私はどんな表情をしているのだろうか?


カンディに訊いたら教えてくれるだろうか?


しかし、私はそれを訊きたいと思わなかった。




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