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滂沱の日々  作者: 水下直英
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困難な道のりをわざわざ選択したくない


 翌日、小さな森を抜けた場所から出発すると、昼過ぎまでは何事も無く進めた。


だが、太陽が中天高く輝き出した時、前方から伝令が駆けてきた。


「坂が見える! かなり傾斜のきつい坂だ!

 馬車が厳しいかもしれない!

 どうするジッガ!?」


「まずは見てみなければ始まらない。

 行こう!」


そう答え、前進を止めた隊列をすり抜け、ゲーナらと共に先頭集団の所へ向かった。



「なるほど、確かに急勾配きゅうこうばいだ、

 【坂】というか【山】だな。

 馬車をどうするかだな。」


「あぁ、だが何とか押し上げたとしても、

 向こう側も同じ様に急な下り坂になってる。

 その対策をしなきゃだな。」


私とアグトの話し合いを皆が真剣に聞き入る。


話が止まる度に坂を見つめる。


迂回路も見当たらず、通れそうなのはやはりこの道しかない。


「登りは力技でいいとして、

 問題は下りだよね?」


「そうだな、紐でもつけて後方から引っ張らないと、

 あっという間に転がっていってしまうぞ。」


「ならいっそのこと荷を下ろして空にしたらどうだ?

 それなら転がる危険は少ないだろう?」


「人力で水樽を運べるか?

 ジッガの身体強化はすごいが、体重が軽すぎる。

 すぐにバランスを崩すぞ?」


相談の最中にソムラルディが到着し、皆が注目した。


内容は既に伝え聞いているようで、最後の意見辺りで頷いていた。


「ソムラルディ、どうだろうか?

 何か魔法でどうにかなったりしないか?」


我ながら虫の良い問い掛けだと思った。


そんな都合の良いものが有る可能性は低いだろう、と。



「無しなり。

 我が知る魔法は攻めなる破壊魔法多し。

 恐らく力にはらず。

 今はただヒトの知恵を絞る様を観察に来しばかりなり。」


分かってはいたが、想定よりキッパリと否定された。


単純に研究目的で野次馬に来たようだ、正直なところ出ていってもらいたい。


ため息を吐いていると、最後方からも仲間たちがやって来て話し合いに加わる。


その内の一人を見て、ゲーナが手を叩いた。


彼女を見やると隣のリルリカに何やら耳打ちしている。


するとリルリカまでポンと手を叩きニッコリと微笑んだ。


何やら策を思い付いたように見えた。




 村人たちが見守る中、急勾配の坂道を六台の馬車が登ろうとしていた。


六台の馬車は【太い緑色の縄】で繋がれており、最後方の馬車の後方には格段に長い縄が付けられていて、それは先を鋭く尖らせた【特大の丸太】が縛り付けられている。


「いーい!? まずは馬車を押し上げるよー!

 全員準備は大丈夫!?

 はいまずは一台目からーっ!」


坂の入口でゲーナが大声を上げている。


彼女とリルリカが発案した、この【急勾配攻略作戦】が始まったのだ。


カカンドが御者を務める馬車が坂を進み始める、が、すぐに馬の蹄は地を掻くのみで進まなくなる。


「よーし! 押すぞぉーっ!

 それっ、いーち! にーぃ! いーち! にーぃ!」


アグト指揮のもと、馬車の後方から五人一組で押し上げ始めた。


この四ヶ月でさらに体格の良くなったアグトは身体強化魔法もそこそこに熟練し、かなりの膂力りょりょくを発揮できるようになっていた。


五人の真ん中をにない、馬車をぐいぐいと登らせていく。


馬も荒れた坂道に蹄を叩きつけながら荷車を引いていった。


やがて荷車の後方に繋がれた【太い緑色の縄】が二台目の馬車を引っ張り始める。


「よーしっ! 次行くよー!

 はい二台目もーっ! 行けーっ!」


二台目はツェルゼンが指揮を執っている、人数は七人、アグトのような【魔法使い】が居ない為、純粋な人間の筋力で挑む。


その代わり、モンゴなどの体格の良い者らが集められた布陣となっている。


一台目に引っ張られている分も負担は軽減されている、じわじわと一台目と同じ速度で登り始めた。


以降六台目まで順調に進んでいく。


【エンリケ】が硬化させた【植物で出来た縄】は切れずに耐えきれそうだ。


後は私が彼女らの作戦通りに【上手くやる】しかない。


坂の頂点に辿り着いた一台目が進んでいき、やがてゲーナの声が響いてくる。


「もうすぐ降りるよーっ!

 さーん! にーぃ! いーちぃ!

 降りたーっ!」


そのタイミングで、私は抱えていた【丸太】で、警備団員が数人掛かりで抱えるもう一方の丸太の【鋭く尖った先】が坂に突き刺さるように、反対側を全力で叩いた。


それはつちでノミを叩くように、シッカリと伝わった力が丸太を地面にめり込ませた。


馬車を繋ぐ縄がそれぞれピンと張られた状態を保っていた為、一台目の馬車は少しだけずり落ちただけでそれ以上は落ちていかない。


アグトらが場所を移し、今度は馬車の前方側から荷車を支えている。


カカンドの「荷物は大丈夫だー」という声が聴こえる、順調なようだ。


刺さった丸太の【縄】管理担当のエンリケが大声を上げる。


「じゃあ第一段階の【縄】切るよーっ!」


「おぉー! やっちゃってーっ!」


遠くから聴こえるゲーナの声に頷き、エンリケはリルリカの指差す通りに、【縄】の一部から魔法を抜き、小刀で切った。


絡み合っていた【縄】を構成する一本が切れ、最後方の馬車はまた人力頼りで持ち上げられていく。


最後方の馬車は医療用で誰も乗っていない為、かなり楽に坂を登っていく。


そしてそれに連れて行かれるように五台目、四台目、と馬車は動いていった。


やがて一台目がずるずると落ちていく頃、最後方の【縄】が再びピンと張られた。


何本もの縄をって造られたこの【縄】は、構成する一本を切る度に、少しずつ長くなるように工夫がされている。


ゲーナが大本おおもとの構想を思いつき、リルリカがこの【縄】の構造を考え出したのだ。


後はゲーナとリルリカが息を合わせて縄の長さを調節していけば坂のふもとまで辿り着けるだろう。


私の役目は終わった、後はリルリカやエンリケに任せて坂のふもとの警備に回ることにした。


坂を駆けあがり、下り坂を駆けおりる。


坂の下へやってきて進む方向を見やると、遠方に広々と草原が広がっており、山麓の終わりを告げていた。


草が高いと馬車が通れないんだがなぁ、と美しい景色を前に困惑してしまった。


だが今はその馬車を無事に降ろさねばならない。


私は素早く周囲を見渡し、【魔物】や危険生物の有無を確認する。


大丈夫と判断し、一台目の馬車の前面に張り付くアグトらの支援をすることにした。


「頑張れみんな! あと少しだ!」


「おぉっ!」


男五人の気合の入った返事が返ってきた。


私は馬車の車輪を抱え、ゆっくりゆっくり回していく。


最も積載重量が大きい一台目を降ろし切ると、後は順々に楽になっていった。


最後の六台目が通過したので私は反対側へ再び駆けていき、丸太を引き抜き、残る村人を指揮して【急勾配攻略作戦】を完遂させた。



 やはりゲーナとリルリカの頭脳は役に立つ、そしてエンリケの魔法の使い勝手の良さには感心してしまう。


最近では硬化させる際の力加減で弾力の調整まで出来るし、硬化させた部分の魔力を抜き元に戻すことも出来るようになっていた。


本人の戦闘力は相変わらずイマイチだが、それを補って余りある素晴らしい力だ。


坂の下で満足気に話し合う三人に思わず抱きつき、その優秀さを褒め称えた。


カンディとマグシュがまた羨ましそうな顔をしていたので、私は二人の長所を数え上げながら頭を撫でていき、さらにアグトの背に飛び乗り頭を撫でた。


機嫌を直した二人と苦笑いする一人が配置に戻る頃、移動が再開された。



 私は気分良く馬の横腹を撫でながら並び歩く。


ふと気付けば、いつの間にか隣をソムラルディが歩いていた。


そして何やら愉快そうに話しかけてくる。


「人の知恵も中々侮らぬものなり。

 良きものを見せさせき。

 ジッガ、良き仲間かたへを持ちてな有りそ。」


「そうだろう、私も誇りに思っている。」


ソムラルディが微笑む私の顔を横から覗き込んできた。


「なんだ? 歩きづらいから退いて欲しいんだが?」


「うむ、何やら精霊の力を感ずればな、

 すまず。」


どうやら【精霊の力】が大きく漏れ出ていたようだ。


そんなつもりは無かったので無意識に出るものらしい。


私が仲間の活躍を喜んだのが原因なのだろうか?


光が発現しなくてもそれは【精霊の力】なのか?


いずれにしろ、皆で力を合わせて難局を乗り切ったことがとても嬉しい。


それだけは間違いなかった。




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